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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第十一話 日常の終わり
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四章 訣別の時


「それは──────貴方よ……江藤凛音!」


 写真に写っていたのは、お人形の様な可愛らしい、小さな女の子。

 間違いない。私達の目の前にいる人物。


 江藤凛音さん、だった。


「り、凛音……? 嘘だよね……? ほ、ほら! 違うなら『違います!』ってハッキリ言わないと! 凛音は寡黙だから誤解されちゃうよ~?」


 菫さんは冗談めかして明るく言った。

 しかし凛音さんは、何も言わない。

 返事を待っていた菫さんは、黙ったままの彼女に焦れて、今度は山中さんと志保さんにその矛先を向けた。


「や、山中さんも! 志保先輩も酷いですよ! そんな冗談言って……お、面白くないと思います! はっすー先輩もそう思いますよね!?」 


「やー……悪いね、スミー。こればっかりは、ちょっとねー……」

「そうですわね。悲しい事ですが────」


 先輩達二人は銃を取り出すと、その先を凛音さんに向ける。

 気が付けば山中さんも、それに志保さんも。

 同じ様に黒い銃口を凛音さんに向けていた。

 

「そ、そんな……そんなの……」

「すまないな、橘。本当は君達に友情が芽生える前に処理したかったんだがな……」


「江藤凛音……余計な真似はせず、大人しく投降なさい。そうすれば命までは奪わない」


 凛音さんは顔色一つ変えず。

 ただ黙ってじっと、山中さんの手に握られた銃を睨んでいる。


「り、凛音! 何で否定しないの!? 否定してよっ!」

「離れなさい、橘菫。その女は危険です」


「勝手な事言わないで下さいっ! 凛音は、凛音は仲間です! 友達ですっ! 危険なんて────!」

「…………違う」

「え?」


 ずっと押し黙っていた凛音さんがようやく喋って、否定した。

 ……菫さんの言葉を。


「私は……菫、貴方達の仲間じゃない。あの人達の言う通り……貴方達の、敵。魔王軍幹部の一人……」

「う……そ……」


「その証拠に……」

「ッ!」


 凛音さんがゆっくりとポケットに手を入れて何かを取り出そうとした。

 だがその瞬間、山中さんの銃が火を噴く。


 薬莢の弾ける破裂音が部屋中に鳴り響いた。

 凛音さんが右腕を抑えて床に倒れ込む。

 抑えた傷口からは、真っ赤な血が床に滴り落ちていた。


「おかしな真似はやめなさい、江藤凛音。今のは警告です。次は頭を撃ちます」

「…………っ!」


 凛音さんは、痛そうに顔を歪める。

 山中さんが、手を頭の上にやってうつ伏せで寝る様にと、冷たく指示を出す。

 彼女が静かに山中さんを睨んだその時、二人の間に、菫さんが割って入った。


「や、やめて……! やめて下さい! 凛音を撃たないで……!」

「! ど、どきなさい橘菫!」


 菫さんは恐怖に震えながらも、両腕を広げて凛音さんの盾になる。

 僅かに、山中さんが動揺を見せる。


 その一瞬の隙を、凛音さんは見逃さなかった。


「きゃ!」


 凛音さんの腕が素早く動き、菫さんの身体を後ろから抱き寄せる。

 そしてどこに隠し持っていたのか……カッターナイフを手に持って、菫さんの首元にあてがった。


「……銃を降ろして。でなければ……橘菫を殺す」

「り、凛音……?」

「チッ! 厄介な事に……!」


「断ります。そうですわね? 隊長殿?」 

「……ええ、そうね…………どの道、貴方に逃げ場は無いわ、江藤凛音。こんなの、無駄な抵抗よ」


「……貴方達にとって、ギルドライバーが一人減る事は相当な痛手の筈。無駄ではない。もう一度言う、銃を降ろして」

 

「あちゃー……どうするーまもりん? 向こうは刺し違える覚悟、あるみたいよ?」

「はあ……だから言ったのです。ギルドライバーだからといって、生け捕りにしようだなんて甘いと。貴族としての責務を放棄した屑など、とっとと殺してしまえば宜しかったのに……」


「…………どうしますか、まもりさん?」

「五秒、数えます。その間に橘菫を離して投降しなさい。でなければ…………橘菫ごと、貴方を撃ちます」


 え……?

 す、菫さんごと撃つって、そ、そんな!

 そんなの駄目だよ……!


