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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第九話 黒いパスポート
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五章 Encounter


 翌朝、人の気配がしてぼんやりと眠りから現実に引き戻される。

 顔にうっすらとかかる誰かの吐息に、寝ぼけ眼を擦りながら目を開けた。

 

 そしたら目の前に時雨の寝顔が合った。

 丁度お互いに向き合って、私は腕の中に抱かれる様な形。


 なんだ時雨かよ……と思って、また目を瞑った。


 ……って、いやいやいやいや、私。ちょっと待て。

 

 おかしいよね? 今修学旅行中だったよね?

 急速に覚醒した脳みそをフル回転させて、目を閉じたまま考える。


 まずは落ち着いて状況を整理しよう。

 昨日の夜、私達は思い思いに布団を敷いて、眠った。

 

 この部屋にいるのは六人。当然、布団も六つだ。

 入り口側から見て、右に三つ、左に三つという様に三つずつ布団を並べてある。

 

 右側にはギャルさんのグループが、左側には私と時雨とそして白銀さんが寝ていた。

 

 それで私はえっと奥に寝てて、時雨が中央で、志保さんが手前だから……時雨は私の隣の布団にいた訳だ。


 ここでこの状況を鑑みる。


 考えられる可能性は三つ。


 ① 時雨が私の布団に入ってきた。

 ② 私が時雨の布団に入った。

 ③ 誰かが私と時雨を同じ布団に入れた。


 まず③の可能性は低すぎる。こんな事する目的が無い。という訳で除外。

 次、②の可能性。これもない。こんな事、私してないし。


 つーことは、だ。

 ふっふっふ……これで謎は全て解けたっ!

 正解は、①! 時雨! お前、勝手に私の布団に入ってきたな!?


「正解は④……葉月の寝相が悪すぎてあちこち転がりまくって皆に迷惑かけたから、仕方なく私が抱きしめて眠った……だよ」


 すいませんでした。




☆☆☆ ☆☆☆




「二人共、ちょっといいか?」


 改めて目が覚めた私達はおはようの挨拶を交わしたんだ。

 そんで、この後の自由行動について、あーしたいこーしたいと意見を言い合ってる最中だった。

 ずっと黙ってた志保さんが、そう切り出した。


「なに? 志保さんも行きたい所あるの?」

「その事なんだが……すまない。今回の自由時間、私にくれないだろうか」


「……どゆこと?」


 言ってる意味がよく分からない。時雨も同じみたいだった。


「前に……聞かれたな。私の、MOBドライバーについて」

「う、うん。でも、今は答えられないって……」


「ああ。あの時は無理だったんだが……先日、遂に許可が下りた。それに、それだけじゃない。モンスター大量発生事件や……戦わなきゃいけない敵についても。私が知っている全ての情報を、お前達二人に話したい」


 その為にも、ある場所に案内したい、と志保さんは言う。

 ついてきてくれるか? という彼女の質問に、私達は頷いた。



 

☆☆☆ ☆☆☆



 

 志保さんの案内の元、京都市街を歩いていく。

 天気は快晴。


 もう九月とはいえ、こんなに晴れてると結構暑いね。

 汗かいてきちゃったよ。


 それにしても、京都にもオフィス街? ビジネス街? っていうの、存在するんだね。

 何かびっくりしちゃったよ。

 あっちを見てもこっちを見てもビルばっかなんだもん。


「景観を崩さない様に高さには制限があるんだよ。具体的には、三十一メートル。階数に換算すると、約十一階以上は禁止されてるみたい」


 驚く私に時雨が教えてくれる。

 なんてゆーかコイツ、よくこういう事知ってるよね。

 昔っからよく分かんない雑学とかちょー詳しいしさ。


 前に一度聞いたんだよ、どこでそんなの憶えてくんの? って。

 そしたら、こういうんだよ。「本で見た」とか「テレビでやってた」とか。

 

 もう閉口したね。いやそりゃやってたんだろーけどさ。そんなの普通憶えてらんないっての。

 悲しいけどおつむの出来が根本から違うんだな、って子供ながらに悟ったよね。


「志保さーん……まだぁ?」

 

