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不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。  作者: ちょすニキ


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15話 1週間の成果と依頼




「ハァー!」


ガゼルに向かって飛び上がって上段から木剣を振り下ろすアレックス。


あれから下に降りたガゼルは、全員で朝食を済ませてから丸1日を掛けて、3人に対して一週間の成果を得る為に1人ずつ身体と能力を使った実践を行い、現在──その成果を確認しているところだ。


カァン!!


またも剣先でアレックスの振り終わりのところに置いているガゼルだったが、最初の頃とは違い少し片方の瞼がピクッと上がる。


「ふんっ!」


アレックスが剣先で止めているガゼルの力を払い除けて退る。


'この世界はスキルと職業で構成されているのは知っている'


だが、なぜかは分からないが、俺の指導が明らかと言っていいほど効果が出ているな。


例えば今の払い。アレックスの元々持っていた骨格を活かした神経系の基礎能力向上。そして外にある基礎筋肉量。


アレックス達の身体は地球の奴らとは違って、贅肉なんてものは無く、寧ろ日々の運動から来る基礎となる筋肉量には達している。


後は、その身体の使い方を教える前に──動かす為の伝達機能及び反射能力と反復。


退ったアレックスが腰を落とし、剣を構える。


グググッ。

腰を落とした時に膨らむアレックスの太腿の筋肉が、初期の時とは比べ物にならないほど力が入っている。血管はバキバキに浮かび上がり、そしてそれを支える全ての神経系が見事にカチッと歯車の如く噛み合っている。


'やはりな'

コイツらは弱いんじゃない──"知らない"だけだ。


「ハァァ!!」


明らかに強くなっていると錯覚するほど膨らむ太腿。その力を開放させて一気にガゼルとの距離を詰める。


風と調和するような心地よい疾走。アレックスはする前より訓練した後の向上の幅に驚いた。


「えっ⋯⋯?」


一瞬でガゼルとの距離が詰まり、そのまま木剣を縦に振り下ろす。


カァン!


「見事。一週間サボらずにやってたようだな」

「いえ!師匠のお陰です」

「そうか。なら、もう一回振ってみろ」


アレックスは今出せる全力で右袈裟斬りをガゼルに振るう。


カァン!!!


乾いた音。だが初期とは別物の音だ。


「ほう?随分力が付いたなアレク(●●●)いい成果じゃないか」

「し、師匠!?」


アレックスが目を丸くしながらガゼルに声を掛ける。


「どうした?アレク?」

「俺の事をあだ名で」


アレクがそう余韻を残しながら困惑している。


'あれ?微妙だったのか'

あっちでは比較的皆に喜ばれたんだがな。


「あぁ⋯⋯馴れ馴れしかったか?」


ガゼルがそう言うと、アレクは首を横に振って嬉しそうだがはにかんでいる。


「いえ!師匠と距離があったように感じていたので嬉しくてつい」


アレックスがモジモジ嬉しそうな顔で笑っている。


'それなら良かった'

よし!弟子との距離を縮められた!やっぱりコミュニケーションは非常に大事だと思う。何事も話して互いの気持ちを理解しないとな。


ガゼルは木剣を正面に向けてアレックスを見据える。


「よし!このままドンドン打ってこい!」

「はい!師匠!」



**

気付けば、とっくに1時間が経過していたみたいだ。 いつの間にか壁に寄っかかってドーグとリーナが待機していて、待ちぼうけを食らっている状態だった。


「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」


大の字に寝ていたアレックスだったが、なんとか今回は膝立ちの姿勢で訓練を終えた。


「初心者のし位ではあるが、一週間という短い間ということを考えれば中々いい動きだったぞアレク。自然に付いた力にそれを支える身体も随分良くなったな!」


'しっかり俺の言った通りにやったからだろうな'

よく居るんだよ。「やりました!」とかぬかしてあんまり変わらない奴が。蓋を開けたら半分程しかやってなかったり、はたまた全くやってないような奴が。


それが何処でも同じ。理由も分からず皆気を抜いてサボったりしている奴の方が多かったからな。


「師匠が教えていただいたメニュー!というやつのおかげです!」

「いやそれもあるが何よりアレク。お前がそれを信じて懸命に務めたからだぞ?」

「そう⋯⋯ですか⋯⋯。ありがとうございます」


嬉しそうにはしているが、下を向いて困惑しているようだった。あんまり嬉しくなかったのか、それとも良かったのかよく分からない半々な表情を浮かべていた。


「どうした?アレク?」

「い、いえ!今まで褒められて育ってきていなかったので、こう⋯⋯なんと言いますか──なんとも言えない感情がありまして!」


アレックスは恥ずかしそうに頭を掻きながら軽くお辞儀している。それを見たガゼルは、どこか見覚えのある姿に心の中で溜息をついた。


'そうか──'

