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頭の中の汁物教祖

作者: 水辺ほとり

 脳味噌の中によく、不思議なものが降臨する。まぁ、イメージが降りてくる、というのはクリエイティブ系の人にはありがちなことらしいが、私の場合は、それがずっと【声】として頭の中で鳴り響き、知らない情報を提供してくる。

 割といつも迷惑しているが、それに喜んで振り回されることも、まぁまぁある。

「我が名は汁物教の教祖なり!お前、私の声が聞こえるようだな。今夜は僕に従って、汁物をメインディッシュにしないか?」

 うーん、今日はこのタイプか。てか一人称を統一しなよ。

「うるさい!汁物教は多神教ゆえ。様々な神が私の口を借りるのだ。さあ、今夜、クーラーをガンガンにかけた部屋で熱々の汁物を啜るのだ!」

 おっ、ちょっと心が揺れる。いい提案をしてくれるじゃないか。インスタントでいい?

「いいわけあるまい!家の大鍋で汁物を煮るのだ!」

 それなら、スーパーで買うものを指示してもらおうか。

「まずは貴様の近所のスーパーに行くことだな。旬のものがあるのかわからん」

 そういうわけで、頭の中の声に従い、汁物の材料を買いに行く。

 スーパーのギラギラした蛍光灯、うるさい呼び込み、白くもうもうと冷えた野菜売り場で震えながら買うものを選ぶ。

「おお、茄子があるではないか!まだ秋ほど肥え太ってはおらぬが、旬の野菜だ。買いなさい。そうと決まれば、分厚い油揚げ、豆腐、乾いた輪切りの鷹の爪も欲しいのう。味噌はもちろん家にあるだろうな?」

 ありがとう。なかなか美味しそうな材料だね?味噌はずいぶん使ってないけど、実家の自家製のやつが壺入りになってるよ。

「それはちょうどいい。おお!オクラもあるではないか!汁物に入れなくても、レンジでお浸しを作ると良い。その間にトマトを切るのだ」

 言われた通りに、カゴの中に次々と商品を入れた。食後のアイスも。

 ひとつずつセルフレジに通し、ピッと決済。


 茹だる夜道を帰り、部屋のクーラーを26°Cにしてから、調理を開始した。

「まずは油揚げを湯煎するのだ」

 それ先に言ってよ……ポットで沸かしておいたのに。

「コンロで湯を入れた小鍋を火にかける方が早かろうて。ほれ!急げ!」

 こんな調子で、どんくさい私が汁物教祖にどやされながら、調理を進めた。言われた通りの手順でやったから、並行して進めることができたので、いつもよりいくらか手際が良かった。



「味噌汁は沸騰させてはならん。そろそろ蓋を開けて良いぞ」

 言われた通り、ぱかり、と蓋を開くと、ふわと味噌の香りが立った。

 おいしそう!

「いい香りじゃのう。さっそく味見じゃ」

 おたまから小皿に味噌汁をとって、一口啜る。油揚げのコク、出汁パックの旨味、自家製味噌が優しいハーモニー。鷹の爪がぴりりと効いている。さらに食べようとおたまを手に取ったら

「これ!器によそって食べぬか!行儀が悪い!」

 ちぇー。食い意地の現れのように大きなどんぶりを引っ張り出して、そこに味噌汁をよそった。

 具沢山の味噌汁の中でしおれた紫色の茄子が艶々としている。青々としたオクラのおひたしと、きらきらしてきる塩トマトのコントラストが美しい。ご飯は大盛りにした。こんなに彩り豊かな食卓は久しぶりだった。

「いただきます!!」

 味噌汁の旨味を吸ったとろける茄子が絶品だった。味噌汁を含んだ油揚げもコクがあり肉みたいだ。鷹の爪が乗っていると、辛みと旨味が絡んでなお良い。とろりとした絹豆腐は言うまでもなくうまい。味噌汁、ごはん、味噌汁、ごはんと順番についつい食べてしまう。

 時折、箸を休めるようにレンチンオクラとトマトを食べる。オクラはパリパリとしており、意外な食感が美味だった。塩トマトは言うまでもない。途中からマヨネーズをぶっかけた。

 ぜんぶ、幸せな味だった。

「なんだか実家を思い出すごはんだったなぁ。ありがとうね、汁物教祖」

 声をかけたが、頭の中からの応答はない。どうやら満足して、成仏?したらしい。


 また食べ物に詳しい教祖がくるといいなぁ。幸せな味だったなー。

 湯船にたっぷりと浸かりながら、がりがりと棒アイスをかじる。これもまた幸せなんだよねー。

 あーー、私も教祖になろうかな、湯船アイス教祖?

 湯上りにそんなことを思いながら髪を乾かし、そのまま倒れ込むように寝た。

 味噌汁には安眠効果もあると知り、毎日飲むようになるのは、もう少し先のお話。

飯テロ力が足りない……空腹のときに加筆します

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