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不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。  作者: ちょすニキ


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60話 ノウハウ

「ご主人様!」


なんだ?誰の声だ?


「大丈夫ですか!?ご主人様!!」


あれ?俺はいつから寝ていたんだ?


セレーヌ抱きかかえられているガゼルの両目が開く。


「あれ?俺は気絶していたのか?」


すぐに身を起こしてセレーヌに確認を取るガゼル。


「そうです!何がどうなってるんでしょうか!?」


魔力枯渇でもない。寝不足か?

ここはとにかく謝ろう。


「すまなかった。心配をかけたようだ」

「い、いえ、問題はありませんが⋯⋯」


セレーヌは困ったような表情で何かガゼルに訴えかけている。


それを察したガゼルは質問した。


「どうした?何があった?」

「実は、休憩と言っても、一時間とお聞きしていたので、全員がご主人様がいない事に原因も分からずとのことで店は臨時休業としてしまっていて⋯⋯」


まぁ、そうだろう。俺も終わってから気づいたんだ、駄目だな⋯⋯失念していた。


「いや、問題ない。それより、今何時だ?」

「現在はお昼前です。別室にて、ガスパル様とカスパル様がお待ちです」


あぁ、俺が教えてやるって言ったんだったな。


ガゼルは立ち上がって制服の汚れを払う。

そのまま向かおうとしたその時ーー。


頭に大事な事が浮かんだ。


「ご主人様?」


'生産職なら、こんな制服⋯⋯もう着なくても良いじゃん'


今までは良質な素材が無かったからこんな着づらい服を着用していたが。


今はその必要はないだろう。

何故なら[日本技術加工]なんてスキルがあるんだ、俺の着ていた素材くらい出せるだろう。


「すまない、二人にはもう少しばかり時間がかかると伝えてくれるか?」

「か、構いませんが、何かあったのですか?」

「問題ない、すぐに終わる」


ガゼルはすぐに動き出す。


⋯⋯こんな着づらい服なんておさらばだ。


そう頭に浮かべて。



         ***



それから時間が経って夕方。


ガゼルと兄弟の二人は、初めてあった商店裏のリビングで対面していた。


最初の時のような硬い表情ではなく、今では完全な主従関係でもあるような。


変わったのはガゼルではない。


⋯⋯兄弟の二人の方だ。


「それでーー」


ガゼルが口を開く。


対して、ガスパルは盲信の限りを尽くすように縦に頷き続けていた。


'この少年⋯⋯いや、この"お方"は何者なのだろうか?'


ガスパルは自問自答していた。

あれから夕方になるまでの数時間、ガゼルによる商売やそれに関連する必要知識を叩き込まれた。


ガスパルが受けたそれらの情報は、どれも知らない物ばかりだった。


そして、スッと入ってくるような説明から、私達が疑問に思ったことに対しそれらの返答に至るまで、どれも納得する解答すら得られた。


'こんなに物を知っているお方を⋯⋯私は知らない'


本店にいた時すら得られなかった答えがこうも得られるとは⋯⋯。


ガゼル様の言い方によれば数ヶ月前までは分かりもしなかった。


私達は必死にこのお方から流れる知識、応用、全てに至るまで必死にメモした。


⋯⋯忘れてはならない。この後世に残ってもいい程の知識を惜しみなく享受出来るなど──なんと嬉しいことか。


「さて、今日一日で一気に頭の回転レベルは相当上がっただろう。君たちの能力はまだまだこんなものではない、いや⋯⋯強制的にでも俺が上げることができる」


根拠のない自信から来る笑み。

しかしこの男だけは分からない。


どれが本当で、どれが嘘か。

いや──。


「はい」


このレベルのお方だ。

きっと本当なんだろう。


「とはいっても、今日一日ではすぐに頭に入るわけではない。これからこうして時間取る、期間は今後必要がなくなるまでは惜しみなく教えてやるつもりだ」


「感謝をしてもしきれま──」


頭を下げるガスパルに片手をかざして待ったをかけるガゼル。


「この大陸では忠誠心が大事なのかは知らんが、俺の前では必要ない忠誠心だ」


「と、いいますと?」


恐る恐る尋ねるガスパル。


「必要のない忠誠心はいらない。何故なら、俺もお前たちに求めているモノがある」


「そ、それは⋯⋯一体」


「簡単だ。俺が何故───面識もない相手に自分の知識、そしてまっちについての話を通したと思っているんだ?明確な理由があるからだよ。俺は今、商売する時間が勿体無いと判断したんだよ」


自分たちが喉から手が出るほど欲しいものを自分には勿体無いと言うのだ。

⋯⋯恐ろしい。


そう胸の内で語るガスパルの前に、ガゼルがなにかを並べた。


正体は聖貨。

ガゼルは兄弟の目の前に聖貨を10枚並べた。


日本円にして一億。

二人はその場で固唾を飲み込む。


「説明した通り、まっちは薄利多売だ。しかし、金額を上げても人は買う。何故なんて疑問はいらない。街の奴らを含め、魔力が無いに等しい者達にとって、まっちは魔力がなくても生活を豊かにしてくれる⋯⋯まさに希望。俺は短期間で聖貨数十枚を懐に入れている」


