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或る戦場

作者: 画策

【オキサク軍事基地に赴任した准将モグサヤッペに対する、一等兵クルル、およびアーツクスクへの聴取】


クルル(※以下略:ク)「モグサヤッペのことか。もちろん知っているよ。直属の上司ではないが、近頃あいつはなかなかの有名人だからな。」

アーツクスク(※以下略:ア)「僕も知ってる。うるさい奴だ。」

ク「そう!うるさいやつ!俺の周りの同胞もまったく同じような評価だね。無論俺もさ。あんたもわざわざ俺たちを聴取してるんならあいつの噂を聞いてのことだろう。あいつの口癖、知っているか?『死を恐れてはいけない。守るべきものを思え』。ご立派なお言葉ではあるが、この基地ではその手の話題に少し神経質になっているんだ。もう聞いたか?昨日の作戦では出撃した部隊がほぼ全滅だそうだ。その情報を得たのも脱走兵からっていうんだから、もうこりゃどうしようもないぜ。」

ア「…」

ク「だいたいこの基地の人間は、もうそろそろ限界だぜ?あんたもこの基地に来て兵士を見てるんだからわかるだろう。だいたいがオドオドしているし、それにあの『目』だ。ああいう目をするやつらがはこの半年で随分と増えたよ。やつらはもう感覚が麻痺し始めてきているんだな…。無論俺らだって例外じゃない!なぁ、アーツクスク。」

ア「そうだな、概ね同意するよ。」

ク「『概ね』!はっ!まぁいい。モグサヤッペのことだったな。ただ、俺はあいつについては、まぁはた迷惑ではあるが、それでも見所がないとまでは思わないぜ?なによりあいつの言葉にはなにか裏打ちのようなものを感じるんだ。オレは兵隊になってから大して時間はたってないが、出会うやつ出会うやつ、まぁなんと口だけの人間が多いことか!強気なことを言っているやつの9割がそうだと言ったっていい。」

ア「まったくだね。ただあいつ…モグサヤッペは、確かにそういうやつらとは少し違うようだ。」

ク「モグサヤッペは、きっと軍の演習成績なんかもなかなかいいんだろう?あいつのあの恐れを知らない言葉は、自戒も込めてるんだな。あとは、まぁやつの生い立ちなんかは知るわけもねぇが、それなりのご研鑽を経て、それだけの『強さ』ってやつを手に入れたんだろうと思うよ。」

ア「強さ…」

ク「あぁ、一つの強さ、だな。それは誰でもできることじゃない。現に隣にいるアーツクスクを見てみろ。たまに喋っても『あぁ。』とか『うん』とかそんなことしか言いやしねえ。まったく、行動ってものをして自ら傷つくのを恐れているんだな。大概モグサヤッペのことを馬鹿にする人間もそういう手合いさ。御多分に洩れず、俺もだがな、、。」

ア「なんだ、結局自分を卑下するのか(笑い)。君も進歩ってものがない。」

ク「うるせぇな…。だがまぁ、俺らが一目を置いているといっても、やつが迷惑であることは何一つ変わりはないんだがな。ただ、より出世の可能性があるっていう意味では、モグサヤッペは有望さ。だがやつが出世したその時は、この基地でまた同じ悲劇が起こることになるんだろうな。」

ア「間違いない。」

ク「そんなところだ。あんたも監視業務ご苦労さん。この報告はいったい誰にあげるんだ?ペレン基地の中央局か…。それから先はいったいどうやって、お偉い様に届くんだろうね。まったく想像がつかねぇし、そもそも『お偉い様』なんてのも、空想の産物なのかもわかんねぇな。」

ア「おいクルル、君も大概疲れきっているようだ。」

ク「そうだな。…それじゃあもう話せることはだいたい話したし、これで失礼するぜ。」

ア「僕も、失礼する。」


【ノーランダー基地での脱走兵裁判における、被告・モグサヤッペ准将の陳述書】


私があの時実際にとった行動は私にとって信じ難い。ただ外部的に見れば、それはまったく明らかなことであるし、どう私が解釈の方便で事実を曲解しようと試みても、まったく徒労に終わってしまうものであるのだから、これから記述することは全てが言い訳であり、またそのため全てはただ短く、淡々と記されなければならない。


私があの戦場で出会ったものは赤く、浅黒く、まさに巨大が髑髏が覆いかぶさるような、それは恐ろしい現実であった。そういったものは、もちろん私は征服をしたはずであった。日々自分を追い込み積み重ねた努力は私を勇気付け、私を前へ、前へと後押ししてくれた。私の人生について、常に勝利ばかりが微笑んでいたなどというのはまったくの誤認である。そこには、泥臭く、惨めな敗北もいくらかあり、私はその度ごとに歯を食いしばって、なんとか進んで行ったのである。そんな私があの時出会ったものは、誤解を恐れずに言えば、『人の死』である。そういったものはとうに私の支配下に押し込んだものと考えていた。私はそう考えていたのだ。


【オキサク軍事基地東部・アガテにおける戦闘時の、一等兵アーツクスクの意識】


僕は視界の端で、あの勇敢で、はた迷惑な准将が基地の方へと逃げ帰っていくのをを捉えた。いつかクルルとも話したが、この結果はおおよそ想定できていたことだった。なぜならやつは死すら克服しようとしていたのだから。


僕をはじめ、この基地に所属する多くの兵隊にとって、死はとても身近な存在だ。だからといって恐怖がないなんてことは全くなく、それは僕たちを日々消耗させ、睡眠時間を奪い、疲弊させていく。ただそうして僕らは、クルルが言っていた『目』をするようになる。


常日頃、僕たちのすぐ傍にいる死を、僕らは見たくなくても見る必要があり、つまりそれはもう知らないもの、わからないものではなくなっている。嫌になる程考えさせられ、うんざりし、それでも僕らを苦しめるそれがたとえ眼前に据えられたとしても、麻痺した僕らの心には大して響かないということだ。


クルルは、今僕がいる場所から30mほど後ろで息絶えている。あいつがいたことは僕にとっては支えであったのだから、この戦いから無事に帰れたとしても、僕が僕であることはできなくなっているはずだ。目の前には、赤く、浅黒い、大きな髑髏のようなものが見えていて、心はひしゃげてぐしゃぐしゃだ。それでも進む足は止まず、ただただ一定の歩幅で、前へ、前へと進むだけなのだ。



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