43話 E級ダンジョン〈8〉
「梓、今のはどうだった?」
「ええ、凄いと思うわよ?スキル活かしたいい攻撃だった」
神宮寺龍騎。コイツは一体何?
時は神宮寺が一人で経験値を稼ぎながら梓にいいところを見せつけようとしていた頃。
「ここで二人は見ててくれ!」
終盤に差し掛かったエリア。そこで目の前に見える部屋の手前⋯⋯流石にそう言い放つ神宮寺を錬は止める。
「神宮寺?流石にあぶねぇんじゃ」
心配そうに止める錬。だが神宮寺は'問題ない'とドヤ顔で一人突っ走って進んでいく。
無邪気な顔でおそらく終盤に差し迫る部屋へと入っていく神宮寺を、二人は呆然と眺めていた。
「なぁ?梓」
「何よ」
なるべく表情がバレないようにそのままの表情。声色だけを変えて返事をかえす梓。
「おーすげぇ演技力」
錬が馬鹿にしたようにニヤニヤしている。
「それで?」
「まっ、言いたいことは分かるだろ?」
黙った梓はそのまま中へ入って戦う神宮寺を眺めながら無言の肯定を見せていた。
「アイツ、仲間の為とか言っておきながらーーゴブリンの杖のほうを優先してたぜ?」
本当に訳がわからない。
⋯⋯神宮寺龍騎。
分かりやすくいうと、"神宮寺グループ"という会社が日本にある。
最初は小さな商店を切り盛りしていた古き良き老舗。しかし状況が変わったのは平成に入るちょっと前の頃だった。
色々な繋がりから瞬く間にその商店は日本全国に広まり、一気に世間一般に浸透していく。まぁわかりやすいところでいうなら、スーパーみたいなものだ。
そこからその勢いを利用したグループは一気に勢力を拡大。あっという間に全国に店舗を持つ大手となる。
その神宮寺グループの跡取り息子であり、家が特殊な一族でもあって家系的なモノが大きい。
そして、現在(転移前)の神宮寺家はーーまさに天下無敵の権力を誇っていた。
だからかなり彼自体も特別扱いからの悪い意味で目立っていた。
金で人を弄ぶのは当たり前。
金で女をいたぶるのも当たり前。
金で人を地獄に陥れるようなゴミ。
それが神宮寺龍騎。
精神障害さえあるんじゃないかというほどの演技力。仲間なんてただの道具ではなかったの?よく分からない。
それに、ゴブリンを倒す度に何故か私を見てピースでもして笑顔を向けてくるし。⋯⋯意味不明。
勇者として召喚?あんな人格破綻者が?
この世界に神なんて居るんだとしたら、余程人を見る目がまるでない。
そんな梓の脳裏にはーー一人の男が浮かんでいた。
ぼうっと目の前を眺める梓が映す脳裏。
───
──
─
映っているであろう場所は、介護施設のような風景に見える。
所謂老人達がテーブルの前に座っており、数人のスタッフが食事補助に入ったり、レクリエーションをしていたり、そのテーブルで必要度合いが違うのだろう。
「橋本さん」
スタッフの一人が優しく声を掛けている。
「あの子は、今日もきとらんかね?」
70歳ほどの老人の男性。
橋本と呼ばれるお爺ちゃんが、スタッフに尋ねた。
「いますよーもうすぐ来ますよ」
すると白髪の綺麗な少年が目の前に食事を持ってくる。すると橋本がその少年を見るとーー少年のように目を輝かせる。
「今日も来てくれたんかねぇ」
すると白髪の少年は、満面の笑みを浮かべる。
「ええ、お元気でしたか?橋本さん」
「そんな呼び方をするなと言ってるだろぉう?」
「順ちゃん」
綺麗な笑みを浮かべながらそう言うと、すぐに白髪の少年に「そうじゃ」と納得しながら笑みをこぼす。
梓はその光景をずうっと後ろから見つめていた。
「儂は※くんのような若者が増えてくれたら⋯⋯どれだけ幸せな事だろうか」
ゆっくりだがハッキリとした口調で白髪の少年に話す。
「そんなこと無いでしょ、もう──僕のような子供達はいっぱい育ってきてるでしょ?」
「いいや。そんな事はない」
少年の返事を即答でキッパリと否定する橋本。
「儂はな※くん。思っている以上にお金持ちの老人なんだ」
「知っているよ」
何を今更と少年は鼻で笑う。
「このままでは⋯⋯」
橋本は外に映る綺麗な青空を眺める。
