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不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。  作者: ちょすニキ


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エイジス

 もしご主人様の奴隷になる前の自分に何か言いたいことがあるとすれば、この時初めて言っただろう。


 "相手はC+級のオーガロードなんて勝てるわけないだろ!!"と。


 「セレーヌさん!」


 けたたましい咆哮とともに現れた3m以上もあるオーガロード。


 私達は咆哮に生じる風圧を防ぐので精一杯。ミーズの歌がなければ私達はここで殺されていただろう。


 「解放の唄!」


 ミーズによるスキルで私達の体の緊張が解け、それぞれが一斉に戦闘態勢を取ることに成功する。


 ご主人様は⋯⋯?


 視界の端に存在する我らが主は、呑気にこの街の観光名所をふよふよ浮きながら笑って読んでいた。突っ込みたいところは色々あるのだが、介入してこないということは"イケる"と判断したのだろう。


 ⋯⋯奴隷である我々はその圧を受け取り、武器を抜かねばならない。


 というよりもそもそも、私達が付いていくために強くなったのだから。


 「行きます!」


 周りに雑魚は今いない。主な攻撃力源となる私が中心となってここから火力を出さなければならない!


 『加速(アクセル)!』

 『俊足の唄!』


 支援二人組のスキルで私の体が軽くなる。行くぞ!


 オーガが持つ武器はトゲトゲの付いた大きな棍棒。対して私は大剣。


 「⋯⋯っぐ!」


 駆けている途中、抜こうとした瞬間に私の身体を真っ二つにしようと棍棒を横に払った。本当にギリギリ。


 「ッ!ハァァァ!!」

 

 間一髪。直後、私はオーガの股下を滑り、壁を蹴り上がってオーガの頭上辺りまで飛び上がった。剣を抜き、私は吠えた。


 「ストームブリンガー!!!」


 覚えたてのスキル、ストームブリンガー。


 大剣を真下に振り下ろすスキルではあるが、職業スキルが新たに追加されて追加ダメージが付与されるものだ。



 『AuuuGuuuuuu!!!!』



 よしっ!効いてる!

 頭を地面にまで叩きつけたこのスキル⋯⋯有用だ!ご主人様にお伝えすることが増えたようだ!



***



 そこからは順調にオーガロードの体力を削り続けることに成功し、ボロボロになった体を私達に見せ付けるも、まだ負けてないとその眼光が私達を見下ろしている。


 「アイツ、まだ立ち上がるの!?」


 「もうどれくらいガルが叩き込んだと思ってるの!?」


 無言のミカエラは端でその胆力に目をぱちくりさせ、当の私は恐怖さえ抱いた。


 魔物とはいえ、なぜここまで執念深く立ち上がるのだろうと。私の全力を叩き込んだ。今出来る最大の火力を誇るストームブリンガー、剛撃、ご主人様から賜った新たな剣術を用いても⋯⋯このザマか!


 私が負けた気がした。

 こんな調子では⋯⋯⋯⋯


 「⋯⋯っ?」


 その時、私の本能が死の警告を鳴らした。瞬時に真横へと飛んで逃げろと頭に浮かび、即座に頭を抱えて横へと飛ぶ。


 直後、聞こえたのは私が立っていた背後から爆発音が聞こえたということだ。


 振り返る。そこにはオーガロードがタックルして壁に大穴を空けていたという光景だった。


 見えなかった。何も。

 今、何が起きたんだ?


 「ガル!!避けなさい!」


 ⋯⋯え?


 セレーヌさんが警告した僅か数秒。もう私の目と鼻の先にはオーガロードの巨大と言える膝が迫っていた。


 気付けば私は、宙を回っていた。そして息をする間もなく壁に埋もれていた。


 「ッ、ゴホッ!ゴボッ!」


 やっと正気に戻ったその時、私は何が起こったのかを理解するというよりも、自身に迫りきている死という恐怖感が襲い掛かってくる。


 見えない、気付けば鼻の先に来ている相手の攻撃に。どうすればいい?そもそも何が起きている?


 「ガル!!早く動きなさい!」



 『鈍足の唄!』

 『パラライズ!』


 『Guooooo!!!!』


 私が死にかけている間に、二人がオーガロードに対して魔法を掛けている。くそっ、何をやっているんだ私は。技のお披露目会でないことくらい一番自分がわかっているだろう!


 埋もれた自分の体をなんとか前へ、前へ。


 「ガハッ!」


 出れたと思ったらかなりの高さから地面に落ち、かなりの勢いで体を打ち付けた。


 なんとか頭を上げ、見上げる。


 「⋯⋯ッ、くそっ」


 視界がグニャグニャして上手く先が見えない。


 何が?

 どうして?

 一体あの一瞬の間に何が起きたと言うんだ?


