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奴隷屋の日常  作者: 坂牧 祀
15/53

奴隷屋と萬屋 1


 せっかく誰も彼も一日を費やして雪かきをしたのに、そんな人間たちをからかうように、たった一晩でまたどっさりと雪が積もった。

 雪をどかして一ヶ所にまとめたところは更に高さを増して、何かをきっかけに小規模な雪崩(なだれ)を起こしてしまいそうだった。


 店をライファットに任せて、シリウスは気分転換も兼ねて買い物へ行く。自分がいなくてもライファットはしっかり接客ができるし、こんなことは今日が初めてではない。

 いろんな店のチラシが貼られている、無人の広告所へ行く。今日は八百屋でリンゴが安いらしい。自分たちの分と、あとは奴隷たちにも買っていってやろうと、早速シリウスは八百屋へ向かった。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」


 バンダナを巻いた若い娘から商品を受け取る。とてもおいしそうなリンゴは鮮やかな赤に染まり、見た目とかすかに伝わる香りだけで甘さが理解できた。

 太陽は一所懸命その光を地上にもたらそうとしているが、意地悪な雲が徐々に圧をかけていく。歩道の除雪がまだ済んでおらず、ギュッギュッという雪を踏むときの独特の音が鳴る。

 公共の場の除雪は、大陸遵行隊たいりくじゅんこうたいの中に分類される部隊の一つ、整備隊の仕事だ。しかし本日は、その整備隊の姿があまり見えない。代わりに市民たちが、普段の除雪の範囲を少しだけ広げていた。


「整備隊は何やってんだ。市民に仕事を押しつけやがって」

「何か事件でも起きたのかねぇ」

「だとしても、それは警備隊の役目だろ? ったく……。奴ら支部の敷地内で、雪合戦でもしてんのか?」


 スコップを動かしたまま、男性二人がそう話す。

 比較的治安の良い【8番都市】では、小さな揉め事はあっても大きな事件はほとんど起きない。暇を持て余す警備隊は街の雪かきやゴミ拾いといった、整備隊の手伝いをすることがよくある。本来の任務をおろそかにしているわけではないが、つまりそれくらい平和なのだ。なのでいきなり隊員の人手が足りなくなったということは、今までにない。

 何か人員を割く出来事でも起きたのだろうかと、ぼんやり支部の方向へ顔を向けたシリウスだが、自分には関係ないのですぐに帰った。


 その日の夕食後、シリウス特製のアップルパイが焼き上がった。やや焦げているが、味には全く問題なかった。

 大きめのものを二枚作って、一枚を奴隷部屋へ届ける。ありがとうございますご主人さま、とみんな喜んでいた。

 ちなみにこの奴隷屋は一階が店で、地下が奴隷部屋、二階がシリウスとライファットが暮らす家となっている。


「シリウスさん、今度はレモンパイというのを食べてみたいです」

「酸っぱいレモンがお菓子として合うのか……? まあ、気が向いたらやってみるか」


 細身のわりに大食漢(たいしょくかん)なライファットは、遠慮なく食べた。シリウスより二つ分多く食べて、最後に口についた生地のカケラを綺麗に拭き取る。


「また明日も食べたいです」

「それは……、面倒だな」


 素直な感想を述べる従者に苦笑いで返し、そのあとは熱い風呂に入って眠った。

 次の日の朝。起きてカーテンを開けると、空が暗く(よど)んでいた。これはまた雪が降るかもな、とシリウスは雪かきを覚悟してから厚い上着に腕を通し、リビングまで歩く。


「おはようございます」

「おはよう」


 リビングでは、先に起きたライファットが朝食の準備をしていた。ふんわりと漂うご飯の匂いが頭に響いて、今日の始まりを祝福する。

 シリウスがのんびりと顔を洗い終える頃には、朝食がテーブルを埋めていた。

 卵が入ったスープと、北の大地で育った温野菜とパン。それに添えられたバター。とても良い具合に焼かれたベーコンとソーセージ。

 向かい合って座り、談笑を交えながら食べる。朝から身体がよく温まった。



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― 新着の感想 ―
前の二人の出会いのエピソードではまだまだ距離のあった二人だけど、今回の食事風景は完全に家族のようでとてもほっこりした気分で読みました!(*'ω'*) 明日も食べたいとかおねだりまで出来る関係になれてい…
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