31話 Unknown、言葉の翻訳が出来ません
'はっ⋯⋯!!'
くそっ!突然意識が落ちた!さっさと渚をどうにかーー。
そうガゼルは大きく目を見開きながら心の中で呟いてはいたが、視界の先は全く訳がわからない状況だった。
'⋯⋯ん?なんだここ?何処だ?'
さっきまでいた場所とは全くの別。
いや、そもそもここは同じ場所なのか?俺は何をしてたんだ?
'とにかく、さっさと動かーー'
あれ?体が動かない。なんだ?というか、目線も全然動かせねぇ。
パチパチッ。
そんなガゼルの心の内とは裏腹に、数回の弾ける音がした。動かない目線の先には、焚き火の火が上がっており、恐らく小枝なんかが火で弾けたのだろうと推測できる。
'焚き火⋯⋯'
少なくとも、俺がいた場所は夜じゃなかった。
だがーー。
そこで言葉をガゼルは止めた。
突然視線が真上へと向き、あり得ない程の綺麗な星空が入ってきたからだ。
'クソ綺麗だ'
一体何等星まで見えるんだ?
一応肉眼で見えるギリギリは6等星だったはず。だがこれは⋯⋯どれくらいまで見えるんだ?
それはまさに星空の川。
隙間が空いていない場所がないんじゃないかと思う位⋯⋯本で読んだような様々な星団や惑星、もはや散光星雲すら見えている程。
'一体⋯⋯'
完全に見とれているガゼル。そんな中、目線は突然また動き、焚き火の向こう側にいる人影を捉えた。
「※※※※?※※」
「※?※※※※、※※」
'なんだ?'
さっきまで人影は無かった。どういう事だ?それに、何を話している?大体の言語が分かる俺でも全くわからない。
だが⋯⋯こっちを見て何かを言っているから俺と何か関係があるのか?
だがガゼルはその考えを一瞬で止めた。
いや、そもそも体も目線すらも自分の意志で動かない。これを自分と錯覚するのは避けるべきだろうな。
だが、これはなんなんだ?誰かの⋯⋯記憶?なのか?
その後も一人でブツブツ呟いていると、聞こえない会話に進行があった。
「※※※?※※※※※※?」
「空よ、そんな詰め寄るでない」
'⋯⋯!'
そら?確かに今、ソラって言ったのか?やっと聞こえた⋯⋯まともな言語が。
ガゼルはそのまま会話を聞き逃さないように全神経を集中させながら会話に耳を傾けた。
「はぁ?オイオイ※※※※※、変なことを言うなよ」
「我らとは違い、この人間《●●》は違う。体力が無尽蔵にある訳ではない。それなのにこの人間は⋯⋯人間界でいうところのーー1年近くの時間を眠らずに我らと共に戦っていたのだぞ?※※、目が覚めたか?」
今まで会話をしていた二人の姿が見えなかったが、そう問いかけるのと同時にーー二人の人相が初めて映った。
一人は黒髪で、背中まである髪を間辺りで結っていてどこか中華風の顔をしている美青年とワイルドの良い所取りをしたような風貌をしている男。そして傍らには槍に近い長い棒がチラッと姿を見せていた。
もう一人は年齢的には恐らく40代を思わせるような色気と安定感を漂わせている銀髪に、綺麗に整えられている髭を生やしている穏やかそうなダンディなイケオジというのが一番早い言葉だろうか。
もっとも、ガゼルの感覚的には一緒にいるのが不自然なくらいの組み合わせであった。
'まるで見たことない奴らだ'
ガゼルが一生懸命記憶を思い出そうとしても、一ミリも思い浮かぶ気がしない。
問いかけているのは一体誰なのか。
そして問いかけられているのも誰なのかわからないまま会話は進んでいく。
「⋯⋯おはよう、ソラ、※※※※※」
ガゼルは驚いたが、そのまま黙って聞き続ける。
「おぉ!起きたか※※!」
そう言って空という男がはしゃぎながらガゼルの方へと向かっていくところをーーもう一人のイケオジに手を掴まれて進めずにいた。
「何するんだよ、※※※※※」
「言っただろう?我らとは違うのだ。無限にも近い時間を生きる我らとは違い、※※は有限だ。あまり寝起きなのだから触れずにいなさい空」
「ちぇっ」
拗ねた子供のように吐き捨てて岩の上に胡座をかいて座った。そしてガゼルは変な現象を目撃した。
'おい⋯⋯'
空と呼ばれる男が胡座をかいたと思えば、片肘を足に置き、それを支えに顔に手を当てながら岩の上で浮いている。
'間違いない、普通のやつでは無い'
まとめると。
・目の前の奴らは人間ではない
・俺が憑依?記憶の中にいるこの体の主は1年程寝ていなくて爆睡の末、ついさっき目覚めた
・そしてこの二人はそれ相応に善の心を持っているということ
以上をまとめると、中々凄い誰かの記憶に巻き込まれた⋯⋯のか?
