28話 トラシバの英雄譚
「お、おいーー」
恐る恐るボルフは手を伸ばして動揺しながら声を掛けた。
上擦った自分の声、唖然としながらぽけ〜とした自分の顔。
⋯⋯何が起こったかって?何を言う。何なのだーーあの化物は。
「ドッカァァァァアアアンンンン!!」
悪魔の笑みを浮かべ、そう嬉しそうに拳で大振りのストレートを放つ。
するとたったその一撃で数十以上の魔物があっという間に吹き飛び、反対の腕も振れば⋯⋯またふわっと当たり前のように魔物を吹き飛ばす恐ろしい人族が目の前に居た。
そして俺は、呆然とこの光景を眺めていた。
声をかけることすら失礼と思った。自分とはあまりにもかけ離れ過ぎて、恐怖すら抱いた。
「強すぎても怖い」⋯⋯。
貴族様達が俺達冒険者を抑えつけようとするのも納得と感じてしまった。
なんだ?この光景はーー。
「次ッッッッッッ〜!!!!」
そうまた興奮しながら腕を出せば突風を起こして魔物を屠り、もはや先程までの景色ではなかった。
進んでいた魔物達は急いで後退りする姿をみせ、前に進もうとしている魔物すらおらず、さっきまでの貫禄溢れた行進が嘘みたいに魔物の死体を津波のように簡単に飛ばして弾け、潰し、飛ばした。
俺は「イカれてる」⋯⋯そう言葉を出さずにはいられなかった。
ガゼルの調子が落ち着いたところで、俺は恐れながらも声を掛けたのだ。
「ん?どうした?さっき死にそうだったおっさん」
「⋯⋯っ、すまない。な、何か俺達が出来ることはあるだろうか?」
すると、ガゼル少年は鼻で笑った。
まるでこちらの心の内側を察したように。
「いらね」
そう一言呟き、こちらへ振り返る事はなかったが、片手だけは上げてヒラヒラと手を振ってまた前進した。
「あ、あの子⋯⋯何よ!?」
一連の流れを見ていたメレルは離れていくガゼルを見ながら驚きを隠せない表情でボルフに尋ねた。
「わ、わからん!ただ、最近F級冒険者として入ったらしいんだが⋯⋯問題を起こしていてな。そんな中でコレだったからーー俺は困ってる」
そう、あれからゾルドを含めた中々あくどい事を行っていた連中は出来るだけ一掃した。今までボルフ自身も頭を悩ませていたが、ギルドと街の関係値的な問題だ。
バランス調整まではボルフの仕事ではないため凄く悩ませていたのだ。冒険者の気持ちに寄り添えば、住民からの批判が集まり、逆に住民によればすぐに冒険者達の怒りの矛先がこちらへと向かう。
そんなところでガゼルという謎の新人冒険者の乱入によってその状況が一瞬で変わった。
⋯⋯冒険者側の声が多少弱まったとも言うが。
今までは住民の声よりも、冒険者達の強引な圧力で無理やりやってきていた。しかしゾルドという一角をあっという間に滅したガゼルの功績は大きい。
ただ、それでもデカイ山の一つというところだはあるが。
あの一件があってからガゼルの事をそれからすぐに調べる事も行った。
だが、満足な結果は得られなかった。一応ギルド内にいる監視隊達も色々なことをさせてやれる事をやったが、埃一つガゼルについての情報が出てくることは無かった。
⋯⋯一体ヤツはなんなんだ?女神アルテミス様が降ろした神徒か何かなのか?ここまで情報がないなんてあり得ない。だが仕方ない。
「とにかくーー」
ボルフは台風の様な風圧の中で戦うガゼルを見ながら深い呼吸を行った。
「俺達はたった一人のーーまるで怪物のような少年に救われたというわけだ。ガキに遅れをとる必要はない、俺達もやるべき事をやるぞ」
