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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第十二話 第一次白百合攻防戦
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五章 無邪気な不死身 VS一ノ瀬雪


☆☆☆ ☆☆☆




(────来たか)


 砂浜に座して一時間ちょっと。

 あーしはゆっくりと身体を起こし、猫の様に伸びをする。

 

 立ち上がって、お尻と足に張り付いた砂を適当にパパパっと落とし、右手に握りしめたケンシのパスをそっとワークベンダーにかざす。

 

『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “ケンシ”!』 


 腰から刀を外して鞘から刀身を僅かに抜き、覗き見る。

 日を浴びて、きらきらと輝いている。


(刃こぼれ、曇り、無し)

 

 刀を腰に戻す。と殆ど同時に、ざぱん、と波がひっくり返って、中から小さな女の子が現れる。

 女の子はびしょぬれで、年に合わない白い髪と、年相応のワンピースを着ている。


「あー疲れた……海から行くなんてアタシ天才! って思ったけどまさかこんなに疲れるなんて思わなかった……寝不足で一時間以上泳ぐなんてもう最悪だよー……」


 女の子はブツブツと何かを呟きながら、額にへばりついた髪を弄っていたが、ふとこちらに気付いた様で、それを止めた。

 

「……久しぶりだね! 明日香おねーちゃん。私の事おぼえてるー?」

「もち、憶えてるよー……雪ちゃん。データ測定の時に、何回か会ったよねん。てかつい一週間前も、東京で会ったし」


「あーあれ明日香おねーちゃんだったんだ。惜しい事したなあ……」

「惜しい事?」


「泉おねーちゃんと一緒に囲んで捕らえておけば良かった……明日香おねーちゃんなら実験台にピッタシだもん。組織じゃ取れなかった、あんなデータやこんなデータも欲しいし……!」


 雪は興奮した面持ちで息を荒げながら、品定めでもする様にこちらを見る。

 舐められたものだ、と思う。


「二人ならあーしに勝てたって? 囲まれたって、あーし負けるつもりないけど」

「ふっふっふ、強がってもムダムダだよぉ、おねーちゃん? おねーちゃんのデータは分かってるんだからね?」


 彼女は不敵に笑うと、黒いカードを取り出して見せびらかす様にヒラヒラと振った。


「へ・ん・し~ん……なんてねっ!」


 冗談交じりに微笑んで、ウィンクをしながらクルクルっと派手に一回転する。

 何も知らない人が見れば、子供が変身ヒーローごっこをしている様にしか見えないだろう。


『スキャン完了! 変身<エネミーチェンジ>! “イモータル”!』

 

 黒いもやが、彼女の身体から吹き荒れる。

 それは雪の血となり肉となって、彼女の瞳に闇色の光が灯り身に纏った衣を妖しげな黒いローブへと変容させる。

 ローブには解読不能の不可思議な文字が紋様となって刻まれており、時折赤く光って血管の様に浮き出ている。

 

「さてと。悪いけど、一気に終わらせちゃうよ~?」


 パチン、と雪が指を鳴らす。すると、彼女の周囲の空間が歪んだ。

 怪物が口を開く様に空間が縦に歪み、異次元からキメラが姿を現す。

 その数は、計五体。


「ぬっふっふっふ~ん♪ コイツラは私が昨日殆ど寝ずに体力を費やして調整した特別性……その名も『キメラ@雪スペシャル』ちゃん! 遺伝子適合率を8%も向上させた事により、魔力量が13%、運動性が20%、耐久性が15%もアップしたさいっっっきょーのキメラちゃんなのだぁ!」


「……自信満々の割りには、なんか数値しょぼない? 最強って言うなら二倍、三倍とかさー……」

「う、うるさいうるさーい! 一夜漬けでそんな簡単に性能上げられる訳ないでしょーがっ!」


 そんな物なのだろうか?

 というかそれならやらないでとっとと寝て、体力を温存した方が良かったのでは……?


「あーもー! 『キメラ@雪スペシャル』ちゃんやっちゃってー!」


 雪の言葉を合図にキメラが一斉にこちらを向いた。

 グリフォンの眼が鋭く光る。三体が剣を構え、二体が銃を構えた。

 あーしは鯉口を切った。まだ抜くつもりはない。

 気を見計らい、必殺の居合で一体持っていくつもりだ。

 だが敵も愚かでは無い。三体は間合いに入らずじりじりと詰め寄りながら、囲む様に周囲に散った。

 

 ここで銃を構えた二体が引き金を引く。

 二体で牽制しつつ囲み、三体の一斉攻撃で仕留める腹積もりか。

 

(仕方ない、抜くか)


