第一話 死の淵に立たされる
目の前、ほんの二〇歩ほど先に猪に一角獣みたく立派な角が生えたような…まぁなんとも奇妙な生き物が呑気に水浴びをしている。
こちらの存在には気付いていないようで狙われているとも知らず、水を飲みはじめた。
一五歩……一〇歩………
音を立てないように、気付かれないようにとゆっくりと近づく。
残り七歩というところで猪は俺の存在に気付いたのか、慌ててこちらを向くと全力で突っ込んできた。
その瞬間右に避ければその猪は止まることができず、木に直撃する。体当りされた木は、メキメキと音を立てながら倒れ落ちた。あんな化け物に体当りされたらひとたまりもないだろう。
流石に木にぶつかったため軽い脳震盪を起こしているのか、フラフラとしており、こちらに突っ込んでくる気配はない。
右手に持っていた大きめのナイフを左手に持ち直し、頭をめがけて突き刺した。
猪はけたたましい鳴き声を上げ暴れまわる。角で腹を刺されたりすれば大変なことになるので木の上に避難し、猪が倒れたのを確認してから近づく。…どうやら無事狩れたようだ。
猪の手足を縛り、棒にくくりつけ運ぶ用意をする。
「さっすが、手慣れてるね」
運ぼうとした瞬間、上の方から少女の声が聞こえる。周りを見渡すが誰もいない。
こんな場所で、しかも少女の声となると誰かは分かり切っている。だが一応先程使ったナイフを手に持ち、「誰だ」と言えば木の枝の上に見知った十歳弱ほどの少女が座っていた。長い耳と薄く光る羽、黒髪に桃色の目。…やはり俺の姉だ。
「……見てたんなら手伝えよ」
「でも私今日当番じゃないからさ」
猪を担ぎ、というか引きずり家まで戻ろうとすれば姉はふよふよと宙を飛びながら話しかけてくる。
俺の家は森から少し離れた場所にある。兄弟と四人暮らし。兄と姉、それに弟。
俺たちは別に不便はしていないが、狩りから衣服、住処まで自身でやらなければならないと思うと結構辺鄙な場所に住んでいるのかもしれない。
「危ないだろ、歩けよ」
「だいじょーぶだって」
「はい、フラグ」
姉は先程から木を飛び移ったり空中で一瞬だけ飛ぶのをやめたりと非常に危なっかしいことを繰り返している。しかもそれの何が危ないって俺の頭の上でやることだ。
死ぬのは一人でやってくれ、と毎回言うのだが私失敗しないからとのことで一切まともに取り合ってくれない。
そんなことを考えているうちにも姉は高いところまで飛んでいった。どうやら急降下するようだ。スリリングなことは一人でやって欲しい。
気にせず歩き進めば上空から「ああぁぁーー」というなんとも間抜けな声が近づいてくる。
何かあったのかと上を見上げれば姉の顔面。
やっぱり無理矢理でも歩かせればよかった。それか俺の頭の上で飛ばさなきゃよかった。
そう思っていると額に激痛が走り、あまりの痛さに視界が暗転した。
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