と、ボルフが言っている間に⋯⋯目の前でメレルが死体から魔石をパクろうとしているのを腕を掴んで止めさせる。
「お前なぁ〜」
「一つくらいなら良いでしょ?」
「ギルド職員だからこれ一つの価値くらい分かってるだろう?」
溜息をつきながらボルフが一つ拾ってクルッと一周させる。
'輝き、大きさ、魔力量⋯⋯どれも上質だ'
魔王軍というのが本当ならば、とんでもない値が付くぞ。それをあの少年ーーバカみたいな量を作るぞ。
「それより」
顎で見ろと言わんばかりにメレルがある方向へと指す。
ボルフは従ってその方向へと目をやると、あれだけいた大量の魔物が死滅していた。
⋯⋯そして、嵐のようにやったきたあの少年は、幽霊のように姿を消していた。
「あれ、マジもん?」
「あぁ恐らくな」
一言交わすと他のパーティーメンバー達も魔石を回収して戻ってくる。それぞれがパチンコ屋にいる騒音並みの煩さの中、近付いて言葉を数回交わした。
「おお!ありがとう!」
「いいっていいって!あれ、マジでヤバそうだな」
「ああーー」
全員がガゼルを見て同じ感想を抱いた。
「化物」「怪物」と。
「俺達もせっせと働きますか!」
「お前の言う通りだな。よし、パーティー脳筋今日も脳筋になって魔石を拾うぞ!」
「おう!!」と脳筋の叫びが近くから複数上がった。
◇◇◇
キィン──!と金属同士がぶつかり合う音が1回。
その音の直後、ザザッと土埃を上げて退りながら地面から離れないように足で踏ん張るアレックスの姿があった。
「くそっ!」
『キキッ!』
'ここまで⋯⋯か'
アレックスは自身の右肩の負傷部分に視線落とした。
師匠が言っていた、怪我をした場合は無理をしてはならない。だが、やるべき時に気にしている場合でもない。
──「なら、どうすればいいのですか?」
『オイオイ、いい質問だな?アレク。答えは単純だろ?』
「腕は何で二本あるんだってなっ!!」
アレックスは左手で剣を持ち直し、魔物達と奮戦した。
**
**
勿論、最初の方はアレックス達冒険者が有利だったが、もうとっくに限界を超えていた人族はズルズル少しずつ後退するしかなかった。
そして現在ーー。
重症になってしまった冒険者達は後ろへと回され、残る冒険者達は20を切っていた。
「あ、アレックスさん!!」
アレックスは瞳を閉じた。
声の主はセレーヌ。
つまり、奴隷達の逃げる時間稼ぎには間に合わなかったということだ。
「すみません、セレーヌさん。どうやら時間稼ぎは出来なかったようです」
「良いんです!それよりも」
そこで言葉が止まってしまった。
セレーヌの視線はアレックス達ボロボロ冒険者達の姿。
もう、限界の限界。
逃げ道である方角は半分以上の冒険者達がなんとかというレベルの凌ぎを見せている。
つまり、元々防衛していたアレックス達の場所はアレックスとドーグ、そしてコウラとゾルドの四人。
そしてその背後に、避難所があった場所の前にはまだ数百規模の体の不自由な老人達や奴隷、逃げ遅れてしまった大人達などの残ってしまった人族達。
逃げることを諦めている残った十数人が、本来逃走経路だった方を守っていた。
『くそっ!もう無理だ!』
『ばかッ!!アレックスたちが戦っているんだぞ!?俺達が根を上げてどうするってんだよ!!』
だが、ポーションも空。
正真正銘ーー冒険者達は根性だけで数百人規模の人族を怪我をさせずに、たった二十人の冒険者のみで凌いで見せていたのだ。
"⋯⋯こんな事は王都の騎士団でもできたのだろうか?"