 「多分あのオーガロードのスキルだったはずよ」


 「⋯⋯ミカエラ」


 突然聞こえたと振り返るとそこには私の体を擦るミカエラの姿があった。情けない。盾である私が、こんなザマだなんて。


 「気にする必要ないわ。良く働いているわよ」


 私の表情を察してか、穏やかな口調で励ましてくるミカエラに私は嬉しさと共に悔しさがこみ上げる。

 攻略する前までの特訓期間、全員毎日死ぬ気で鍛錬した。

 

 このみんなで。

 毎日、毎日、飽きても飽きても。


 何度ご主人様のような感覚を得られないんだと嘆く日々。夢にもあの恐ろしい剣戟を見るようになった。


 顔は出ないがあの白髪が揺らめく一瞬でピュンと僅か少し視界が動いた瞬間にはもう、剣先が私の目の前で止まり、笑う男の姿が毎晩のように出てくる。


 私は何度も懇願した。相手は主である筈なのに。


 あのレベルに至るには、そこら辺に湧いて出る魔物では駄目だ。もっと別のナニカに頼んで死ぬ導線を味わった。


 確かに薄れた、死という恐怖感から。


 今では剣先が来ようと動じなくなった。全く怖くない。特訓の成果なのだろうが、代わりに失った物がある。


 "恐怖心"だ。もう死んでもいいやという諦めの境地。


 

 ──バシィィィンン!!



 「起きろ!!私!!」


 元雑魚冒険者ガル。ここでお別れだ!!


 「⋯⋯突然止めてよ、ビックリするじゃない」


 「あ、すまない」


 恐る恐る後退りしているミカエラが小声でボソボソ私に言っていた。すまない。


 「大丈夫そう?ポーションはあるよ?」


 「⋯⋯いや、そういうのでは───アレは超えられない」


 私の瞳にはもう、オーガロードなど映っていなかった。


 代わりに映ったのは─────。


 『何してる、お前がそんな所にいられるとこっちが困るんだけどよ』


 ⋯⋯⋯⋯はい。今征きます。


 

 


 「闘心の咆哮(バイシハウルゥゥゥ)!!!!」


 「ウッ⋯⋯!」


 私は今他人の事を考える余裕は無い。目の前の魔物をただ殺すことだけを考えるんだ。


 隣で風圧を防ぐミカエラには申し訳ないが、もう行かねば。


 ガルの瞳の先には、白髪の男⋯⋯いや、ガゼルが笑って先に歩く姿が映る。超えねばならないと、自らオーガロードに向かって咆哮を上げながら突進を始めた。


 「ハァァァァァァ!!!!」


 「ちょっ、ガル!!」


 これは私の魂の鎖だ。

 このオーガロード、私が倒さなければならない。そう魂が言っている。


 やるのだ。やるしかないんだ。


 その刹那。誰もがガルの異常な行動に気が付きはしなかったが、ガルの体から僅か数ミリ程ではあるが──赤紫色の火花が散っていたのは後に知る事になる。


 『uu?』


 「パニッシャーストライクッッッ!!」


 高速で駆け抜けオーガロードの頭上から片手で弓を引くように構え、そのままオーガロードの右目目掛けて白く輝く大剣を突き刺すガル。



 『ゥゥゥゥォォォ!!!!』


 「まだまだァァ!!」


 ガルは叫びながら大剣を引き抜き、更にもう5連撃の突き技を同じように高速で突き刺す。


 「ハァァァァ!!!」


 『グゥゥゥゥ!!!』


 オーガロードは痛みに耐えながらもガルを払おうと懸命に両手で自身の顔面目掛けて張り手。しかしガルは即座に宙に浮いて上段に構え、振り下ろす。



 「ストーム⋯⋯⋯⋯ブリンガァァ!!!」


 『ァァァァァァ!!!!』



 くそっ、殺れたか!?


 「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」


 大剣を持つ手が震えるガルは、驚く。

 何故なら、顔面がグチャグチャになっているにもかかわらず、まだ死なないオーガロードの姿がそこにはあるのだから。


 まずい。もう力が入らない。



 『ウゥッッッ!!!』


 こんな正念場で⋯⋯再生のスキルがあるだなんて聞いてない!