「杠、すまない。五秒、目を瞑っていてくれ……!」

「志保さん! 駄目────!」


「五、四、三────」


 山中さんのカウントが、部屋の中に木霊する。

 私の頭はこの状況に混乱するばかりで、どうする事も出来なかった。

 カウントが『二』まで進んだ時。


『ウウウウウウ! ウウウウウウ!』

  

 部屋中にサイレンが鳴り響いた。

 直後、爆発音と共に部屋が大きく振動する。


『こちらオペレーター201。隊長、応答して下さい!』


 天井のスピーカーから切迫した女性の声が聞こえる。

 

「一体、何があったというの!? 説明なさい!」


『緊急事態です! 未確認飛行物体が当アジトに衝突! その後、隔壁を破壊しながら高速で地下へ移動中です!』

 

「衝突……!? 迎撃システムは!? 予測出来なかったというの!?」

『それが、レーダーには一切の反応が無く……! 突如出現したか、或いは……!」


「ステルス迷彩だと……? 最新のレーダー網を潜り抜けるなんてそんな馬鹿な事……!?」 

『対象、地下十二階を突破! 十三階に到達します!』


 凄まじい音と、爆発。立ち込める煙。

 粉塵で薄れた視界の端で、崩落した天井から、現れた巨大な機械が目に入る。

 赤いカラーリングが施された、黒い流線形のメタルボディ。


(アイツ……京都で……!)


 京都で空から私の前に降り立ち、川上沙耶を担いで消えた、あの機体と一緒だった。

 

「…………お別れの時間」

「! 凛音……待って! お願い! 本当に敵になっちゃうの────!?」

「っ……!」


『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “パラディン”!』

『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “ケンシ”!』


 二つの眩しい光が部屋を包んだ。

 そしてそれがまだ収まらないうちに、猛スピードで凛音さんに向かって突進する。


 白く輝く槍と、煌めく刃を持つ刀。

 耳障りな甲高い金属音が部屋を支配する。

 二人の猛攻を、降り立った機体が装甲で受け止めていた。


「江藤凛音さん……交渉決裂とみなし正義の名の下に死刑とさせて頂きます……!」

「……断る」


 否定すると、今度は素早くポケットから黒いカードを取り出した。

 

(あれ……確か、川上沙耶も持ってた……!)


 という事は……あれが、エネミー・パスポート?

 凛音さん……本当に、敵、なの?

 ギルドライバーなのに? 魔王軍幹部……なの……?


『スキャン完了! 変身<エネミーチェンジ>! “クロキシ”!』


 紫紺色の光が、辺りを照らす。

 凛音さんの纏う衣装が、黒く塗りつぶされていく。

 気が付けば、近未来の雰囲気が漂う、赤い流星の流れる黒いスーツを身に纏っていた。


「おいで……“Cross Knight”!」 

 

 機体が凛音さんの方に腕を伸ばす。

 

「逃がしません!」


 西条先輩が槍を握りしめ走り出す。

 凛音さんは……菫さんの喉元を、躊躇なくカッターナイフで切り裂いた。


「!?」

「あ……か……は……?」


 喉から漏れ出る血で、菫さんが苦しそうに溺れ始めた。

 その間に、凛音さんは颯爽と機体の腕に飛び乗る。

 

(早く回復しないと……死んじゃう……!?)


「ちぃ……明日香!」

「分かってる……!」 


 西条先輩は凛音さんを追うのを止めて、菫さんの傍に駆け寄ると、回復魔法を唱えて治療しだす。

 一方蓮見先輩は、刀を鞘に納めて、体勢を低く、低くとった。


碧羅へきら流抜刀術──────“飛燕”!」


 白刃が一瞬の閃きを伴って空を翔ける。

 風を斬って進むその様は、燕に似ている。

 右腕に乗った凛音さんを庇う様に、機体が左腕を前に出す。


「エナジーシールド────!」

 

 左腕から現れる魔法障壁。

 刹那。 


 ガラスを引っ掻く様な耳障りな反発音がして、シールドが削られていく。

 

「! 届かない……か」

 

 ガラスが割れる音。シールドが粉々に砕け落ちる。

 それでも止む事の無い斬撃が左腕の装甲に傷を付ける……が、それまで。

 そこで勢いが止まってしまった。

 

 コックピットが開く。

 無人のそこに、凛音さんが乗り込んだ。


「り……ん……」


 苦しそうに治療を受ける菫さんを、凛音さんはちらりと見た。

 コックピットのハッチが閉じる。最早、彼女の表情は確認出来ない。

 背中のバーニアが点火される。

 

 轟音と共に機体は、地上へと飛び去っていった。

 

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