 二方より迫るレーザーが目前にして一つとなるその瞬間を見極め、刀を抜き居合で断ち斬る。

 叩き斬られた光線が火花となって宙に消ゆ。

 刹那、三体のキメラが襲い来る。居合の弱点はここである。刀を振り切った直後に出来る隙を隠し切れず、二の太刀を繰り出すのに遅れが生じてしまう。

 三体が襲い掛かったのはそんな絶体絶命の隙。絶好のタイミングと言えよう。


(相手があーしじゃなきゃ仕留められただろうね)

 

「碧羅一刀流秘技────“蟠竜ばんりゅう”!」


 振り抜いた勢いを殺さずそのままくるりと回転し周囲を薙ぎ払う────と言えば簡単に聞こえるかもしれないが、その実、回転する間に正面に来る敵を次から次へと相手取り、斬り払わなくてはいけない。

 つまり瞬く間に連続で攻防が発生する。

 それを冷静に、地に足着いて行う様はとぐろを巻く竜に似ている。例えて、“蟠竜ばんりゅう”。

  

 三体のキメラが真っ二つに斬られ地に崩れ落ちる。

 後は遠方で銃を構えている二体だけ……。


「それはどうかな~おねーちゃん? ここにはアタシもいるって事忘れてないー?」

「……!」


 雪の指先から、発せられた魔力が三体のキメラに這入り込む。

 すると驚く事に、あーしに斬られて絶命した筈の奴らがフラフラっとその身を起こし立ち上がるではないか。

 

「“イモータル”の能力────『不死身』の力ってわけー……?」

「ピンポンピンポーン大正解~! アタシがいる限りその子達は不死身ぃ! こんなの絶対負けっこないよねえ?」

 

(…………不死身、ねー)


「よーしいけー『キメラ@雪スペシャル』ちゃん! 一斉攻撃で倒しちゃえー!!」


 雪から下った指令に従い五体のキメラが一丸となって同時に襲い掛かる。

 余り細かい指令は出せないのか……ありがたい事に銃を持っていた二体も、近接戦を仕掛けてきた。

 これは非常に助かる。正直遠距離から攻撃され続けていれば少し面倒だった。

 

(手間が省けて、良い)


「碧羅一刀流奥義────“風柳かぜやなぎ”」


 嵐の如く荒れ狂う五体の猛攻を、しかし、逆らわず。

 強風にも折れずただ揺れる柳の様に。


 風が吹いて、止んだ。


 静かな残身の後、血を払って刀を納める。

 既に五体の身体は、斬り刻まれ、地に伏している。


「…………そんなふーにカッコよく倒したって無駄だもんね! さあ蘇れ『キメラ@雪スペシャル』ちゃん!」


 再び雪が魔力を発する。

 が、何も起こらなかった。


「………………あ、あれ? 『キメラ@雪スペシャル』ちゃーん……?」

「無駄だよ、もう斬っちゃったかんねー」


「な、何? 何で!? アタシの能力が敗れるなんて……そんなの有り得ない……魔法を使った? いや、ケンシのジョブに魔法は使えない筈……だとすると、さっき放った技に秘密が……!?」


「“風柳かぜやなぎ”は相手の力を利用して上手く捌きつつそのまま斬り伏せる攻防一体のカウンター技……逆に言えば、それだけ。ただの剣術だよん」


「なら一体どうして!? 何の能力を使った!?」

「別に何も? 強いて言うなら……魔力かな」


「魔力……まさか」


 首を捻って悩んでいた雪がハッと何かに気付き顔を上げる。


「『魔力差』を利用した……?」


 そうだよー、と頷く。雪は容易に噛み砕けない物を食べた様な、苦々しい顔をした。


 あーし達の強さには明確な指標がある……それが『魔力』の量。

 ここで重要なのはその差……例として魔力差がある一定の値までかけ離れている相手へ攻撃をしたとする。

 するとその攻撃がどれだけ、物理的、論理的に有効な攻撃であったとしても、差に応じて効果は著しく低くなるのだ。


 通常の軍事兵器がモンスターに効果が無い様に。

 MOBドライバーの武装があーし達ギルドライバーに余り脅威で無い様に。

 魔力に差があるだけで、意味が無くなってしまうのだ。


 そしてそれは、攻撃だけじゃない。防御にも同じ事が言える。


「つまり……どれだけ論理的にキメラが『不死身』だったとしても、圧倒的な魔力差さえあれば意味ないって事だねー」


「でもそれはありえない」


 と、間髪入れずに雪が否定する。


「だってアタシはおねーちゃんのデータを持ってるんだもん。キメラとの間にそこまでの魔力量の差が生まれない事はよく分かってる。増してやこれらはアタシが整備した特殊個体。魔力量は通常の13%も向上しているんだよ?」


