七章 科学と魔法と女子高生 VS人工モンスター その2
「“変身”!」
白銀さんが叫ぶと同時にスマホが輝きだす。
身体のスーツが、少しづつ赤く色付いていく。
気付けばいつの間にか妙なゴーグル? で顔を隠している。
ゴーグルは、半分色づいていて、半分透き通っている。光の加減によっては、目元が見えるかな? って感じ。
最終的には近未来チックな赤い全身タイツと、よく分かんないゴーグルを装着した謎の存在が出来上がった。
「MOBドライバー……換装完了」
「MOBドライバー……?」
ギルドライバーじゃなくて?
なんか……あんまり強くなさそうな名前だね。
「よし……まずは、バーン・ブレイド!」
白銀さんの指が素早く動き、左腕に装着されたスマホの画面を何やらタップする。
『Change weapons. "Burn-Blade"』
「おお!?」
スマホの機械音声が鳴った直後、白銀さんの手の中に、光と共に、棒状の何かが発生!
白銀さんが、棒を前に掲げ、スイッチを押すと!
棒から突如伸びた炎が、刃を形成し、見た目も鮮やかな剣が完成した!
凄い! カッコいい!
以下、最初にこれを見た正直な感想。
──────弱くね?
うーんそうだな。
例えば、包丁とかハサミとか、結構危険で、持って振り回す奴がいたら皆はさ、「危ないな、近づきたくないなー」って思うでしょ?
あの炎は言っちゃえば…………木の棒?
子供が木の棒振り回してる感じ?
危ない事には危ないんだろうけど……武器って感じは全然しないな。
はっきりと理由は分からないけど、何となくそう感じる。
「バーン・ブレイドの起動を確認……さあ、杠! 黒森! ここは私に任せてお前達は行け!」
「えー……? で、でも……!?」
あの強さで、本当にモンスターと戦えるの!?
そりゃあ、ここは任せて私達は他の所に行った方が効率がいいんだろうけど……。
それでこの人がやられちゃったら意味ないじゃんか……!
「絶対に無理しないって約束して」
「……時雨?」
「貴方の事、信じる。だから、約束して。それが条件」
「……分かった。約束しよう」
「うん、信じる。……さあ、行こう? 葉月」
「え、時雨……でも!」
「分かってる。確かにあの武器、殆ど魔力を感じないから……頼りなさそうだけど」
魔力……そっか魔力か。
魔力の濃度が薄いから、弱そうだなって思ったのか。
「でも、全く無い訳じゃない。それなら、時間稼ぎぐらいは出来る筈。今は緊急事態だし、ここは彼女に任せてみよう」
時間稼ぎ……確かにそれならあの装備でも出来るかもしれない。
私達が速攻で向こうのモンスター片付ければいいって事だしね!
「分かった! じゃあ、えっと……時雨は千葉に行って……」
「葉月は神奈川をお願い。パスは預けておくから、好きに使って。……反動には、十分に気を付けて!」
時雨はそれだけ言うと、ワイヤーを使って、東の空に消えていった。
私も、すぐに飛び立つ。
何となく、まだデュアルスキャンは使えないだろうな、と思ったので、そのまま。
向こうに着く頃には使える様になってる(多分)筈だから、それで一気に片付けよう。
そうすれば、どんなに白銀さんが弱くても間に合う……よね?
☆☆☆ ☆☆☆
「…………“変身”」
『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “ケンジャ”!』
皆さんこんにちは。橘菫です。
突然ですが聞いてください。
魔法少女です。
目の前に魔法少女がいます。
本物です。
え? お前も魔法少女みたいなもんだろって?
いやいや……お客さん、分かってないですね。
いいですか? 魔法少女って言うのはですね!
かわいい容姿の女の子が、フリルとか付いたカワイイ洋服着て、初めて名乗れるんですよ!
見て下さい、目の前の女の子を!
お人形さんみたいな小さな身体を包む、桃色のもこもこコート(夏なのに暑くないの? とか言っちゃいけない)。
頭には、ワンポイントの丸いちっちゃなベレー帽。
それは反則だよ……! ってくらい純白レースのスカート。
足には黒いロングソックス。スカートとの間に生まれている絶対領域はもう……! もう……!
極めつけは手に持っているクマさんの顔が付いたステッキ。
これを違和感なく持てる高校生なんて、魔法少女だけですよっ!
万が一ゆみみがこれを持ってたら……………………あれ? 意外に似合うかも……。
と、とにかく!