落ちこぼれと言われて育ったんだったな。幼少期の環境は死ぬほど大事だ。そりゃそうなるか。


褒められずある程度まで育ってしまうような奴は、のちに褒められたいという欲求に変わってしまう。それが変な方向へ向いたり、最悪の場合──自分の人生すらバキッと折ってまで行動しようとする奴もいるだろう。そんな承認欲求の化物にさせてたまるか。


「アレク、それが自然なんだ。そりゃあ間違っていたり悪い事は怒られるかも知れないが、反対に、出来ていることはしっかり褒めたり褒められたりするモノだ。寧ろ──それが当たり前だ。別にブチ切れて指導するつもりも、お前らに対して「なんでこんな事も出来ないんだ」だの「しっかりやれだの」と、出来ないからといって"落ちこぼれ"等というつもりは一切ない」


淡々とそう膝立ちのアレクにそう言い放つと、鼻をすする音が聞こえ、見下ろしたその先には──号泣しているアレックスがガゼルを見上げながら感激して言葉を詰まらせている。


「あ、あっ──ありがとう⋯⋯くうっございまずぅぅぅ!まだまだこれからもがんばりまずぅぅぅ」


爽やかなイケメンの姿は何処かへと消え目の前には顔面崩壊しながら泣き崩れるアレックス。


「ふっ」


'これだから真面目な奴は'


微笑みながら鼻息を漏らす。そしてそのままガゼルが木剣を肩に乗せた。


「それじゃあアレク、まぁいつまでここにいるかも分からないからな。いよいよ剣術を教える!今までやったメニューはそのまま続けるんだ。勿論今まで同じ訳ではなく、疲れなくなったら回数を増やすんだ⋯⋯いいな?」

「はい!ご指導よろしくお願いします!」

「ああ、それじゃあな〜」


それからガゼルは小学生でも分かるように、懇切丁寧に剣術の初歩の初歩を教えた。


だがどんな人間でも、いきなり大量に知らない言葉が飛び交っては覚えるにも時間が掛かる。アレックスはすぐに紙を取り出して必死にメモを取る。


ガゼルはゆっくり、そしてしっかり細かいところまでメモが出来るような速度で指導を行う。アレックスの疑問にも何故そうなるのかをしっかり答え、あっという間に時間が過ぎ去った。



**

指導が初級程度には終わった。しょうきゅうの"し"だがな。


「ありがとうございます!」


いつの間にかアレックスがガゼルに対し、90度よりも深いお辞儀を向けていた。そしてガゼルはそれには全く気付いていない。


「ああ、次を呼んできてくれ」

「はい!」



「ふっ!」


ブンッ!ヒュン!ブォン!


ガゼルがリーナに教えたモノは、神門式体術(●●)、そして魔力制御である。


「はぁぁ!」


高く気合の入った一声とそれに見合うリーナの鋭い突きがガゼルに向かう。だがそれをスレスレで首をずらして避ける。


「中々いいだろう。そんじゃ次は俺が最初言った通りにもう一度やってみろ」


「はい!」と気持ちの良い返事をガゼルに返した後、その場に火の魔法である【ファイアランス】を放つ事はなく、その場で待機させている。


'くっ⋯⋯'


左の上頬をピクピクとさせるリーナ。この魔法は火の槍を相手に向かって放つ技。初めてガゼルが見た時はファイアランスを嬉しそうに見ていたが、すぐに消えてしまった。


理由は魔力不足と──制御能力不足だった。


ただ放つという事だけならリーナにも可能であったが、その場で槍を浮かしたまま体術を見せる事やその場で留めておく事は出来なかった。


その状況を見たガゼルは、その時すぐに指導の内容が決まった。


この火の槍を変幻自在に──。自分の思うように動かすこと。


そして。数が増えようともどこに槍があっても動かす能力とそれに追いつくような制御能力があれば、すぐに汚名を払拭できるだけでなく──名を上げることに繋がるはずだと。


「ハァ⋯⋯ハァ⋯⋯」


尋常ではない量の汗を流すリーナも、両膝を地面につきながらガゼルを見上げていた。


「リーナ、お前も中々上達したじゃないか!」

「え!?本当ですか!?」


子供のように無邪気な笑みを見せるリーナ。


「あぁ。まだ2本であるが、制御能力はかなり伸びている。ほんの少しだけ動かしたりする事も今なら数秒出来ているところを見ると、使い時が来た場面で適切に発動する事ができれば──相手に対してかなりの有効打となるだろう」


そう話すガゼルを見て、更に嬉しそうにしながら自分の頑張りを褒めるように自身の両手を見つめたリーナ。


「一週間よく頑張ったな。だが、まだまだお前達は伸びる。こんなモノじゃない⋯⋯遥か先に見えるお前達の道へ行けるその時まで走り続けろ」


ガゼルの言葉に返事を返してすぐに続きを行った。


'リーナも伸びがいい元々才能があるのか?'


