店主と従業員 1
奴隷屋というのは他の都市にも存在し、武器屋や防具屋と同じような扱いを受けている。そして大抵の店は、奴隷をなんとも雑に扱っていた。不衛生な牢屋に押し込めて鎖を繋ぎ、布切れ同然の衣服を着させる。まともな食事や風呂も与えない。
それを過去に見たシリウスは、仮にも〝商品〟を扱う店として、これはアリなのかという純粋な疑問を抱いた。
いくら奴隷とはいえ、臭くて汚くて健康に害がありそうなものを欲しいと思うだろうか。品として惹かれるだろうか。
一般的に考えて、汚れがついたものを買いたがる客などいない。少しでも綺麗なものを選ぶ。それが普通だ。
だからシリウスは自身の店を持ったとき、とにかく〝清潔さ〟を重視した。店内の雰囲気はもちろん、奴隷たちに与える食事、衣服、寝床。
奴隷たちが暮らす部屋は地下に用意しているが、全て個室。安物だがちゃんとしたベッドと、白いシーツ。服も街で買った、民間人が着るようなものを与えている。
奴隷には毎日の仕事として、普段彼らが使う共同の風呂場やトイレ、食堂などの清掃と、衣類の洗濯。あとは料理も自分たちで作らせている。食堂はリビングも兼ねており、余った時間は自由に過ごすことを許している。
外出はもちろん、上の階にあがること自体も禁止しているが、その代わり地下での生活はわりと好きにさせていた。要望もなるべく聞いた。本が欲しいと言えば何冊か与え、甘いものが食べたいと言えばお菓子を持っていく。
奴隷屋を営むにあたりシリウスが注意を払っているのは、奴隷たちに過剰なストレスを溜めさせないこと。自分が扱う商品は、仮にも意思と行動力を持った生き物なのだ。
客が奴隷を欲する理由は様々だが、大体は雑用や肉体的な労働を目的としている。どちらも、ある程度の体力がなくては役立てない仕事だ。
さすがに運動をさせることはできないが、食費はケチらない。シリウスのほうで一週間の料理当番を決め、購入した食材やレシピと共に奴隷へ渡す。そして、自分たちで作らせて食べてもらう。
こうすることにより、奴隷たちに孤独感を味わわせることなく、簡単な雑用スキルも身につけさせる。わかりやすく言えば、これは購入してもらうまでの花嫁修業だ。
最も、奴隷たちに待っている未来は、そんな華やかなものではないが。
まれに、心優しい人に引き取られることもある。
そして、人としての幸せな生涯を共に送る。
だが、シリウスとしては、どうでもいい話であった。