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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第十一話 日常の終わり
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八章 決戦前夜・中


☆☆☆ ☆☆☆




 深夜の道場を照らす灯りは、蝋燭の仄かな光だけであった。

 

 中央で互いに礼をし、三歩下がって剣を構える。

 

(随分と、久しぶりに竹刀を握った気がするな……)


 相手は正眼(※剣先を敵の目に突きつける剣術における基本の構えの事。中段。)を取った。

 鋭い切っ先から、沸々と沸き上がる剣気を感じる。


 一方、こちらは無形。

 剣をだらりと下げ、脱力する。

 空気に溶け込む。自然と一体になる。自分がこの場で、この場が、自分。


「明日香ッ! しゃんと構えんかッ!!」


 圧をかけられるが、構えを変えるつもりは無かった。

 

(あーしは……これでいい)


 摺り足で互いの間合いが近づいていく。

 動いたのはほぼ同時だった。


 相手の剣がこちらの面を。

 こちらの剣が相手の胴を打った。


 剣速は僅かに相手の方が速かったと思える。

 

「だが……お前の勝ちだな、明日香」

「そうですね」


 相手の剣は浅かった。あれでは致命傷に至らない。

 真剣での戦いならば……こちらの勝ち、だろう。


「ありがとうございました……御爺様」


 礼を告げ、面を脱ぐ。

 御爺様も面を脱いだ。

 それほど動いた訳でもないのに、お互いに汗だくである。

 それだけ、良い緊張感だったのだ。

 握った得物が竹刀でも、まるで死地にあるかの様な。でも、心の中はどこまでも透明で。


(うん…………決めた)


「明日香よ……詠めぃ!」


~~【暗澹あんたんの 鈍色雲にびいろぐもの 地に在れど 我が心根こころねよ 碧羅へきらてんなれ】~~

       

「お前の辞世の句……確かに受け取った。その言葉、忘れるでないぞ」

「はい、心得ております」


 御爺様のおかげで、無事に【辞世の句】が決まった。

 これで、いつ死んでもよい。


(これがあーしの答え……決戦の前に、見つけられてよかった)


「じゃ、用も済んだことだし……おじいちゃんもパピー達と一緒にちゃんと避難してよー? まもりんが車用意してくれるからさー」

「馬鹿を言うな! 孫が戦場に行くというのに、わしだけ避難出来るかい! 正一しょういち優華ゆうかさんも同じ気持ちじゃ!」


「はあ……おじいちゃんも、パピーもマミーも我儘だなあ……ここに残ってたって、あーしの心労が増えるだけじゃん?」

「カカカ……いいプレッシャーじゃろ? わしらを殺したくなければ、精々頑張るんじゃな!」


 おじいちゃんの事だし、もうテコでも動かんねーこれは。

 まもりんに断りの電話を入れておかないとなー……。




☆☆☆ ☆☆☆




 白い指が滑らかに、白い鍵盤をなぞっていく。

 誘う様に指が踊り、音が部屋を支配する。


 情熱的に、煽情的に、されど優雅に。

 悲哀を、慈愛を、そして不安なわたくしの心を映す様に。


 規則的に熱されては冷めてを繰り返す。


 最後の一音。

 染み渡っては消えていく……。


 ────静寂。


 深く息を吐いてピアノを閉じ、席を立つ。

 化粧台に座り、鏡を見る。


 わたくしの顔がそこにはある。

 その目には色んな感情が混ざっている。

 

 不安、怒り、正義、恐怖。

 

(明日で……世界の命運が決まるのですね)


 そしてそれは全て、わたくし達の手にかかっている。

 怖くないと言えば、嘘になった。

 この『世界』という荷物は、わたくしの細い肩には……余りにも重すぎる。


(それでもやらねばならないのです、西条葵……!) 