'俺は早く意識を取り戻さないと'
そう思ってから更に30分ほどが経過した。
その間ガゼルは何度も色んな事を試した。
必死にこの視界になっている体をどうにかして動かそうとしたり、心の内側で必死に叫んだり訴えかけたりと30分という時間で出来る限りのことを尽くしたが、何も収穫を得る事ができなかった。
'くっそ'
そう悪態をつくガゼルの視界の主はついに意識がハッキリし始めたのか、星空を見ている視界から起き上がりながら二人を見つめ、こう尋ねた。
「それで?今※※※※※奴らの※※は何か掴めたのか?」
「しっかり目覚めてから発する言葉がそれかね?※※よ」
「おう、おう!いいじゃねぇか※※!オメェがいねぇとやっぱ※※も楽しくねぇぜ!」
ソラはそう言いながら表情を明るくさせて今にも走り回りたそうな素振りを見せる。
「※※よ。よいか?現在我々の方が優勢である事は間違いない。しかし、主と奴の単騎の戦いであちら側も手段を選ばなくなってきているのは間違いないのだ⋯⋯毛ほども気が抜けんよ」
「ん?俺と※※※蛇との決戦で配下達もかなりの量が死したはずだが⋯⋯まだ何か切り札を持っていたのか」
溜息混じりにそう言葉をこぼす体の主とそれに対して小刻みに頷きながら肯定の意思を見せるイケオジ。
「奴の因子には沢山の力を兼ね備えた物が入っている。粉々になった1500万以上の因子が配下に混じり、強化状態というわけだ。我々の※兵達が止めているが、それもかなりの損害を食らっている。治癒させれる姉様方や兄上達のような御方達がいなかったらーー考えたくもないさね」
イケオジは苦しそうにそう語る。体の主はそれを黙って鼻を鳴らしながら頷いている。
「そうか」
「※※、お主の力でここまで弱体化させる事が出来たのだ。そんな顔をするな。皆感謝しておる」
「⋯⋯」
「らしくない顔すんなよ!※※!」
ソラがこちらへと身を寄せて肩を組み、美しい笑みを向けてくる。
「そうだな。俺も、だいぶ参っていたようだな」
「というと?あの事か?」
イケオジが真剣な表情を向けながら尋ねた。対して主は黙って吐息で返事を返す。
「塔の事か?あれならば今も調査中だ。恐らく※※の思っていることにはならないだろうと結論付きそうだが⋯⋯やはり、何か気がかりなのか?」
「あぁ。あの塔からは、陽の気と陰の気だけではない何かが宿っていた。恐らくあれは我々でも感知できない遥か高次元のエネルギー体だと確信している。もしかしたらーー」
「待て、※※。我々は※なのだぞ?我々より高次の生命体がいる事など看過できない」
イケオジが途中で差し込むが、体の主は話をやめない。
「いや、常に考えるべきだと思う。我々はーー第十惑星出身の頂点なのだから」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
体の主の言葉で二人の顔色が暗いものに豹変する。それは認めなくはないが、その通りとも感じている事もあるからだろう。二人の顔色を眺めている体の主は次のように鼻で笑ってから言葉を紡いだ。
「ふっ、そんな顔色をするな※※よ。別に頂点から少し先があったというまで。この場では、我々が頂点だ、異論は認めぬ。そしてこの話で下を向く必要はない。我々は気高く頭を上げ、堂々としていればいい」
「「※※」」
非対称な世代の二人の男が体の主に対して、どこか安堵しながら微笑みを向けた。
「さてーー」
体の主はゆっくりと今度は立ち上がった。
「大丈夫なのか?※※」
「まだ痛む所はあるが、こうもしていられないだろう」
そう発すると、二人共何かに勘付いたように立ち上がった。
'⋯⋯!?'