そう見ていた誰もがそう言葉を返したくなるような惨状だった。もはやトラシバの住人達の見る目はーー清々しい程覚悟していた。
あれほど自分達を守ろうと戦う冒険者達を見ていたら、もうこの人達が死したとしてもーー悔いはないという覚悟。
全員が見ている瞳は、誰が弱くて誰が強いなどという枠からとっくに外れ、「どうか死なないで欲しい」というなんとも矛盾した言葉を皆心の内側で必死に祈っていた。
⋯⋯もう、皆が争うということをすることはない。
大人達は積極的に子供達を囲って自分達が先に死ねるよう外側へと円型に囲み死体から取った剣を共有して少しばかりの威圧を出す為に構えていた。
中にいた子供達は約50人。奴隷を入れればもっといる。その中の子供達全員が必死に叫んだ。
「冒険者のみんな頑張れ!!」
「頑張って!!」
キィンッ──!
更に少しだけ退ったアレックスの耳に子供達の全力で叫ぶ声援が入った。
「⋯⋯」
今まで、こんなにも必要としてくれたことがあっただろうか?
『キキッ!!』
「くっ!」
ゴブリンの小回りの効く連撃。
アレックスは一撃一撃を力強い吐息混じりの声を出しながら防ぐ。
キィン!
「ぐぐっ⋯⋯!!」
ザザッ。
ゴブリンの押し込みに踏ん張るアレックスの足が後ろへと滑っていく。
くそっ、もう押し込みを受けるだけで限界だ!
「⋯⋯」
『頑張って!!』
『蒼き星〜!!頼む!頑張ってくれ!!』
荒い呼吸を繰り返していたアレックスの耳に入ってくる応援する様々な年代の声。
アレックスは泣きたくなる程視界が潤っていた。
「ハァァァァッッッッ!!!」
人族は、何故こんなにも弱いんだろうか。
キィン!
昔、小さい頃だった。
母が色々な話をしてくれたのを今でも微かな記憶に残っている。
「何でーー人族はこんなに弱いの?」
今よりももっと子供だった俺は、母にそう尋ねた事があった。理由は簡単だ。昔話や創作物で出てくる自分達人族は、何故かいつも負けてしまうという嫌な話が多かったからだ。
俺は誰かを助けれるような⋯⋯そんな強い人族で居たかった。
だが、母から返ってきた言葉はーー。
「お母さんも分からないわ?神様がそうお決めになったからなのかもね。納得は出来ないけどね」
その時の俺は分かりやすく納得していなかったと思う。すぐに反論した。
「俺達人族は強いもん!!魔族よりも強いもん!!」
意地だ。
自分が弱くないという事実を認めたくなかったからだ。
「はいはい、アレクは強くなれるわよいつかね」
「本当だよ!僕は絶対にこの人族が魔物や、魔族なんかに劣ってるなんて絶対に言わせない!」
それから俺の強くなる特訓が始まった。
やれる事を探した結果ーー毎日木剣をとにかく振りまくった⋯⋯腕が上がらなくなるほど。
「ハァ、ハァ」
肩で息をする俺に、周りの奴らは「何を夢見てんだか」とか「ステータスでもう決まってる」ってみんな口を揃えて言った。
だが、アイツらだけは。
「⋯⋯誰?」
「僕はドーグ、こっちはリーナ。後、向こうで隠れているのは⋯⋯※※※」
俺のことを馬鹿にせず、ただアイツらは楽しくお喋りしながら俺が木剣を振る姿を見ながら笑っていた。
「アレク、お前は将来都会に行くのか?」
「あぁ!俺はステータスなんて関係ない!そんな冒険者になってみんなをあっと言わせる!絶対に強くなる!」
今思えば無謀だ。
保証もない、可能性すらない、ただ努力すれば全てが叶う⋯⋯そんな希望しかないことを言う自分に。
都会に行ってからは地獄だった。
毎日固い一切れのパンを口に放り込んでひたすら整っていない廃棄場の処理。それから清掃や老人の手伝い。戦力を募集しても、誰も組みたがらない。
⋯⋯当たり前だ。弱い奴と組んで死んだら笑えない。
最初は俺一人だったんだが、それから少ししてから説得した二人が来た。最初から話をしていたんだが、振られた。だが来てくれた。俺はやる気に溢れて今まで以上に頑張った。
だが、事態は良くならなかった。好機も訪れず、搾取されるだけ。味方は二人だけ。
数年ーー必死に喰らいついてきた。そんな俺が。
ググッ──。
必死に攻撃に耐えるアレックス。
耐える下半身が、無意識に力が入る。
限界な筈なのに。
何故かーー力が湧き出る。
⋯⋯今。
「ハァァッッッ!」
⋯⋯今ッ。
「ハァァァッッッッ!!」
⋯⋯人から応援されている。強くなって、普通の飯を食べて、柔らかい普通の寝床で寝れて、苦楽をともにして来た仲間が居て、ここで踏ん張れない奴がーーーー英雄になれるのか?
