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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第十二話 第一次白百合攻防戦
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一章 開戦


 妖精と出会ったあの日から、左腕に装着したままのワークベンダー。

 今日初めて、ついてて良かったなーと思った。

 だってさ……さっきからもう何度も何度も、時間を確認したくなっちゃうんだもん。


 今、私と菫さんと西条先輩の三人は、この橋『ホープ・ブリッジ』の終端で進路を塞ぐ様にど真ん中に立っている。


 この橋は今日、WPFの情報操作によって通行止めとなっている。

 つまりここを通ってくる奴はみんな敵って事だね。


 嵐の前の静けさって言うのかなあ?

 天気は快晴。空には雲一つ無い。

 涼しい秋風が僅かにそよいでる。

 

 静かで、気持ちいい空気だ。

 後五分程で戦いが始まるなんて、信じられない位に。


「二人共、最終確認をしましょう」

「あ、はい」


 西条先輩に呼ばれた私と菫さんが、歩み寄ろうとした時。


「……あっ」

 

 足がもつれたのか菫さんがいきなり転んだ。

 大丈夫? と声をかけて手を差し出すと、「ご、ごめんなさい……」と照れながらどこかぎこちなく笑った。


「緊張してるの?」

「は、はい……さっきからふ、震えが止まらなくて……!」


 確かに繋いだ手から、菫さんの手の震えを感じる。

 不思議と、その事が何だか嬉しくて、私は彼女に微笑んでいた。


「分かる? 菫さん。私の手も震えてるの。私もおんなじだよ」

「え、先輩も? あ、ほんとだ……」


「確かに怖いよね。でも、だいじょーぶ! みんなと一緒だから。私には菫さんと西条先輩がついてるし、菫さんには私と西条先輩がついてるでしょ? だから大丈夫! 絶対に!」

「葉月先輩……ありがとうございます」


「決戦の前、誰だって怖いものですわね」


 やり取りを聞いていた西条先輩も頷く。

 菫さんはその言葉に、「意外です」と目を丸くする。


「先輩も『怖い』って思うんですか?」


「勿論ですわ。わたくしだって人間ですもの。わたくしは『怖い』とか『嫌だ』とか、その感情まで否定するつもりはありません。ただ貴族にはどの様な感情を抱こうと、『戦わねばならない』時もあるのです。その時に背を向けて逃げ出す様な、屑にはなりたくありませんので」


「あはは……なんか先輩らしいですね、それ」

「…………もしかして、馬鹿にしてます?」


「い、いえ! 滅相も無いです! む、むしろ安心したっていうか……頼もしいです。ありがとうございます、西条先輩」


「……まあ、いいでしょう。ですが……最終確認をする時間はもう無さそうですね」

「え? ああっ!?」


 菫さんが奇声を上げる。

 私も釣られて時間を確認すると、時計の針は丁度、真上……即ち『十二時』を指す所だった。


(時間だ……!)


 霧生さんからリークがあった決行時刻は十二時。

 予定通りならば、今からもう……。


(始まる……戦いが……!)


「……来ましたわね」


 ビリッ……と、肌が痺れる様な魔力のプレッシャー。

 巨大な『何か』の大軍が、視界の果てに薄っすらと見えた。


「二人共行きますよ……変身!」

「はいっ……変身!」 

「あ、は、はい……へ、変身! ですっ!」


『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “パラディン”!』

『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “ユウシャ”!』

『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “ソウリョ”!』




☆☆☆ ☆☆☆




「…………始まったみたいっすね」

「うん」


 ポツリと呟いた美春の言葉に私は頷く。

 私達はここ、白百合山の中腹から眼下の街を見下ろしている。


 遠い視界の端……島の北端に位置しているホープ・ブリッジから、三つの白い光が立ち上っているのが確認できる。

 それは、戦闘が開始された事を静かに告げていた。


「美春、私達もそろそろ」

「あ、はい」

 

