奴隷屋と萬屋 7
約束通り城門前まで行くと、エンニオと仲間たちが待っていた。合計で五名だった。それぞれが得意とする得物を抱えており、収穫したものを運ぶための、年季の入った袋もある。
そして、その中に混ざる一人を見つけたシリウスは、親しげに手を振った。
「おーい、イグリ!」
名前を呼ばれた人物がこちらに気づき、ゆっくりと近づく。
黒い短髪、灰色の鋭い目つき。綺麗に鍛えられた大きな身体がたくましい、三十代の男性。服装は柔らかいレモン色のジャケットに、シンプルな柄の入った腰布を巻いている。
厳格そうな顔つきは普段からで、身長もシリウスやライファットより高い。一見すると、近寄りがたい雰囲気を持っている彼だが、
「こんにちは。シリウス、ライファット」
「こんにちは」
「こんにちは」
この通り、たとえ相手が気の知れた仲であろうと、会えばしっかりと挨拶をする男だった。
「まさかイグリも声をかけられてたなんてな」
「それはこちらのセリフだ。奴隷屋のくせに、ボクの仕事を横取りするつもりか?」
「俺、最初は断ろうかと思ってたんだけどさ。あんたがいるって聞いて引き受けた」
「ん? なんでだ?」
「いやぁ、だって楽しそうじゃん?」
「……遊びに行くんじゃないんだぞ」
へらりと笑う歳下を諭し、イグリはため息を吐いてから腕を組む。
「まあ、話は聞いている。墜狼を倒したんだってな」
「そうそう、俺の頼りになる従者くんがな」
「知名度がないせいで、毎日店に引きこもるだけのお前にも見せてやりたかったよ。俺の戦いぶりを」
「……あいかわらず舌の使い方が生意気だな、ライファット」
会って早々、さらりと毒舌を走らせるライファットだが、イグリはそんな彼にも慣れているようで、特に怒った態度を示すことなく話を続ける。
「一応確認をするが、お前が人狼だってことは、依頼主たちは知っているのか?」
「いや、気づいてないはずだ。もし知っていれば頼まないだろう」
「……そうかもな」
イグリは、ライファットが人狼だと知っている。その上で、普通に接している。
イグリのような人間は稀有とまではいかないが、それでも他者からは奇妙な目で見られる可能性が高いだろう。シリウスは別の大陸から来たので、元から人狼に対する先入観はなかったが。
実はシリウスたちが【8番都市】に来て自身の店を持つまで、このイグリの家に居候させてもらっていた。そして、萬屋の手伝いをしていた。その中でイグリは、ライファットの正体を知った。
彼には彼なりの理由で、人狼に対する差別や偏見は抱いていない。その理由がなんなのか二人はわからないが、人狼であるライファットと、そんなライファットを側に置くシリウスを難なく受け入れ、自立するまで面倒をみてくれた。
だからイグリは、二人にとっての『身内』といえるのだ。
「兄ちゃんたち! そろそろ行くぞ!」
エンニオから出発の合図が出た。城門を抜けて、シリウスたちは仕事へ向かった。