アレックスの周りを回るように、微風の風流が舞う。そしてその風流はアレックスの剣へと流れ、刀身の周りへと最終的には流れた。
刀身には風が廻っている。
当然アレックスは目を見開きながら驚いた。スキルも、魔法も使っていないからだ。
そして、何よりおかしいのはーーその吹く風流の色が赤紫だからだ。
風かと思えば炎のようにメラメラと燃え上がり、順番を繰り返すように風となって刀身の周りをクルクル廻っている。
アレックスは一瞬驚きはしたが、だが一度ーーその色を見た事がある。
「⋯⋯は、」
驚いたその瞬間ーーアレックスは少しだけ吐息が漏れた。
ガゼルの技?一度も使えなかったのに⋯⋯。
剣を握る力がこちらも無意識に全開というレベルまで引き上がって全力で握りしめていた。
そして歯を砕く勢いで食いしばり、ここぞとばかりに全力で雄叫びを上げた。
「ハァァッッッッッッッ!!!!」
だからーー俺は。
真っ赤に焦がし、燃え上がる双眸は魔物達へ。
「神門式剣術第一式ーー閃」
───
──
─
「え!?いいんですか?」
アレックスは歓喜の表情を浮かべそうデカデカと声を上げた。あまりに嬉しそうなアレックスの返事に、思わずガゼルがビックリしながら少し声のデカさに仰け反った。
「あぁ、だが、俺の使う技は本当に特殊だ」
「特殊⋯⋯ですか?」
「俺の血が必要だ」
'俺の血!?'
「え!?師匠の血が必要なんですか!?」
「ぷっ⋯⋯!まぁ間違いじゃねぇが。なんて言うんだろうな、魔力開花と似た様なもんだ。魔力開花には魔力を通して一度経験してやるのが意外と手っ取り早い方法だろう?それと似たようなもんだ。俺の血を軽く飲む事で体内にある俺の血がある場所へとどんどん集まり、特殊なエネルギーが回り始める。やがてドンドン馴染み始めるから、ちょっとずつな」
そうガゼルは苦笑いを浮かべながらアレックスに説明する。
'なるほど⋯⋯'
師匠の凄い力はやはり普通の力ではなかったんだ!
