47話 合同訓練
キンッ──!!
「く、くっ⋯⋯まじかよ!」
「勇者様と言っても、まだまだ発展途上ですから仕方ありませんよ」
「うっ⋯⋯!!!」
剣と剣が衝突して膠着状態となっていたが、一人の騎士による蹴りの一発が⋯⋯ガラ空きとなっていた一人の男子生徒の脇腹にモロに貰い、そのまま中央から一気に壁まで吹き飛んだ。
「ステータス頼りの戦い方ですね。今は問題ありませんが、実戦では様々な角度から敵は攻撃してきます」
パラパラ破片が壁から剥がれ落ち、壁にぶつかってそのまま真下に倒れている男子生徒の頭に破片が降り掛かる。
「勇者様?起きてください。気絶する程の威力はーー込めていませんよ」
そして始まった合同訓練。
まぁ実戦経験を積んでいる騎士団員、それも王国騎士団というエリート中のエリート達が集まる場所にいる最下級の団員ですらーー勇者である一般人には重すぎる相手だった。
「くっ、くっそー⋯⋯!!!」
「はは、そうです!そんなあっさり終わってしまっては──強くなることはできませんよ!」
激しい剣の打ち合い。
ステータスの差はあれど、結果は目に見えていた。
⋯⋯騎士団員の圧勝。
もはや公開処刑レベルの差があった。
勇者陣営は完全どんよりモード。
もはや今までの訓練は何だったのかと言いたいレベルの酷さであった。
勿論神宮寺たちが悪いとかいう話ではない。
笑い話になるだろうが、王国騎士団を連れてきたゴルドが悪いのだ。
もっと下の階級の騎士団を持ってくればいいはずなのにも関わらず⋯⋯なぜか最前線で戦う化物の巣窟に住んでいる者たちを全員連れてきてしまっている。
そんな中、勇者陣営の希望ーー神宮寺龍騎の番が回ってきた。
「いけ〜!神宮寺!!」
「頑張ってー!!神宮寺くん!」
神宮寺が中央に向かう間、ここぞとばかりに勇者陣営にいるクラスメイトたち大声で応援に入っていた。
「⋯⋯!」
しかし、全員の希望はすぐに打ち砕かれることになった。目の前に立っているのはーー何故か完全防備でいるゴルド。
神宮寺の緊張感は最大限まで引き上がっていく。
「な、なぜ」
「陛下が今一番"強いと言われている"神宮寺殿の本気が見たいとご所望でな。悪いが余興⋯⋯いや、神宮寺殿は死ぬ気で掛かってきてくれ」
'クソッ、終わった'
後は嬲り殺しか。だが──。
神宮寺に映る両目の視線の先は、梓一択。
'この前の話で確信した。梓は強い男じゃないと納得しない'
「⋯⋯ほう?」
ゴルドはてっきり適当にやるモノだと思っていた。
'神宮寺殿の性格だ、適当なところで負けを認めるものだと思っていた'
しかしーー。
ゴルドの目には⋯⋯教えた通り剣をしっかりとした握り方で腰を落とし、軽快なステップをしそうな剣の構えを見せていた。
'梓に良いところを少しでも見せるんだ!プライドなんて関係ない!'
いつになく本気の面構えをみせる神宮寺は、同時に詠唱を始めていた。
「文字通りステータスをフル活用した戦法か」
⋯⋯さて、勇者殿のレベルは──。
そうゴルドが呟くと同時に、踏ん張る神宮寺の足元にヒビが入った。そして僅か一瞬の間にゴルドの背後で剣を振り上げていた。
「ん?」
『いけー!!神宮寺!』
『神宮寺くん!!』
応援するクラスメイト達の大合唱と騎士団の鋭く現場をじっと見つめる姿。
僅か数秒の間に強風と共に神宮寺の手にする鉄剣には、魔力が微かに流れていた。
「神宮寺殿、もうそこまで魔力操作が上手くできるようになったのか⋯⋯流石勇者ーーというべきか?それとも、異世界人特有の特殊体質なのか」
「ダァァァァ!!!!」
ゴルドの言葉などお構いなしに魔力を纏った神宮寺の黄色い剣は、目の前でいくつモノ斬撃を生み出す。
「⋯⋯!」
これにはゴルドも素直に目を丸くして微かに呼気が漏れた。
「『スキル:剣乱』!!」
同時に5つの方向から黄色い斬撃がゴルドへと迫る。
⋯⋯しかし。
「なにっ!?」
同時に剣を弾く音が5回。神宮寺の放った剣乱と同じ速度でゴルドも斬撃を飛ばしていた。
「そんなに驚く事でもないだろう?神宮寺殿」
不敵な笑みを浮かべながら堂々と立って神宮寺を見上げるゴルド。
「何も魔力操作は勇者だけではないーー私達騎士団の専売特許だ」
一呼吸ほどの時間がたったその時、透き通った薄い青色の魔力を纏うゴルドの剣が宝石のように煌めく。
「団長ォォォ!!!やってください!我らが王国最強の力をーー今!ここに!!」
騎士団員のテンションも最高潮。
ゴルドの構える剣には、剣の周りに振動する液体のような魔力を纏っていた。
そして神宮寺が認識を超えた速度ーー。
「『スキル:流水旋風』」
ヒュッと風のように剣が目の前から消失し、気付けば身体のあちこちにゴルドの放ったであろう攻撃が神宮寺の体に焼き付くように残っていた。
'やっぱ王国最強は別格だ'
神宮寺はそう心の中で発した直後、地面に伏した。そして更にそこからすぐーー騎士団の大歓声が演習場には響いたのだった。