ガゼルはアレクやリーナの飲み込みの早さに驚きながら指導を行っていた。


『よし!次はこの形を維持したままコッチにやり⋯⋯』


そこからさらに時間が経ち、リーナのトレーニングも無事終了した。


神門式の体術(●●)と魔力制御。それが終了してからはドーグの成果も確認した。ドーグはやはり真面目で、しっかりこなしていた事もあり、見なくても分かるくらい成果はすぐに出ていた。念の為の確認もスムーズに進み、昼前には無事3人の状況確認を終えた。


ガゼルは実力確認が終わった3人が座っているところの後ろから、ステータスをさり気なく確認した。


'鑑定'

────────────────────

【名前】アレックス

【年齢】15歳

【種族】人族

【職業】見習い剣士 Lv5→20(進化が可能です)


HP450→890 MP15→120


攻撃力135→650 防御力230→720

素早さ70→750 魔法攻撃力 20→45

魔法防御力60→430 魔法耐性 魅力50→700


運 10→200


【職業スキル】

・スラッシュLv1→3


【スキル】

・剣技Lv1→3 ・神門式剣術Lv2 ・腕力Lv1

・身体操作Lv5


【適正】

・剣術F→E・その他F

【耐性】

・疲労Lv5

【称号】

・落ちこぼれリーダー ・&#x・逆境

────────────────────

【名前】ドーグ

【年齢】15歳

【種族】人族

【職業】見習い盾剣士 Lv3→20(進化が可能です)


HP320→1100 MP47→190


攻撃力130→550 防御力230→890

素早さ40→420 魔法攻撃力 100→250

魔法防御力300→1000 運 100→500 魅力100→450


【職業スキル】

・守りの盾Lv1→3


【スキル】

・神門式剣術Lv1・神門式盾術Lv1・疲労回復Lv1

・腕力Lv1・身体操作Lv3


【適正】

・盾術F→E・その他F

【耐性】

・疲労Lv4

【称号】

・落ちこぼれ

────────────────────

【名前】リーナ

【年齢】15歳

【種族】人族

【職業】見習い魔法使い Lv6→20(進化が可能です)


HP250→750 MP150→900


攻撃力100→450 防御力150→600

素早さ70→690 魔法攻撃力 200→900

魔法防御力240→990 運 150→500 魅力400→800


【職業スキル】

・ファイアLv1→4


【スキル】

・火属性魔法Lv1→2・無属性魔法Lv1


【魔法適正】

・火属性F→E・無属性F→D・その他F

【耐性】

・疲労Lv4

【称号】

・落ちこぼれ

────────────────────

'ほう⋯⋯?'

成長数値が異常だな。てかなんだこれは!?いくらなんでも伸びすぎだろう。


もし、地球(あっち)でもこんな風に自分の状況が分かれば俺ももっと成長できたんだろうか。


⋯⋯羨ましい限りだよ、この世界の人達は。


そう心の中で呟くガゼルに渚が語りかけた。


『マスター。先程仰っていたマスターのスキルに【指導LvMAX】が入っているため、3個体の成長に極めて高い補正がかかりました』


'極めて⋯⋯?'


『はい。本来、この世界で強くなる為にはスキルと適正、そして職業が関係しています。この【指導】というスキル、これは独学や教師がいたとしても⋯⋯勉強よりも遥かに高い効果を発揮するとお考えください。

 そんな中、マスターは"LvMAX"という極限までに鍛え上げられたスキルを付与した事になるのです。マスターの言語で表すならば、"不良個体"に対して通常で得られる経験値の10倍から100倍レベルの勉学やその他知識を覚えさせた⋯⋯ということになります。

 不快になられたら申し訳ありませんが、この三個体に見られる能力値はゴミと言われる程のモノでした。普通に生きていたらまずお目にかかれないレベルと記憶して頂けると』


'そんなに弱かったのか?コイツら'


『仰る通りです。マスターの持つこのスキルで得られる経験値は通常の比ではありません。そして、マスターがお持ちになっている知識と濃さが更に上乗せされていますので、ここまでの効力を発揮しています』


'そうか'