アレックスがウンウンと納得しながら頷いていると、ガゼルが鬼の追い打ちの如き言葉を続けた。
「ま、ちなみにーーお前達と会ってから、使った事はないが」
「⋯⋯えっ?」
思わず素っ頓狂な声を上げるアレックス。
「ん?なんだ?」
「使ってなかったんですか?」
「あぁ。出会った時も、ゾルドの時も、後は色々あったこの時間で使った事はない。勿論、魔力も」
チーン──。
アレックスの頭は完全にノックダウンしていた。
あれで力を使ってない?一体この人は何なんだ!?魔力も、特殊な力も使ってないただの人族がーーなんでこんな強いんだ?意味が全く分からない。
「あぁ〜」
ガゼルが伸びをしてから、煙草を咥え、手で剣を取った。
「さて、まだお前は俺の剣術を使うには時間がかかる。使えるようになる合図は────」
赤紫色の風が、やがてバチバチッと弾く火花に変わっていく。
風がーー雷に切り変わった。
キィィンンン──。
「ハァァッッッ!!」
アレックスがゴブリンへと剣を異常な速さで斬り上げを狙う。刃先が首へと到達した瞬間をアレックスは眺めていた。
スルッ。
本当にその感覚だった。何千何万回振ってきた剣だったが、その人生の中でーー一番感触が無かった。斬ったという感触が。
魔王軍とはいえ、そのレベルのゴブリンの硬さをいとも簡単に首を斬る事ができた。
斬ったその瞬間、アレックスの瞳は泣いていると錯覚するくらいの希望の光が宿っていた。
⋯⋯自分はやっと、故郷のみんなの敵討ちを踏めるーーその第一歩を。
キィンッッッ──!!
だがーー。
何度も何度も超えてきた限界ももう本当の最後。本来なら一度下がってしっかりとした構えで再度進むべきタイミングではあるが、彼にはもう次は無かった。
ここでやらなければもう倒れる程しか体力が残っていなかった。
そこからアレックスは怒涛の勢いで赤紫色に火花を飛ばす雷をその剣に纏わせながら連続で20体以上の魔物を斬り伏せた。
嵐と雷が混ざったようなオーラを浴びていたアレックスの背中を、全員が後方で見ていた。
後にその姿をみたトラシバの住人全員が⋯⋯こう後世に伝えたという。
⋯⋯英雄の星が、私達の街ーートラシバから誕生した。あの最後の希望は絶やしてはならない⋯⋯と。
息を忘れるようなアレックスの20連撃。
本人も恐らく息をしていなかったと思う。それほど早く、美しい連撃だった。
『ギェッッッーーーー!!』
ドォォォン──!
アレックスの連撃が終わる。
腰を落とし、両手で剣を構えたまま魔物達の背後に一瞬で通り過ぎる。そして同時にーー1回の雷鳴が聞こえた。
雷鳴が鳴り響いた後、通り過ぎる間にいた魔物達はーー全員まるで雷に打たれたように身体が弾け飛んだ。
「⋯⋯」
やりきっ⋯⋯⋯⋯た。
もう、ここからピクリとも動ける気がしない。
「はぁ、はぁ」
「アレク!!」
アレックスは背後から必死に助けようとこちらへと来ようとするドーグを見て、子供のようにクスッと笑った。
「⋯⋯!!」
その笑みを見たドーグが表情を変えた。
その笑みは、昔のように屈託のない眩しいほど英雄に憧れていた少年の懐かしきモノだったからだ。
「ふんんんんっ!!!」
魔物達の攻撃をドーグはギリギリなんとか躱し、後方へと急いで戻った。
「ゾルドさん!コウラさん!少し時間稼ぎを!!」
「おいおい、馬鹿言ってんじゃねぇよ!」
「分かりました!」
「分かるな!」
ゾルドが怒りを露わにしながらコウラの頭にゲンコツを落とした。
「ったく、少しだけだぞ⋯⋯借りはーーしっかりと返してやる」
「⋯⋯」
ゾルドの言葉を聞いたドーグがありがとうと感謝の笑みを浮かべて走って下がる。
