01話【白い世界】
目が覚めるとそこは白一色の空間だった。
自分が何者なのか、直前まで何をしていたのか、思い出そうとすると頭にモヤがかかったようになって思い出せない。大抵のことは思い出せないが、はっきりと覚えている記憶もいくつかある。
そんなはっきりと思い出せる記憶の中からこの状況は説明できる。好んで読んでいたらしいライトノベルやネット小説の知識によってここが『神様と転生前に出会う部屋』だと超速理解してしまった。
『神様と転生前に出会う部屋』とは異世界などに転生する前に神と邂逅し、死んでしまった原因やその謝罪。そしてこれから向かう世界についての説明などが行われ、能力など授けられる重要な空間だ。
ほとんどは白一色や黒一色など単色の狭い空間で、たまに生前の自分の部屋だったり謎の和室だったりする。
そんなことを考えながら神様の登場を待っているがなかなか出てこない。おかしい、ラノベ脳で申し訳ないが大抵の場合はほとんど待たせることなく神様と邂逅してやることパパっと済ませて準備不足のまま異世界に放り出されるはずなのに。
本当に死んでしまったのか確定ではないが、おそらく白い空間にいるってことは死んだのだろう。そのまま生前のことを思い出そうとしたり、今着ている見覚えのある赤いジャージの正体を考察したりしてるが神様が現れる気配すらない。生前のことはよく思い出せないがこんな時はスマホ弄っていた気がする。スマホがあればネット小説読んだりアプリのゲームで遊んだりといくらでも時間潰せたはずなのに。あぁ...スマホが恋しい。
いつもスマホを入れていたジャージの左ポケットを無意識に手癖で撫でるとさっきまでなかったはずの感触がある。青い国産のスマートフォンだ。自分が使っていたものかは生前を思い出そうとすると頭がぼんやりしてしまうので思い出せないが、なんとなく操作方法は体が覚えている。
スマホの画面を開くとそこにはアプリが三つだけ『設定』『電卓』『ストップウォッチ』のみ。高齢者向けスマートフォンかよ。あれでも通話とかメールあったのに写真すらないぞ。