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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第十話 本気の戦い
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七章 集いし者達


「菫さん……残りの魔力は?」

「後、一回分くらいなら……」

「……厳しいな」

 

 と、思わざるを得ない。

 あの色々ごちゃ混ぜモンスター、正直見くびっていた。

 

(龍の鱗に弓は効果が薄い……それにアイツ、飛ぶわ速いわで狙いがつけ辛い)


 持ってる武器もビームソード、ビームライフル共に強力で、遠距離・中距離・近距離と、全てにおいて隙が無い。


 一番辛いのは、私も菫さんも後方支援役って所だろう。

 せめて凛音さんがここにいれば、と考えたくなるが、泣き言を言っても結果は変わらない。

 先輩達から留守を任された以上、私達が何とかしなければいけない。


(現状を再確認しよう)


 予想以上の強さを持っていたアイツに対して私達はビルを盾に逃げながら反撃を続けていた。

 しかし、それも効果が薄く決定打にかける。


 今は何とか奴の視界から逃れて、ビルの上層に逃げ込めた。

 奴はまだ下の道路をうろついて私達を探している。

 しかしそれも時間の問題だろう。地上にいないと分かればすぐに空を飛んで上にやってくる。


 ここまでの戦いで消耗した結果、菫さんの回復魔法も残り一回となってしまった。

 即ち、これ以上の被弾は『死』に直結する。何としてでも避けなければ、私達は……。


(『死ぬ』……)

 

 改めて、自分のやっている事を理解させられた気がする。

 戦いの果て、敗北が何を意味するのかを知らなかった訳じゃない。

 想像していなかった訳じゃない。


 それでも、心のどこかで抱いていた『私なら大丈夫』という、根拠のない安心感。

 それに縋っていた自分を、無理矢理に見せつけられている、そんな感覚。

 

(時雨先輩達は凄い……)


 菫さんが仲間になる前は、傷を癒す手段なんてなかったと聞いている。

 それはつまり、二人はいつもこんな気持ちで戦っていたという事なのだろう。 

 

「ゆみみ、大丈夫……?」

「え?」


 ふと気が付くと、菫さんが心配そうにこちらを覗き込んでいた。

 

「なんか青い顔してるよ……ひょっとして、まだ傷がある?」

「い、いえ……大丈夫です。戦えますよ、まだ」


「…………本当に?」

「はい、本当です。大丈夫、作戦ならあります」

「さっすがゆみみ! 頼りになるね!」


「いいですか? 奴の身体は硬くて、矢が刺さりません。なので確実に頭を狙って一撃で倒す必要があります。その為にも接近して────」

「────伏せて!」


 突然、飛び込んできた菫さんに押し倒される。

 直後に、物凄い爆音と共にビルの窓が吹き飛んだ。


 窓の外では、翼を広げた奴が鋭い目で睨みつけている。

 手に持ったライフルがきらりと光り、弾丸の雨が私達に降り注いだ。

 

「神よ、我らを守り給え!」


 菫さんがすぐさま防御壁を展開し攻撃を防ぐ。

 だがもう彼女の魔力は底をつきかけている。

 今も力を振り絞っているのか、唇を噛み締めて、額には大粒の汗が浮かんでいた。  


(こうなったら、もうこのまま撃つしかない!)


 私は弓を構えた。

 勝負は一発。防御壁から横に飛び出して、その瞬間に頭を射抜く。 

 もしも外せば、そのまま蜂の巣にされて死ぬだろう。

 私だけじゃない、菫さんもきっと死んでしまう。


(でもこのままじゃあ、確実にやられる……!)


