一章 女子高生、二話目にして説明回に入る
「言ってないじゃんか!」
東京から南に位置する島『白百合島』。その島と本土を結ぶ橋、『ホープブリッジ』の下。
島側の砂浜の上で、私は大きな声を上げる。
「えー? ちゃんと言ったよー?」
とぼけた声をだしたのは、異世界から来たとのたまう自称“女神”の妖精。
先日、こいつがいきなり現れて、『世界を救え』と言ってきたんだ。
最初は信じられなかったけど、目の前で暴れるモンスターを見たら、そうは言ってられなかった。
私は言われるままに、ユウシャの証“ジョブ・パスポート”を“腕時計式携帯型簡易職業斡旋所”『ワークベンダー』にかざして、変身した。
その時は色々大変だったけど……何とかモンスターに勝利。
その日以来、世界を救う為に各地に出没したモンスターを倒す活動をしている。
今日もドラゴンを討伐して、その帰りだったんだよね。
「言ってない! 私ちゃんと思い出したんだからね! 一言もジョブ・パスポートが複数あるなんて話聞いてない!」
「『勇者の力はバラバラになっちゃった』って言ったじゃないか。勇者の力……即ち“ジョブ・パスポート”が複数ある事くらい分かるでしょ?」
「いや分かるか! ややこしすぎるわ! 大体戦闘中に言ってたやつだよねそれ。そんなの憶えてる訳ないじゃんか……!」
「なにさ、ハヅキの頭の悪さをボクのせいにして!」
ぷんぷん! って口で言いながら頬を膨らまして怒る妖精。
まあ、確かに言ってはいたから私が悪かった面も無きにしも非ず……か?
「全くこんなちんちくりんがユウシャ様だなんてあり得ないよ。女神は一体何を考えてるんだ?」
前言撤回こいつが悪い。瓶詰にして海に流してやろう。
そう思い、カバンの中に丁度いい瓶がないか探していると、はたと気付く。
「そういえば、何で女神の事をそんな他人みたいに呼ぶわけ? 女神って自分の事じゃないの?」
前に剣について説明する時も、女神が勇者に加護を……とか言ってた。
でも自分が女神ならその言い方は少し違和感がある。
「ああそれは……確かにボクは女神だけど、実権を握っているのは別の個体だからだよ」
「別の個体?」
「女神って言うのはボク達の名前なんだ」
「組織名って事?」
「いや、うーん。なんというか自分が沢山いるんだよ。双子とか分身とかクローンとか……そういうのとはまたちょっと違って、本当に自分自身が沢山いるんだ。二重人格の別人格が存在していると考えれば分かりやすいかもしれない」
「別の人格……」
もう少しマイルドな性格の方はいらっしゃらなかったのですかね?
株式会社女神は人材不足なのかな?
「そう。それで、ボクはその中でも実務担当なんだ。加護を与える相手を選んだりするのは別の個体がやる事で……ボクには権限がないんだよ。本来ならお互いの行動は把握しあえるんだけれど、権限が無い事は分かんないからね」
「なるほど……下っ端か」
「下っ端言うな!」
結構気にしてたのかな? ……これはいい弱点を見つけたかもしれん……!
「それで、下っ端くんよ?」
「下っ端はやめて!」
「そのバラバラになったジョブ・パスポートはいくつあるんだい?」
「勇者様がなられたジョブを考えると……ユウシャパスを除いて、後六つだね」
「六つ……か」
正直、想像より多い。
ジョブって仕事の事でしょ?
六つも掛け持ちしてたのか勇者様は。とんでも超人だね。
「世界を救うなら“ジョブ・パスポート”は集めないと。今のハヅキじゃあ“ダンジョン”のモンスターには厳しいと思うし」
「……“ダンジョン”?」
知らない単語が飛び出した。
「あれ? 言ってなかったっけ?」
「今度こそ初めて聞いたぞ。“ダンジョン”ってなにさ?」
「よし! 説明しよう!」
妖精はそう意気込むとどこからかスケッチブックを取り出してパラパラとめくりだす。
────ってちょっと待てえ!? 本当にどこから出したそれ!?
明らかに身体よりでかいだろうが!?
(ハヅキ。それは言わないお約束だよ)
こいつ……心の中に直接……!?
「さあみんなあつまってー! これから“ダンジョン”についての説明をはっじめっるよー!」
妖精がスケッチブックを空中に固定して語りだす。
もう何でもありだね。魔法って凄い!
