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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第八話 名探偵“ゆみみ” ~浴衣と花火とモンスター~
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七章 女子高生、運が良かった

 

 ひとつ二千五百円という超高級酢昆布を贅沢にも噛み締めながら、私達は再びお祭りの喧騒の中へと戻っていった。

 

「……えっ!」


 ふと、ある露店を通り過ぎようとした時、突然菫さんが大声を上げて立ち止まった。

 

「どうしたんですか?」

「ああああれはぁっ!?」


 菫さんが指さす先にあるのは、どうやらクジ屋みたいだ。

 番号の書かれたクジを引いて、それによって順位が決まり景品が貰えるという、まあよくあるやつ。

 彼女の細い人差し指は二位の景品を指している。

 どうも、何かのポスターらしい。漫画か、アニメのキャラクターが描かれている。


「あのポスターがどうかしたんですか?」

「あ、あれは『ときつた(ときめきを伝えての略称)』のサイン会限定ポスター! この世にたった百枚しかない幻の一品! ま、まさかこんな所で巡り合えるなんてっ!」


 菫さんはどうも興奮を隠し切れない様で、そのままのテンションでクジ屋さんにすっ飛んでいった。


「い、一回……いや、十回お願いします!」

「はーい、千円になりまーす」


 クジ屋からは、元気なやりとりが聞こえてくる。

 完全に置き去りにされた私と凛音さんは……お互いに顔を見合わせて、呆れた。

 

 

 

☆☆☆ ☆☆☆




「あちゃー……また残念賞ですね」

「ぜ、全然当たらないよぉ……」


 今の残念賞で七回目。

 これまでの結果は全て残念賞。二位のポスターどころか四位にも五位にもかすりもしていない。


 ちなみに残念賞はお菓子で山の中から一つ選ぶ事が出来る。

 なのだが、主要なお菓子は全て売り切れてしまっていて、残っているのは全て酢昆布である。

 ……景品の流行りなのだろうか?


「酢昆布はいやだ……酢昆布はいやだ……! お願い神様っ! 八回目のトライ!」


 バッ! と勢いよく箱に入れた手を抜き出し三角に畳まれた赤い紙を取り出す。

 そして祈りを込める様に、恐る恐ると紙をめくって……。


「ぎゃあああああ!」


 絶叫。

 横から見ると、まあ案の定残念賞。

 八個目の酢昆布である。

 

「うわーん! 千円もかけて酢昆布十個なんてやだー!」

「私の前でそういう事言うのやめてもらっていいですかね?」

 

 まあ後二回チャンスは残っている。精々頑張ってもらいたい。


 だがこの様子では当たりは出ないだろう。

 そもそも本当に箱の中に当たりのクジがあるかも怪しい所だ。


 先程スマホで調べてみたが、今回菫さんが狙っているポスターは、百人限定のサイン会で配られた特別な物で、そのサイン会自体の倍率もかなり高かったらしい。


 各種オークションサイトでもかなりの高額で取引されていた。そんな代物を祭りの出店なんかで取り扱うとは思えない。だとすれば、あれは恐らく見せてるだけ。菫さんの様なファンを誘う罠なのだろう。


(ま、いい薬ですね)


 別に不正の証拠があるわけでもないし。

 ここは今まで散々馬鹿にされた鬱憤を晴らさせて貰おう。


「おーい! みんなー!」

「……うん?」


 遠くから聞こえる元気な声に振り返れば、浴衣を着た三人組の女性が近づいてきていた。

 時雨先輩と葉月先輩と……もう一人。

 菫さんがもう一人先輩が参加すると言っていたから、あの方がそうなのだろう。確か名前は、白銀、と言ったか。


「こんばんわ、美春」

「……こんばんわです、時雨先輩」


 浴衣を着た先輩は、隣に立つのが嫌になる程、艶やかだった。

 小さい方が浴衣は似合う、と言い出した奴はどこのどいつだろう。

 そいつの目にはこの光景がどう映っているのだろうか? 後学の参考に是非とも聞いてみたい。


「浴衣、似合ってるよ」


 にこにこと穏やかに笑いながら、そう言ってくる。


(嫌味に聞こえる、なんて思ってもいないんだろうな)


 この人のこういう所が、本当に好きじゃないんだ。私は。


「……あざっす。先輩も中々似合ってますよ、ゆか────」

「────うぎゃあああまた外れたあああああっ!」 


 再び木霊する絶叫。九個目の酢昆布確定のお知らせ。


「……菫は、一体何を?」

「はあ……実は」


 私はここまでの経緯を先輩方に説明する。

 一通り説明すると葉月先輩が時雨先輩の方を向いて、


「代わってあげたら?」


 と言う。


「いいのかな?」

「菫さんには一杯お世話になったしね。恩返しに一回だけなら、ばちも当たんないでしょ」

「……じゃあ」


 時雨先輩は頷いて、菫さんに近づき、声をかける。


「菫。最後の一回、私に引かせて」

「あれ、時雨先輩!? いつの間に!?」


 そこからかよ。

 

「菫さん、大丈夫だよ! こいつ、運いーからね。きっと当ててくれるよ」


 いや、こんなの誰が引いたって変わんないと思うが……。


「本当ですか!? お願いします!」


 めっちゃ信じてるし。


「うん。任せて」


 いやいや……と私は頭の中で首を振る。

 確かにこの黒森時雨とかいう女は私みたいな凡人とは違う、天に選ばれた才能溢れる御方だ。


 当然、強運も持ち合わせているのだろう。

 だがどんなに運が良くても(多分)当たりの入っていないクジから、しかも特定の順位を引き当てるなんてそんなの絶対に無理────。


「お、おめでとうございます……! 大当たり、二等です……!」

「やったああああ! 先輩すごいですーっ!」


 当たってるし!?

 嘘でしょ!? そ、そんな馬鹿な……!? 

 って事は当たりが入ってないっていう私の考えは杞憂で、かなり良心的なお店だったのか……?


「に、二等はポスターです、おめでとうございまーす……おかしいなあ何で当たって……?」


 いやぜんっぜん杞憂じゃなかったし! 『おかしいなあ』とか言っちゃってるしもう!


「ど、どういう事っすか先輩!?」

「私にもよく分からないのだけれど……他の人よりも、少し運が良いみたい」

「昔っからアイスとか当たり棒しか出さなかったもんね」


 ……天運、という奴なのだろうか。

 流石に、唖然としてしまう。


 そんなに凄いのなら宝くじを買って生きていけるのでは? なんて馬鹿な考えを持ったら、実際に当てた事があるらしい。まじかよ。


 しかし、人生はそう甘くなかった、と先輩は言う。




 先輩達の話によると子供の頃遊びでやった小さなスクラッチくじで、一等賞である百万円を一発で当てたとか。

 それに喜んだ葉月先輩が、『もっと当ててー』と、せがんだらしい。

 

 時雨先輩は勇んで、もっと当選金の大きな宝くじを買った。

 結果は、外れ。

 何回やっても一枚も当たる事はなかった。


「葉月に頼まれたり、関わっていたりすると絶対外れるの……。だからもう、宝くじは当てられないんだよ」


 成程。これで合点がいった。

 そんなに運が良いのに、何で席替えのクジでインチキなんてしたのか不思議だったんだ。


 さぞ、無念だった事だろう。

 どんなに運が良くても、葉月先輩の隣の席に座れないのは。

 ちょっとだけインチキをしようとした気持ちが分かった様な……気がしたけどやっぱ普通に考えて頭おかしいと思う。


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