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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第十一話 日常の終わり
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九章 決戦前夜・下


☆☆☆ ☆☆☆




『おい見ろよ、凛音の奴! また給食の残りもん袋に詰めてるぜ!』

『うわ本当だ……きっも。死ねばいいのに』


 家に帰ったら、あったかいご飯が待っている。

 そんなの、私にとっては空想の世界だけ。


 パン一つでもいいから、必死になって持ち帰った。

 そうしないと、生きていけないから。

 

『前に俺、母さんに聞いたんだけどさ……凛音んち、給食費払って無いらしいぜ!』

『ウソ!? お金払って無いとか泥棒じゃん!』

『泥棒! 泥棒! 泥棒!』


 泥棒じゃない。

 確かに貧乏だったかもしれないけど。

 給食費は払ってたよ。お父さんは、そう言ってた。


『うるせえよバーカ!』

『死ねよ、泥棒凛音! いっつも薄汚い恰好しやがって! 臭いんだよ!』


 臭い……か。

 確かに、服はいつも同じ物だったし。

 お風呂は一週間に一回入れればいい方だったから、ちょっと臭ったかもしれない。


 でも、殴るのはやめて欲しかった。

 痣が出来ると、お父さんが悲しんだから。


『お父さん……ねえ起きて。何で起きてくれないの……? 凛音、怪獣倒したよ……?』


 悪い奴をやっつけたら、全てが丸く収まるなんて。

 現実でもそうだったら、どんなに良かっただろう?


 私のお父さんはもう二度と、目を覚ます事は無い。

 全て、私のせいだった。


 あの日……クーちゃんと出会ったあの日。

 私は白いパスを捨てて、黒いパスを握りしめた。

 気付いてしまったのだ。


 闇の正体。戦う事の本当の意味に。

 

(だから私が……正しく導かないと……)

  

『! 凛音……待って! お願い! 本当に敵になっちゃうの────!?』

「っ……関係ない……!」


 不意に聞こえた彼女の問いに、思わず声が出る。


 確かに彼女達と過ごした時間は、光は、とても温かかった。

 でも、駄目だ。あの時はっきりと分かってしまったのだ。


『死ね……死んでしまえっ! 私が……私がお前をっ! 殺してや────!』


 杠葉月が、川上沙耶に向けた純粋なる殺意。

 あの怒りに満ちた醜い顔。声。心。


 光も闇も、大きな力である事に変わりはない。

 力を手にすると変わってしまうんだ。

 どんなに優しい人であっても、一瞬で。


(菫は……知らないんだ)


 闇は、彼女達の想像以上に強いのだという事を。


 魔王軍幹部になった私にはよく分かる。

 ギルドライバーが何人集まろうと……魔王には絶対に勝てない。


 魔王パスを破壊する事は不可能。

 光も闇も、誰も信用する事は出来ない。


 なら……私が魔王パスを使えば……?


(ううん、それは駄目。私じゃ衝動に抗えない……!) 


「お父さん……」


 


☆☆☆ ☆☆☆




「どう志保? たまには貴方も飲む?」


 まもりさんがワイングラスを片手に問う。

 私が「遠慮します」と伝えると、短く「そう」と返して、中に入った赤ワインをあおる。


「……ほどほどにして下さいね。いよいよ明日なんですから」

「分かってるわ。だからこの一杯で終わり……」

「そうですか」


 深夜の休憩室は静寂に包まれている。

 今ここにいるのは私と彼女だけだった。


「飲まないならそろそろ貴方も寝なさい。明日は早いわよ? 戦闘が主目的じゃないとはいえ体力は大事なんだから……」


 今回の私の役目は、市民の避難誘導。

 理由は単純で、私が弱いからだ。


 京都での一件で、私が魔王軍幹部に手も足も出ない事は証明されている。

 となると後はキメラだが、奴はギルドライバーである橘と弓が二人がかりでやっと撃破出来る強さだ。

 ただのモンスターにすら苦戦する私に敵う訳がない。


「傷の調子はどう? まだ痛む?」

「いえ……杠や橘のおかげで、もう完治しています。少しだけ違和感もありますけどね」


「そう……それはよかった」

「あの、まもりさん」

「なに?」


「本当に、良かったんでしょうか? 杠に、その……言わなくても…………」


「……言えないわよ。言ってどうしろと? 奴らの真の目的は“貴方”ですよって? 聞けばきっと動揺するわ。そうすれば戦いに影響が出る。それに……万が一もありえる。我々に出来るのは、あの子の持ち場を出来るだけ山から遠ざける事だけよ……」