 何もしないで死ぬくらいなら、生き残る確率がある方に賭けて死んでやる。

 私の弓に、全ては懸かっているんだ。


(待て……気負うな。そう、弓は心を映す……)


 こういう大一番こそ静かに弓を引く。

 そう、教わったから。

 

 私は深呼吸をして、敵を見据える。

 大丈夫……外さない。絶対に当ててみせる。

 

「私が……守ってみせる!」


 タイミングを見計らい、防壁から横に倒れ込む様に飛び出す。

 地面に着地するまでの一瞬。

 狙いをつけて、矢を放つ。


「当たれえッ!」


 私の放った矢は真っすぐに飛び、奴の頭に吸い込まれる様に突き刺さった。

 

「グギャアアアアアア!?」  


 断末魔を上げて、奴が落下していく。

 徐々に灰に変わった身体が、空気に溶けて消えていった。


「やった……!」

「えへへ……やったね、ゆみみ! 私、もー限界だよぉ……!」


 菫さんの変身が消える様に解ける。

 言葉通り、限界だったのだろう。

 そのまま、地面に倒れ込んで目を瞑ってしまった。


「ちょっと、待って下さいよ菫さん……まさかここで寝ようってんじゃないでしょうね?」

「あはは……だめ?」


「駄目ですよ……私だってもう限界なんですから。おぶって帰るなんて無理ですからね」

「じゃあせめて十分だけ休憩しないー? ゆみみも変身解除しなよー……」

「……そうですね。じゃあ十分だけ────」


 そう言って、変身を解除しようとした。

 その瞬間。


 凄まじい爆音と揺れによって、私達は吹き飛んだ。


(何が!?)


 分からない。

 分からないが、このビルが、斜めにひしゃげて崩れ落ちようとしていた。

 視界の端で急速な坂になった床の上を、菫さんの身体が転げ落ちていくのが見える。


「菫さんっ!」

 

 間一髪彼女の右手を掴み取り、壁から剥き出しになっていたパイプにぶら下がる。

 その時、私の見えすぎる目は、ばっちり下の様子を映しとった。


 そこには、先程、私達があんなに苦労して倒したモンスターが、更に『二体』。

 我が物顔で道路を闊歩かっぽしていた。


「うそ……でしょ……」


 全身の血の気が、サッと引いていく。

 絶望とは、きっと、こういう事を言うのだろう。


「ゆ……みみ……ごめ……」

「菫さん! しっかりして下さい、今引き上げます……!」


 とは言うものの、私も、もう限界だった。

 自分の身体を支えるのが、精一杯。

 このまま掴んでいたら、二人一緒に落ちて死ぬ。


 頭の中の冷静な自分が、菫さんの手を離せ、と叫んでいる。

 私は歯を食いしばって、必死にそれと抗っていた。

 

「私……もう、眠い……から……」

「ば、馬鹿! 今ここで寝たら絶交ですよっ! いいですか!? 絶対にそんな事、許しませんよ!?」


「離して……いいよ……?」

「馬鹿ッ……! そんな事言われたって……私、離せないよ……!」 


 ドン! と身体に振動が走る。

 崩落したビルが、隣のビルにぶつかったのだ。


「あ────!」


 衝撃で、手がパイプから滑り落ちる。


(落ちる)


 浮遊感が、全身を包み込む。

 私は菫さんの身体を抱きしめて、目を閉じた。


(死ぬ! 死ぬ! 死ぬ────!)


 頭の中で連呼される、『死』。

 だが、それが訪れる事は無く。


「え……?」


 私達の身体は優しく、ふわり、と浮くと、何者かの手によって、地上にゆっくりと着地した。

 

「何が……?」

「────貴方達の『覚悟』……見届けました」


 逆光の中。

 輝いている、紫色の花が刻まれた白い鎧と、白い槍。

 大人っぽい、ボブパーマの女性が、こちらを見て、にっこりと微笑んでいた。


「あ、貴方は……?」


わたくしは西条葵<サイジョウアオイ>と申します。貴方達と同じ、ギルドライバーです」

 