ん?てか俺にそんなスキルがあったのか。まぁ、確かに考えてみれば、あっちでも指導がメインで鍛錬なんて時間があまり取れなかったくらいたったからな。まぁそのせいか。ってその前に俺スキルありすぎだろ!?まぁいいか。


ともかくこれでコイツらもレベルアップが図れたからいいとしよう。


「いや〜俺達もちょっと動けるようになったよな〜!」

「分かる分かる!」

「明日もしっかりやらないとな」


三人が楽しく話している所にガゼルが柔和な笑みを浮かべながら話しだした。


「よし3人とも!成長したのは自分でも分かるだろう!」


ガゼルがそう言い放つと3人が元気よく返事を返す。


「「「はい!」」」


「だがこれはまだ始まったばかりだ!寧ろここからがどう努力するかで決まる。だからずっと覚えておけ──絶対に自分が強くなったと勘違いするな!お前ら三人はまだまだ強くなれる!何処までも。全員を見返したいならばこれくらいで満足するな!見返すならもっと!もっと強くなれ!いいな?」


「「「はい!まだまだ精進します!」」」


3人の表情が分かりやすく変わる。喝が入るかと思っていた暗い表情から元気が出るような明るい表情をしている。


'さて'

ガゼルが3人のステータスを見ながら疑問を感じた。


渚?3人に出ているこの職業の進化が可能という意味は分かるが、可能です(●●●●)というのは一体どういうことだ?


『はい。この世界の仕組みとしては鑑定をするのはお金がかかります。ですが、進化に至っては個体の脳内に直接神の声が聞こえ、聞こえた時に進化すると宣言すれば進化可能です』


'ほ~うなるほど'

詳細は見れないが進化可能とは⋯⋯。不思議な世界だな、まぁいい。


ガゼルは下で座っている3人に顔を向ける。


「お前達3人は恐らく職業進化が可能だ」


「え!?」

「はっ!?」

「なんですと!?」

「お、おう⋯⋯⋯⋯」


3人全員がビックリしすぎて、瞬きを忘れてガゼルを殺しそうな位ガン見している。それは、雑魚と言われた自分達に進化というモノが許されるのか?と言っているような瞳。なんとも言えない3人の表情がそう言っているようにも見えた。


「⋯⋯⋯⋯」


'まぁそうだよな'


散々今まで見下され嘲笑われ、地獄みたいな状況だった三人にとってはとても信じれないよな。


「そんな顔したくなる気持ちも悪くはないが、恐らく進化すると宣言すれば可能なはずだ。とりあえずやってみろ」


ガゼルの言葉に3人がすぐに空を見上げながら宣言をする。すると突然身体が少し光り、数秒すると光は消える。恐らく進化したであろう状況だ。


「どうだ?俺は神の声が分からないが、進化出来たか?」


両手にポケットを入れたまま立っているガゼルがそう言うと、三人が嬉しそうにガゼルを見上げる。


「師匠!俺剣士になれました!」

「私もよ!」

「本当だ!」


三人が嬉しそうに自分が進化出来た事に歓喜の涙を流している。そしてガゼルはその様子を微笑みながらタバコを吸って見下ろしていた。


「師匠⋯⋯本当にありがとうございます!」

「ええ!本当にありがとう!」

「貴殿に感謝する!これじゃあ二度と師匠殿に足を向けて寝れないですな」

 

煙草を吸うガゼルに、三人がそれぞれ感謝の言葉を伝えている。ガゼルは全員の言葉を聞いた後、軽く吐息を漏らしながら口を開いた。


「気にするな。基本全部お前達の頑張りのおかげだ。そもそも知っているかそうじゃないか⋯⋯究極的に言えばたったそれだけだ。俺はお前達にただその道を示しただけに過ぎない。お前達が先ずやる事は──頑張った自分をもっと褒める事だろう。存分に褒めるといい」


ガゼルがそう言うとみんな希望に満ち溢れていて、彼らは更に頑張ろうと意気込んでいる。そして三人は一生懸命ガゼルに対して頭を下げながら感謝の言葉を並べ、ガゼルはあまりにも喜んでいる三人に対して苦笑いで頷いていた。


'ッたく'