ぱらりと、ページを捲ると、絵本の様な可愛らしい、クレヨンで描かれた文字が目に映る。
『ダンジョンとギルドライバー』
「……ぎるどらいばー?」
ダンジョンだけじゃない。別の横文字も出てきたぞ?
「はい。ギルドライバーとはダンジョンを語るうえで欠かせない人たちの事です。後で説明するので、まずは、ダンジョンについてお話します」
妖精が再びページを捲る。今度は絵が出てきた。
頭を抱える人の絵。その隣にはぐるぐると黒い渦の様な物が描いてある。
「“ダンジョン”とは、ずばり! 『人が抱える迷いや悩み』の事です! よいこの皆も日常生活で色んな事で悩んだり迷ったりするよねー? お姉さんも今日どんな服を着ていこうか迷っちゃいました!」
誰がお姉さんだ誰が。というかお前はいつも同じ服だろうが!
(ハヅキ。それは言わないお約束だよ)
こいつ……心の中に直接……!?
「人が迷ったり、悩んだりすると、負のエネルギーが生まれます。通常、このエネルギーが影響を及ぼすことはありません。しかし、今この世界には普通と違う点が一つあります。それは、魔王です!」
「魔王……!?」
妖精がページを進める。
角の生えた怪物が、黒い渦の形を変えていく絵。
「負のエネルギーがたくさん集まると魔王の力によって心に迷宮が生まれます! それを“ダンジョン”と呼びます」
「ま、待って! 質問です!」
「はい! なにかなー? ハヅキちゃん」
「魔王ってそもそも何なの!? 世界を救う事と関係してる訳? まさか、倒せっていう話じゃあ……」
「いい質問ですねハヅキちゃん。結論から言うと、世界を救う事に大いに関係しています」
「じゃあやっぱり魔王を倒さないと……」
「いいえ。倒す必要はありません」
「え?」
「何故なら魔王はまだこの世界にいないからです」
「ど、どういう事?」
(ここからはとっても長くなるからよいこのみんなは時間のある時に読んでね!)
こいつ心の中で注意喚起を……!?
説明中↓
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「順を追って説明します。まず私達の住む世界とハヅキ達の住む世界。仮に両者の違いをとって、私達の世界を“魔法界”。ハヅキ達の世界を“科学界”としましょう。今から遥か千年は昔、魔法界に危機が訪れました。科学界から魔王が、世界を破滅に導かんと現れたのです」
「私達の世界から魔王が!?」
とても信じられない。だってこの世界の人の強さなんてたかが知れてる。
格闘技の世界チャンピオンだってドラゴンやオークに勝てたとはとても思えない。
「はい。何故魔法の無い筈の科学界の住民がその様な力を秘めていたのかは不明です。分かるのは、実際に魔王はとんでもない力を持っていた事。世界を破壊しようとしている事でした。私達は必死に抗いましたが強大な魔王の力になす術もなく、魔法界全ての人間が諦めかけたその時! 勇者が降臨したのです」
「……勇者」
正直、勇者についてはずっと気になっていた。
一体どんな人物だったんだろう。
「勇者は魔王と同じく“科学界”からやってきました。しかし、転移の反動からか記憶を失っていました。覚えている事は、自分が『ジョシコウセイ』だった事だけ」
「じょしこうせい?」
意外過ぎる結末……! まさかまさかの女子高生。
女子高生で勇者ってどういう属性の盛り方なんだろうね?
最近の流行りだったりするんだろうか?
「私達は言葉の多くを理解できませんでしたが……勇者は魔法界の現状を憂い、魔王と戦ってくれました。多くの困難がありましたが……私達は魔王に勝利し、その力を封印する事に成功したのです」
「じゃあ魔王はもういないって事?」
「そうですね。ですが……問題はそれからです。封印された魔王の力は……還ってしまったのです」
「還る?」
「つまり、魔法界から科学界に。元々いた場所に還ってしまった。私達は焦りました。封印したとはいえ魔王の力は十分すぎる程強い。あるだけで人々に影響を及ぼしてしまう程度には。それが影響で済めばいいが、もし誰かが力を悪用し魔王が復活するような事があれば……」
「世界が……破壊される?」
妖精は、静かに頷いた。
「魔王の力に対抗するには勇者の力に頼るしかない。私達は勇者の力を特殊なカードに封じ、科学界に送りました。それがジョブ・パスポートです。問題は誰もが勇者になれるわけではないという事。勇者の力は、勇者本人にほど近い……即ち『ジョシコウセイ』にしか適正がなかった」
「それで、私に? でも女子高生なんて他にも沢山いるけど……」
「そこが不思議なんだよねー。ボクは最初、ジョシコウセイは特殊な職業かと思ったんだけど別にそうじゃないし……でも、パスがハヅキにしか反応しないのも事実なんだよねー……多分、ジョシコウセイの中でも更に勇者に近いものじゃないと駄目なのかも……」
「勇者と私は似てるんだ?」
「うーんどうだろう? 勇者は記憶を失ってたからなー。ハヅキよりは物静かだったかな」
多分それ、大抵の人が当てはまると思う。
「顔はよく分かんない。人間の区別は難しいんだ」
お前も顔は人間だろうが!
