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奴隷屋の日常  作者: 坂牧 祀
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奴隷屋と萬屋 8


【8番都市】を出ると、穏やかな雪の平原が広がっていた。細く長い草が雪の下からひっそりと伸び、視界のずっと向こう側では、低く(つら)なる山々が粛然(しゅくぜん)と控えている。


「街の外に出ること自体、久しぶりかも」

「シリウスさんはそうでしょうね」


 ライファットは仕事の一環で別の街に行くこともあるが、シリウスは基本的に【8番都市】から離れない。なのでこのような開放的な景色を見るのもいつ以来なのかわからず、焼きつけるように両目に映した。

 頼もしい護衛を得たことで、エンニオたちの雰囲気は明るい。そのうしろを歩くシリウスたちも、『身内』同士の会話を楽しそうに交わす。


「なあイグリ、〝ミヤモトちゃん〟は元気にしてるか?」

「元気だよ。大きくはならないけどな」

「そういう種類なんだろう」

「飼いやすくていいじゃん。変にでかくならなくてよかった」


 ミヤモトちゃんとは、萬屋でお世話している小さな亀のことだ。

 たった一人で萬屋を営んでいるイグリは、真面目で礼儀正しい性格ではあるが、いかんせん目つきの悪さと威圧感のある体格が相まって、なかなか人が寄りつかなかった。

 従業員を雇う気はないらしく、ならばせめてペットでも飼えば、来客者の心を(なご)ませられるのではないかと提案したのがシリウス。

 一般的にペットと言えば犬や猫だが、それでは手間がかかって面倒だと断ったイグリに、考えたシリウスは水槽に入った亀を勝手に贈った。

 渋々受け取って以降、亀はミヤモトちゃんと名づけられ、萬屋の中で静かに暮らしている。ちなみに、オスかメスかはわかっていない。


 エンニオたちはいつも、【8番都市】から近い小さな森で狩りをおこなっているらしい。それほど長い距離ではなく、しゃべりながら歩いているうちに到着した。


 とても静かな森だった。清らかに輝く銀世界は動物のみの楽園であり、葉を(まと)わない裸の木々が、雪の重みに耐えながらぞろぞろと並んでいる。自分たち以外に人の足跡はなかった。

 普段マークしているという狩場まで向かう途中で、エンニオが一旦立ち止まった。


「悪いけど、こっからは俺たちだけで行くわ。あんたらはこの辺で待っててくれ」

「えっ、大丈夫なんですか?」


 シリウスが聞く。


「ああ。護衛を頼んどいてあれだけどよ、まあ……、つまりだな……」

「素人は邪魔だから引っ込んでいろ、ということか」

「そんな意地悪な言い方しないでくれよ、白い髪の兄ちゃん」

不躾(ぶしつけ)な奴ですみません。わかりました、何かあったらすぐに知らせてください」

「ああ。ありがとよ、萬屋の兄ちゃん」


 エンニオたちが仕事を終える間、シリウスたちはおとなしく待機することになった。

 小鳥のさえずりか、エンニオたちによる銃声しか聴こえない。木漏れ日は美しいが、空気は冷たい。

 やがてただ待つことに飽きたシリウスが、木の枝を使って、雪の上に絵を描いて遊び始めた。


「これなーんだ?」

「わかるわけないじゃないですか、シリウスさんの描く絵なんて」

「少しは考えてくれよ……」

「ん……まあ……。何故イモムシを選んだのかはわからないが、うまくできているほうじゃないか?」

「……羊なんだけど……」


 イグリのフォローが空振りするほどのシリウスの画伯ぶりが発揮されたところで、エンニオたちが戻ってきた。


「もう大丈夫ですか?」

「ああ、ばっちりだ」


 イグリの問いに笑顔で頷いたエンニオが、担いでいた袋の中身を見せる。そこには、血抜きなどの下処理を終えたウサギが入っていた。大量というわけではないが、十分良い一日だったと言えるくらいの量だった。


「よっしゃ、じゃあ帰るか」

「よかった、何も起こらなくて」


 他の仲間たちが、安心した様子でそんなことを口々に話す。

 結果、何者からも守ることなくただついてきただけで終わりそうなので、シリウスが報酬はどうなるかを念のため確認してみる。


「そうだなぁ……。じゃあ、酒一杯分」

「マジですか」

「はっはっ! 冗談だよ」


 どうやら、当初の予定通りの報酬を渡してくれるらしい。顔には出さないが内心ほっとしたイグリに、ちゃんとお小遣いくれるみたいだぞ、と隣のライファットがからかうように言う。うるさい、と小声で返した。



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― 新着の感想 ―
雪に絵を描いて「これなーんだ」とか、シリウスさんとライファットさんのイモムシと羊のやり取りも、すごく微笑ましくて男子高校生たちみたいだなぁと笑ってしまいました。 護衛の仕事も何事もなくて良かった!!
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