ガゼルは心の底から驚きを覚えた。
この体の主ーー身長一体どんくらいあるんだ?
見た所軽く3メートルはあるんだが!?
視線の高さがあり得ないくらい高い。ガゼルはその違和感を感じながらも、大人しく眺めている。
「ソラ、お前の※※※※※はイケるのか?」
「勿論だぜ!いつだってやれんよ!」
そう言ってソラは先程まで見えなかった槍のような長さの得物を手に取り、ブン回しながら両肩に乗せて豪快な笑いと共に見つめる。
「素材も素材なんだ⋯⋯そろそろ禹※は諦めて、※※※※※※にでも第六作 目として作ってもらえばいいだろう?」
そう言葉にする体の主にソラは首を大きく横に振った。
「嫌だねっ!俺はやっぱりこれじゃなきゃならねぇ!素材も素材だけど、やっぱり俺といえばコレーーだからな!」
溢れる空の想いに体の主は黙って頷いた。
「まぁ尊重はするさ。だが、不測の事態を考えるのが俺達※※※だ。それも分かって欲しいという俺の気持ちも察してくれ」
「あぁ、それは理解したぜ!今度作製の設計図を書いてみるとするさ!」
「二人共、そろそろ話を切り上げてくれ」
遮ったイケオジの言葉にアイコンタクトで察して、三人は同時にある方向へと向いた。
一見すれば何もない⋯⋯本当に無のような空間。だが、次第に硝子が割れたような音が響くのと同時に、視界を覆うようなワープゲートと言える形の穴から何十万というもはや蟻を見る位の感覚で見える景色が三人に映った。
「あれが例の残滓から強化された奴らの兵隊ってわけか」
「その通りだ※※よ」
「確かにーー奴らの中からアイツの力を感じるな」
と、少し間を置いて体の主がそう発した。
ザザッ──!
ソラが勢い良く大身槍のような長さをしている槍のような形状の謎の棒状の武器を回転させながら構え、足を軽く前に出してその圧倒的な数を前に豪快に笑ってみせた。
「じゃっ、※※と※※※※※より先に多く討伐すれば⋯⋯後で罰ゲームとやらでも課そうかのう!」
「がははははっ!」と大きく、そして大声で笑うソラはその謎の大身槍を回転させながら一気に突っ込んでいく。
「「⋯⋯⋯⋯」」
二人は思わずはにかみながら笑う。
ソラが居なくなったその地面は抉れており、どれだけの力があの両足に備わっているのかが分かる。そして同時に少し遅れて台風のような風圧が二人を襲い、思わず手でその風圧を軽減させていた。
「それでは、※※も目覚めた所でーー私も戦場に戻るしよう」
『だーはっはっっ!!!!※※よりも俺の方が討伐数多いのじゃぁ!』
『ソラ、少し位早く動き出したところで対して差は広がらんよ』
非対称な二人が掛け合いながら広がる大量の敵の方へと走り出し、戦いを繰り広げ始めた。
**
**
「タァッ!ハーッ!!」
大きいその槍のような武器が兵隊の一人に直でぶつかると、一瞬でその兵隊の頭部が破裂し、屍が出来上がる。
荒々しくも舞のような動きを見せるソラ。何千何万という謎の生物相手にまるで引けを取らない。
これぞ───一騎当千の如き強さ。
「※※・※※※※※・※※※」
'なんだ?なんて言ったんだ?'
