第一話 死の淵に立たされる side.☓☓☓
その頃川辺では。
木の棒に糸をつけただけの簡易的な釣り竿にちょっとした餌を繋ぎ、川の中へ投げ入れる。何度もやっていると10秒とかからず準備できる。……準備”は”できる。
実際に釣れるかは当日の魚の気分だし、僕にどうにかできる問題ではないので気にしないでおこう。釣れないのは断じて僕のせいではない…はずだ。
右を見れば弟が頑張って餌を繋いでいる。最近始めたばかりだから難しいのだろう。
「僕やろうか?」
「大丈夫です、自分でできます」
「そう?」
餌と必死に格闘している弟を見ると穏やかな気持になれる。ただ、日差しが強くなってきたのでそろそろ弟を家に帰らさなきゃな。弟は透き通るような白い髪をしている。確かアルビノというらしい。日光に弱いためあまり外に出すぎると体調が悪くなる…らしい。
今日の収穫は15cmぐらいの魚が2匹。…流石に少ないかもしれない。
まぁ狩りに行ってるだろうし、今日の晩御飯は大丈夫だと思うけど。
「日差しも強くなってくるし、そろそろ帰ろうか」
「嫌です、釣ります」
「危ないよ?」
「知りません」
それでも尚釣りたいと主張する弟には逆らえず、そのまま釣りを続行することにする。弟を従えるどころか従わされてる。こんなんだから僕は駄目なのかもしれない。
時間が立つにつれてどんどん日差しは強くなってきているので暑い上に眩しい。
水を飲むために少し川を離れ、家に戻る。棚から瓶を取り出し、水を口に含む。
喉の乾きがおさまってきたので再び川に戻れば弟の姿はなかった。
「え、どこ?どこ行ったの!?おーい!!」
宝盗団的なものに狙われたのかもしれない、顔がいいから売られちゃうかも…それか僕がいない間に怪獣にでも食べられてしまったのかもしれない。一度そう思うとうまく頭が回らなくなる。
こういう時はどうすればよかったんだっけ、分からない。
「にい…兄さんッ!!助け…て!!」
いま一瞬声が聞こえた気がする。バシャバシャと藻掻く音が聞こえる方を見れば、弟が溺れていた。そうだ、此処は水深がとても深いんだ。僕も一回溺れて助けてもらったことがある。そんなところで5歳ほどの弟が立ってられるはずがない。
でも今更迷ってる暇はないと、覚悟を決めて水の中に片足を突っ込む。が、足は地面につかず、バランスを崩してしまった。
さっき自分で水深が…って言ってたのにナニやってんだ僕はッ…とりあえず早く向かわなきゃ!
そう思っていたが僕はとても重要かつ致命的なことを忘れていた。
すなわち僕が泳げないということ。
その事実を思い出したときにはもう遅い、既に僕は川で流されており、口に水が入ってくるわ鼻から水が入ってくるわでまともに呼吸すらできない。
もがけばもがくほど息が苦しくなってくる。次第に意識が朦朧としてきた。もう既に目の前が真っ暗。もう無理だ、祈るしか無い。そう思い、消えていく意識に身を任せた。
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