 なんて下らない事を考えていても体力は消耗していくんだよね。

 正直、もう歩き疲れたよ。

 三十分以上、何もなく歩いてるよ。


「安心しろ、もうそろそろだか……ら?」


『~~♪ ~~♪』


「すまない、電話だ……はい、志保です。こちらは今向かってるとこ──」

『すぐに安全を確保しなさい、志保!』


 志保さんの相手は随分な剣幕で、何かを叫んでるみたい。

 若干、音が漏れてるしね。詳しい内容は分かんないけど、すぐに何かしろ! みたいな事が聞こえた。


「何かあったんですか!? 今、そっちに向かっていますが……」

『“彼女”から連絡が入った。川上沙耶が京都に向かっていると……』


「何ですって!? 奴が、京都に……!?」

『それだけじゃない! 東京が奴らの襲撃を受けるという情報もある! こちらに来ているなら、すぐに合流しなさい。最悪、京都支部を失ってでもギルドライバーの両名は東京に送ります!』

 

「……了解!」


 志保さんが険しい顔で、電話を切る。

 素人の私でも何となく想像つくよ、やばそうな事が起きてるって事はさ!


「杠、黒森! 落ち着いて聞いてくれ。東京に敵が現れる」

「! でも、向こうには菫さん達が……」


「いや、恐らくそれじゃ戦力が足りない! とりあえず、急ぎアジトに案内する」

「……アジト? そこに向かってたって事?」


「そうだ! その屋上にある新型の超高速ヘリを使って、お前達を東京に送り返す」

「ヘ、ヘリって……ヘリコプター!?」


「ああ。MOBドライバーと同じ魔動力を主にしていて、最高で時速1200キロ以上にも達する事が出来る」

「じ、時速1200キロ……!?」


 速度を聞いた時雨が驚愕の声を上げる。

 え、なになに!? そんなやばいの? 正直、時速○○ですーって言われても全然ピンとこないんだけど……。


「時速1200キロは音速とほぼ同じ……昨日の朝乗ってきた新幹線の時速は約300キロ。つまり単純計算で新幹線の四倍速いって事だよ」

「し、新幹線の四倍……!?」


 な、なんかすごい速そう!

 えっと京都まで新幹線で二時間ちょっとだったでしょ? だから、東京まではえと……?


「単純に考えれば三十分だけど……実際は新幹線と違って直線距離だし停車駅も無い。東京と京都の間は大体360キロ……これを時速1200キロで移動したとすると、十八分かかる計算になる」


「十八分! 速い! 速い……ま、間に合うか微妙な時間じゃない……?」


「幸いにも事はまだ、起こっていないらしいからな。今から移動すれば十分間に合う筈だ。二人共、走れるか? この京都にも敵が来ているらしいんだ。とにかく出来るだけ早く移動────」 


 志保さんの言葉はそこで止まった。

 いや、言葉というか、一瞬動きをそこで止めたんだ。

 

 彼女の視線……は当然、今話をしていた私達の方、つまり進行方向から見て後ろにあるんだけど。

 私達の方を見てる訳じゃなかった。彼女はその向こう……私達より奥を見て、動きを止めたんだ。


 私も釣られて、後ろを振り返る。

 道には多くの人達が行き交っている。

 でも……その中に一人、明らかに他と違う、異彩を放つ人がいた。


 短い髪を炎の様に赤く染めた女性が、こちらに向かって歩いてきている。

 耳には銀のピアス。着ているノースリーブから覗いた肩に、大きなドクロのタトゥーが彫られている。


 彼女を見た瞬間、私は何か、不思議な力を感じた。

 これは今まで散々、味わった事がある。

 この空気、モンスターと対峙している時と同じ……?

 

「やぁっと見つけたぜ杠葉月……ネットの目撃情報を調べればすぐだったな、もっと早く見りゃよかったよ」


(あの人今、私の名前を……?)


「────二人とも、ここから三百メートル程進むと右手に“西条”グループ所有のビルがある。そこに入って、受付で私の名前と、それから“WPF”と告げるんだ」


「し、志保さんは?」

「奴と戦う……戦わなきゃいけない」


「て、敵なんでしょ!? そ、それなら私達も────」

「行け。お前達が残って何をする? 今まで戦ってきたモンスターとは違う……相手は人間なんだぞ!?」 

 

「え……?」


「覚悟があるのか? どんな奴かも分からない人を、本気で『殺す』覚悟が」


(こ……『殺す』……って……!?)


