四章 女子高生は耳元でおやすみを囁く
お腹が空いて目が覚めた。
って言うと、何だか子供っぽく聞こえるね。
実際お腹が空いてたかは分かんないけど……起きた時に嗅いだオムライスの匂いは凄いおいしそうだった。
目を覚ますと私はリビングのソファでクジラのクッションを枕に仰向けに寝っ転がっていて、お腹には薄い毛布がかかっていた。
外はもう日が落ちる所で、時計は七時ちょっと前を指していた。
とりあえず身体を伸ばして、大きな欠伸を一つ。
すると、私が起きた気配を察知したのかキッチンから時雨がやってきて、「おはよう」と笑った。
「また夜更かししたんでしょう、寝坊助さん?」
「……みんなは?」
「とっくに帰っちゃったよ。白銀さんと凛音が用事があるって帰って……菫は暫く残っていたけど、うちには本と昔のゲームくらいしか暇をつぶせる物、無いから……」
「そっか……えっと、妖精は?」
「妖精さん? それなら『調べ物がある』って何処かに行っちゃったよ」
(あれは……あれは夢だったのかな?)
よく分かんない言葉を喋る妖精と、凛音さん。
時雨に聞いても、そんな場面は見なかった、という。
会議については、私が知っている内容と殆ど同じだった。
白銀さんについての件は一時保留。
凛音さんが自己紹介をして。
そして、モンスターの大量発生については……。
「白銀さんがね、『暫くは起こらない』って」
「白銀さんが? 何で知ってるの?」
「それも聞いたんだけれど──」
教えてくれなかった、らしい。
とりあえず、全ての鍵は白銀さんにあるみたい。
何で教えてくれないのかは謎だけど……モンスターと戦ってたって事は、悪い人じゃなさそうだしね。
今は彼女が話してくれるのを待とうよ! ってのが今回の会議の結論。
「今日はどうするの? 泊まっていく?」
「……うーん」
とりあえずオムライスは頂いていくとして……。
今日はお母さんも家にいないし。
折角の夏休み、時雨の家で過ごすのも悪くないかもしれないね。
私が頷くと、時雨は「分かった」と言ってキッチンに戻っていった。
にこにこと笑っていて、なんか嬉しそうだった。
☆☆☆ ☆☆☆
「菫がね、夏祭りに行こうって」
「夏祭り?」
時雨の作ったオムライスは、最高だった。
卵がふわっふわのとろっとろで、いつお店を出すんですか? と尋ねたくなるくらいの絶品だった。
食べながら、時雨が話してくれた。
二週間後に西白百合で夏祭りがあるんだって。
菫さんが「親睦を深める為にも皆で行きませんか?」と提案したらしい。
「……葉月、どうする?」
「いーんじゃない? 面白そうだし!」
「そっか、ふふ……じゃあ、後で菫に連絡しておくね」
ご飯を食べ終わった後、私は昔遊んでたゲーム機を棚から引っ張り出してきた。
数年ぶりに勇者『ハヅキ』を冒険に出すのだ。配線を繋ぐ時のこのワクワク感は、なんなんだろーね?
無事に電源が付いて、一安心。
やる前から達成感がすごいね。
座ってオープニングを見ていると、懐かしさが込み上げてくる。
セーブデータの日付は、三年前で止まっていた。
一番上のデータをロードして、ステータスを開く。
勇者は『ハヅキ』。僧侶は『シグレ』。戦士と、魔法使いは……。
ちらり、とリビングの隅に飾ってある写真に目を移す。
時雨が十歳の誕生日の日に撮った、思い出の一枚。みんな、楽しそうに笑っていた。
そのまま二時間くらい、冒険を楽しんだ。
大して進まなかったけど、別にいいや。
お風呂が沸いたよ、と言われたので、一番風呂を頂く。
鼻歌を歌いながら湯舟に浸かる。極楽ってのはこういう事を言うんだね。
三十分くらいして上がり、時雨が用意してくれていたパジャマセットに着替える。
わりと頻繁に泊まるからね。私専用の着替えや歯ブラシがここにはあるのだ!
専用……っていい響きだよねー。VIP待遇ってヤツだ。
歯磨きして、髪を乾かして、二階の寝室へ。
そこは、今でも私専用の部屋。専用の椅子。専用の机。専用のベッド。
埃一つ被ってない。時雨が、いつも綺麗に掃除してくれているおかげだ。
「おやすみ、葉月」
ふかふかのベッドが、眠気を誘ってくる。
私はそのまま瞼を閉じた。
……結論から言う。
眠れねえ。
いや、厳密にいえば、寝た。寝たんだよ。
でもね、昼寝。あれが良くなかった。
一回は寝たんだけどね。なんか浅かったみたいでさ。
しかもまた変な夢を見た様な気がする。
起きた時には何も憶えてなかったけど、それはとっても嫌で、怖い夢だって事は分かった。
なんかちょっと泣いてたしね、私。
という訳で、目が覚めたらまだ三時間半くらいしか経ってなかった。
現在、深夜二時。トイレに行って、帰ってきた所。
布団に入ると、妙に目が冴える。
何だろう。怖い。
絶対、さっきの夢のせいだ。内容憶えてないけど。
何とも言えない不安が足元から忍び寄ってくるんだよ。
駄目だ、眠れない。どーしよ、これ。
背に腹は代えられぬ。
私はのっそりと起き上がって、向かいの……時雨の部屋をノックする。
返事はない。ので、勝手にお邪魔する。
薄っすらとした明かりが、天井から部屋を包んでいる。
時雨は、部屋の隅にあるベッドの中で、すやすやと寝息を立てていた。
幸せそうな寝顔だった。私は、無性に腹が立った。
こっちはこんなに、泣きたいくらい不安なのに、なんでこーいう時は気付かないでぐっすり寝てるんだこいつは。
ムカつく。ムカつくから……そのまま、ベッドに忍び込んでやった。
背中から、ぎゅー……っと力一杯抱きしめる。
時雨の身体は柔らかくて、あったかい。
髪から、甘いシャンプーの香りがする。
時雨は気付かない。すやすやと眠っている。私が髪を弄ったり、無意味に足を絡めたりしても、全然気が付きそうにない。
仕方ないから、抱き締めたまま眠った。
「おやすみ、時雨」
何故だか分かんないけど、よく眠れる気がした。