こいつらは真面目な奴らだな。もう100回は聞いた気がするんだがな。


内側でクスッと笑いながら三人を見下ろすガゼル。


そしてポケットに両手を入れたままガゼルが移動を始める。それに気付いた三人も急いで立ち上がり、ガゼルの隣へと走る。


「し、師匠?何処へ行かれるのですか?」

「ん?とりあえず実力が計れたところで、お前達に試験をやらせようと思ってな」

「す、すぐに準備します!」

「ん?今すぐと思っていなかったが?下見がてら、とりあえず依頼を見てから決めようと思っていた」


ガゼルの言葉に首を横に振るアレックス。


「どうした?」

「いえ!師匠にも何かやるモノがあるんですよね?今の状態でもやり遂げてみせます!!」


そう声を張り上げるアレックスにドーグとリーナも反応し、アレックスの両隣にいる二人も「やり遂げてみせる」という確固たる気持ちが3人の瞳に表れている。


「なら、とりあえずすぐ依頼を受けに行くぞ。今の感覚を忘れない内に受ける事も大事だろう」


「はいっ!」とデカイ声で返事をしながらガゼルに着いていった。




---ギルド


それから軽く昼食を済ませてギルドの掲示板の前にガゼルは立っている。顎に手を当て、大量にある雑に貼られた依頼書を眺めている。


'ウルフ⋯⋯'


無いな。コボルト?これもナシだな。俺が会ってない。


'オーク、それからゴブリンアーチャー?なんだそれ'


名前は確かにわかるんだが、何故分類が違うんだ?まぁいい。本当は手がギリギリ届きそうな相手を用意するつもりだったんだがな。


'まっ、仕方ないか。俺がまだ全然この世界に存在する魔物の力量を知らないのが原因だ'


そう独り言を心の内で呟き、ガゼルが1枚の依頼書を剝して座っているアレックス達がいる所へと向かった。


「あっ、師匠!」

「おう。俺の経験値不足が原因だが、とりあえず力量をなんとなく知っているついこの間出会した複数体のゴブリン討伐を受ける事にした。一応この書類には「森付近に生息している10体の討伐」まぁ恐らく、誰でも出来ると思っての依頼だろう。だがお前達はゴブリン数体に絡まれてギリギリ勝利位のレベルな訳だ。多少の変更はあったが今回──俺は一切手を貸さない⋯⋯いけるな?」


説明が終わると三人は闘志を秘めた瞳をガゼルに見せて早速受けに行こうとアレックスが向かう。


その後ろ姿を見たガゼルは安心の吐息を漏らしながら三人を眺めていた。


'まぁ殺れるだろう'


俺相手にまぁまぁな威力が出せていたんだ。ゴブリンなんぞに遅れはとらないと思うがな。


ピィーンとライターで煙草に火を点けて一服を始めるガゼル。


「ふぅ〜⋯⋯ん?」


だが、一服を始めたガゼルの視界には、アレックスの方へと数人の人影向かっていたのがハッキリと見えていた。



「あら?アレックスさん。今日はなんの依頼を受けに?」

「あぁ、今日は色々事情があってこの依頼を受ける事にしたよ」


スッと紙を出すと、それを見た受付嬢のメリッサが苦笑いをアレックスに見せた。


「本当に大丈夫?貴方達は護衛でもゴブリン討伐は難しかったんじゃなかったかしら?」

「今回は自信がある。受けさせてくれ」


メリッサから見たアレックスの表情は以前と違って、確かに自信に溢れている。しかもそれが見て取れるほどに。だが、無謀な冒険者達も似たような表情を見せるのだ。


長年様々な冒険者見てきたメリッサだったが、これだけ長年勤めていても⋯⋯この表情だけは比べる事が全くできないほど難しいと悟っている。


'蒼き星も今回で終わりかもね'

そう心の中で呟き、仕方無しに依頼受注の手続きを進めるメリッサ。


事務処理をササッと終わらせてアレックスに手渡しで控えを渡す。


「はい、こちらが冒険者側の控え。まぁ私がほとんどいると思うからあまり気にすることは無いけど、この控えと討伐の証拠となる部位を提出すれば依頼達成よ」

「ありがとうございます!それでは!」


元気よく踵を返して謎の貫禄を見せ付けるアレックス達だったが、それに合わせるように数人の男達が三人を囲う。


「おいおい!落ちこぼれ共がゴブリン討伐の依頼かぁ〜?次は死んで帰ってくるのか?いや死体となってるから帰ってこねぇか!アハハ!」

「⋯⋯⋯⋯」


黙る三人にゾイドがここぞとばかりに大声で、そして周りが気付くようにまくし立て始めた。


「あれぇ?確か蒼き星の皆さんは?今までで達成した依頼は⋯⋯⋯⋯確かスラム街の方にあるきったねぇ下水の清掃だったっけなぁ?俺達冒険者だってのに〜?まさか魔物1匹討伐する依頼も達成したことないなんて言いませんよねぇぇ?」


『ぷっ⋯⋯』

『確かに』

『蒼き星が討伐依頼を達成してる所を見た事がない』


 周りの冒険者達もゾルドの言葉に同調し一緒になって笑っている。だがそんな中一人だけ冷静にその光景を見ているガゼルは、2本目に火が点いた。


'誰だっけアイツ?'

