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不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。  作者: ちょすニキ


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39話 E級ダンジョン〈4〉

「オラッ!」


ゴブリンの断末魔がダンジョンの中で響く。


神宮寺の基本に忠実であろう勇者らしい黄色に輝く綺麗な軌道の一撃がゴブリン達を斬り伏せた。


「ナイス!神宮寺!」

「だろ?」

「さっすが!」

「ありがとう、山下」


取り巻きと勇者である神宮寺が初めての魔物を討伐する事にに成功した事で、感動とやり遂げたというこの喜ばしい雰囲気の中、一人ぶすっとした表情で眺めている姿が映った。


「⋯⋯⋯⋯」


'うわぁ〜'


その中の一人、一番の後方でその一連の流れを見ていた錬は、この状況に嫌気がさしていた。


なんだあの一撃⋯⋯完全にオーバーキルじゃねぇかよ。


いるんだよなぁ〜、こうやって自分の力を見せつけるようにワザと必要のない時に必要ないレベルの力まで引き上げるやつが。


⋯⋯まぁ?今回の理由は明白な訳だけど。

確かに?勇者という職業はおそらく有利な職業であることは間違いないだろうな。


どうやら勇者という職業では、魔法というカテゴリにおいて沢山の恩恵を得られるようだ。


例えば──。

この世界では基本となる魔法の属性は決まっている。


《火・水・風・土》〜魔法。


主にこの4つ。勇者として召喚された直後の座学で最初に説明された事だった。


そして。

この4つ以外の特殊属性としてーー。


《雷・氷・毒・光・聖・闇》


この6つが特殊属性と定められているらしい。

何分、通常の魔法ではそもそも出すことすら難しいようだ。


魔法の授業では、最初に恩恵を受けやすい水の魔法を使って授業が行われた。


⋯⋯結果は惨敗。

手のひらに雷が出ないかと何度も試してはみたが、まるでピクリとも反応しなかった。

 しかし、そこにいる宮島裕太という同じクラスメイトは、職業に加えて雷属性の適性があるようで、同じ事をすると手のひらに小さい雷の火花が具現化していた。


ちょっと羨ましかったのは内緒だ。


⋯⋯まぁそんなわけで。

長々と遠回りしたのにも理由がある。

勇者という職業は、字面的にもカッコイイし特別感があるわけだが、実際にかなり特殊な職業だということが分かっているらしい。


まずーー全属性の魔法を習得可能であること。


聞いただけでヤバそうな話だが、勇者はどんな特殊な魔法でも習得ができるようなんだ。


次に成長速度の異常。

どうやらデフォルトで成長速度が早くなるスキルを持っているらしい。⋯⋯羨ましい。


俺の侍は15レベルな訳だが、やつはもう40レベル間近。2倍だとしても、あり過ぎだろ。


これが無理ゲーってやつじゃないのか?


 まぁとにかく勇者っていう職業はーーかなり羨ましい職業ってことが俺が主張したかった事だ。

 そんな力の持つやつが⋯⋯あんな女一人落としたいがためにオーバーパワーで雑魚モンスターをぶっ殺してるこの絵面が気に食わないってことをどうしても伝えたかったことだ。


「ハァ」


ダルそうに頭の後ろで手を組みながら溜息をついて後ろを歩く錬。それを見て梓はチラッと錬を見つめてどうでも良さそうにまた前へと向く。


「ん?」


先頭を歩く神宮寺が何かに気づいて足を止める。


目の前は一つの扉。

他に扉はないところから考えるに、おそらくここが次の階層へと降りる扉なのだろう。


神宮寺が渉に念の為確認をさせに行かせた。

そしてそれから5分程経過したあと、すぐに嬉しそうな声と共に渉が扉の内側から無傷で帰ってきた。


嬉しそうな渉の反応を見た神宮寺はすぐに何かいいことがあったのだと瞬時に理解した。


渉は基本的にあまり笑わない。作り笑顔がほとんどで、心から笑う事はほぼない。そんな彼が嬉しそうに帰ってきたということは⋯⋯おそらく何かある。


そう確信していた神宮寺は、すぐに帰ってきた渉を褒めながら中に何があったかを尋ねた。


「渉、どうだった?」

「ビックリしたよ」

「何がだ?」

「2層目は経験値が豊富なゴブリンメイジだったんだ!それに、身につけている武器や服から見ても、中々の期待が掛けれる。俺達の強化にはうってつけだ!」


神宮寺はすぐに笑みを浮かべた。


それもそう。

ダンジョンの中には一定確率でダンジョン産アイテムというのがドロップする。 ゲームをやり込んでいる者たちならすぐに分かるとおり、そのダンジョンのモンスター達にはどの確率で何がドロップするかが決まっていのだ。