そして急いでドーグがセレーヌ達のいる場所まで下がって壁にアレックスを寄りかかせた。
「お前⋯⋯なんでここまでやったんだ?リーナはもうここに居たんだ。別に逃げる事だって出来たはずだ」
そう、戦いの最中ーードーグは何度も撤退しようと打診していたのだ。だが、それをアレックスは無視して必死に何度も何度も起き上がって守り続けた。
──「ドーグッッッッ!!俺達は戦うぞ!」
「嘘だろ!?アレク!!」
「⋯⋯」
ドーグは理由を知りたかった。
なぜここまでこの街にこだわっているのかを。
「⋯⋯はは」
「アレク?」
「俺は」
疲労のせいか、吐息が多い。息をする暇もなかったから仕方がない。
「俺達⋯⋯は、なんの為に都会に来たんだ?」
「ん?冒険者になるんじゃなかったのか?」
「違う、俺は冒険者になる為に来たんじゃない」
瀕死のアレックスは、昔の自分の言葉を思い出していた。
─「本当だよ!絶対に人族が魔物や魔族になんか劣ってないことを証明するんだ!僕達は強いんだっっ!!」
「俺⋯⋯は⋯⋯ゴホッ!ゴホッ!」
吐血が止まらないアレックス。
そしてそれを、黙って聞きながら背中を擦るドーグ。
「俺は、弱いけど⋯⋯人族が強いってアイツら魔族達に証明する⋯⋯為だ!そんで、お母さん達や村のみんなに見せてやろうとしたらこんなザマだ」
「⋯⋯」
「ははっ、殺されて⋯⋯やっと気付いた。俺達人族は全く強くないって事を。一人一人が弱くて、アイツらにとってーー俺達は取るに足りない存在って事を。だけどーー」
アレックスは無駄に快晴な青空を見上げた。
それに合わせてドーグも同じように見上げた。
─「強くなりたいんです!!!!」
─「合格だ、ガキンチョ」
アレックスはガゼルの背中を思い出していた。自分達と同じ歳の男がああまで強くなって、魔物を蹂躙し、人を助けるその姿はーー正に自分がなりたかった男の姿だった。
⋯⋯少々態度や言葉は強いが。
「師匠みたいに⋯⋯人を救って、強さを証明したかった。中々俺も凡人以下だって思い知らされたよ。死ぬかもしれないけど、ドーグ」
アレックスはドーグの両目を真っ直ぐ見つめる。
「⋯⋯」
「俺、この街を救えたかな?」
「⋯⋯あぁ、救えたよ」
噛み締めながら、ドーグはアレックスの両肩を掴んで必死に声を上げた。
「俺、やれたんだな。ありがとうーー」
ヴォンッッッッ──。
その時、アレックスの言葉を遮る激しい空を蹴る音が一回聞こえた。
ドーグは一瞬見上げるのに時間が掛かったが、アレックスはその音の正体を見てーー涙が溢れた。
「⋯⋯遅いですよ、師匠」
「第四式、流星」
そう一言聞こえた瞬間ーー周りの崩れた建築物や家、そして魔物すら巻き込む程の⋯⋯それはまるで津波のような風圧で全てが吹き飛んだ。
嵐は魔物達魔王軍の方へと全てが飛び、あまりの風圧に全員が腕で顔を隠した。
そして嵐が終わると、全員が顔を上げる。
全員の目の前にはーー珍しい服装をしている一人の少年が煙草を吸いながら堂々と立っていた。
その後ろ姿はーーまるでアレックスが憧れた英雄のように、輝き、安心感を与える強者。
その姿に、アレックスは涙を浮かべる。
「待ってましたーーガゼルさん」
堂々と立っていた少年、ガゼルは振り返り
「よぉーーアレク、待たせたな。おつかれさん、よく街とセレーヌ達を守ってくれたな」
ガゼルは煙草を口に咥えて、ドーグとアレックスの頭に優しくポンッと掌を乗せた。
「後は任せろ、お前達はもう休む時間だ」
異世界では違和感しかないブレザーを靡かせ、優雅にガゼルは数歩前へと歩き出す。
「さて、街の代償は高く付くぞ?魔物共」
まるで獣のような獰猛で堂々たる顔つきで、まだまだいる魔物達に向かってガゼルは笑みを浮かべたのだった。




