五章 重なる力
☆☆☆ ☆☆☆
「酷い…………」
ちょっと前までは、あんなに人も沢山いて。
綺麗だった京都の街並みは、地上に降り立った時には既に影も形も無かった。
そこに広がってるのは燃えた地面。火を上げるビル。漂う煙に散った瓦礫……。
まるで爆心地となったかの様な荒れ具合。
(ううん。まるで、じゃない。実際に爆発があって、そしてみんな吹き飛んだんだ……)
私は……。
私は、ただ怖かった。
こんな恐ろしい事を、本当に一人の人間が引き起こしたの?
信じられないし、信じたくなかった。
(それでも……!)
今から、そいつと戦わなくてはいけないんだ。
…………そいつは、この廃墟のど真ん中で、大きな瓦礫を椅子に座っていた。
「来たか…………!」
私の顔を見ると、ニヤリ、と笑った。
背筋が凍り付くような、悪に満ちた笑いだった。
「し、志保さんは、どこ!?」
「ああ、そういう約束だったっけ……ほら、くれてやるよ」
ゴミを投げ捨てる。動きに似ていた。
それぐらい無造作に、川上沙耶は地面に落ちているそれを掴んで、こちらに放り投げた。
咄嗟に、それを両手で受け止める。
ぺちゃ。
同時に、顔に何か温かい液体が付着した。
私は、それを腕に抱えて……言葉が、出てこなかった。
「わりぃわりぃ! ちょっと遊びすぎちまってよ。もう死んじまうわ、多分」
「志……保……さん……?」
私は……人間を抱いていた。
その事に一瞬気付かない程に、志保さんの姿は変わり果てていた。
両手両足は切断され、切断面は焼かれたのか黒く焦げている。
身体の至る所に夥しい数の火傷と痣が刻まれていた。
顔中は血だらけで、歯は全て抜かれ、目も抜き取られたのか暗く落ち窪んでいる。
辛うじて生きてはいる。MOBドライバー……外部から供給されている魔力が、ギリギリの所で志保さんの命をここに繋ぎ止めている。
(でも、このままじゃ本当に……)
早く治さないと、本当に死んでしまう。
傷を癒せるのは菫さんだ……でも菫さんはここにはいない。
(私に……私に力があれば……!)
「菫さん……お願い……力を……力を貸してっ……!」
天に祈った。魂に祈った。
分からないけど、この想いはきっと届くって、そう、信じていた。
『いいですよ、先輩。使ってください、私の力……!』
声が聞こえたんだ。
そして私の目の前から、眩い光が発せられる。
光は、一枚のカードの形をしていた。
「ありがとう、菫さん……」
『デュアルスキャン! “ソウリョ”! フォーム・チェンジ! “セイクリッド”!』
「へえ……それが噂の“デュアルスキャン”って奴か。おもしれえ……!」
笑う敵を無視して、志保さんに手を当てる。
私の手から溢れる魔力の光子が、志保さんの身体を癒していく。
とりあえずは、応急処置。
手足と目の傷を塞いで、歯を治して……細かい傷は、ごめん。
後で必ず治すから、今は耐えて欲しい。
「ゆ……ゆずり……は……?」
「ごめんね、志保さん。私が、あの時逃げ出しちゃったから……でも、もう大丈夫だから」
「どう……して……?」
「え?」
「どうして……助けに、来たんだ……? 私の……役目は……お前達を逃がす……事、で……!」
「そんなの、決まってるよ」
だって志保さんは『友達』だから。
私にとって志保さんは、時雨以外に出来た初めての同級生の友達なんだよ。
「ともだち……?」
そんな大切な『友達』が傷つけられて……黙って見てられる程、私、賢くない。
「だから、志保さんはここで待ってて……」
志保さんを寝かせて、私はあいつと……川上沙耶と向き合った。
川上沙耶の身体は、燃え盛る灼熱の炎に包まれている。
吹き荒れる熱風が、私の髪を逆立てた。
「挨拶は終わったか? そろそろおっぱじめようぜ」
「その前に、一つ聞かせて。何で、あんな事をしたの?」
「……あんな事?」
「志保さんを人質にするのは、分かるよ。でもあんな風に、目をくりぬいたり歯を抜き取ったりする必要は、どこにもない」
川上沙耶は私の質問に、少し考える素振りを見せた。
そして、特に感情の籠っていないトーンで返事をする。
「知らね。楽しいからじゃね? 強い敵と戦うのも面白いけどさあ、弱い奴いたぶるのもやっぱ楽しいじゃん? 自分の強さがよく分かるっつうか」
「…………そっか」
聞いてよかった、って、今、心底思ったよ。
「おい、もういいだろ? とっととやろうぜ!」
「悪いけど……もう駄目だよ」
「あん?」
「もう遅いからね……もう……泣いて謝っても……絶対、許さない」
人間が、相手とか。
殺すとか、殺されるとか。
そんな事頭から抜け落ちる位に、感情が高ぶってる。
私の心に呼応するかのように、胸のパスが熱く、熱く、輝きだす。
(大丈夫、分かってるよ)
私は、胸から二枚のパスを抜き取る。
今、私の手の中には、時雨から託されたパスも合わせて合計で、三枚のジョブ・パスポートがある。
私はこの三枚……つまり、“ユウシャ”・“アサシン”・“ソウリョ”の三枚を、『同時に』ワークベンダーにスキャンした。
『スキャン完了! “ユウシャ”! “アサシン”! “ソウリョ”! トリプルスキャン! フォーム・チェンジ! “ディメンション”!』
力を重ねれば重ねる程に。
私の姿は、更に一段階、その先へと進化する。
その衣装は、宇宙を映しとった様な黒いパーカー。緑と青の星が描かれている。
その名も“ディメンション・フォーム”。
文字通り、これまでの私とは別次元の魔力を有している。
「最初に言っておくけど……私、手加減する気ないから」
力尽きました。
毎日投稿はここでやめます。
元通りマイペースにいきます。




