主人と従者 4
それから、日にちが経つ。
一人の青年が、【22番都市】の奴隷屋に入っていた。
「……ああ、あんたか」
「どうも」
無愛想な雰囲気は変わらない店主に対し、シリウスは余計な雑談をはぶいて、荷物の中から取り出したお金をそっと置く。
「二十万、きっちりとあります。あいつはまだここにいますか?」
「もちろんですとも」
椅子に座りながらゆっくりと金額を確かめる店主を、静かに待つ。すると途中で、店主が何気なくシリウスを見上げて、
「あんた、ひょっとして……」
「はい?」
「元奴隷、とかだったりします?」
と、言った。
思いもよらない質問に目を丸くしたシリウスだが、違います、とすぐに否定した。
「なんでそう思ったんですか?」
「いや、奴隷に対する見方が、他の人と違うと思ったんで……」
「そう、ですかね?」
「じゃなきゃ〝奴隷をキープしたい〟なんて言いませんよ」
確かにシリウスは奴隷のいない大陸で育ったが、カレスティア大陸に住む人々が奴隷に抱く価値観というのは、多少わかっているつもりだ。
奴隷を自分たちと同じ土俵に立つものと見ていない。いたとしても、その感情を周囲に悟らせる言動はしない。変人や奇人として扱われるからだ。
「あー……」
シリウスは少し困ったように頭を掻く。けど、思ったことを素直に言うことにした。
「俺は別に聖人君子を気取るわけでも、不平等を嘆くつもりもありませんよ。ただ普通に、あいつが欲しいと思っただけです」
「へぇ……」
「つーか、もし俺がそんな大層な志を持つ奴だったら、購入目的で奴隷屋に来ないですし。奴隷を解放しろーって、きっと怒鳴り込みますよ」
「……。ですねぇ……」
シリウスは奴隷を過剰に〝人間扱い〟してるわけでも、軽蔑を含んだ〝道具扱い〟してるわけでもない。
あの白髪の奴隷に関しても、ただ単純に役立つものを求めて購入に至っただけであり、それは剣や鎧を買うのと同じことだ。そして、剣や鎧を大切にする心だってある。『シオン』のように。あの奴隷を『シオン』と同じくらい大切にするかはわからないが。
店主の言う通り、奴隷をキープするなんて珍しいかもしれないが、それだって他の誰かに取られたくなかったからに過ぎない。それ以上の理由なんて、ない。
だからシリウスは、最後にこう言った。
「仮に俺が、元奴隷だとしても、自分が生きていくことだけに命がけで……。よほど特別じゃない限り、他人の命を心に留めるなんてしないでしょうね。きっと」
「……。そうですか」
奴隷から生まれた子は、そうですかとしか言えなかった。それ以上のことを言える立場ではないと、自分でわかっているからだ。
最後までかぞえ終えたお金を、綺麗にまとめる。
そのあとに店主は、商売で生きる者の端くれとして、言わなければならないひとことを言った。
「このたびはお買い上げ、ありがとうございます」




