八章 私の友達
「志保…………起きて……」
「先輩……?」
誰かに。
名前を呼ばれた様な気がして。
私はゆっくりと目を開けた。
そこにいたのは、想像していた人物ではなかった。
彼女は私が目を開けた事に気が付くと、嬉しそうに笑った。
「良かった! 目が覚めたんだね、志保さん!」
どうやら私は彼女の膝を枕に、眠っていた様だ。
回復魔法、とやらの力なのだろうか?
あれほど深く傷ついたにも関わらず、私の身体は細かい傷が残っているだけ。
少し怖かったが、腕や足を動かしてみると、何の痛みも感じなかった。
傷を治してくれてありがとう、と私が告げると、彼女は俯いて押し黙ってしまった。
「……どうしたんだ?」
私が聞くと、
「ごめんね」
彼女は、ぽつり、と呟くと、目線を逸らす。
「私……殺せなかった。志保さんが、あんなに傷ついて……人だって沢山死んじゃって……やらなきゃなのに。私、殺せなかった……! 怖かったんだ。自分が、自分じゃなくなっていく様な気がして……怖かったの……!」
ぽたり、と熱い雫が、私の頬にぶつかっては弾けた。
雫は雨の様に彼女の瞳からとめどなく流れては、落ちた。
私は彼女の頬にそっと手を添えて、その涙を拭う。
「それでいいんだ……お前は、それでいいんだよ。だから、もうそんな事で謝るな……」
「志保……さん……」
「私の為に怒ってくれた。それだけで、私は嬉しかったよ。正体を隠し続けてきた私に、こんなに優しくしてくれて……“友達”と、呼んでくれた。お前のその優しさに……私は救われたんだぞ────……葉月?」
「! 志保さん、今……何て……?」
「ほ、ほら! 私も、目が覚めたし? そ、そろそろ行くぞ、杠!」
私は赤く色づいた顔を隠す様に急いで横に向け、勢いよく身体を起こし、その場に背を向けて前へと歩き出す。
後ろで、彼女の…………私の友達の、笑い声が聞こえた。
「えー待って待って! もう一回! もう一回呼んでよ志保さーん!」
第十話 おしまい。




