傷だらけの白い恋人達
第5章
依存関係というのは、薬物と一緒ですぐには、離れられない。
俺は卒業し、高校生になった。
久々の新たな仲間、俺を知る人間は、同じ中学から行った2人しかいない。
そんな楽しめる環境にいながら、心は、A子は大丈夫か。あの時、A子は何を考えなど、相変わらずA子に依存する考えは続いていた。
卒業する前、最期に交わしたA子の言葉はこうだった。
「もう、あなたはいらない。あなたには頼らない。B子とうまくやっていく。」
相変わらず、俺の気持ちを知りながら、デートなど誘ってくるB子を利用し、俺はA子の情報を知り得ていた。
高校生活はというと、小学4年以前のように、女の子と話してみると、思いの外、仲良くなれた。
これは、俺にとってチャンスだと思った。A子のことを話すわけにはいかないが、女の子がどんな思考なのかを知れる。
久々に話す女の子たちに、緊張を覚えながら、俺は不思議なまでに順応していった。
昔の感覚を思い出す感じで、毎日、お昼も女子と取るようにしていた。
しかし、事件はすぐに起きた。
俺の入った高校は都心の中心にあり、すぐ近くには、超大手IT企業の日本ビルがある。
そこにくるような人間だ、プールがないから来た、学区外で行きたかった、校庭が小さいから、など理由は逃げが先行する事が多い。
ある日の放課後、俺は別のクラスの男に呼び出された。
「お前、Kくんの悪口言ってんじゃないだろうな。」
俺は驚きというよりかは、呆れに近い感情を覚えた。どうやら、クラスメイトのKが、女子と俺が仲良くしていることに、嫉妬を買い、同じ中学出身の人間を差し向けたらしい。
「小学レベルかよ。嘘だろ。」
去年のクリスマス決闘を思い出し、女々しいレベルに、呆れかえっていた。
胸ぐらを掴まれたが、なんの恐怖心も感じず、自分の育った地元の環境に想いを寄せた。
「ふん。」
鼻で笑い、その場を後にした。
面倒なレベルの高校に進学してしまったと後悔をしていた。
こんな面倒な事は、すぐに終わらせたい。せっかく高校に来てまで、こんな連中に構ってられない。
俺の悪い癖が出た。
そして、事態は最悪な結末を迎える。弱小高で、再び俺は野球を始めていた。野球だけは、やはり忘れられなかった。
ある日、そんな思いを打ち砕く事件が起こる。
「明日は、●●高校と練習試合だから。」
「!?」
俺のトラウマが蘇った。トラウマというやつは、タチが悪い。昨日まで、しあわせであったとしても、フラッシュバックする。
当時、同時進行で、チームメイトと一つの確執が芽生えていた。
「投手を誰がやるか。」
捕手をやっていた者が、投手希望であったが、俺が選ばれていた。俺は、中学生辞めたときの球速が90キロほど。
しかし、高校野球の秋の大会前の球速が130キロほどと、ありえない進化をしていた。
このことは、理由がわからない。
卓球部の幽霊部員で、腐れ縁のやつと、好きな女の子の名前を叫びながら筋トレをしていたり、何より身長が伸びていた。上背だけはつき、投げ方が砲丸投げのような素人投げであったが、球は速かった。コントロールは悪いが、ストライクが入れば練習試合は、打たれない。
その嬉しさから、外野の練習の時は、無駄にパックフォームをして、肩の強さをアピールしていた。嬉しさが走り過ぎ、俺は周りが見えていなかった。
弱小とはいえ、1年から中継ぎ投手で選ばれる。
練習試合でも、ストライクさえ入れば、抑えていた。
「高校野球できるじゃん」
そんな嬉しさはあったが、やはりトラウマは消えていなかった。
次の練習試合の相手は、中学の下半身露出を強要した先輩がいる高校。
なぜ、それを知っているかというと、受験の時から、その者がいるとこには行かないと決めていた。
俺は練習試合を休んだ。
次の日、捕手に呼び出され、なんで試合を休んだのか咎められた。
本当のことなんて言えるはずがない。俺は、苛つきを抑えられなかった。
「あいつ。うぜえぶっ殺したい。」
あるクラスメイトに吐いた。
すると、放課後、その事が捕手にチクられ、俺は、ますます男の女々しさが怖くなった。
呼び出された場所に行くと、地元のリーダーに匹敵するような強そうな人間たちがゴロゴロ観客としている。
そのうちの1人が言った。
「お前、ぶっ殺す」って言ってたらしいな。
俺は、この公式図のようなものを抜け出す手段はないか考えた。
1人の女の子の気持ちを知りたいから、女子に近づけば変な因縁を買い、野球をまた始めたかと思えば、このザマ。
「あいつ、強そう。殴られる」って言っただけですよ。
俺は嘘をついた。
まあ、俺の信用度が勝るはずもなく、チクッたやつに確かめが入り、嘘と分かると容赦なく浴びせられる拳。
情けなく、自分がコントロール不能になっていた。
傷ついた体を引きずるように、最寄駅に行く途中、最近仲良くなった女の子に話しかけられたが、その存在すらも受け入れなくなっていた。
地元に着き、A子に久しぶりに連絡をした。
「もう、連絡してこないでください。」
痛んだ傷に、さらに突き刺さる言葉。
A子との関係すら、修正ができないものになっていた。
状況は、さらに悪影響を呼ぶ。
中学時代目立たなかった、最終学年、クラスメイトであった他クラスの同じ中学出身者が、俺の悪評を使い、高校デビューを始めたのだ。
女々しい奴らを跳ね除けようと、喧嘩無敗に近い発言をしたことを、地元に言いふらされてしまった。
当然、一部の人間から、最近持ち始めた携帯電話にショートメールが非通知でくる。
「ぶっ殺す」
俺は地元すらも歩けなくなった。雨の日も、雪の日も、自転車で1.5時間かけながら高校に通っていた。
野球も気まずくなりながらも続けていた。しかし、練習試合にもなると、捕手のレガース、バット、ボールケース、全て押し付けられ、右肩に背負って帰宅したり、忘れもしない、夏の大会の開会式がプロ野球でも使うグランドで、楽しみにしていたが、ユニフォームが無くなる。ジャージの上がなくなる。など嫌がらせは続いていた。
そして、バカの大肩だけは、自分が唯一、この状況を楽しめる武器であったが、ついに悲鳴をあげた。
あの公園で、傷ついた俺は、A子に、クリスマス電話をした。
後ろから聴こえてくる楽しそうな声と、A子のとどめの一発!
「もう、あなたいなくて平気だから。」
家に帰り、桑田佳祐の白い恋人たちで涙した。
この時から、俺は、記憶が曖昧になる。桑田佳祐、サザンを来年のクリスマスに聞こうとA子と約束したのかは、忘れたが、この曲をA子との電話で話したのを覚えている。
ひとり泣き濡れた夜にWhite Love
ただ逢いたくて もうせつなくて
恋しくて…涙
この時、テレビでは、仏壇の前で手を合わせ、自殺した子供を、殺されてしまった子供をというシーンがよく流れた。俺は、親を巻き込むまいと必死だった。一度歯車が狂えば、どんどんおかしな方向に行き、修正がきかなくなる。薬をやって、抜け出せない方の気持ちが少し理解できた。依存というものは、なかなか抜け出せない。自分でも新生活を楽しみたい気持ちと、誰かに必要とされていないと、自分が崩れていく自分とが混在していた。