ん〜⋯⋯でも見覚えがあるんだよな。確か〜⋯⋯。


両目を閉じて煙草をゆっくり吸いながら数秒考えるも、全く名前は出て来ず。


'駄目だ思い出せん'

どうでもよさそうな声色で独り言を呟くガゼル。



「それで〜?そんな蒼き星さん達は、なんの討伐へと向かうのでしょうか?」


ゾルドがニヤニヤ三人を嘲笑いながら見下ろしている。対して三人は、気まずそうにただ視線をそらしながら無言でこの最悪の空気に耐えている。


「あれっ?さっきまで自信満々に吠えていたのにも関わらず、今は死んだように自信が無くなっているようだが⋯⋯何かあったのかな?もしかして、達成出来ないのに受けた訳では無いだろうな?」


蔑視の目に冷笑を浮かべ、アレックスの髪を無理やり掴んでぐあんぐあん動かす。周りの空気も同様で、似たような視線で三人を嘲笑い、ゾルドと同じように冷笑を向けている。


「はははは!お前らさっさと冒険者なんてやめちまえよ!俺達トラシバの冒険者達全員がお前らみたいな無能で雑魚だと思われる事が我慢ならねえんだよ!消えろ!」


地獄のような罵声と視線を浴びる三人だが、必死に終わるのを待っている。だが、そんな時が訪れるのかと思いたくなる程の盛り上がり。そして誰も3人の味方はおらず、もし他の者であったならば──精神的に参ってしまう光景だろう。



だが──そんなゾルドのいる左側から『ヒュン』と小さい風と何かの音が聞こえ、すぐに目を向けた。


'ん?なんだ?'


"たまたま"であった。

ゾルドは依頼達成の帰りで、全身フル装備。そして彼の職業は重剣士。彼の左前腕の部分にはガードする用である盾がくっついており、その内側には剣がしまわれていた。恐らくその部分に何かが当たって下に落ちた。


「ん?」


ヒュンと小さい音がなった正体は小さく細い葉巻のようなモノ。先端には火がまだ点いており、誰かが指でこちらに飛ばした事がすぐに分かる。


「だ────」


ゾルドがそう言いかけた時。今まで感じた事のない強烈な殺気が自分の左側から感じ、咄嗟に盾を上に上げた。


──その僅か3秒後。

ガァァァンンン!と金属が何かと衝突した音がギルドホールに響いた。


「つッッッ⋯⋯⋯⋯」


ゾルドは5メートル程後ろに移動しており、信じられないといった両目に歯を食いしばっているでだろう口元。そして盾を上げたその状態で踏んばって退っていた。


そして飛ばされたわけではなく、足で耐えた状態で後ろへ移動している事が地面にベッタリと付いている足跡が滑って今のゾルドいる所までくっきり残っているのがその証拠だ。


ピィ〜ン。

そして衝突した場所で吸い殻をローファーで潰しながら3本目の煙草を口に咥えて火を点けるガゼルの姿がそこにはあった。


そのまま吸い殻の火を消したガゼルが「はぁ〜」と気持ち良さそうに指で挟んでいる煙草を一吸いしながら煙を吐いている。


流れは普通だ。

見かねたガゼルが煙草を指でゾルドの方へと飛ばしてそのまま軽くゾルドの前に行き、全く隙を見せずに軽くステップを一歩踏んで宙に浮いた。そこから全く力が入っているとは思えない脱力した姿勢のまま、少し浮いているところから軽くしか握っていない左手で盾に向けてストレートに近い一撃を打ち込んでいた。


「お、お前──あの時の!!」

「⋯⋯ふぅ」


ガゼルが鼻から煙をゆっくりと吐きながらゾルドをジッと見つめている。


'やっぱり覚えてないんだよな'


ガゼルは思い出そうと必死になっていたが、一向に誰だか思い出せてはいない。


ゾルドが体勢を整えてガゼルの前に歩いて移動する。そして前回と同じように上から見下ろしている。


「前回は意識が飛んじまったからよく覚えてないがよ?今回はそうはいかねぇぜ?フル装備、それにスキルも常に発動してあるからなガキンチョ~」


ゾルドがそう嘲りながらガゼルに言い放つも、全く動じずに静かに口を開いた。


「前回?やっぱりそうか。俺はお前と会ったよな?名前なんだっけ?」


吸い終わった煙草をアイテムボックスにしまい、遂に4本目に火を点けるガゼル。


それと同時にゾルドの額には青筋が浮かび上がり、怒り狂ったように上からガゼルに怒鳴り始めた。


「ああ!?まさかてめぇ──このゾルド様を忘れわけじゃねぇだろうな!?」

「⋯⋯⋯⋯」


'あぁ⋯⋯あの時首掴んで地面に叩きつけたオッサンだったか。駄目だな〜、すっかり忘れてたわ。


「⋯⋯っッ!?」


指で挟んでいる煙草を一吸いしながら、ガゼルが再びゾルドに向かって力をあんまり感じないストレートを打ち込んだ。


──ガァンッッッ!!


