70話 呼び出し
それから次の日。
俺は何故か冒険者ギルドの前にいる。
というのも、あれから家に帰ると、セレーヌが一通の手紙を受けとっていた。
内容はなるべく早く来てほしいという旨が記載されたギルドからの手紙だった。
仕方ないからギルドの要望に応えてやろうと早速次の日にこうして来てやっている。
まぁ、理由はなんとなく分かっているつもりだ。
⋯⋯恐らく魔王軍侵攻時の話だろう。
情報の口止めか、はたまたどっかのお偉いさんから声が掛かっているとか、その辺りだろう。
"全部知らんけど"
扉を開けると、この間のようで100年ぶりくらいの感覚で映るギルド内。いやー、素材が新しくなったのか、受付の机から階段、その他に至るまで全部新調していい感じになっている。
⋯⋯まぁいい事だ。
俺はそのままインフォメーションセンター的な受付へと向かい、「ギルド長から呼ばれた」と伝える。
名前を伝えると受付の方がだいぶ驚いていたようだったが、俺は別に何もしてないでしょと若干のめんどくさい気持ちを抑える。
それから僅かの時間で受付の方が戻ってきて上の特別室に案内された。
階段を上って二部屋先の扉を受付の方が開けると、中には事務机とその手前で筋肉隆々の男が豪快な笑い声と共に俺の前に立った。
「やぁ!君がガゼル君だね」
「どうも、貴方は?」
⋯⋯知っている。確か名前はボルフだったはず。冒険者ギルドの長にして中々の人望を持つ人物だと記憶している。
「ボルフだ、会えて嬉しいよ⋯⋯トラシバの本当の英雄殿」
俺はその言葉に眉を僅かに上げた。
「なんの事だか」
「なに謙遜してるんだ?俺達の前でわざわざトロールをワンパンしてたじゃないか」
⋯⋯トロール?単眼の魔物だったはず。
なんだっけ?全く思い出せない。いたっけ?そんな奴。
「すまんが戦い過ぎて覚えていない」
「それもそうだな!あの数を倒した冒険者など⋯⋯歴史上でも勇者様くらいなものだろう」
それからお互い机を挟んで向かい合って座る。
俺は大方なんの用で呼ばれているのか理解していた為、軽く聞き流すつもりだった。
「今日は君を呼んだ件についてだ」
「大体予想はしている」
「ほう?」
ボルフは「おぉ?」と笑みを浮かべている。
「お偉いさん方の耳にでも入ったか?」
「凄いね。早速だが、そっちからの対応だが」
「俺は断るぞ?いい事がない」
話させると丸め込まれる可能性もあると判断した俺は、すぐにそう言葉にしてボルフさんの言葉を遮った。
「困ったなぁ」
「まぁアンタの立場的に困るのは理解できる。事実、中間役だと色々と面倒だろう」
「君にもっと早く気付いていればこんな事にはならないだろうけどね」
まぁ俺は異世界人だからこういう意見になってしまうんだろうけどな。
⋯⋯普通ならここから大出世だってあり得る話だ。
並ならここでお世話になる事も良いだろうが、俺には全くの不要、むしろ足枷になり得る。
「なら仕方ない。俺から言っておくよ」
「すまないな」
「こりゃ驚いた」
予想外の言葉にキョトンとした俺に、ボルフも驚いた様子で口にする。
「いや、話を聞いていた感じだと、謝罪をするような奴には感じなかったからな!」
「あぁ、俺ははっきりしているだけだ。別に普段は割と常人だと思うぞ?口調はあれだが」
俺は中々常人だと思う。
いつもな○う主人公にはうんざりしていた。
俺は元々"なんとかできる世界に身を投じていた"ワケだから問題ないが、彼らはスキルでそれらを得ているのだからもっと大胆に構えていればいいはずだ。
'まぁ、いきなり巨額の金と権力に慣れていないというのは案外デカイのかもしれない'
こんな生活ももう"6歳"からだ。
多少麻痺しているのかもしれない。
「驚くことでもないだろう?」
「まぁ、俺もガゼルくんのような奴らをあまり見ないから驚いているだけさ」
「そうか、それと俺からも尋ねたいことがあったんだ」
「ほう?まさか英雄殿から質問なんて」
ニヤリとしつつもどんな予想をしているのかと構えているボルフ。
「オークションの話だ」
「オークション?ダンジョン品の話か?」
⋯⋯オークション。
まぁ前にチラッと話した事ではあるが、ダンジョン品の所有者は一度鑑定と同時にギルドに一時的にでも預ける義務がある。
鑑定が終われば所有者はオークションにモノを出して資金を集めるか、自分で使用するかの二択となる。
「あぁ、それについて質問があってな」
俺はすぐ様いくつか質問をした。
買う側になるにはどうすればいいかの基準。
次に売る側の軽いチャート。
まぁその他は雑多な質問だ。
「基本的にオークションは爵位を持っている者に限ってしまう」
「なるほど、では高位の冒険者は金の卵を運ぶだけということか?」
「おいおい、そんな事言うなよ。俺もそっち側だったんだから」
ボルフはやめてくれよと言わんばかりの苦笑いを浮かべる。
「だな、それで?表向きはそうだろうが、裏側は何か聞いたことでもあるか?」
「何かしようとしているな?」
「そういう訳じゃない。主に裏側の取引をしている背後関係が知りたくてな」
「というと?」
「大体そういうのに噛んでる奴らってのはみんな他の事にも絡んでるって事だ」
「なるほど」と好奇心溢れる笑みを返すボルフ。
「まぁ、そういうことだ」
「悪いが俺は知らない。これは秘密を明かしたいというわけではない」
「分かっているさ、知ると後戻りできない事が多いからな」
「若いのに先読みが早いな」
「少し考えればわかるさ」
「そうだ、ガゼルはダンジョン攻略の予定とかは?」
ダンジョン品が欲しいのか。
「そろそろ行こうかと考えているところだ。まとまった金も集まったしな」
「普通逆じゃないのか?金を稼ぐ為に冒険者をやる奴らがほとんどだぞ?」
トンデモナイと軽く引いている様子のボルフ。
「金なんて別に色んなやり方で稼げるだろ?俺はつまらんやり方で稼ぐのが苦手なんだ。だから面白くて割と楽なやり方で稼ぐ」
「お前は天才ってやつなんだろう、しかし若い内からその考えだと、あとが大変だぞ?」
「貴族様か?」
まぁ、そうだろう。
この世界では貴族様のご機嫌を伺いながらイイ感じに稼いでイイ感じに生活していかないといけない。
つまりイイ感じに全てを調節する事が大事な訳だ。目立ったり変なことをする奴は真っ先に狙われて、最悪排除されることも視野に入れないといけない。
面倒な世界なのは何処もか。
「理解しているよ」
「その目は理解していない目だがな」
「まぁ、その内ボルフにも分かるさ」
俺はそのまま立ち上がって煙草に火をつける。
そして、話を切り上げてギルドから出ようと扉へ向かう。
「まぁその感じならば問題は無さそうだが、油断は天才の敵だ⋯⋯気をつけろよ」
「あぁ、忠告どうも」
俺はそれだけを返してギルドを背にした。