ソラが荒々しい口調で何かを唱えると、全身が黄金色に神々しく輝き始め、槍のような武器の両端にはめられている謎の物体が煌煌と煌く。
次の瞬間ーー肉眼の速度を超え、体感コンマ数秒の内に数万という謎の生物たちの頭部のみが一瞬で破裂した。
無の砂漠を雷鳥のように駆け抜け、通る全ての生物に武器が意思を持っているかのように振り回し、蹂躙し尽くした。
ソラが通り過ぎた後、残るは頭部だけが無くなった人型の死体のみ。まるでそこからどう彼が動いたのかが分かるように死体が両側にダランと置いてあり、綺麗に両側の丁度真ん中には一本道の跡。
それが何処まで先に続いている。
これぞまさにーー屍の道と呼ぶものだろう。
「これはこれは」
一方イケオジが微かに頬を緩ませ、手に持つ一冊の分厚い本を広げた。
ペラペラ勢い良くページが進むと、太陽の如き光を天がイケオジに対して灯した。
「at※※※※──」
イケオジを中心に太陽のオーラが溢れ始め、オレンジ色オーラが全方向に激しい風と共に吹き荒れた。
「仕方ない。この子の為にも、得ようとするかね」
一冊の本を撫でながら色気たっぷりの口調で話すイケオジ。
次第にイケオジの頭上には先端恐怖症になってしまう程の量が謎の魔法陣から槍のような形をしたエネルギーがグングン出始め、空中を覆い尽くし動かずに留まっていた。
「mi※※※.cu※※※」
謎の言葉を発するとイケオジの頭上にあった数千以上の槍の形をしたエネルギーのような物が一斉にソラが戦っている方へとこれも肉眼のレベルを超えた速度でまるでマシンガンのように大砲のような音圧を鳴らしながら向かっていく。
ドォン──!!とロケットが数千回爆破された音が聞こえた直後、着弾した先ではキノコ雲が数カ所で発生し、その衝撃波がこちらまでやって来る。
「これはいい眺めだね、※※※※※」
風圧を一心に浴びながらも、イケオジは口調を変えずに一冊の本に対して語りかけていた。
'こ、こいつらどうかしてるぞ'
そんな中、ぼうっとこの状況を一歩も動かずに眺める体の主に対して心の底から叫びたくなったように動揺するガゼル。
俺は一体なんの記憶を見ているんだ?マジで。
⋯⋯なんなんだ?コイツら。
その後も数分に渡って悪態をつきまくるガゼルだったが、次第に言葉が止む。
理由は簡単。
遂に視界の主がゆっくりと歩を前に進めたからだ。
「⋯⋯やはり、共存とは困難を極めるモノであるな」
'なんの話だ?'
男が数歩歩くと視界に新たなワープゲートが突如として現れ、中から再度人型の不明生物達が現れ、空中で武器を構えながら待機していた。
⋯⋯違う、あの二人とは一線を画すぞ?これ。
さっきとはレベルが違うぞ?何万どころじゃない。何処までも上下左右共、警戒し過ぎてあり得ないくらいの量だ。どれだけのレベルなんだ?この男は。
あの二人でも頭がイカれている程強かった。だがこの男はそのレベルではないということか?
「お前達は、非常に愉快だな。我らの事を下に見ている割には、こうやって認めずにあれこれ手段を問わず戦っているはずなのに、未だに私達を滅せられていないのだから」
ゆっくりと。
まるで、この場を支配した者かのような物言い。
「⋯⋯お?やっと動いたかのうーーアイツが」
ソラが「がははっ」と笑いながら後ろを見つめ、イケオジは黙って鼻を鳴らしながら戦いに戻る。
───
──
─
その頃、現実のレイアースでは奇妙な現象が発生していた。
「⋯⋯師匠?」
何処かおかしい。頭痛か?師匠があんな姿を見せた事はなかったはず。
「加勢したほうが良さそうか」
アレックスは自身の傍らに置いていた剣に再度手を掛けた。
だが起き上がろうとするアレックスを住民を含め皆が一斉に止める。
「何を!」
「バカアレク!動くなって言われていたでしょ!」
「そうだぞ!俺達はもうかなり無理しちまっている。師匠の言う通り大人しくしているのが一番だろう」
ドーグとリーナが必死に動こうとするアレクを止め、その後ろからも住民も合わせて必死に止めに入っている。
流石のアレックスも数秒すると諦めて地面に再度座り直し、空に浮かんでいるガゼルを見上げ続けた。
「師匠⋯⋯一体師匠に何が起きているんですか?このままだとーー」
ボヤくように言葉を発していたアレクを遮って突如ゴロゴロと雷鳴が響きわたった。
『な、なんだ?』
『今の雷は何!?また何かが来ているの?』
ズドン──!!!
騒ぎ始めた住民の騒音を殺すかのような落雷の轟きが更に数回増えた。
気が付けば、一か所ではなく数カ所同時に発生している。そしてどれも⋯⋯雷はガゼルの近くを通っているようにも見える。
「今度はーー何をしようとしているんですか?師匠」
アレックスの視線の先にはーー両手で頭を抱えるガゼルの周りに黄金色の雷が火花を迸らせて、これから何かとんでもない事が起こると確信していたアレックスだった。




