三章 女子高生と女子高生の敵
「さて、もう分かったとは思うけれど……我々の目的は、一つ。『白百合島に存在する魔王パスを確保し、この一連の事件を終わらせる』事よ」
「じゃ、じゃあみんなで白百合を探索して、魔王パスを見つければいいんですね!?」
「いいえ」
と、即座に山中さんは首を振った。
「え? え?」
「杠、確かにその通りなんだが……忘れてないか? 京都にもいただろう? 力を秘めた邪悪な奴らが……!」
「! まさか……『川上沙耶』?」
今度は、山中さんも頷いた。
「彼女達『エネミー・パスポート』を持つ者……即ち『魔王軍幹部』は、私達と同様に魔王パスを狙っている。その封印を解き放ち、魔王を復活させる為にね……! 杠葉月、貴方が京都で接触した川上沙耶もその一人よ」
「エネミー・パス……? 魔王軍幹部……? 魔王の……復活……!?」
うーん駄目だぁ……!
じょ、情報が濃すぎるよ……!
醤油をそのまま飲んでるみたい。しょっぱくて胸やけしちゃうよ……。
魔王軍幹部の名前自体は、京都でも聞いてたけどさあ。
改めてそれを言われると……しかもしかも、魔王を復活させようとしてるって!?
どー考えても現実的じゃないよー!
「葉月、それを言ったら私達ギルドライバーの存在も十分現実的じゃないと思う」
「それくらい分かってるよ! 分かってるけどさあ……!」
「その……『魔王軍幹部』? というのは……そういう『組織』って事でいいんですよね? どの程度の規模なのですか?」
「いい質問ね、弓美春。現状我々が把握している情報によれば……『魔王軍幹部』は合計“五人”の人間によって成り立っている」
人間、と山中さんははっきり言い切った。
やっぱり私達の敵は人間なんだ。
それも五人も、川上沙耶の様な人間がいる……。
「より詳しく話を進めていきましょう。上のモニターを見なさい」
ブゥーンという低い唸り声と共に、中央上部にあった大きなモニターが起動する。
山中さんが手元の端末を操作すると、モニターにある女性の顔写真が映し出された。
「ええ!? こ、この人って……!?」
その人を見て、菫さんが急に大きな声を出す。
何だろう、私もどこかで見た覚えがあるような……?
「う、海野美玲ですよ先輩! 超人気女優ですよっ! 映画『ときつた』の桜ですよっ!」
そうだ、テレビで見た事がある。
最近色んなドラマや映画で主演を務めて、バラエティ番組でも引っ張りだこ。
そんな今をときめく人気女優、海野美玲に間違いない。
(でも何で今その写真を……?)
出す画像間違えちゃったのかな? 山中さんって、意外とおっちょこちょい!?
そんな馬鹿な考えも一瞬浮かんだけど、当然そんな訳もなく。
「海野美玲、二十四歳。三年程前にモデルから女優へと転身し、一躍人気者となった芸能界のスター。でもその裏では、人間を洗脳し操る能力を持つ魔王軍幹部が一人。手にしたエネミー・パスは……【“傾国”の『ヴァンパイア』】」
「えええええええ!? う、海野美玲が!? 桜が魔王軍幹部なんですか!? そんなぁ……私ファンだったのにぃ……!!」
「だから言ったじゃないですか……簡単に人を信じちゃ駄目だって」
「うぅ~そういう意味だとは思ってなかったよ~!!」
菫さんががっくりと肩を落とす。
ちょっと可哀想だけど……でも確かに、この人が人気者って事はさ。
本性を知ったら、こんな風に肩を落とすファンが、全国に沢山いる訳で。
それを想像すると……なんだろう。
止めなきゃいけないな、ってそう、強く思ったんだ。
山中さんがまた、手元のコンソールを弄りだす。
すると今度は、また別の顔写真が現れた。
「うわぁ……綺麗な人……!」
映ったのは、日本人離れした金髪と青い目を持つ美しい女性。
長いまつ毛の瞳は、微かな憂いを帯びて見える。
「霧生泉、十九歳。千葉県の私立百瀬が丘大学に通う女子大生ね。国籍は日本人だけど……まあ見ての通りのハーフよ。母親がスウェーデン人、父親が日本人ね」
「こ、この人も『魔王軍幹部』なんですか?」
「そうよ。彼女の持つパスは……【“連立”の『リュウオウ』】。伝説上の怪物ヒュドラの様に、多数の分裂体を創り出せ、強力な再生能力を有している」
ふーん……つまり、滅茶苦茶にタフな奴って事かな。
でも……こんなに綺麗な人も敵……なんだね。
また写真が変わった。
そこにいたのは……アイツだった。
「川上……沙耶……」
「そう。杠葉月は、京都で接触しているわね。裏社会で活躍する殺し屋で、炎を操る狂犬【“悪食”の『ケルベロス』】。性格はとても残忍で、粗暴。人を傷つける事を何とも思っていない、とても危険な女よ」
そうだ。アイツは、志保さんをあんなに苦しめて傷つけて……。
私が今まで出会った中で、最も酷く、悪意に満ちた人だった。
(もし次に出会ったら、今度こそ)
『私 が 殺 さ な い と』
「葉月、大丈夫?」
「え?」
「何だかとても怖い顔をしていたから」
「私が? 何で?」
「…………なんでもないなら、いいの。ごめんね」
「ううん。別にいいけど……」
「次の人物にいきましょう」
今度の写真に写っていたのは、今までと打って変わってとても小さな女の子だった。