『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “アサシン”!』

『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “レンジャー”!』 


 変身するのと同時に、美春が「先輩!」と声を上げ北西の空を指さす。


「キメラです! 飛んできます! すごい数……じゅ、十匹以上はいますよ……!?」


 私にはまだ何も見えない。

 だが美春の目は特別だ。

 彼女が言うのであれば、間違いなく敵がいるのだろう。


「作戦通り、美春はここから弓で迎撃。私は空に行きます」

「りょ、了解っす!」


 そう言って美春は即座に空に向かって弓を引く。

 一連の動作に少しだけ垣間見える緊張。


 何故だかそこに、たまらなくいじらしさを感じて、私は思わず笑みを浮かべてしまう。


「……せ、先輩? どうしたんすか?」

「美春、頑張ろうね。私、信じてるから」

「あ……は、はい! わ、私も……私も信じてます!」


 両手のワイヤーを伸ばして、近くの岩肌に引っ掛ける。

 勢いよく縮ませたその反動を利用して、空中に飛び上がる。


 空に待機していた計八機ものヘリコプターの内、中央に位置する一機にワイヤーをかけて飛び移る。

 側面にあるドアを開けると、内部の温かい空気が肌に触れた。

 

「運ぶのは二度目だな、ギルドライバーさん」


 パイロットの男性が振り返らずに言った。

 その声には聞き覚えがある。

 前に京都から東京に向かう時に、ヘリを操縦していたあのパイロットだ。


「ヨシダ・ジンだ。世界を守る手伝いが出来て光栄だぜ」

「黒森です。北西に、お願いします。ヨシダさん」


「了解! ……『“フォーミュラ1”より全機へ。当機はこれより北西に向かう。“フォーミュラ2”“フォーミュラ3”は作戦通り、ここから魔力弾による火力支援。残りは俺についてこい────』」




☆☆☆ ☆☆☆




「…………いや、海岸にいるのは分かるよ? 海からの敵を警戒しなきゃいけないだろうし」

「……んー? うん」


「キミ、ここで何やってるの?」

「見れば分かるっしょー? 座禅だよん」


 確かに。

 ウチの目がおかしくなければ彼女……えっと『ハスミアスカ』だっけ……? は砂浜で、これはまあ見事な座禅を組んでいる。

 それは確かに見れば分かる。分かるよ? でもここで大事なのは……。


「……何で、座禅?」

「そりゃ、精神統一っしょ」


(……意味が分からない)


 精神統一なら別に座禅を組まなくても出来る。

 座禅を組む事はこの場において、全く合理的じゃない行動だ。

 座る事で素早い行動が阻害されるし、目を瞑ってしまっては敵を察知する事も難しくなる。


「ウィズミン、それは違う。そもそも水中に敵がいるなら目を開けてようと見る事は出来ない」


(……!)


 少し、驚いた。

 存外理性的な回答が返ってくるではないか。


「ではどうやって判断すると?」

「魔力、しかないねー」


 成程。魔力による察知ならば、水中の敵も判断できるだろう。

 それを逃さぬ様、感覚を研ぎ澄ます為に精神統一をして集中力を高める。

 確かに、理に適っては、いる。

 が……。

 

「……その割には、ウチが近づいても臨戦態勢はとらなかったね?」


 そう。こいつは先程ウチが海から上陸した際に、体勢を変えようとは一切していなかった。

 別にウチは魔力を隠していた訳ではない。

 言葉通り集中していたのなら、必ず察知出来る筈だし、察知したならすぐに立ち上がって変身する筈だ。

 しかし、それをしなかった。これはどう考えてもおかしい。

 

 ……ところが。

 私の問いに彼女は全く動揺する事もなく、「そんなの当たり前っしょ」と言ってのけた。

 

