傷つき者
第三章
傷ついた者は、傷ついた者を引き寄せる。
それは、俺が実証している。
だからこそ、奴と俺は出会ったのだ。
俺は中学3年になった。
野球部を辞めた俺は、友人のススメで卓球部にいた。相変わらず、真面目にやることを恐れ、廊下で壁打ちをしているような部員だった。
ある時、廊下で壁打ちをしていると、部活の後輩と一緒に、同級生の女の子が廊下を通った。
その子こそ、俺の人生をある意味で救ってくれ、ある意味でさらにどん底にしたA子だ。
A子は、見た目も可愛く、笑顔が似合う、同級生の男からモテていた。
A子はその出会いから、しばらく廊下に来ては、よく話しかけてきた。
ある、体育館での練習の日、A子と同級生らしき友達が、体育館に消えていった。
「A子?」
俺は軽い気持ちで後を追った。
「来ないで!!」
A子の友達が、俺を拒んだ。
A子は泣いていたのか、モヤモヤした気持ちで俺は部活に戻った。
数日後、A子の姿が廊下にあった。
「よ!」
と声をかけると、A子は体を震わせ、泣き出した。何がなんだか分からず、俺たちは学校を後にした。
俺の自宅付近に、公園がある。昔から遊び慣れている公園だ。そこのブランコに連れて行き、話を聞いた。
「あの、たい、、いくかんで、、」
A子は泣きじゃくりながら話し始めた。
どうやら悩みを聞いていた女の子に裏切られたようであった。
俺は、そこから部活中に来るA子と、何度もそういう機会が増えた。
「よくこいつ毎回泣くな。」
なぜ泣いているのか俺はわからなかった。
A子の兄は、俺の一個上で学校では、優秀な生徒として有名だった。特に、彼が音楽会でやった指揮は、大きな体格から繰り出す凛とした風格に、俺らは鳥肌すら覚えたほどだった。
「兄と比較されることがきついのか。」
俺は、知らなかった。
A子が本当に苦しんでいたことに、学年が違うため、彼女のクラスで彼女が、なぜ嫌われるのか、初めは悩みを聞いていた女の子が離れていくのか。知る由もなかった。
「宗教二世」
俺がその苦しみを知れたのは、俺が専門学校3年の時だ。資格試験の勉強が手につかず、後に別れることになる彼女の足跡を辿り、彼女の親から聞かされ、全てのピースが揃った。
それを踏まえて、15歳の時の俺のできたこと、彼女の嘘を見ていって欲しい。
俺らが距離を近づけたのは、運動会がきっかけだった。
運動会が終わった後、ジャージ姿の俺たちは、公園にいた。
「暑いな!!」
運動会後ということもあり、俺は上ジャージを脱いだ。体操服でいると、A子もつられるように、ジャージをまくった。
「お前!!それって!?」
彼女の細い腕には、無数のリストカットが存在した。
彼女はいつも以上に、体を震わせた。運悪く近所のおじさんが犬の散歩で通りかかった。
俺は、A子を近くのマンションに連れていった。
「ここの夜景が綺麗でな、、、」
意味のわからない嘘をつく。リスカなんて言葉聞いたこともなかった。
「お前、なんでそんなことするんだ。」
A子の体の震えが止まらない。どうしていいか分からず、ドラマで見たマネで、A子を抱きしめた。
ジャージは、涙と鼻水で濡れた。
「鼻水つく!」
「うるせぇ!馬鹿野郎!」
彼女を潰してしまうのではないかと思うほど、きつく抱きしめた。
あの行動は、本当は、小学4年の時に、俺が誰かにして欲しかった行動だったのかもしれない。
彼女は、泣き止むと理由を話してくれた。
A子には彼氏がいて、暴力をされるらしい。
今、思えば、彼は彼なりに、A子のリスカと向き合っていたのかもしれない。
次の日、俺とA子の姿は、彼氏の前にあった。
サッカー部の彼氏を呼び出し、こう言った。
「どんな理由があろうと、女の子に乱暴してはいけない。」
彼氏はびっくりしたであろう。見ず知らずの先輩学年の人間がいきなり現れ、暴力をしたことを咎めたのだから。
「先輩すいません。2人にしていただけませをやか。」
そういわれ、俺は席を外した。
数日後、A子は再び廊下に来た。
まだ、暴力をされていると言う。
俺は、とんでもない手段に出た。
A子の靴箱に別れの手紙を、彼氏の名前で入れたのだ。
今、思えば、なかなかの策士だったと思う。
俺が描いた構図はこうだ。
A子は当然彼氏のもとに行く、その瞬間、誰がこの手紙を書いたと言う話になり、A子がどうしたいかがわかる。最も、その段階で、確実に俺がやったことがわかり、俺は嫌われる。
嫌われることには慣れていたから、それで良かった。
ーーしかし、状況は予想外のことになる
A子が俺を公園に呼び出した。
「さて、嫌われに行くか」
俺はA子のもとに向かった。
「あのね、あたし、彼氏と別れるんだ。」
「なんでだ?彼氏が言ったのか?」
俺は意外な展開に戸惑った。
「いや、手紙入ってたから。」
「そうか。」
意外なまでに爽やかな顔をしていたA子と別れた後、俺は彼氏のもとに向かった。
「A子がそう言ったんすか?あとは先輩、お願いします。」
あっさりとしたものだった。彼氏は知っていたのかもしれない、彼女の背景に宗教二世があり、そのことでリスカをしているのだと。
後に、この彼氏と道端で出会した時、付き合ってて、かなり面倒だったと語っていたのが印象的だった。
そこから、俺はある決断をする。
毎日、泣くこいつの悩みを聞くには、受験なんてしている暇がない。俺は受験を捨てた。
毎日、あの公園で彼女は泣いていた。
今、思えば、宗教絡みで参加したい行事も参加ができず、クラスから省かれていたのかもしれない。
俺は理由は聞かず、泣いたら抱きしめる。キスするわけでもなく、ただ、純粋に傷を受け止めていた。
恋愛ではなかった。だからこれからくる別れが苦しかったんだ。
人は、その時の思いや、性格で、類似する人を惹きつける。
だから、ダメンズから抜け出せない女の子は、次に付き合うのも、ダメンズというのはこういう仕組みからだ。
自分が極端に変わらない限り、引き寄せる相手も変わらない。
特に、学生時代は、生活も変わらないし、環境も変えられない。
A子は、宗教二世に苦しんでいた。土日も宗教絡みで、
遊びに行けず、行事も参加ができない。
今の時代は、当時と違い、SNSで帰ってもいじめられる。望まない二世は、思いの強い人間を巻き込むことを親は忘れてはいけない。