四章 女子高生、ハダカのお付き合いをする
よく温泉でさ、タオルを頭の上にのっけるじゃない?
あれ、何でああやってやるか知ってる?
「そういえば知らないな……聞いた事がない」
不思議そうな顔をつくる白銀さんに、私はにやりと笑った。
ふふふ……さっき、スマホで温泉マナーを調べた時にサイトに載っていたのだ!
知らないならしょーがない! 私が教えて進ぜよう!
「それはね────!」
「────のぼせるのを防ぐ為でしょう? 冷やしたタオルを頭にのせる事で、頭に血が上って、所謂『のぼせた』状態にならない様にするんだよ」
「ほう……流石に黒森は詳しいな」
「ちょっとぉ!? なんで先に答えちゃうのさ!?」
「? だって聞かれたから……」
ぶー……! 時雨のばーかばーか!
フツーこういう時は、例え知っていたとしても、
『えー? 知らなーい、何それぇー?』
って答えるもんだよ!
暗黙の了解って奴を知らないね。マナーのなってない女だよ、本当にさ!
「まあまあいいじゃないか。あんまり温泉でヒートアップすると、それこそのぼせてしまうぞ?」
ま、そうだよねー……。
改めて、周りを見渡す。
うすぼんやりとした照明と、大きな檜のお風呂。
窓から外を見れば、ライトアップされた松の木が目に映る。
植物に囲まれて、リラックス効果抜群です! って感じだね。
実際にすごい癒されるし……今日一日の観光の疲れが一気に抜け落ちていくよ……。
ふいいー……と息を吐いて、肩までお湯に浸かる。
あーあったかい……身体の芯まであったまるぅ……。
「あ~しあわせー……」
「ふふふ……そうだね」
「……それにしても、さあ」
「? なに、葉月?」
時雨とはさ、まあ長い付き合いだから、一緒にお風呂に入ったのも初めてじゃないし。
だからまあ、『大きさ』だって知ってたけどさ……。
「なんというか……白銀さんも結構……『大きい』よね」
「身長……じゃあ、なさそうだな。その視線だと……」
じいー……と白銀さんの『それ』を眺める。
流石に時雨の奴みたいにプカプカお湯に浮いてる訳じゃないけど、白銀さんのそれだって十分女子高生にしてはおかしい大きさだと思うよ。
身長の高い人はみんなそんなに大きくなるもんなのかな?
「杠だって、別に小さい訳ではないだろう? 平均的な大きさはあると思うが……」
「そうかなあ……」
むにゅむにゅ……と自分のを揉んでみる。
別に、大きくなって欲しいって訳じゃないけど……まあ気になっちゃうよね。隣にあんな化け物がいるとさ。
「大丈夫だよ、葉月。私は葉月の胸が『小さく』ても、気にしないから」
…………。
何だろう? 何か段々頭に血が上ってきたよ……。
「! まさか葉月、のぼせたの!?」
「違うわ! お前のせいじゃ、お前の!」
右手を振って、お湯を時雨の顔にぶっかける。「きゃっ」と可愛らしい悲鳴を上げて時雨が顔を手で隠す。
「決闘だああああ黒森時雨ええええっ! ここでお前を海の藻屑にしてやるうううう!」
「は、葉月……やめて……! 他のお客様に迷惑……!」
「お、落ち着け杠! 人の価値は胸の大きさで決まる訳じゃない! 別に『小さくても』いいじゃないか!」
「…………やっぱり小さいって思ってたんじゃあああああん! うわあああ裏切者おおおおお!」
仲間の振りをして人を丸め込もうとした薄汚い裏切者にも、正義の一撃をかましてやる。
初めは仲裁をしようとしていた裏切者だったが段々本性を現し始め、「そっちがその気なら……!」とお湯をかけてきた。
時は九月。
黒森時雨の心無い一言により開戦の火蓋は今、切られた。
三国戦争の勃発である!
(♪なんかほら貝のぶおーって音♪)
杠国、黒森国及び白銀国と敵対。特に白銀国との間に激しい戦いを繰り広げる! 互いに一歩も譲らない一進一退の攻防!
