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不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。  作者: ちょすニキ


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36話 E級ダンジョン〈1〉

いよいよダンジョン攻略当日。

生徒達は騎士団の厳重な護衛の元、最上級の待遇を受けながら王都から少し離れた場所へと到着した。

 

 十台程列をなす豪華な馬車からクラスメイト達が数人ずつ護衛騎士ともに降り、まるで修学旅行生のように他の生徒を待っては集まり次第数列に並んで森の中へと進んで行った。


**


『おぉ〜すげぇ』

『これがダンジョンかぁ』


森に入ってから10分程歩いた先には、人口的に作られたような綺麗なダンジョンの入口が少し先にあり、入口周りでゴルドが止まって整列を組み直させている。


「一度ここで止まりましょう!」


ゴルドの一声で横に広く列を組む。


組み終わるとゴルドの表情が少し堅い。

その姿はーー戦場に挑む前の兵士に鼓舞するような真剣そのものの面構え。

 すぐに生徒達もその発するオーラを察して、全員両手を後ろで組んでゴルドが話し始めるのをじっと待っていた。


静寂になったこの場で、数秒うろうろし終えたゴルドはーー静かに口を開いた。


「ここは皆様勇者方も先にお伝えした通り、ここがE級ダンジョンの入口となります。決して今まで行ってきたような練習感覚で挑めばーー間違いなく失敗に終わるでしょう」


ゴルドは一人一人勇者を見ながら真剣に伝える。


これ以上魔族に好きにさせてたまるかという復讐心。

これ以上同胞を失わないようにと言うように。


「いいですか?ここでの失敗は、死であるということをくれぐれもお忘れなく。勿論、異常事態や必要な事があればそれは別です。しかし通常通りであればーー私達は一切手を貸さないつもりでおりますので、皆さんもそのつもりでお願いいたします」


ゴルドが話し終わると、生徒達の表情が険しい。


今まで生命の危機などほとんど無かった平和な世界で生きてきたからだ。全員、どんな顔でゴルドの話を聞かないといけないのかがあまり理解できていないようだった。


'本当なら俺がやれたらいいんだが'


ゴルドは内心一人で辛そうに言葉をこぼした。


勇者殿たちにも家族や友人がいるはずだ。

俺達はそれを強制させた上で、「お前達はどうやら異界に来たら特殊な力を持つらしい。だからその世界で強いと言われる者を倒してくれ。同胞が大量に亡くなっているから」⋯⋯と。


⋯⋯一体どの面下げて堂々と振る舞えるか。


ゴルドの見つめる表情は悔しさが滲み出ていた。


'ちくしょう'


聞けば聞くほどこの者達が可哀想だと思ってしまう。


この子達の生きてきた世界は、どうやらかなり平和な世界だったようだ。戦争などほとんど起きない⋯⋯素晴らしい世界だという。

 そんな世界で汚れも、地獄も、何も知らないような子供達に戦いを強制させる大人の一員である自分が恥ずかしくてしょうがない。


一体ーー今回(●●)は何人生き残れるのだろうか。


ゴルドは複雑な顔をしている生徒達を見ながらそれでも鼓舞を続けた。


「今まで毎日鍛錬を欠かさなかったはずです。毎日走り、毎日剣を振り、毎日打ち込まれたはずです。その努力は並大抵のものではありません」


生徒達は黙ってゴルドの言葉を聞き続ける。


「早いのは分かっています。

しかし、我々にいつ迫るかも分からない魔族という悪に対抗できるのはーー皆様方勇者として召喚された者のみなのです。ですからどうか──このダンジョンをクリアすることを祈っております」