 西条葵。

 そう名乗った女性は、胸元からカードを取り出して私に見せる。

 白い裏地に、紫のライン。中心に、“パラディン”と小さく描かれている。

 間違いなく、ジョブ・パスポートだった。


「ギ、ギルドライバーがいた……? 私達以外にも……?」


 そんな話、私は聞いていない。


「知らないのも無理はありませんわ。わたくし達の存在は秘匿されて来ましたから……」

「……わたくし……『達』?」


 その時、上空から一人の人物が、すたり、と地面に降り立った。

 橙色をした紅葉柄の和装に身を包んだ女性で、ぼさぼさっとした、天然パーマの髪は茶色く染められている。


 腰には、朱塗りの鞘の刀を一振り、下げていた。


「やー……ギリギリ間に合ったーって感じ?」

「五十二秒の遅刻……軍法会議ものですわね、明日香」


「えー……相変わらず厳しいなあ、葵はさー。屋上に指名手配犯がいたからぁ、ちょっと追いかけてたんよ……逃げられちったけど」

「言い訳は見苦しいですね。作戦は絶対……わたくし達の行動一つ一つが、庶民の方々の命を左右するのです。それを理解しなさいと何度も────」


「ちょ、ちょっと待って下さい! あ、貴方もギルドライバーなんですか……?」

「んー? えっと……葵? この子、どちらさん?」


「資料に載っていたでしょう……弓美春さんと橘菫さん。わたくし達と同じ、“選ばれし者”ですわ」

「やー……そっかそっか。スミーと……美春だからえっと……ミハエルでいっか。あーしは蓮見明日香<ハスミアスカ>。『はっすー』でいいよん。ま、これからよろー……って事で」


 ず、随分とノリが軽いな……。

 多分、私の苦手なタイプだ、この人。


「やー……んで、さっきの質問? あーしがギルドライバーかって? 答えはもち! ほれ、これジョブパスねー」 


 そういって、こちらに見せる様に白いカードを前に突き出す。

 オレンジ色のラインが入っていて、中心に“ケンシ”の文字があった。

 どこからどうみても、ジョブ・パスポートだ。偽物には、見えなかった。


「じゃあ、本当に、仲間……なんですか?」

「はい。ですので、ここはわたくし達に任せて下さいな。貴方達は、ゆっくりとお休み下さい」

「ま、そゆことでー」


 お二人は私達に背を向けると、二体のモンスターに向き合った。


「あ、き、気を付けて! そいつ、見た目はそんなですけど、かなり強いんです!」


 私が忠告すると、彼女達は顔を見合わせた。

 そして、同時に笑い出す。


「御心配には及びませんわ。何故なら────」

「まー大丈夫っしょ。なんせ────」


 槍が、刀が。

 交差してくうに煌めいた。


 葵さんの振る槍が右のモンスターの腕をライフルごと貫く。

 明日香さんの振る刀が左のモンスターの腕をソードごと切り裂く。


 返り血を浴びながら、二人は言う。


わたくし……“貴族”ですので」

「あーし……“最強”だから」


(す、すごい……!)


 開いた口が塞がらないって本当にあるんだなって思った。

 二人共……とても強い力を持っている。


 腕を失い、倒れ伏すモンスターはその後成す術もなく。

 瞬く間に二人の手によって討伐された。


「ふいー……これで終わり────じゃ、ないね?」

「ええ、どうやらもう一体いるようですわね────?」


 彼女達がモンスターを倒したその後ろから、更にもう一体。

 四体目が出現した。

  

 すぐに二人共臨戦態勢を取る。

 が……何故かその場に固まった様に、動かなくなってしまった。


「ど、どうしたんですか……?」


「葵……これどーしよ? 身体、めっちゃ痺れんだけど……」

「これは……毒……いつの間に……?」


 動かなくなった二人に、モンスターが狙いを付けた。

 ビームソードが、唸りを上げて起動する。

 

「やー……けっこーピンチってヤツ?」

「馬鹿を言ってないで、早く解毒しなさい! 魔力で体内の活性化をすれば────」

 

 その時上空から、激しく音が鳴り響く。

 見上げると雲を引き裂いて何かが飛んでいる。


「およ? あれは……まもりんの?」

「……そうみたいですね」


(あれは────!)


 私の目が、ばっちりと捉えた。

 その何かから『あの人』が飛び降りる瞬間を。


 天より降り立つ、一本の矢となって。

 時雨先輩が、風と共に、モンスターを切り裂いて現れた。


「お待たせ美春、菫。間に合ったみたいで、良かった」


 先輩はいつもと変わらない笑顔で、にっこりと私に微笑んだ。


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