(葉月……ごめん)


 結局組織は、彼女を信じきれていない。

 組織だけじゃない。私も……その方がいい、と思ってしまっている。

 

 友達と言ってくれた彼女を。

 友達である彼女を。

 心の底から信じきれていない。

 

(私は、やっぱり……駄目な女だな)




☆☆☆ ☆☆☆




「成程ね。ハヅキとアオイとスミレが北にある橋の封鎖班。シグレとミハルが中央にある白百合山の中腹で対空迎撃。そしてアスカが南側の沿岸警備か……」


 流石に妖精は飲み込みが早いなあ。

 時雨の説明が上手いとはいえ、あっさり理解しちゃったよ。

 私なんて、まる一週間かけてようやく理解したのにさ……。


「それはハヅキが馬鹿なだけだよ」


 成程……ばっちり理解できたよ。

 どうやら久しぶりに瓶詰にされたいらしいね、この妖精君は。

 

「それで……どうやって敵を山に誘い出すんだい? どうやって敵からパスを奪取するんだい?」

「それは……」


 滔々(とうとう)と説明を続けていた時雨が、言いよどむ。

 というのも実は今回の作戦、肝心なその部分が決まってない。


 志保さんによるとそもそも作戦の立案段階では、スパイである霧生さんから魔王軍の侵攻ルートの情報を入手して、それから計画を立てよう、って話だったんだって。


 ところが残念な事に、霧生さんからその情報を入手出来なかった。

 霧生さん曰く、魔王軍幹部の人達は団結して何かしようとか、そういう意識があんまり無いみたい。


 みんな適当で、楽観的で、刹那的で、快楽的で、当日の予定や計画も殆ど定まってないんだって。


 だからどの侵攻ルートを誰が通るのか、全く分からないんだ。

 

「ふーん……それで対策を放棄して、防衛に専念する事にしたのか」

「放棄って言っちゃうと感じ悪いけど……もうそこらへんは臨機応変に対応してーって感じなんじゃない?」


「臨機応変ねえ……シグレには出来ても、ハヅキにはちょっと難しいんじゃない?」


 さてと……確か時雨の部屋のタンスは、二段目が小物入れになってたよね。

 昔は何かを詰めるのに丁度いいサイズの小瓶が入ってたけど、今も残ってるかなあ?

 何を詰めるとは言わないけどさ。

 

「作戦についてはこんな所だよ。妖精さんからは、何かある?」

「んー……そうだな。ボクはアオイとアスカの実力を知らないからなあ……詳しい事は言えないけど……まあ、中々いいんじゃない? 特に、ハヅキが橋封鎖班に入ってる所とかね。よく分かってると思うよ」


 へー……妖精にしては見る目があるじゃないか!

 やっぱり一番重要なポイントを任されるって、葉月ちゃんの実力があってこそだよねっ! 

 頼られてるっていうかさ!


「うんうん、そうだねー。だから……ハヅキは絶対に『そこから動いちゃダメ』だよ?」

「え? でも、臨機応変だから────」


「────何があっても! 特に、山には。近づいちゃダメだよ! 分かった?」

「? う、うん……」


 妖精の目に気圧されて、訳も分からず私は頷く。


 妖精のあの目、久しぶりに見たな。

 何かを訴えかける様な、強くて、でもどこか寂しそうな目。


「ほらハヅキ! そろそろ寝ないとダメなんじゃない? 寝不足で戦えませーんじゃシャレにならないよ!」

「はいはい寝ますよぉ……時雨も泣き止んだしね……」


「? 葉月、何か言った?」

「何でもないっ! おやすみ!」


 赤く染まる顔を隠す様に、電気を消して毛布にくるまる。

 布団には、痺れる程甘い花の様な香りが充満している。




 第十一話 おしまい。


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