話終わるとーー周りにいた騎士達は剣を抜いて胸の前へと持っていき、騎士の挨拶を見せた。


生徒達の表情は様々だった。

驚く者や騎士達の迫力に興奮する者、そして当たり前だと無表情に近い真顔を見せる者。


⋯⋯そして、同胞を見ているかと思うくらい敬礼を返す者。


少なくとも、挑む前に放たれたゴルドの一言は、生徒達の心から不安を取り除くには十分だった。


「全員で挑むというのは本来ならばあり得るような状況ではない。一組数人ずつで入っていくのを繰り返し行っていく。組みたい者同士で組んで準備ができ次第、こちらにいる騎士の者に一声掛けてから入るように」


「はい!」という生徒達の大きい返事を背に、ゴルドは離れたところにある大木に寄りかかった。


「さて、今の内にーー非常時に備えて武器の点検を行わないと。我々人族の未来に必要不可欠な勇者様の非常時に、武器が破損していてなど馬鹿しないようにな」


一人でクスッと笑いながら黙って武器のメンテナンスを始めるゴルドだった。



*


そして一方勇者達も準備を始めていた。

各々が武器の最終確認を行っている中、神宮寺が「そのままでいいから聞いてくれ!」と仲間のクラスメイト達に声を掛けた。


「ゴルドさんがあそこまで本気を出している。俺達もそれに見合う成果を出そう!」


『おう!』

『龍騎君の言う通りだよ!』

『頑張ろうぜ!』


クラスメイト達もいつも以上に真剣な眼差しで神宮寺へと返事を返す。


「「⋯⋯⋯⋯」」


クラスの雰囲気がかなりいい中、天道と鈴鹿の二人は黙って武器のメンテナンスを続ける。


天道は短剣、鈴鹿はロングソードを。


「錬、アンタちょっと研ぐレベル落ちた?」


隣で錬が研いでいるのをチラッと見たあとそう呟く梓。


「あ?」


喧嘩売ってんのかと顔を歪ませながら振り返る錬。


「何よ、ちゃんと見なさいよ」


その言葉を聞いた錬は言うとおりに自身が研いでいる剣を眺めた。


「⋯⋯あ」


'あれ?なんでだ?'


しっかりよく見た錬の視線の先は、見てかなり分かるくらい研いでいる箇所がズレていた。


耐えれずに舌打ちをかます錬。


「なんだよこれ。感覚がズレちまったのか?」

「スキルのせいかしらね」

「ん?」

「ここは地球ではないって事よ。スキルとかステータスがしっかり反映しているってこと」


梓がそう話す中、納得できない錬が言葉を返した。


「いや、なら転移前スキルってのはどうなんだよ?」

「全部では無さそうじゃない?私達の体から色々消えてるのも然り、技然り。だけど知識とかの手順や肝心な物が失われている訳でも無いからーー多分」


そこで天道の言葉が止まる。

天道が言葉を止めた理由は明確だった。


「天道さん、鈴鹿さん」

「おう!神宮寺!」

「⋯⋯こんにちは」


神宮寺がこちらへと向かってきているのがすぐに分かったから。


「一応組む相手を探しているんだけど、二人は居たりする?」


神宮寺が鈴鹿へと軽く視線を向けたが、向けられた錬は⋯⋯すぐにその意味を理解した。


'俺は邪魔だって事ね'


コイツ、今度は梓にターゲットにしたのか。


心の中で溜息混じりに笑う錬。

研ぎ道具なんかをさっさとまとめ、その場から離れようと立ち上がった。


「俺はそしたら違う奴らとでも組んでくるよ」

「え?いいの?二人は仲が良かったはずじゃ」


白々しい〜!!お前よくそんな演技が出来るなぁ〜!


必死に込み上げてくる笑いを抑えながらなんとか平静を保つ錬は、ニコッと笑みを返して離れようと踵を返した。


'アイツ大丈夫かなぁ'


あいつはーースタイルは良いし、性格だって表向きには良い。だけど主人に似て⋯⋯自分の価値を知ろうとしないし、放棄している点がある。


とか言ってる俺も、大して変わらないからいいんだけど。


そう思考を巡らせる錬の脳裏には、ここにやって来た時の梓の言葉が聞こえた。


─ここにはスキルや魔法がある世界なのよ?


