3ヶ月の大恋愛(ノンフィクション)
彼氏に振られた。付き合って3ヶ月目だった。周りの人は3ヶ月目が節目というけど、多分、それが原因じゃない。
大学2年の夏、私は彼と出会った。同じ大学、同じ学科、共通の友達と3人でご飯に行ったのがきっかけで、すぐに意気投合した。そこからLINEを交換して、夜電話したり毎日やりとりをしたり、一緒にご飯を食べに行ったりして、気づいたらお互い好きだった。
付き合うことになったのは、6月のひどい雨の日で、雷が苦手な私は、彼の部屋に誘われるがまま転がり込み、一緒のベッドで抱き合いながら寝た。セックスはしなかった。朝起きると、「付き合う?」と聞かれ、二つ返事で答えた。
付き合った日のこの流れは、親友にも話していない。多分この話を聞く人のほとんどは、勢いでの交際と感じ、軽蔑すると思ったからだ。私はそう思われるのが嫌だった。
別れた原因は、お互いの優先順位の違いだった。彼は先輩や友達を優先し、私は彼を優先する。よくある男女のすれ違いパターンだ。しかし、男の中でも彼女を優先する男はごまんといる。私的に彼は、一生結婚はできないだろうと、今でも思っている。
彼の好きだったところは、博識なところ、勉強ができるところ、自分をしっかり持っているところ、目が大きいところ、顔がかっこいいところ、筋肉がしっかりついているところ。言葉にも、行動にも表して、彼には何度も好きなところを伝えた。私は甘えるほうが好き。彼氏には甘えてしまう。しかし、彼は好きとはなかなか言ってくれない。キスも向こうからはしてこないし、セックスだって向こうからは誘ってこなかった。
「彼から何もしてこない」という考えに至って、「合わない」という言葉に、その考えが結びつくことが多くなった。それは付き合って1ヶ月が経過した時。世の女性は、合わないと思ったらすぐ別れるのだろうか。恋愛経験があるわけでも無いし、合わなくても私は彼が好きだった。合う合わないとかではなく、本能が、私の中の私が、心が、彼を欲していた。だから別れは切り出さなかったし、別れたくなかった。
離れている時は「合わない」ことに対してモヤモヤして、考えてもキリがないのに考えて、ネットやSNSで調べたりした。でも、彼と会えばそんなモヤモヤは消されて、嫌なこととかどうでも良くなって、幸せになって嬉しくなる。堂々巡りだった。
2ヶ月目の後半から、会えない日々が続いた。モヤモヤは彼に定期的に会えなくなると溜まっていった。辛かった。嫌だった。だから、彼に伝えた。
「ねえ、あなたが忙しいのはわかっているけど、会いたい。会うのは難しい?」
「ごめん、俺も先輩からよく呼ばれる立場だから、理解して欲しい。」
LINEで伝えた言葉は、何度か会った時にも言っていた。でも、いつも理解して欲しいという言葉が返ってきて、仕方がないという気持ちにさせる。客観的に見ればなんて自己中な男だろう。彼女の気持ちは理解していないのに、自分の気持ちや立場は理解しろなんて、すごく、自己中だ。なんで気づかなかったんだろう。でも当時の私は、彼に嫌われたくなかった。反論したら、別れてしまう、嫌われてしまう、理解のある彼女でいたい。そういう気持ちの方が強くて、いつもわかったと返事をしてしまっていた。
3ヶ月目に入ってすぐ、やっぱりもう一度話がしたかった。
「今日の夜、部屋に行っていい?」
LINEで聞いた。話したいことは最近会えないことだけではなくて、彼の誕生日に、2人でお祝いをしようと提案した時、友達と祝うから無理と断られたことについても話したかった。
「今日の夜は、難しい」
昼に聞いて夜に返信が届いた。でも、話がしたいといい、時間をとってもらった。彼の誕生日の3日前だった。プレゼントは用意していた。
部屋に行っていいか聞くと、断られて、結局外で話すことになった。別れるつもりはなかった。ただ、現状について話したいだけだった。私に別れるという選択肢は全くなかった。
「お互いの生活習慣も違って会うのが難しい。君が会えなくて苦しいのと同じで、俺も君に会いたいと言われるのが苦しい。価値観も違うし、お互い苦しいと感じるのなら、友達に戻ろう」
会ってすぐにそう言われた。彼の開口一番がこれだった。驚いた。すごく、驚いた。言葉より先に涙が出た。だって、私は別れるつもりで話を持ちかけたわけではなかったのだから。いつもみたいに理解のできる彼女ではいられなかった。初めて彼の言葉に対して自分に意見を言って、反論した。
「わかるよ、お互いつらいけど、考えていけばいんじゃないかなぁ。私はまだ別れたくないよ」
そこから彼が「やっぱり別れるのはやめよう」などといい出すはずもなく、私の反論に対して、彼の元カノを例に出して説得し始めた。何も頭に入らなかった。私の中には「別れたくない」しか、浮かばなかった。
何度も別れたくないと伝えた。このままやっていく提案を何度もした。でも、彼は「ごめん」としか言わなかった。
(あぁ、もうだめだ)
ぷつん、と糸が切れるように理解したのは、話し合い始めて30分ほど経った時だった。涙も出すぎてもう止まっていた。急に心の中で決心がついた。気持ちに整理がつく、というよりは、別れることを決心して、腹を括る方に近かった。
「わかった。別れよう。わがまま言ってごめん。」
私が急に理解したので、彼は驚いていたが、彼も「ごめん」と謝っていた。
「別れるけど、友達の頃みたいに接したい」
最後にそう言われた。その時は笑顔でわかったと返事を返した。心では何も感じなかった。
部屋に戻って膝から崩れ落ちた。さっき止まっていたはずの涙が、死ぬほど出てきた。もう戻れない。隣にいた人、私の中で一番だった人、好きだった人、何かあったら最初に伝える人が、もういない。虚無感がすごかった。立ち上がれなかった。
別れて半年。今考えると、これは俗に言う「彼氏に依存している」状態だと思う。でも、その頃の私は依存だなんて思ってなくて、これが私の愛の形だと思っていた。客観視したら何てひどい男だったんだろう。なんて、自分とことばかりで、私のことを見てない、男だったんだろう。彼は、私の中で、これまでにない好きな人から、ひどい男の教科書のような存在になった。
次付き合う時は、もっと相手を知ってから付き合おう、自分を見てくれる人がいいな、自分の話だけでなくて、私の話を聞いてくれる人がいいな、優しい人がいいな、優先してくれる人がいいな。次を考える中で、1番決心したことは、自分のことを好きになることだ。当時の私は自信がなかった。彼から嫌われないことが第一で、その考えの原因は、自分に自信がなかったからだと思う。私の好きな私になろうと、決めた。彼を見返す、とか、そんな考えではなくて、私のために、私の幸せのために、変わる決心をした。彼のために伸ばしていた髪を切った。私はショートヘアの私の方が好きだと、初めて気づいた。趣味も、生活スタイルも、私を好きだと思える方法に変えた。
私はこれから、私のために生きていく。他の誰のためでもない、誰と付き合おうが、どんな人と出逢おうが、私は私だ。私のことが好きな、私になる。