 それが『西条』の家に生まれたわたくしの使命。

 生きる意味なのですから……。


(例え誰が立ち塞がろうと……容赦はしない)




☆☆☆ ☆☆☆




「そっか、ボクがいない間にそんな事が……」

「うん。だから明日、魔王軍幹部と決戦なの」


「うーんWPF……ハヅキ達以外のギルドライバー、アオイとアスカね。これで勇者の力は全て揃った事になるのか……」

「妖精さんも、やっぱりその二人を知らなかったんだ。でもそしたら誰が二人にワークベンダーを……? さっきお話してくれたクーデリアさんが?」


「いや、クーじゃないな。アイツがギルドライバーに力を貸す訳ない。やったのは……多分、リンネだな」

「え? 凛音が?」


「彼女はケンジャ。勇者の知恵と知識を司る。ユウシャの唱えられる魔法は一通り使えるだろうし……不可能じゃない筈だ」


「妖精……その話ほんと?」


 むくりと身体を起こして話しかけると、二人は同時にこちらを向いた。


「ハヅキ……起きてたの?」


 電気付けられて隣であんなぺちゃくちゃ喋られたら嫌でも目を覚ますっての。

 

「ごめんね葉月。起こしちゃったみたいで……」

「それは別にいーよ。それよりも、凛音さんが二人の事を助けてくれたって本当に?」


 私の言葉に妖精は頷く。


「うん。それ以外に考えられない」

「そっか……! じゃあ、やっぱり凛音さんは敵じゃないのかも……」

「葉月、その考え方は危険。現に凛音は菫を人質にしてその首まで切ってる。傷が浅かったし、葵さんがいたから良かったものの……何の処置もしなかったら菫は死んでたんだよ?」


 それは言われなくたって、私にも分かってる。

 それでもやっぱり、私は凛音さんを信じたい。

 

 だって一度は……確かに私達、仲間だったんだから。

 

「葉月……」

「今まで笑いあったみんなとの日常には……凛音さんだって、いたんだから」


「リンネについては、ボクもそこまで深刻に考える必要は無いと思うな」

「妖精も?」


 ちょっと意外だね。

 てっきり妖精は「そんなの甘すぎるよハヅキ! 敵は見つけたらすぐ殺すんだよ!」とか言ってくるタイプだと思ってたよ。

 

「ボクを何だと思ってるのさ……」

「腹黒妖精」


「…………いいかい? リンネは闇の力に選ばれた“魔王軍幹部”の一人だ。でも同時にリンネは光の力にも選ばれている。もし彼女の心が完全に悪に染まっているならば、勇者に選ばれるとは思えない」

「なら、やっぱり……!」


「何かの目的があるのは間違いないね。それがハヅキにとって有益なモノか害をなすモノかは、分からないけど」

 

「私、凛音さんとお話したいな」

「葉月……駄目だよ。持ち場はもう決まってるんだから」

 

 この一週間の間で綿密に作戦会議が行われた結果、私の持ち場はホープ・ブリッジ封鎖班に決まった。


 白百合に侵入するルートは三つ。

 陸、海、空の三種類。

 

 その内、陸はホープ・ブリッジを渡る以外に道は無い。

 つまり橋の入り口さえ封鎖していれば陸のルートは全て抑え込めるって訳。


 逆に言えば、ここが防衛に置いて最も重要なポイントになる。

 だから私の他に西条先輩、菫さんとギルドライバーが三人も配置されているんだ。

 

「葉月が離れたら、葵さんの負担が大きくなっちゃう……。だから駄目だよ」

「うん、分かってる……」 


「作戦ね……さっきシグレに聞いたけど、山に敵を誘い込んでパスを奪取する……んだっけ?」

「そうだよ」


「一つ疑問があるね。何故イズミというスパイがいながら、そんな回りくどい事をしなきゃいけないんだい? そもそもイズミを連れて山に向かえば済む話じゃないか」


「それは私達も聞いたよ。でも志保さん達が言うには、霧生さんは『やりたくない』んだって」

「『やりたくない』? そんな個人のわがままで?」


「どうもただのわがままじゃないみたい」


 聞いた限りだと魔王軍幹部の人ってみんな……『世界を壊してしまいたい』っていう強い衝動があるみたいなんだよね。


「衝動、ね…………」


 魔王パスに触れれば、世界を壊せる。

 実際にパスに近づいた時、衝動に抗えるか自信が無いって霧生さんは言ってたみたい。


 気持ちは分かるよね。もしそれで自分が世界を壊しちゃったら、て思うと……。

 背筋がぞっとするよ。

 

「ふーん……じゃあまあ、それはいいや。その持ち場っていうの詳しく教えてよ」


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― 新着の感想 ―
[良い点] こういう背景設定が深いけど無駄が多くないところ好き
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