金属音が衝突した音の正体はガゼルが拳を打ち込んだ音だったのだ。


「なんで言っても分かんねぇかな〜⋯⋯オッサン」


煙を優雅に吐きながらそう呟くガゼル。


「⋯⋯ふぅ」


ガァンッ!!


一吸いしながら打ち込むガゼルの一撃を完全にビビっている表情をしながら盾で防ぐ。


「口で言ってもなんで分かんねぇかな〜オッサン」


ヒュンッと煙草をゾルドへと飛ばして一気に距離を詰めるガゼル。


そのまま半身の体勢から完全にストレートをゾルドへ放つ。またも鈍い金属音が響くが、もはやその音が盾から発する悲鳴と錯覚するほどの鈍く生々しい音だった。


ズサッと同じように2メートル程後ろへと飛び、ゾルドが危ないと言っているような表情でガゼルを刺すように見ていた。


「なんだよ?ガキンチョ⋯⋯何か文句でもあるのかぁ?俺はお前に何も言ってないが?」

「⋯⋯今、コイツらは俺の直弟子だ。流石に弟子に対してこんな事をされているのは容認出来ん。いやまぁしかし、オッサンの事はあんまり覚えてねぇんだが──まぁそれは良い。とりあえず話を聞いていると、お前達はコイツらが落ちこぼれだとそう言っているようだが⋯⋯それでいいか?」


アイテムボックスから飲み物を取り出しているガゼルがそう軽く呟くと、ゾルドの額から血管が浮き上がり、まくし立て始めた。


「コイツらはFランクの中でもゴブリン討伐する事もできねえくそ雑魚野郎だからなぁ!落ちこぼれと言って何が悪いんだぁ?」


「あぁ〜美味い」と一言こぼしたガゼルが飲み物をポケットにしまってゾルドを見つめる。


「そうか。ならひとつ提案をしようじゃないかオッサン」

「はは!なんの提案だよガキンチョ」


もう襲って来ないのを感じたゾルドが薄ら笑いを浮かべながら、ガゼルの提案を聞こうとしている。


「もし今回受注したアレク達の依頼が達成できた場合、即座にコイツらに対して土下座しろ⋯⋯。今まで言ってきた事ややって来た事に対してな。そしてコイツらに二度と関わるな。それに加えてちゃんと指示には一つ従ってもらう。

その代わり。

 もし依頼が失敗に終われば、同じ事をオッサンにやる。土下座をし、お前のやりたいようにして貰って結構だ。煮るも焼くも好きにしてもらって結構。だがそれじゃあつまらないから──コイツらが負けた場合は、俺もコイツらと同じようにお前の指示に従おう。そうすれば面白いというモノだろう?」


ガゼルがそう言うと、聞いていた3人が目を見開いて猛抗議を始めた。


「何言ってるんですか師匠!」

「そうですよ!師匠は何も悪くはないじゃないですか!」

「そうだ!師匠が謝る必要は」


懸命に声を上げる三人だが、ガゼルはそれを無視してゾルドの目を見つめる。


「どうだ?悪くない提案じゃないか?」

「はは!面白い提案だな!乗ってやろう!お前ら!今の話を聞いていたな!いいか?ガキンチョ!そんなこと言ったら後で後悔するぞ?」


嬉しそうに舌なめずりしながらガゼルを見下ろすゾルド。


「あぁ構わん。寧ろ結果を知っている俺からすれば、オッサンが気の毒だな」


余裕の口振りで話すガゼルに動揺を少し見せるゾルド。


「な、何!?言いがかりだな!お前ら!こいつらが戻ってきたら痛めつけてやろうぜ!」


声を張り上げるゾルドに周りの冒険者が笑いながら肩を回したり首を横に倒したりしている。


「最近ストレス溜まってたなぁ……」

「ガキに興味はないが、丁度力が有り余ってるな〜」



その状況を見ていたメリッサが勢い良く立ち上がった。


「ガゼルさん!お世辞にもこの3人には無理だと思います!懸命な判断を!」


'多分この人何もわかってない'

こんな事で有望な冒険者を潰してたまるモノですか!