 今までも散々、現実離れした戦いを繰り広げていたけれど。

 志保さんのその言葉は、あんまりに現実みが無くて、私の心に深く突き刺さった。


 確かに、考えてなかった。考えてみれば、当たり前だったのかもしれないね。

 モンスターの大量発生を誰かが引き起こしたって言うんなら、当然、その『誰か』といつか戦う訳で。


 異世界とか、魔王とか、妖精とか色々見たり聞いたりしてさ、漠然と、敵も化け物みたいな奴なんだろうなと思っていたのかもしれない。


 だから、『人間』と戦う覚悟なんて、もちろん私は……ううん、多分時雨にだって。

 出来ていなかったんだ。

 

 軽く、想像をしてみる。

 私の振るう剣が、人間の身体を切り裂いて、殺す所を────。


『いやぁっ! おばさん! やめてよっやだよぉ! だめ……死なないでよぉ────』


 ────悪寒が、全身を震えさせる。

 思考が停止し、金縛りにあったように動けなくなる。


「黒森っ! 杠を連れて走れっ! 行け────!」

「っ! ごめんっ志保……!」


 時雨が私の手を引いて走り出す。

 走りながら振り返る。

 志保さんの背中姿が、段々小さくなっていく。


 どうしてだろう?

 二度と見られなくなる様な嫌な予感がして、やけにその背中が、目に焼き付いた。




☆☆☆ ☆☆☆




「あーあ……行っちまったよ。めんどくせえな……もう皆まとめて食ってやろうかな……」

「……川上沙耶<カワカミサヤ>ッ!」

「あん?」


 どうやら……今まで私は全く認知されていなかったらしい。

 名前を呼ばれて初めて、川上沙耶は私の方を向いた。


 鋭い目をしている。

 近寄るもの全てを傷つける様な鋭さは、決して人に懐かない獰猛な野犬を彷彿とさせる。

 恐怖で指先が震えるのを、握りこぶしで誤魔化した。

 

「なんだよ、お前……俺を知ってんのか?」


「川上沙耶……二十二歳。高校卒業後、大手警備会社に就職。三年前に起きた希望橋サービスエリア無差別殺傷事件の折に、現地で警備員をしていたお前は犯人逮捕に貢献。その後、すぐに会社を退職。以降の二年間、裏社会で名を轟かせる……」


「へえ……そこまで知ってるってこたあ……ただもんじゃねえな?」


 彼女はそう低く呟くと、嬉しそうに舌なめずりをする。

 その仕草は獲物を見つけた肉食動物に似ている。


「そして一年前……お前は……! 金倉先輩をっ!」

「んー? なんだよ、俺に恋人でも殺されたか?」


「そんな間柄じゃないさ……ただ、私にとって、とても大切な人だっただけだっ! 生体認証【白銀志保】……MOBドライバー、始動ッ!」

『System boot. Start MOB drive. -----Please say "Transform" when you are』

「“変身”!」


 MOBドライバー……。

 私を包む、この赤いラバースーツ。

 本当は……本当は、これだって! 

 私なんかが着るものじゃなかったのにっ……!


「川上沙耶っ! この格好……忘れたとは言わせない!」

「わりぃな……生憎、物覚えが悪くてね。まあ食ってみりゃあ思い出すかもしれねえよ……?」


 そう言うと顔を邪悪に歪めて笑う。

 そして、ジーンズのポケットから一枚の黒いカードを取り出した。 


「“変身”……!」

『スキャン完了! 変身<エネミーチェンジ>! “ケルベロス”!』


 奴の身体の中心から紫紺色の光が、辺りに溢れ出す。

 地獄の底に来たかの様な地響きと共に灼熱の炎が一本の柱となり、天に向かって噴き上がった。


 炎が周囲を舐める様に睥睨へいげいすると、毛皮となって奴の身体を包み込む。


 炎の毛皮に禍々しく捻じ曲がった炎の耳、そして炎の尻尾。

 正に地獄の番犬と対峙させられているかの様な威圧感を感じる。


「さあて……“ユウシャ”様の代わりなんだ。精々楽しませてくれよ?」

「お前だけはっ! 私が……!」


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