そう、数秒。橋本は穏やかな瞳を空へ向けながら口を開いた。
「日本という国が、他国に渡ってしまう。今の蔓延っている若者たちでは駄目だ」
「⋯⋯⋯⋯」
「※くん。儂は、まだ君のような魂を持つ少年にあった事がない。儂は⋯⋯」
続けようとする橋本だったが、すぐに少年がおぼんを机に乗せ、食事を始めさせる。
「ほら、じゅんちゃん。その前にご飯食べよう」
「おぉ〜ありがとう」
───
──
─
そんな光景を思い出した梓が、大きく溜息をついた。
「勇者っていうのは、ああいう人のことをいうのよ。誰かの為に戦える人のことを言うのよ」
堅い瞳で神宮寺の戦う姿を見続ける梓。そしてその謎の独り言を隣で意味不明そうに見つめる錬の姿。
「⋯⋯⋯⋯は?突然なんだ?考える時間長すぎじゃね?」
「今本物の勇者を思い返して浸ってるところだから邪魔しないで」
それから数分。
私達は神宮寺さんに呼ばれて更に奥へ進んでいくその道中だった。
歩きながら神宮寺が話を振る。
「梓はどんなモノが好きなんだ?」
「え?私?」
'他に誰がいるんだよ'
神宮寺はそう内心イライラを募らせながらひた隠しで尋ねる。
「んー最近あんまりないかも」
「でも、元々好きな物とかでもいいんだけどな」
そう言う神宮寺だが、その隣で聞いていた錬が口を挟む。
「いや梓はオムライス作りにずっとハマってるぞ?転移前の朝だって──」
その時、ダンジョン内で初めて戦闘音ではないがとんでもない爆発音が外にまで響いたという。
「いっってぇぇぇぇ!!!!」
髪が抜けてないか両手で確かめながら錬は梓を睨みつけた。
「なんなんだよ!お前が無愛想過ぎたから助け舟を出してやったのに!」
「うるさい!馬鹿錬が!」
とんでもない威力のチョップを錬に食らわせるその姿は、まさに年相応な無邪気さだった。
「⋯⋯⋯⋯」
錬と梓の漫才のような姿を無言で眺める神宮寺だったが、その中は燃えたぎる程の嫉妬心を燃やしていた。
'鈴鹿⋯⋯!!!'
心にある自分の体中の血管という血管がバギバキ浮き上がる。
コイツはなんなんだ!?なんでいつもこいつらはこんな仲良さげなんだ!?
⋯⋯意味が分からない!!
コイツらが幼馴染何てデータは見たことがないし、そんな要素がまるでない!
そもそも鈴鹿と梓は別の地域出身だから幼馴染という現象は起こらないはずだし、他にあるといっても精々という話だろ!何なんだよ!!
梓もなんでこいつにはこんな心を許しているのか理解出来ないし、納得ができない!こんな大雑把でヘラヘラしてるようなやつが好みなのか!?
「神宮寺?」
「神宮寺さん?」
「へっ?」
神宮寺が一人で暴言を吐きまくっていて二人から呼ばれていることにまるで気付いていなかった。慌てて取り戻そうと会話を続ける。
「ごめんごめん!なんの話をしていたの?」
「え?いや、そもそも女だからって男に暴力を振るうのは良くねぇよなって話をしてたら」
「違うでしょ?そもそも暴力は良くないよね?って話をしていたのに、この馬鹿錬ときたら!」
'何だこの二人'
怒りが噴火していた神宮寺は、奇しくもその二人の意味不明な口論で怒りのボルテージが静まった。
ま、まぁ⋯⋯ひとまずツンデレな部分が梓にはあるということでいいだろう。
「とりあえず一旦落ち着いて」
優しく両手で落ち着けと二人を諭しながら更に奥へ奥へ進んでいく。
***
「全然奥って言っても、ゴールがないなぁ〜」
「そうね。一旦止まりましょう?」
「梓の言うとおりだな、一旦ストップ」
あれから更に1時間近くが経過したと思います。実は面白い事が判明したの。
このダンジョン──三層じゃなかったっぽい。
「錬、確か⋯⋯入る前に三層構成って団長は言ってたわよね?」
「言ってたと思うぜ?だけど、そこまで断言してた言い回しじゃなかった気がする」
地面に転がっている石ころを使って現状の整理を始める梓と、見上げて尋ねた梓に対してしっかり真面目な口調で返す錬。
オカシイ。
三層構成じゃないとしたらーーここは何層構成なのかしら?どういう構成しているの?