「そうだねー……だから────『束ねた』んだよ」

「!?」


 ゆっくりと刀を抜き放ち、静かに力を込める。

 先程は分かり辛かったかもしれないが、今なら良く視えるだろう。


 刀身に宿った、濃密な魔力。

 黄昏時の夕陽の様に淡く橙色の光を放っている。


「どう? 理解した?」

「…………………う」

「う?」


「うわああっ! すっごおおおおおおい!! すごいすごおおおい! あははははは!」


 突然、雪は目をキラキラと輝かせてお気に入りのおもちゃを前にした子供の様に(いや子供だけど)無邪気にはしゃぎだした。

 

「何これ何これ!? 魔力が極一点に集中してるよ! ううん、ただ魔力を集中させるだけなら誰だって出来る。でも魔力差を創り出す程、濃厚に練り上げ研ぎ澄ますのは、強化魔法なんかの正規の手順を踏まないと普通無理……ってかそれでも難しいよ。それをこんなにあっさりとやってのけるなんて……!」


「お褒め頂きどーも」

「でもでも~おねーちゃん何か忘れてない? キメラちゃんにはぁ毒があるんだよ?」


 ニヤリ、と雪が口角を上げる。


「あーんな派手に斬ったんだもん。おねーちゃん返り血を浴びてもう動けないんじゃない?」

「……付いてる様に見える? 血」


 分かりやすくクルっとその場で回ってやる。

 雪はポカンと口を開けた。

 頭のてっぺんから爪先に至るまで、あーしの身体には一滴たりとも血が付いていない。


「うっそ……」

「血に毒があると分かっていれば、斬り方位工夫するっしょー」


「いやそれは凄すぎ……おねーちゃん、ひょっとしてアタシみたいな天才?」

「……ま、あーし最強だし?」


「あはは……! 分かった、認めるよ。おねーちゃんは確かにすごい!」

「えっへん。じゃ、大人しくお縄についてちょーだいな」


「クスクス……それはだめー! えへへ」


 雪は可愛らしく顔を綻ばせて腕を交差させ、ばってんを作る。


(困ったな)


 このまま不戦勝に持ち込めないかと淡い期待を寄せていたがどうやら駄目だったらしい。


「おねーちゃんのその剣。確かにキメラには有効かもね。でも、アタシ自身の『不死身』を無効に出来る程の強さは無いんじゃない?」


(やっぱり、感づいたか)


 こちらの沈黙を肯定と受け取ったか。雪が邪悪にほくそ笑む。


「おねーちゃんのその才能……是非じっくり研究してみたいなぁ……!」


(……っ!)


 目の前の少女から殺気が膨れ上がる。

 血相を変えて飛びかかる雪に対し反射的に刀を振った。

 鮮血がパッと白い砂浜に散る。


 ごろり、と雪の遺体が地面に転がった。

 

(やったか? いや……)


 気配は確かに遺体である。

 はたと見て分かる程の、生きてられぬ深傷。

 刀を通した手応えもあった。


 だが次の瞬間、嘲笑いながら少女は起き上がってくる。


「痛い。痛いよーおねーちゃん。次はもっと優しくしてよー……?」


 そのまま数度攻防が続いたが、やはり攻撃は意味をなさなかった。

 代わりに、向こうからこちらに対しての有効打も特に無いらしい。

 無意味な競り合いが続き、その度にあーしが雪を斬って、雪が蘇った。


(千日手ってやーつ?)


 心の中で舌打ちをする。

 面倒な事になった。


 作戦だけを考えるなら今のままでも問題は無い。

 ギルドライバーの数は江藤凛音を除いて六人。

 対する魔王軍幹部の数は霧生泉を除けばたったの四人。


 このままあーしと雪とで膠着状態が続けば不利なのは向こうの方である。

 あくまで、理論上は。

 

(問題は、凛音ちんっしょ)


 どんなに強がっていても恐らく江藤凛音と戦えるのはあーしと葵だけだろう。

 そして葵も、悲しいかな、別に弱い訳じゃないのだが、一人で魔王軍幹部に勝つ実力は無い。

 

(それを考えると、何としてもあーしが凛音ちんと戦いたかったけど……)


 江藤凛音が海から来る確率は結構高いと思っていたが、当てが外れたらしい。

 こうなっては仕方がない。

 みんなの覚悟を信じるしかないか。


「…………あはは」

「……?」


 一瞬、雪の笑みの中に何か黒い思惑が透けて見えた様な気がした。

 不利な筈のこの状況を雪自身が望んで生み出している様な……。


(時間稼ぎ……? まさかね)


 何の意図があるにせよ、こちらにはもう戦う以外の選択肢は無かった。


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