多分、まだ小学生くらい……? 特徴的な真っ白い髪を揺らして、無邪気に笑っている。
「凛音と同じくらいの背だねー! どっちが高いかな?」
「…………どっちだっていい」
「この子は……一ノ瀬雪、十二歳。【“平等”の『イモータル』】という自分や相手を不死にする能力を持っている。三年前、自らの手で自分の両親を殺した殺人鬼で……元、WPFのメンバーよ」
「え……!?」
気のせいかもしれないけど。
山中さんは、一瞬とても悲しそうな顔をした。
でも次の瞬間にはまたいつも通りのクールな表情になって、説明を続ける。
「彼女は所謂『天才』だった。現代のアインシュタインと呼んでもいい……その世代の技術力、科学力を爆発的に上昇させる様な、才能に満ちた少女だった。今思えばそれも……エネミー・パスの影響だったのかもしれないけれどね……。私達が彼女を見つけたのは、彼女が両親を殺害した事件。驚く事に……彼女には完璧なアリバイがあった」
「アリバイ……ってじゃあ、犯人じゃないんじゃ……?」
「葉月……彼女が敵ならきっと、魔法の一つや二つ使えた筈だよ」
「あ、そっか……」
魔法はかなり便利で、何でもありだしね。
妖精とかよく分かんないけど浮いてるし。時雨も鍵のかかったドアを開けたり出来るし。
アリバイくらいならきっと何とかなったかもしれない。
「そうね。実際の所は、そうしたのかもしれない。でも恐ろしいのはね……彼女、すぐに自首したのよ」
「へ?」
「最初は警察も相手にしなかった。でも彼女は実に理路整然と話したそうよ。いかにして自分が両親を殺して完璧なアリバイを創り出したか、その方法をね」
「そんな……」
子供が、自分の親を殺すなんて。
私には、ちょっと信じられないよ。
確かに世の中には、酷くて、親とも呼べない様な人もいるんだって事は、理解してるつもりだよ?
でもそれを十二歳……いや、三年前だから、九歳?
僅か九歳の女の子が、殺したい程憎むだなんて。
一体、何があったらそんな事になるんだろう?
それともこれも……悪い力の影響、なのかな。
「警察は……両親を亡くしたショックで彼女は精神が崩壊したのだ、と処理した。そして表向き、事件は犯人無しの迷宮入りとなった。しかしその裏では……彼女に対しての司法取引が行われた」
「まさかそれが、WPF?」
そう、と山中さんは短く答える。
「知能・知識テスト、その全てで、彼女は殆ど満点に近い点数を取った。中には一流の大学で研究する学者達ですら頭を抱える様な難問もあったのにね……。その成績を高く評価され、WPFの科学班にスカウトされたの。WPFは優秀な人材であれば出自は問わないからね。実際に……何を隠そう、MOBドライバーを開発したのも彼女の研究チームなの」
「え!? そ、それって……敵が開発した物を使ってるって事……!?」
「何が言いたいのかは分かるわ。『危なくないのか?』って事でしょう?」
そ、そりゃそうだよ!
MOBドライバーを使ってるのは志保さんなんだよ!?
そんな敵が作った物使ってたら、弱点だってもろバレだし。
な、なんか毒とか爆弾とかこっそり仕込んであるかもしれないじゃんか!
「その点だけは安心していい。あの子は……そういう子じゃないから」
(……?)
なんだろう。
ほんの一瞬だけ、また山中さんが悲しそうな目をした。
「あの子は、完璧主義者のロマンチスト。余計な機能を追加して自分の『作品』を汚す様な真似はしない……ま、それにちゃんと別の技術者に調査をさせて裏付けも済んでるしね」
そ、それならまあ……大丈夫……なのかなあ?
「でもなんでその雪ちゃん? は、敵になっちゃったんだろ……? 一度は協力してた……って事ですよね?」
「あの子は純粋な知識欲の塊。自らの知的好奇心を満たす為ならなんだってするわ」
ぼそり、と山中さんは一言、付け足した。
空気に掠れて消えてしまいそうな声量だった。
「…………本当は、私達大人がちゃんと、導いてあげないといけなかったのに」
(山中さん…………)
今、初めて、山中さんの心の中を覗けた気がする。
最初はとても冷たい人だ、と思っていた。
何で志保さんが命令を聞いているのか、よく分からなかった。
でもそれがようやく……少しだけ、分かった様な気がした。
山中さんはふう……と長く息を吐いた。
「これで……四人目まで、紹介が終わったわね」
確か……『魔王軍幹部』は五人ってお話だったよね?
てことは……残るは後一人、か。
「ねーゆみみ! どんな人だと思う!?」
「そうですね……わざわざ最後に紹介するくらいです。きっと一番の大物なんでしょう」
「とんでもない怪物みたいな人だったりしてね! 凛音はどー思う!?」
「…………………………」
「? 凛音……?」
「最後の一人……それは────」
またモニターの、写真が変わった。
「え…………?」
そこに映っていた人物の顔に、私達は驚きを隠せなかったんだ。
「それは──────貴方よ……江藤凛音!」
写真に写っていたのは、お人形の様な可愛らしい、小さな女の子。
間違いない。私達の目の前にいる人物。
江藤凛音さん、だった。