黒森国、白銀国と事実上の同盟を結び、停戦。杠国にも停戦の使者を度々送るが全て断られる。
白銀国、杠国と敵対! 同盟相手である黒森国に援軍の要請をするも、中立を装う黒森国はこれを頑なに拒否。白銀国、この態度に業を煮やし、少しづつ黒森国との間に軋轢が生じる。
これは好機! 白銀国と黒森国の関係性が悪くなっている今こそ!
天下にその名を轟かせる、杠国の天才軍師、『ハヅキ・ユズリーハ』はここでとんでもない奇策に走る!
「白銀さん! 今この状況を作り出したのは誰か、もう一度考えてみてよ!」
「な、なに!?」
そう! ここでまさかの白銀国相手への同盟宣言!
停戦の使者を送ったのである!
白銀国、激しく動揺しながらもこれを承諾!
犬猿の仲! 水と油! 竜と虎!
あんなに憎み合っていた二国が今、手を結んだのである!
そして二国の矛先は、全ての黒幕…………悪逆皇帝『シグレオン・クロフォレスト』に向いたのである!
「くらえええええこれが私達の────」
「絆の一撃だああああああ────!!!」
☆☆☆ ☆☆☆
「あのね……三人共。友達同士でね、お風呂入って騒ぎたくなる気持ちも分かるけどね」
「「「はい……」」」
「他のお客さんもね。泊まってる訳だから。加減しなきゃいけないよね……分かるでしょ?」
「「「はい……すみませんでした……」」」
「はあ……とりあえず担任の先生には言わないでおいてあげるから。気を付けてね、もう行っていいよ」
「「「はい……失礼します……」」」
☆☆☆ ☆☆☆
「あー怖かったあ……」
女性職員用の部屋から廊下に出た瞬間、安堵のあまり思わず息が漏れたね。
エミコちゃん(※保険室の先生)が怒ってる所なんて初めて見たよ……。
今まで散々仮病を使ってベッドで寝てても何も言われなかったのにさあ……。
「そんな事をしていたのか? 中々のワルだな」
「やりたくてやってたんじゃないよ……時雨が勝手に連れて行くんだよ」
「葉月は素直じゃないから……体調が悪くても誤魔化そうとするの。だから注意してみてないとすぐ無理をするし……」
はあ……これだよ。完全に私の保護者気取りだね。
私が死ぬまでこう言ってそうだ。
そりゃ今はまだいいけどさ。いつかヨボヨボのおばあさんになって自分が動けなくなったらどーするんだろーね?
そーなったら私の面倒見てる場合じゃないだろうに。
「大丈夫だよ。そうならない様に普段から筋力をつけているもの」
こいつまさか!? 今まで身体を鍛えていたのはそのためだってのか!?
御年八十歳になっても私の介護をする為に……!?
あまりに衝撃的な親友の告白に戦慄が走った。
背筋を薄ら寒い何かがぞわぞわっと包んだ時、白銀さんが言った。
「仲がいいんだなー二人は」
そういう問題かな!? これは!?
それで片づけていい話じゃないと思うな、私!?
「…………なあ、も、もしよければ……なんだが」
「?」
「私も……その……」
「なに?」
白銀さんは急に顔を赤くして、何かもごもごと口籠る。
暫くして消え入りそうなか細い声で、
「な、名前で……呼んでくれない……かな?」
と言った。
白銀さんのこの唐突な発言に私と時雨は思わず顔を見合わせる。
そして、同時に笑った。
「な、なんだ? やっぱり駄目なのかな……」
「ちがうちがう! そんなの、全然オッケーだよって事!」
「ふふ……そうだね。それなのに、『志保』ったらあんなに躊躇って言うから……」
「そーそー! 『志保』さんったら、あーんな真っ赤な顔しちゃってさ! 何言い出すのかと思ったら……!」
「な…………な! そ、そんな……に、笑わなくても、いいだろう!?」
ホテルの廊下だからね。
そんなに大声で騒いでた訳じゃないんだ。怒られた後だったしね。
それでも、何かいつもよりおかしくってさ。
沢山笑ったのを憶えてる。
まだ修学旅行も一日目が終わっただけ。
明日もきっと、楽しい一日になる筈だよね!




