主人と従者 2
次の日。新たな朝日が昇って空の大半が明るくなった頃に、シリウスは起きた。
顔を洗い準備運動をして身体をほぐし、また酒場で食事を摂ろうとしたシリウスに女将が声をかける。どうやら下の酒場は朝は営業していないらしく、代わりにここから近い別の食堂を教えてくれた。お礼を言って早速向かい、ホットサンドとコーヒーをいただいた。
食べ終わったあと、せっかくなのでこのまま街の中を見て回ることにした。【2番都市】の輩から強引な同意を得て受け取った金品を売り、まだ終わらない旅に必要な物を買う。
どの店に行っても、皆気さくで優しかった。移住できる場所を探してるとシリウスが言うと、じゃあここにするといいよ、と誰もが返してくれる。それだけこの街を愛しているのだろう。とても素晴らしいことだ。
「……あ」
と、ここで散策する足が止まる。シリウスの目に、とある店が映った。
〝奴隷屋〟
上に取り付けられた看板には、そう書かれてある。
カレスティア大陸には奴隷という最底辺の身分が存在し、家畜のような扱いを受けているのは既に知っている。シリウスのいた大陸に奴隷は存在しなかったので、これは一つの異文化だった。
過去に訪れたいくつかの都市でも、奴隷屋や奴隷商人を見たことはある。けれど自分には関係ないと、今まではあまり近寄ろうとしなかったが……。
「……奴隷、かぁ……」
シリウスは昨日、信頼できる者が欲しいと呟いた。その役目はもしかして、奴隷が果たしてくれるのではないか? そう、思った。
だがシリウスの言う〝信頼できる者〟は、ある程度の戦闘力を持った人物という意味も含まれている。戦えないのであれば旅のお荷物になるだけで、正直奴隷がまともに戦えるイメージもない。
けれど、ひょっとしたら、その〝戦える奴隷〟がいる可能性も、なくはない……。
しばらく周囲をうろうろしながら考える。気温はじわじわ上昇し、近くではおばさんが打ち水をしている。そうしてようやく、シリウスは決断した。
「見るだけならタダだよな」
冷やかしと言われたら、素直に謝ろう。
シリウスは奴隷屋のドアノブを握った。
「……いらっしゃい」
カウンターに座っているのは、眼鏡をかけた五十代の男性。客が来たというのに無愛想な顔で、なんとも接客が下手そうな店主だった。
店内もややホコリっぽく、せっかくの陽の光が十分に行き届いていない。店主の陰鬱な雰囲気がそのまま滲み出ているような空間だった。
「あー、すみません。ちょっと聞きたいんですけど……」
「……なんでしょうか?」
「戦える奴隷って、います?」
「はあ?」
何言ってんだこいつ、と思っているのが子どもでも気づきそうなほど失礼な返事をした店主。やっぱそうだよな、と察したシリウスだが、入店して数秒で出ていくのもどうかと思い、一応続けることにした。
「えっと、旅のお供? になってくれる奴を探してて……。だから戦える奴が欲しいなぁって……」
「……はぁ、なるほどね。奴隷を供に、ですか……」
事情を理解した店主は頭を掻くが、生憎ですが……、と言葉を続ける。
「うちにそのようなものは置いていません。どいつもこいつも、使えない役立たずばかりですから」
「……。そうですか」
ならば仮にも奴隷屋として、使えない役立たずを置いて商売が成り立つのかと言ってやりたい気持ちになったが、それは静かに飲み込んだ。
「まあでも……、一応見てみます? もしかしたら、お客さんのお眼鏡にかなう奴がいるかもしれませんし」
「え、いいんですか?」
「見るだけならタダですしね」
シリウスが入店する前に思ったことと同じセリフを言ってから、痩せた店主は面倒くさそうに立ち上がり、客を店の地下へと案内した。