⋯⋯それに。
「梓、ちょっといいかな?」
悩んでいる私に、神宮寺さんが声を掛けてきた。
「どうしたの?」
「このまま進んでも問題ないんじゃないかな?強い俺という男が居るわけだし」
悩みの種の一つ⋯⋯この神宮寺。
現在の場所でを考えるなら、現在の階層は恐らく4。最初はかなり怪しかったけど、やっぱりおかしい。
途中まではまだ理解できた。
だけど、明らかに主張が多すぎる。
『梓!見てくれ!ゴブリンを倒したぞ!』
『ええ』
それを倒したのは正確には錬。足を使い物にならなくして最後のとどめを刺しのが神宮寺。
⋯⋯絶対に何かある。
「ん?」
「どうした?梓」
ハッとした私はすぐに手を地面に当てた。
「スキル:地形把握Lv1」
そうだ、私にはスキルがあるじゃない。なにアイテムやら他人を信用してるのよ⋯⋯私の力で十分じゃない。
実際私のこのスキルは実践で即使えるというレベルではない。しかし、下がどうなっているかくらいは確認できるはず。
手を当てている私の手から波状に波紋が広がっていく。読み取りが進む度に私の頭の中に読み取った地形が流れ込んでくる。
本当、異世界は不思議。
「⋯⋯!」
「どうした?梓!」
下がある。それにーー。
「引き返すよ、錬」
そう私は立ち上がって言い放ち、すぐに来た道を戻る。無言で錬はそれに従い、神宮寺は。
「待て待て!」
「「⋯⋯⋯⋯」」
「ちょっと待て!」
さっき、カタカタと震える音が聞こえた。ただの現象なら良かったけど──あれは大量のスケルトンだ。一体や十体のレベルじゃない。数千単位の魔物が何故か配置されている。
これでこのダンジョン攻略の考えが読めた。
攻略出来たとしてもここで一旦帰ることがこの攻略の答え。
無駄な戦闘をせず、上にこの事をすぐに報告して生存確率を大幅に上げること。
「なんだよ!急に理由もなく引き返すなんて!」
その場で神宮寺が留まり、二人に向かって大声で話した。
「意味がわからない!突然なんだ!?俺は勇者だ!俺はボスを倒すぞ!?鈴鹿は来るよな?」
神宮寺の言葉に錬が止まる。
そして振り返り「いや?俺は梓に着いていくぞ?」と両ポケットに手を突っ込みながらまた前へ向き直して梓を追いかける。
「二人共どうしたんだよ!俺達は勇者パーティーなんだぞ!?本当に行くぞ!行くからな!?」
まるで3歳レベルで喚き散らす神宮寺に私は大っきい溜息と共に止まって振り返る。
「まぁ、分かれってほうが難しいのかもね」
「はぁ!?」
ただそれだけ言い残してまた二人は引き返していく。
'何なんだよ!あの二人は'
神宮寺の怒りは再び頂点に。
鈴鹿はなんであんな素直に梓に従うんだ?何なんだ?対等かと思えばーー完全に上下関係でもあるかのようにすんなりしたり!
⋯⋯意味わからん関係性だ!!もうどうにでもなれ!
「俺はもう行くからな!!」
プンプン怒っている神宮寺が強引に風を切って先に進もうとした時、梓と錬が止まる。
「一応忠告しておくけど、多分その先──貴方死ぬけどいいかしら?責任はとらないわよ?」
振り返りはしなかったが、梓は冷静にその一言だけを神宮寺に投げつけた。⋯⋯勿論梓の言葉だ。神宮寺はその言葉に立ち止まる。
「だから!」
必死に隠せない怒りを剥き出しにしながら神宮寺は梓に対して大声で叫んだ。
「さっきから俺の質問に答えてくれよ!なんでなんだ!?なんで戻る必要があるんだ!?」
必死に叫ぶ神宮寺の言葉にハッとする梓。そして次の瞬間、梓は噴き出すように軽く笑い声を発した。
私はこの男と密に関わっていくつもりがない。この男が死のうと生きようと──本当にどうでもいい。下手に関わられると、むしろこっちが被害だけを被る。
スーッ──。
少し弱風の威圧感のある赤風が梓の周りを渦巻き、梓の瞳孔も薄く赤く染めあがった。
「神宮寺さん。私はこれくらいの事ですら理解出来ないようなら、貴方と組むつもりは微塵もないし、平和ボケしている貴方が強いだなんて1ミリも思わないから──さっさと決めなさい」
梓の発する赤風が神宮寺へと向かう。その風はジリジリと神宮寺を威圧しているのがすぐに分かる。
'な、なんだ?'
お、女にビビったことなんて人生で一度も無かったのに。
神宮寺は自身の足に目をやると、ブルブル震えているのが映る。
なんてオーラだ。意味がわからない。急になんて殺気だよ!勇者だっていうのに!
化物か⋯⋯あの女は、クソッ!
神宮寺は諦めたかのように梓と錬の方へと向かった。
「戻ろう」
「ええ、懸命ね」
仕方ない。今は人数的に俺が不利だが、数を揃えたら多数決だ。
そうして三人は道を引き返した。