「だって……あーウィズミン来たなー、ってすぐに分かったし」

「へー……魔力だけでウチと分かったって? ほぼ初対面なのに?」


「魔力だけって訳じゃないかなー。まずでっかい魔力が海中から一つ近づいてきた事からキメラじゃない、魔王軍幹部の誰かってのは分かる。そうすると誰? て事になるけどまず川上沙耶は違うよねー、能力的に海にはこないっしょ? 次に海野美玲も違う。リークされた情報の中に彼女が海中を進める能力は無かった……となると、後は三択。一ノ瀬雪か凛音ちんか、ウィズミン」


「…………それで?」


「ここで注目すべきは、やっぱスピードっしょ。一ノ瀬雪は不死身だから海中も進める、でもスピードはそこまででもない筈。逆に凛音ちんのロボちゃんはかなり早い。今回近づいてきてた魔力は遅くもないけど、早くもないスピードだった。まるで竜が泳いでるみたいな? ま……だからーウィズミンで決まりっ! て感じ」


(……こいつ)


 あまり敵に回したくないタイプだな。

 何も考えてないようでいて、その実、相当な切れ者だ。


「あ、そーいやあーしも聞きたい事あんだけど」

「……なに?」


 彼女は閉じていた瞳をスッと開くと、真っすぐにこちらを捉えて口を開く。


「あんた、いつ裏切んの?」


(……………………)


「それ、どういう意味かな?」


「やー……だって、もう決戦よ? いつまでそっち側にいんのかなー? ってさ。本当に世界の為を思ってるんなら、もう、あーしらと一緒に魔王軍と戦うべきじゃない?」


「そういう事なら、確かに悪いとは思ってる……でも、ウチの気持ちも考えてくれません?」

「どゆこと?」


「ウチは確かに他の魔王軍幹部……あの屑共とは違う。多少なり、良心がある。だからWPFとも接触した。でも、ウチの中に『世界を壊してしまいたい』って……その感情があるのもまた事実なんです」

「ふむん……つまり?」


「つまり……ハッキリ言ってしまうと、ウチは別にこの戦いで世界が壊れても、まあ、いいんじゃないかなって思うんですよ。どっちかと言うと、貴方達に勝って欲しいなって思うから、協力はしますけど。でも、どっちが勝つか、まだ分かんないじゃないですか? そうすると、ちょっと、万が一負けた時、怖いなあって……」

「……どっちつかずのコウモリちゃんって訳だ」


「嫌な言い方するなあ。怒ってます?」

「んー……いや? いいんじゃない、別に。打算的で人間味がある分、信用出来るかなー。あーしも別に理由が知りたかっただけだしねーそれにケチつけたい訳じゃないよん。あ、でも葵には黙っといた方がいいかも。多分、聞いたらメチャキレるし」


「肝に銘じておきますよ……さて」

「? どこ行くん?」


「北……橋に行きます。あそこ、多分一番やばいでしょ? 乱戦のどさくさ紛れにキメラ倒すくらいは、してあげますよ」

「おー……そりゃ、助かんねー。あんがと」


「どうも……ああ、それとキミ。そろそろ構えた方がいいよ。多分、もうそろそろ雪がここに来るから」

「んー……ご忠告どうも。でも心外だなー? これでもさっきからずっと身構えてはいるよん?」

「ふーん……」


『スキャン完了! 変身<エネミーチェンジ>! “リュウオウ”!』

『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “ケンシ”!』 


 同時だった。

 ウチの手刀が彼女の首に置かれるのと、彼女の刀がウチの首に置かれるのは。


「ね……言ったっしょ? 『身構えてる』って」


 彼女がニヤリと笑う。

 ウチが身を引くと、彼女も刀を納め変身を解く。

 そしてまた砂浜の上で足を組み、座禅を始めた。


(あの体勢、それも後から変身したにも関わらず、ウチと同時に技を繰り出した)


 面白い。ギルドライバー『最強』は伊達じゃない、か。


(さて、この戦い……どう転ぶかな?)


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