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奴隷屋の日常  作者: 坂牧 祀
12/53

主人と従者 4


 それから、日にちが経つ。

 一人の青年が、【22番都市】の奴隷屋に入っていた。


「……ああ、あんたか」

「どうも」


 無愛想な雰囲気は変わらない店主に対し、シリウスは余計な雑談をはぶいて、荷物の中から取り出したお金をそっと置く。


「二十万、きっちりとあります。あいつはまだここにいますか?」

「もちろんですとも」


 椅子に座りながらゆっくりと金額を確かめる店主を、静かに待つ。すると途中で、店主が何気なくシリウスを見上げて、


「あんた、ひょっとして……」

「はい?」

「元奴隷、とかだったりします?」


 と、言った。

 思いもよらない質問に目を丸くしたシリウスだが、違います、とすぐに否定した。


「なんでそう思ったんですか?」

「いや、奴隷に対する見方が、他の人と違うと思ったんで……」

「そう、ですかね?」

「じゃなきゃ〝奴隷をキープしたい〟なんて言いませんよ」


 確かにシリウスは奴隷のいない大陸で育ったが、カレスティア大陸に住む人々が奴隷に(いだ)く価値観というのは、多少わかっているつもりだ。

 奴隷を自分たちと同じ土俵に立つものと見ていない。いたとしても、その感情を周囲に悟らせる言動はしない。変人や奇人として扱われるからだ。


「あー……」


 シリウスは少し困ったように頭を掻く。けど、思ったことを素直に言うことにした。


「俺は別に聖人君子を気取るわけでも、不平等を嘆くつもりもありませんよ。ただ普通に、あいつが欲しいと思っただけです」

「へぇ……」

「つーか、もし俺がそんな大層な志を持つ奴だったら、購入目的で奴隷屋に来ないですし。奴隷を解放しろーって、きっと怒鳴り込みますよ」

「……。ですねぇ……」


 シリウスは奴隷を過剰に〝人間扱い〟してるわけでも、軽蔑を含んだ〝道具扱い〟してるわけでもない。

 あの白髪(はくはつ)の奴隷に関しても、ただ単純に役立つものを求めて購入に至っただけであり、それは剣や鎧を買うのと同じことだ。そして、剣や鎧を大切にする心だってある。『シオン』のように。あの奴隷を『シオン』と同じくらい大切にするかはわからないが。

 店主の言う通り、奴隷をキープするなんて珍しいかもしれないが、それだって他の誰かに取られたくなかったからに過ぎない。それ以上の理由なんて、ない。

 だからシリウスは、最後にこう言った。


「仮に俺が、元奴隷だとしても、自分が生きていくことだけに命がけで……。よほど特別じゃない限り、他人の命を心に(とど)めるなんてしないでしょうね。きっと」

「……。そうですか」


 奴隷から生まれた子は、そうですかとしか言えなかった。それ以上のことを言える立場ではないと、自分でわかっているからだ。


 最後までかぞえ終えたお金を、綺麗にまとめる。

 そのあとに店主は、商売で生きる者の(はし)くれとして、言わなければならないひとことを言った。


「このたびはお買い上げ、ありがとうございます」



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― 新着の感想 ―
奴隷というものが存在しない大陸で育って、奴隷がしっかりと社会システムに取り組まれている大陸にやってきて、価値観の違いもちゃんと理解しているシリウスさんが、これからライファットさんとどう接していくのか……
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