 地鳴りが響き渡る。オーガロードが体勢を整え、ガルの方へと俊敏に走り出す。


 「ガル!!」

 「早く動きなさい!!」


 分かっている、分かっているんだ。

 だけど⋯⋯体がピクリとも反応しないんだ。


 「⋯⋯あはは、死ぬ」


 巨体がもう目の前。周りのみんなが必死に叫んでくれている。私は⋯⋯もう終わりなのか。


 「────いいやっ、まだだ!!!!」


 髪も、鎧も全て吹っ飛びそうな暴風。

 それらを凌駕する圧倒的な殺気。

 私は真っ向から耐える。


 馬鹿みたいな行動だ。

 だが、ご主人様の言葉はいつも魂のソレに響いていた。



 ──『大丈夫。職業やスキルというのはいつだって頭の中で繰り返し繰り返し創造するんだよ。どんな自分になりたいのか』


 ──『出来ないって?そりゃ相応のモノを見せなきゃならん』


 ──『ビビったって無理?じゃあそういう時は鼓舞するしかねぇよ。戦え、戦えって』



 「戦えええぇ!!ここで雑魚は卒業だァァァ」


 正面衝突。ガルは自分の数倍はある巨体を真正面から受け止め、皮膚が捲れ、骨は木っ端微塵になり、全てが終わっていく。


 ──だが諦めない。

 大木のような腕にラリアットを食らっても諦めないその姿は、もはや狂気とも言える。


 想像しろ!

 想像。想像、想像想像想像想像想像想像想像想像想像想像想像想像想像想像想像想像想像想像──

















 しかしそこから、オーガロードの歩みが進むことはなかった。


 ガルはハッキリとした視界の中、周りを見つめる。


 「な、なんだ!?」



 [貴方の条件を満たしました、ユニーク職業:聖重騎士になりますか?]



 こ、これは⋯⋯神の声なのか?


 困惑するガル。だが次の瞬間、顔を上げてクシャッと笑う。


 「もしもこれが、運命なのだとすれば、私はなります。主の盾となり、剣となります」


 

 [貴方は聖重騎士になりました。主人に全力で尽くすを事を期待します]



 ⋯⋯ええ神様。分かっています。

 

 数秒後、止まった時間の中で不思議とスキルや戦い方、想像でもどんな使い方をすればいいかが浮かんでくる。


 体は黄金の輝きで私の体を急速に治されていく。


 これが──夢に見たユニーク!

 最強と呼ばれる一角に、私もなれたのか!


 今、私にその資格があるらしい。


















 時は戻り、オーガロードは最後の一振りを降ろす直前。


 「イージスの護り」


 大木の振り下ろしは部屋全体に響き渡り、本を読んでいたガゼルもチラッと横目で確認をしている。


 だが、次第にこの男の口元は釣り上がり、嗤った。



 「ど、どうなったの!?」

 「わかりません!ガル!!」


 セレーヌ達はガルを呼び掛けるが応答はない。煙が晴れ、現れたのは────紫色の盾に包まれたガルの姿だった。


 「ミカエラ、頼む」

 「へっ?わ、わかったわ!」


 影に隠れていたミカエラが猛毒が塗られた短剣をオーガロードの足元に突き刺す。


 「魔物であろうと、この毒は生命活動を終わらせる毒よ、あなたでも難しいと思うわ」


 次第にオーガロードは体勢を崩して地面に崩れる。


 「ガルー!」


 セレーヌたちが急いで怪我だらけのガルの元へと集まり、頭を引っぱたく。


 「なんてことしてんの!」


 「あはは、とりあえず⋯⋯何とかなりました」


 「1歩間違えてたら死んでたのよ!?本当勘弁してちょうだいよ」


 「上手く行ってよかったです」


 「何がよ?」


 「ユニーク職業になれました。聖重騎士だそうです」

 

 「「「⋯⋯えっ!?」」」


 3人が驚いて表情が固まっている中、その横を一人の男が通り抜け、上から本を閉じて見つめる。


 「ご主人様!!私ガル、これからも剣となり盾となります!!」


 「⋯⋯よろしい。俺の予想通りの結果だ」


 ガゼルは笑った。言葉通り、まるで計算済みと言わんばかりにいつものように口の端を歪めて笑い、ガルの頭にポーションを遠慮の欠片もなくぶっかける。


 「あはは、流石ご主人様のポーションですね。すっかり元通りですよ」


 「だろうな。さて、とりあえずお前たち全員でクリアした。結果は良好。チームワークもよし、各々の結果としては上々と言える。改善点はあるにはあるが、色々考慮しても、大成功だろう」


 ガゼルのそんな声に4人は興奮を隠せない様子で鼻息を荒くさせて喜ぶ。



 ご主人様が笑ってる!

 十分な成果を上げることができた!

 まだまだだ!これからももっと上げていけば、今よりもっと⋯⋯ご主人様と。


 「さて、これでお前たちに課した課題はクリアしてみせた。それでは今度、俺と一緒に魔境に行こう。手出しは出来ないだろうが」


 当たり前じゃないかと内心思った私を含めたその場にいた全員だったが、ご主人様が異例のおんぶをするという有り得ない行動で私達は別の意味で苦笑いとアワアワしていた。


 外は快晴です。

 祝ってくれたんでしょうか。


 ⋯⋯とりあえず寝たいです。

 

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