 

 つまり、コブリンならーー臭いの強い巾着袋が何割。ゴブリンの錆びた短剣が何割⋯⋯のように、ダンジョンにいる場合、そのダンジョンのモンスターを見ることで、ドロップするものにある程度の目処がつけられるということだ。


 何故冒険者ギルドが儲かり、あそこまでの権力を有しているかと言うと、月に2度行われる競売やその他の多岐にわたる事業へと沢山参入している為だ。

 ダンジョン産アイテムはまずギルドへと預けないといけない。これは義務であり、絶対のルール。そうすることで取引があった時に仲介料を獲得することができる。それに、大手である冒険者ギルドが運営することによって安心感もある。通常の競売に集まる数は計り知れない量でいっぱい。


"冒険者ギルドの権力が凄まじく、そして金になると思わせてしまえばーーおそらく金払いもいいはず"


そんな事を事前の座学で聞かされていた神宮寺は、心の中ではほくそ笑んでいた。


何故なら、この魔物をかなり狩ることでーーマジックアイテムであるゴブリンメイジの杖を狙えるからだ。


"ゴブリンメイジの杖"

そう一見聞くと「ゴブリンが使ってる杖?弱くね?」「それだったら他のでいいや」となる確率が非常に高いアイテムの一つだ。


実際、俺もしっかりとした能力を聞くまでは間違いなく他のやつが思うような感想を抱いていただろう。


⋯⋯当たり前だ。

雑魚中の雑魚であるゴブリン。そのゴブリンの派生であるゴブリンメイジなどから落ちる武器など"ゴミ"同然だとな。


だが⋯⋯だ。

なんとこのゴブリンメイジの杖。


それをピンポイントで落ちる確率を計算した者がいた。まぁどこの馬の骨とも知らない者らしいが。 その男はおそらく青年から研究を始め、死ぬ寸前まで──ゴブリンについて徹底的に調べ尽くしたという。

俺は書庫にてその男が書いていたマイナー書をたまたま見かけたわけだが。


それはいいとして、結果から言うとーーパーセントで言えば、0.002%。10万分の2の確率だ。


⋯⋯凄い数字だ。

初めてみたときの衝撃は忘れられない。では一体なぜそんなにゴブリンメイジの杖が確率がエグく、希少価値があるのか。


答えは一つ──。

効果は、使用者登録は一人までの限定仕様で、登録された人間は、魔力が永続的に少しずつステータスに反映されるというものだ。


⋯⋯分かりづらくて申し訳ない。

ようは、貴族だろうと平民だろうと、それが悪魔だろうとーーーーどんなに魔力が無い個体だろうと関係なく魔力を増やし続ける事のできるあり得ない能力を保有している杖だったのだ。


ゴブリン如きが使っている弱そうな杖だから皆がスルーしてきた武器。それを、一人の研究者が真っ向からひっくり返した。


人権が果たしてあるのかどうかすらわからない世界では強くないといけない。


誰もが脳に焼き付いている単純明快な答え。


モンスターという異形の存在。


貴族とかいうありえんことすら当たり前のように命令してくるくそったれな連中。


優しさの欠片もない盗賊やテロリストのような集団。


様々なものが蔓延っているこの世界での絶対的なルール。それは、強者であればそれすら乗り越えるという価値を。


そんな機会すら手にする事のできない連中が唯一反応できる代物ーー。


それがゴブリンメイジの杖。

平民でも時間を掛ければ、誰でも魔力を永久的に増幅し続ける事のできるスーパーマジックアイテムである。


俺はそれを狙っている。

俺は勇者だ。この一ヶ月を見てもそう。


寝て起きては、剣を握って必死に的に向かって正確に斬る練習。鍛錬が終われば、食事をとって寝るだけの戦闘マシーンのような生活⋯⋯もちろん耐えれる訳がない。


何がなんでもこの武器をギルドに売り、贅沢三昧をしなければ。それにーー梓との快適な生活の為にも、俺はやらなければならない。


⋯⋯この間の一件。

ゴルド団長の話の時だ。梓はやたらとガゼルという男の名前に反応していた。カッコ良さは既に俺は持っている。後は強さのみ。


それとちょくちょく気遣いができる人間であることと、優しさを持っているアピールをするところから始めなければ。


今も強さを見せつけている訳だし、梓の心を奪えるのは時間の問題だ。


神宮寺はそう一人で呟き、確認の終えた後、一同はニ層へと降りていった。

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