もはやその金額を聞いた二人は内心恐怖すら抱いていた。


⋯⋯当然だ。


一生で白金貨ですら稼げるか怪しい者たちがほぼほぼの割合を占める中、目の前の男は弱冠の年齢でとんでもない金額を目の前に並べている。


「俺はお前らのようなガッツがある奴が好きだ。これは世辞でも何でもない。人に馬鹿にされ、それでも諦めずに進む大馬鹿が好きなんだよ。⋯⋯そこで、俺はお前たちに投資をしている。簡単な話、委託販売だ。利益はお前たちが完成するまで0。完成した後、正式な利益を与える。契約書も用意した」


ガゼルが目配せをするとセレーヌが書類を丁寧に二人の前に置いた。


「まぁ悪い話ではない、ここで聞いた話は基本門外不出の物とし、お前たちが使えるようになるまでは利益は0。タダ働きと同じだ。しかし、最低限の環境は用意することを約束し、使えるようになり次第──利益は30%とする」


ガスパルは唸った。


「待ってください、この表記は間違いでしょう」


ガスパルはあり得ないと指摘した。

なぜなら、その30%の表記は⋯⋯ガゼル側を指していたからだ。


「ん?あぁ、これは、お前たちに投資兼俺も有難く利用させてもらうからだ」


「ど、どういうことですか?」


「簡単なことだ。俺はお前にまっちを提供し、売上に対する利益の30%を貰う」


「逆でしょう!加えて言うならば、私達が20%や10%でも好条件と言っても過言ではありません!」


「そんなことは分かっている」


「ならばなぜ!」


落ち着けとガゼルは笑う。

興奮し過ぎたことを反省したガスパルは腰を下ろした。


「とにかくよく読め」


「30%の代わり、ガゼル様が出品したいものを優先してならべ、その利益はガゼル様が100%とする」


なるほど、商品を並べさせろ。そういうことか。


⋯⋯しかしだ。

それでも好条件過ぎる。いくら何でも⋯⋯。


ガスパルの表情を察したのか、ガゼルはまたも悪魔のような狂気じみた笑みを浮かべた。


「言っただろ?お前たちはもう喰われる側ではない。この俺──ガゼルという名前と人生に賭けて誓ってやるよ。お前たちはいずれ、天下を獲るだろう。というか、獲れ。

⋯⋯俺の商品はこれだけではない。

それを並べ、増やし、お前たちは大金を握る事になるだろう。その時、お前たちは貴族のようなレベルまで伸び、強者の喉元まで迫るだろう。お前たちはやるぞ?必ず⋯⋯な」


あぁ、この人は。


私は大地と同化するが如く額を強く打ち付けた。


目を見れば分かる。

この人は私達に再起する為の口実を用意したのだ。


こんな穏やかに鼓舞されてはーー末代までの恥となろう。


やるぞ、⋯⋯必ず。


「この愚兄弟ではありますが、必ずやーーこの商店を天下に轟かせましょう!!!!」


「俺の教えた奴はそうでないとな」


ガゼルは煙草を吸いながら狂気じみた笑みを浮かべ、二人の方を見つめる。


「ならば早速、全ての把握から始めろ。お前たちに必要な期間は一ヶ月。全てマスターしてみせろ。⋯⋯死んでも覚えろ」


「はっ!!!!」


さて、後は人材の問題だが。


ガゼルは窓ガラスの外に映る晴天を眺める。


「時に、情報ギルドなんかはないのか?」

「闇ギルドならば一度耳にした事がありますが⋯⋯」

「情報屋などはどうなっているんだ?」

「それは、レイヴンズクロウという個人でやっている情報屋が」


個人⋯⋯ならば使えんな。

個人でやっているやつは碌な事にならん。わざわざ属そうともならないし。


「そうか」


とにかく、資金繰りは問題ないし⋯⋯後は使える人材──。


頭に何かを思い付いたガゼルと、それと同時にセレーヌが走ってやってきた。


「どうした?」

「ご主人様!外に!」


⋯⋯来たか?


「すまない、少し待っててくれ」


ガゼルは案内の通りに外へ向かう。


セレーヌの案内通り外へ出ると、そこには血だらけの見知らぬ男が過呼吸気味に待っていた。


「どうした?」

「あ、貴方が⋯⋯ガゼルか?」


致命傷だな。


服の切れ具合から察する。

⋯⋯これはタダ事ではない。


「セレーヌ、お前は中に入ってろ」

「し、しか──」


ガゼルは少し眉を上げ、セレーヌに返させない為にわざと睨みつけた。


察したセレーヌはすぐに中へとすぐさま入り、ガゼルと見知らぬ男の二人きりになった。


ガゼルはゆっくり煙草に火をつけ、深く一吸いした。


「何の用だ」

「コレを」


見知らぬ男が1枚の紙をガゼルに差し出す。


「アイツが決心したということか?」


ガゼルが発したその言葉に、その見知らぬ男はキッとガゼルを睨みつけた。


「捨てるぞ、これ」

「失礼しました」


アイツは躾がなってねぇな。

まぁ慕われている証拠ではあるが。


ガゼルは文字通り目にも止まらぬスピードで手紙を読み終えた。


見知らぬ男はその様子を一部始終見届け、出血多量のせいかその場に腰から崩れ落ちた。


「飲め」


ガゼルはアイテムボックスから取り出したポーションをかったるげに片手で渡す。


「ありがとうございます」

「いえいえ」


さて、これで確保したも同然だ。


そう心の内で呟くガゼルの瞳は、悪魔じみた狂気が込められていた。

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