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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第十話 本気の戦い
80/162

四章 はっぴば~すでー!


☆☆☆ ☆☆☆




「何なの、あの子はッ!?」


 葉月がユウシャに“変身”してビルの屋上から飛び降りたのを見送って、山中さんは悪態をついた。

 もう、彼女の銃は私を向いていない。結局初めから撃つ気なんてなかった、という事だろう。


「はあ……貴方の友人、滅茶苦茶ね」


 そうですね、と私は笑った。

 確かに葉月はいつも突拍子もないし、頑固でこうと決めたら曲げないし、他人を優先してばかりで自分の事なんて二の次にするし、滅茶苦茶な女の子と言われれば、その通りだと思う。


 でも。


「そんな子だから……私、葉月を愛してるんです」


 にっこりと微笑む私に、山中さんは呆れた様に首を振った。


「…………正直、貴方達ギルドライバーの事は、まだよく分かっていないの。貴方のジョブ・パスポート、彼女が持って行っちゃったけど……このまま出発しても、いいのよね?」

「はい。大丈夫です」


 ジョブ・パスポートは適応者の元に勝手に辿り着く。

 今まで試した訳ではないけれど、私が必要になればパスは私の所に飛んでくる。

 そう、確信があった。


「エネルギーは?」

「残り五秒でチャージ完了です」


「よし、出しなさい!」

「了解!」


 ヘリコプターの駆動音が増していく。

 少しだけ重力を感じさせて、地上から浮いた。

 そのまま機体はビルを離れ、抵抗感なくするすると空中へと昇っていく。


(葉月……どうか、無事で……)




☆☆☆ ☆☆☆




「ねえゆみみ」

「……なんですか?」


「“こいつ”……本当にモンスター?」

「…………さあ?」


 東京の街中に突如出現した“こいつ”。

 ワークベンダーも反応してるし、普通に考えればモンスター……の筈。

 確かに見た目もモンスターではある。……色んな意味で。

 というのも“こいつ”。

 色んなモンスターの特徴を無理矢理混ぜ合わせた、みたいな見た目をしているのだ。

 

 まず頭だけど……これは完全にグリフォンだ。あの鳥頭は見た事がある。以前、私が撃ち落とした奴にそっくりだ。

 

 身体は多分、ドラゴン。鋭い鱗がびっしりとこびりつき、剣の様な尻尾が生えている。


 次に腕だが……あの特徴的な緑色の肌、恐らくオークの物が使われている。


 腕に握った武器は、マシーナの物だろうか? 巨大なビームソードと、ライフルを持っている。


 羽も生えている。あの巨大な鳥の羽……ロック鳥の物だろう。まさかとは思うがあの巨体で飛ぶ……のだろうか?

 

 足は十本付いていて、カニの様な見た目をしている。

 どっしりとしていて、力強く、しっかりとバランスが取れている……風に見える……けど。

 …………何で、カニ? ちょっと趣味が合いそうにない。 


 これらのパーツが、あちこちツギハギだらけでくっついている。

 フランケンシュタインも真っ青というグロテスクさである。


「突然変異……じゃ、ないよね……?」

「そしたら、こんな手術跡みたいなツギハギは付かないかと……」


「じゃあ、やっぱり……」

「『誰かが作った』ん……でしょうね」


 改めて口にする事で、事の重大さに気付いた私と菫さんは、その場で凍り付いてしまった。

 今までにあったこの一連の不可解な事象。

 これら全てが、ある一つの事を物語っている。


 即ち、『私達以外の何者か』の存在。

 相手が、魔王とか、悪魔とか、地獄の大王とか、悪い神様とか、そんな非日常的な相手ならいい。

 余計な事を考えずに、戦えばいいんだから。


 でも、もしかしたら。


 その相手が、私達みたいに力を秘めた……『人間』かもしれないんだ。

 

(私達は……一体、『何』と戦ってる……? これから『何』と戦わされるんだ……?)




☆☆☆ ☆☆☆




「はっぴば~すでーとぅーゆー! はっぴば~すでーとぅーゆー!」


 楽しそうに歌を歌う雪をウチは黙って眺めていた。


 雪は、この高層ビルの屋上のへりに乗っかって、くるくる回って踊っている。

 何とも器用な物である。足一つ分位しかない細さなのに、ろくに下も見ようとせずきゃっきゃっと笑って騒いでいる。しかもこの高さだ。結構風も強いというのに、まあよくやる。

 

 こうしてふざけて遊んでいる姿を見ていると、年相応の……ただの女の子にしか見えない。

 だがウチは知っている。その脳内では、常人には考えられない程の悪意が渦巻いている事を。


「はっぴば~すでーでぃあ……『キメラ』ちゃーん! はっぴば~すでーとぅーゆー! おめでとーありがとー! いやーアタシってばやっぱ天才だよね~!」


(キメラ……ね)


 天才、と自画自賛したくなる雪の気持ちも分からないでもない。

 あの醜悪な見た目のモンスター。確かによく出来ている。


 グリフォンの賢さ。


 ドラゴンの頑強さ。


 オークの力強さ。


 マシーナの武器。


 ロック鳥の飛行能力。


 カニマミレの………………待って。

 何で足、カニ……? 