(ハヅキ。それは言わな──)
そのネタしつこい。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
説明終了↑
「さあ気を取り直して、続きを説明していきます!」
また、その口調に戻すんだ……。
「さっきの説明でダンジョンが生まれる仕組みは分かったかな? 実はダンジョンには驚くべき効果があるんだよー! それは──」
またスケッチブックが捲られる。
そこには、渦の中から、怪物が出てくる絵。
「じゃーん! なんと! モンスターを生み出しちゃいます! すごーい! ダンジョンに住むモンスターは抱えた迷いと共に大きくなっていき、そして最終的には……精神世界と現実世界の壁を乗り越えてしまいます!」
成程。つまり、今まで倒してきたモンスターはみんなそのダンジョンからやってきてたって事か。
でも今の説明、一つ引っかかるぞ。
「待って。それだと、現実に来たモンスターよりダンジョンのモンスターの方が弱いって事になるんじゃ?」
元々この説明は、ダンジョンのモンスターは強いって話から始まったはず。
なのに今の言い方だと、ダンジョンにいる方が弱いってことになってしまう。
「またまた良い質問ですね! 答えは単純で精神世界と現実世界の壁って壊すのにかなりエネルギーを使うんです。だから、この世界にいるモンスターなんて出涸らしみたいなものなんですよー」
出涸らしって……。
それが本当だとしたら確かに今のままじゃやばい。
握力だけで壁壊したり、ビル溶かす様な高温の炎を吐いてきたりする化け物が出涸らしとか、信じたくない。
「ダンジョンには危険がいっぱいだって事、分かってくれたかなー?」
「うん。地獄なんだね、ダンジョンって」
「そんな危険な場所にも果敢に挑戦していく人たちがいます! その名も──」
ぱらり、と次のページへ。
そこには明らかにタッチの違う、筋肉ムキムキのお兄さんの絵。
ピッチピチの洋服に、『ギルドライバー』と書かれている。
「冒険者<ギルドライバー>の皆さんでーす! わー! すごーい!」
チラッとこっちを見る妖精。こっち見んな。
つっこんで欲しいのか?
絵のタッチ違うやん! 劇画タッチって子供泣いてまいまっせ、妖精はん! ってつっこんで欲しかったのか?
浅はかなり、妖精……! 私がこんな見え見えの罠に引っかかるとでも思うてか!?
…………十秒位待ったらすっごい悲しい顔をしてきたから、仕方なくつっこんであげたら、物凄い笑顔になった。
解せぬ。
「ギルドライバーとは! ジョブ・パスポートの力を使いモンスターと戦う人達の事を言います!」
「それって……私もギルドライバーってことに?」
「うん! ハヅキも立派なギルドライバーだよ!」
劇画タッチの絵を見せられながら言われても全然嬉しくないのはなんでなんだろうね?
心理学の研究テーマにしてほしい。
「ギルドライバーの人達は被害を未然に防ぐ為に、危険を顧みず、果敢にダンジョンに立ち向かいます! 私達が平和に暮らせるのも彼らのおかげなんですねー」
妖精がスケッチブックの最後のページを捲る。
大きな文字で『おしまい』と書いてある。
「──と、こんな感じだけど、どう? 分かってくれたかな?」
「うん。何となくね。皆を守ろうと思ったら、ダンジョンってのに挑戦しなきゃ駄目ってことは分かった」
「そーだねー。現実の被害がどーでもいいって言うんなら外に出てきたモンスターを倒せばいいんだけど……守りたいなら行かなきゃ駄目だね」
「……ありがとうね」
「え?」
「私に言わなかったの、わざとでしょ。未熟なうちに私が知ったら……挑んでそのまま死んでたと思う。元々、経験を積んでから行かせる気だったんでしょ?」
「……ハヅキ」
「……なに?」
「……驚いたよ。ハヅキにそこまでの知恵があったなんて……」
「明日いい感じの瓶買いに行こうか。自分の棺桶ぐらい選びたいでしょ?」
私のありがとうを返せ、下っ端。