「おいおい!メリッサ!もう決まったことなんだがな〜?良いだろ!?ガキンチョがそう言うんだ。なぁ!」


メリッサの思惑とはかけ離れ、ゾルドがここにいる全冒険者に向かって闘争心を焚き付けている。


それに呼応するように周りの冒険者が「そうだそうだ!」とメリッサの言葉を止めさせる言動を言い放っている。


正に「子供などオモチャ⋯⋯」そう言いたげなこの場の空気を嘲笑うようにガゼルが言葉を発した。


「なるほど⋯⋯。オッサンはガキをいたぶるのが趣味なんだな?」

「はは!心に抱えるストレスは発散しなきゃならないからな〜!」


完全につけ上がっているゾルドが憎たらしい口調でガゼルを煽っている。それに動じる事無く──メリッサの方を向きながら話し始める。


「まぁいいか。メリッサさん、それで約束を交わすだけじゃ後で後悔しそうだから⋯⋯何か書面はないか?」

「こちらに名前を書いて頂ければ」


嫌々メリッサが両面ある書類をテーブルの上へと置いた。


そしてそのまま二人が自分のサインを書いて少し距離を置く。メリッサが書類の確認を行って最終確認としてガゼルの方へと目をやった。


「ガゼルさんは参加できませんよ?良いんですか?」

「ああ、構わん。遠くから見ているから心配しなくて平気だ」


'こんな様子じゃ、もう難しいわね'


「そう⋯⋯ですかかしこまりました。ではゴブリン討伐10体の依頼です」


ガゼルに依頼書類を渡してメリッサが受付へと戻った。そしてガゼルがギルドの扉へと手を掛ける。


「オッサン楽しみだな?行ってくる」

「ガキンチョ楽しみだぜ」


ゾルドとそんな言葉を交わし、ガゼルは扉から外へと出ていく。


「師匠!」


急いでガゼルの後を追う4人。扉が閉まると嵐が過ぎ去った静寂さだけがギルドホールには流れていた。


「さっ、依頼でも受けますかねぇ」


ホールにいる冒険者の誰かがそう呟き、受付はまた忙しくなっていく。受付嬢のメリッサは処理に追われ、煽っていたほとんどの冒険者達も普通に戻っている。


⋯⋯ゾルドを除いては。


一人ゾルドは角のテーブル席に座り酒を一口飲む。


「ゾルド、どうしたんだよ?良い賭けが始まるんだろう?またサンドバックが増えてよかったじゃんか〜」


仲の良い一人の仲間が軽い口調で声を掛けてくる。


「あ、あぁ」

「どうしたんだよ?そんな顔を真っ青にして」


周りにいた仲間の冒険者達が不思議そうにゾルドを見つめる。数秒しても返事がないのに不審がって「なんかご機嫌がよろしくないらしいから一旦あっち行こうぜ」と緩い口調で一斉に離れていく。


目が泳いでいるゾルド。座った瞬間──ソレに気付いてしまった。


「⋯⋯⋯⋯」


荒い呼吸をしながら自分の盾に視線を落とす。


'確かに何回か貰っている'


それ程でもないと言いたいのもわかる。だがアイツらはなぜ気付かない!?


心中歯を食いしばっているような荒い口調のゾルド。


──ガァンッ!!

あの時、あの一撃に魔力など込もってなかった。スキル発動も、前兆はある。そういうモノだから。


だが、奴の一撃は前兆のぜの文字も無かった。


対して俺はあの時。スキルも使っていたし、盾とこの防具は特殊な加工と付与魔法が加わってる。


ヤツはその状況の俺の盾に跡を付けた⋯⋯それがどういう意味をもたらすか。


'つまり──'


テーブルの上で固めているゾルドの拳がブルブル震えている。


視線を落としたゾルドの先は──くっきり拳の跡が複数付いており、周りの奴らはそれに気付いてない。


'や、ヤツは──魔力なんて使わずに、素手の純粋な力だけで付与が掛かっている盾に跡を付けたって事だぞ⋯⋯'


俺の二つ名は重剣士のゾルド。別名鉄壁のゾルドだ。


その俺の盾に跡が付いてるってのに──誰も気付いちゃいねぇ。


「は、はは」


小さく引き攣った表情で乾いた笑い声を漏らすゾルド。


力も全く入れていなかった。あれでどれくらいなんだ?もし本気だったら⋯⋯?


ゾルドは一人もしかしたらという絶望だけが心の中で渦巻き、死んだように座りながら酒をちびちび飲んでいた。

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