⋯⋯⋯⋯歩く錬の足が止まる。


'ワンチャン──あるか?'


いやいや、あの某ハン◯◯クさんよりも見下してるあの女が大丈夫だよな?


再度止まっていた足を動かす。だがそれからまた数歩あるき始めたところで、今度は誰かに腕を掴まれた感覚がする。


錬は振り返った。

そこには、当たり前のように自分の手を取る梓の姿とその後ろで複雑な表情を見せる神宮寺の表情の2つが映った。


「なんだ?」

「何やってるのよ。なんでわざわざアンタがどく必要があるのよ」

「いや、まぁ色々あるだろう。俺は特別な能力なんてほとんど持ってねぇし、対してお前は暗殺者なんてたいそれた職業を持ってるんだから色々便利なんだろ?」


梓の職業は暗殺者、錬の職業は侍である。


お互いに三次職の中でも、かなり4次に近いポテンシャルを兼ね備えた職業である。

 しかし、錬の職業は神宮寺たちの職業と比較すればかなり見劣りしてしまうくらい職業の力に差があった。


'目の前には珍しい二属性を操れる魔導士に、魔力を細かく利用して格闘術に特化した職業⋯⋯魔闘士'


魔力を代償に調合を可能にする見習い調合師。

まだまだいる。


その中でリーダーの神宮寺は勇者。

この人材の中では間違いなく最高のメンバーであると言える。


錬の瞳には、神宮寺の後ろで待機している数人を捉えていた。


'この中で俺みたいな職業は全く役立たないなんて訳ではないんだろうが、わざわざ囲う必要もない人材であるということだ'


(コイツ)は理解が遅すぎる。

自分が何故誘われているのかすらまともに分かっているのか謎なまである。


「だから何?命令でもあるまいし。命令なんてしていいのは────この世でたった一人の男だけよ。ほら、さっさと戻るわよ」


天道が無理やり錬の腕を引っ張って神宮寺達がいるところへと戻っていく。


「ねぇ?神宮寺さん。錬も居ていいわよね?ていうか──私を誘うんだったらそれが条件だし、貴方ーーどこか上から目線で私達の事を見ているのがだいぶ気に食わないから、それ直してもらってもいいかしら?」


鋭い眼差しの天道が神宮寺を下から見上げる。


いつもなら全く臆する事がない神宮寺だったが、他と少し違う天道の両目の威圧感に押され、無言で頷いた。


「ありがとう、私達もあまりわがまま言いたくなかったら助かるわ。それじゃ、詳しいメンバーの方はそっちで決めて貰えればいいから」

「あ、あぁ」

「錬、そしたら私達も暇な時間が出来そうだから、武器を研ぐ事の情報共有でもしましょう?」


天道の綺麗な笑みが鈴鹿へと向き、苦笑いで頷きながら二人は少し離れた木の下で再度道具を取り出してしっかりとした体勢で話す二人の姿が映った。



離れていく二人を見た山下や他の取り巻き達が機嫌を直させるために神宮寺に声をかけまくる。


理由は明白だった。特に男たちは。


ーー錬が先ほど言っていた通り。

神宮寺は既に梓を狙っていたのだ。

そのための一歩として、自分がいい所を見せるためにわざわざ梓を誘って囲っていこうと考えていた。


しかしその計画があっさりと崩れ去った。 

実力も、真意も、全て不明な鈴鹿錬というノイズに。

いうことを聞かない人材などーー自分たちにいらない。

しかし勇者である自分以上に強い可能性がある錬は触るに触れない。


「龍騎、天道さんもなんかあったんじゃないか?」

「まぁ、そうだな。俺達も不備が無いよう細心の注意を払おう」

「龍騎〜これ見ろよ〜」

「なんだこれ?」


少しずつ普通に喋りだす神宮寺に、周りも良かったと安堵しながら順調に会話を広げ、神宮寺軍団もそれぞれの場所へと去っていった。

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