 あれ!? 何で足の部分、カニにした!?

 確かに一見バランスは取れてるけどでも関節部分に弱点があるからめっちゃ取れやすいよね、あれ!?

 もっと他に良いのあったよね、絶対!?


「分かってないなー泉おねーちゃんは! 足がカニだとぉ……」

「足がカニだと……?」


「実験中につまみぐ…………なんかロマンがあるから」

「実験中につまみ食いって言わなかった今!?」

 

「え~言ってないよぉ~?」

「言ったよねぇ!? バリバリ言ってたよねぇ!? なんか部屋にやたらカニの殻落ちてると思ったらそういう事だったんだねぇ!?」


「アハハ! まあ確かに失敗した奴は食べたりもしたけどぉ……本当の事言うと遺伝子配列の問題上、あれぐらいしか合うのが無くてぇ……まあ、苦肉の策……的な?」


「それを先に言ってよ……びっくりしたなあ。じゃ、まあ足が弱点なのはどうしようもないって事?」


「そういう事! あ、でも安心して? 血にワームの毒液を混ぜ込んでおいたから、足が千切れても嫌がらせ位は出来ると思う」

「……ふーん」


 流石に抜け目がない。

 弱点にトラップを仕込んでいるとはね。

 面白い事を考えるものだ。


 ワームの毒液か……致死性は無くても痺れて動きが止まる位はあるかもしれないな。


「さあ! みてみてっ! キメラちゃんがいよいよ戦うよー!」


 雪が嬉しそうに双眼鏡を構えながら眼下のキメラを指さす。

 その前には、人間の女が二人いた。

 僅かに感じる魔力……ギルドライバーだろう。 

 片方は確か……スミレ……だっけ? ソウリョの力を持つ者だった筈。


 もう一方は最近仲間に加わったと聞いた。

 名前は……えっと……駄目だ。

 日本語はどうも覚え辛い。全く思い出せない。

 でもあの姿、レンジャーの力を持つ者か。


「……うん?」


 その奇妙な現象は、正に、この時起きた。

 キメラが敵の姿を捉え、ギルドライバーの女子二人も臨戦態勢に入った。


 その瞬間。


 スミレ……ソウリョの身体が突然、光り輝いた。

 いや正しくは、ソウリョの身体ではなく、その胸。

 つまり、胸につけたジョブ・パスポートが光りだしたのだ。


(あれが噂の……? だがあの光、ユウシャの共鳴反応ではなかったのか?)


「なにあれなにあれ!? パスが消えちゃったよ!?」

「パスが消えた……?」


 雪から双眼鏡を借りて、ソウリョの胸を覗き込む。

 

(これは……?)


 その胸からは、確かにパスが消えていた。

 まるで、何処か遠く、別の場所に飛んだように。


「成程、『所有権限の委譲』か」

「なにそれ? 泉おねーちゃん知ってるの?」


「パスには、正しい所有者の下に自動的に行きつくという特性がある。これらは所有者の持つ権限によって引き起こされる物。ソウリョのジョブ・パスが消えたという事はつまり……」

「『所有者が別の人間になった』……って事? そんな事、出来るの!?」


「うん。お互いが了承すれば相手に権限を委譲出来る」

「お互いって……あの子も了承したって事? 誰に? どうやって?」


「私達には分からない魂の繋がりを通じて、権限の委譲が起きたのかと」

「あれ? でもおかしいよ? 権限が移ったって言うなら、あの子変身解けるんじゃないの?」


 確かに、雪の言う通り、パスはもう手元に無いのに、変身は継続したままである。

 これは、どういう事なのか?

 

「推測だけど……所有者となった何者かが、彼女の変身を許可しているんだと思う」


 権限を利用した力の共有。

 かなりの高等技術だが、不可能ではない。

 

「へえ~……ギルドライバーってそんな事出来るんだぁ……面白ーい! いいなー色々研究したいなあ……! ねね! 計画が成功したらギルドライバーを二匹捕獲してもいーい!?」

「うん、いいよ」


「やったーっ! 泉おねーちゃん優しいー! サイコー! マジ女神ー! 愛してるー!」

「……っ! そっ、そんな、大袈裟な……!?」


 あくまで無邪気な発言なのだろうが……いきなりそんな事言われると、流石にドキリとしてしまう。


 こんな事で心を乱されるとは、我ながら情けないではないか。

 子供とは中々恐ろしい物だ。油断できない。

 今後は、何を言われても動揺しない様にしよう。

 ウチはそう固く心に誓った。


(そうじゃないと……感づかれてしまいますからね)


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