凛音の魔法少女っぷりと私みたいな、地味な女を一緒にしちゃいけないって事ですよ……。
「……って違う! そうじゃなくて……凛音、ギルドライバーだったの!?」
凛音は私の質問を完全無視して、マイペースに辺りを見渡してる。
周りには六体のモンスター。
私に不意打ちをかました、賢そうな顔をしたトカゲ型のモンスター……『ハイパー・リザード』。
前に葉月先輩が苦戦してた毒を吐く巨大芋虫……『ワーム』。
鼻が長くて醜悪な見た目をした、黒い羽が生えてる、一メートル位の小さな悪魔……『インプ』。
綺麗な女性の上半身と、猛禽類みたいな鋭い爪や翼を持った半身半鳥の怪物……『セイレーン』。
なんかでっかいカニ……『カニマミレ』。
象の大きさと豚の見た目にカバの口。鋭い牙で天下無双の“陸の王者”……『ベヒーモス』。
以上総勢六体のモンスターがぐるりと、私と凛音を囲ってます。
「……混沌の鎖。名も無き森に潜む蜘蛛。黒いバラに戒めの茨。淡く切ない、ストロベリーの調べ──」
「は?」
突然、凛音がステッキをくるくる回しながら、意味不明な文言を唱え始める。
「恐れるな、受け入れよ。甘美な痺れに身を委ね、とこしえの波に溺れよ……“飴細工の枷”!」
キャンデ……バ? えっとよく分からないですけど、今のは、多分呪文だと思います。
凛音が呪文を終え、魔法を発動した瞬間、六体の足元から飴色の鎖が出現し、モンスター達を拘束。
不思議な事に初めは六体共、いきなり鎖が絡まった事で暴れていましたが、完全に鎖が絡まると、その場でジッと身動きを取らなくなりました。
「『ケンジャ』のジョブは勇者の知恵、魔法を司る。魔法とは即ち、生命に宿りし根源たる力を引き出す黒き言霊。正しき真名と歌詞を持って、初めて調和する協奏曲……」
「ほ……ほんものだっ……!」
本物の中二病だ!
本物の魔法少女が本物の中二病だっ!?
「……赫赫たる宝玉。大罪人を炙る白炎。夕陽の向こうで嗤う曼殊沙華。熱く溶けゆく、タンゴールの調べ──」
モンスターと凛音との間に、輝く火の玉みたいな物がフワフワと現れる。
凛音の言葉が進むにつれて、火の玉は膨れ上がり、輝きを増していく。
「恐れるな、受け入れよ。冥府よりその身を窶し、全ての者を焼き尽くせ……“冥界神の戯れ”!」
道路中に響き渡る爆音。灼熱の炎が、荒波となって、鎖ごとモンスターを飲み込み、骨まで灰に変えていく。
爆発が収まった時には、もう六体のモンスターは跡形もなく消えてしまっていた。
「ほえー……すっごい」
「……菫」
「は、はい!?」
いつの間にかすぐ傍に凛音がいました。
凛音が私に向かって手をかざし、何やら呟く。
すると、急に背中が軽くなった様な気がしてきます。
恐る恐る背中に手を伸ばすと、パックリ開いていた傷跡が、綺麗さっぱり消えていました。
「あ、ありがとう……!」
「……菫は、何のために戦う?」
「何の? えっと、大切な人を守る為?」
「モンスターがもし人間だったら──」
「え?」
「同じ様に戦える?」
「な、何を……?」
「戦いは終わった……帰る」
「あ! ちょっと!?」
☆☆☆ ☆☆☆
「はあはあ……バーン・ブレイドが……効かない……!?」
『出力低下20%。危険。脱出を推奨』
目の前でふてぶてしく笑う、緑の巨人。
データベースによれば名前は……『オーク』か。
オークには、斬撃や炎は効かないのか……?
「なら別の武器を使うだけだ! プラズマ・パルサーを!」
『Change weapons. "Plasma-Pulsar"』
プラズマ・パルサーは、魔力弾を電磁加速させ撃ちだすハンドガン。
仕組みは詳しく知らないが、銃の腕なら少しは自信がある。個人的には剣よりも使いやすい。
「電撃なら……どうだ!?」
銃口を向け、トリガーを引く。
青く可視化された光線が、オークの筋肉を正面から貫く。
(駄目か……?)
想定では肉体に風穴が空く威力が出る筈……だが。
そのような様子は微塵もなく、全身に傷一つ無い。
(いや……!)
確かに傷は付いていない。だが、奴はその動きを止めている。
どうやら、筋肉を麻痺させる位は出来るようだ。
「今なら……マイティ・ミサイル!」
『Change weapons. "Mighty-Missile"』
超小型化された、魔導核ミサイル弾……マイティ・ミサイル。
弾速が遅く当たり辛いが、火力だけなら先の兵装よりも上。
これが効かなければ……いや、今は考えている場合ではない!
「発射っ!」
着弾と共に大きな爆発が巻き起こる。
麻痺して動けないオークは防御も出来ず爆風を食らい、灰となって消えた。
何とか一匹倒したが……残りはまだ三匹もいる。
名称はそれぞれ……『スライム』『インプ』『小型マシーナ』か。
「残存エネルギーは…………50%!?」
たった一体倒すのに50%も消費するという事実に、眩暈がする。
シミュレーションよりも遥かに消耗が激しい。
これは……まともに戦っていては厳しいかもしれない。
アレを使うべきか……いや……。
「ッ!」
地面に広がる影。空中に広がり、太陽の光を遮る巨体。
上から襲うスライムの突進を咄嗟に転がって躱す。
休む間もなく続く攻撃。
目の前にはビームソードを手に持った人間大のロボット。
「っバーン・ブレード!」
反発しあう剣が生み出す甲高い不協和音。
鍔迫り合いの形になった。
だが、出力が明らかに足りていない。このままでは押し切られるだろう。
「くっ……ぐあ!?」
突然背中から走る激痛。インプの笑い声が、頭上から響き渡る。
(何をしているんだ私は……!)
敵は三体いる。私の実力は敵よりも下。
ならば……奥の手を隠している場合ではない!
「オメガ・オーバードライブ────発動!」
『Limiter removal. "Omega-Overdrive"』
「はあああああっ!!」
感じる……。
システムを通して私の魔力が力に変わっていくのを!
「せやあっ!」
バーン・ブレイドを振り切り、マシーナの身体を吹き飛ばす。
即座に武器をプラズマ・パルサーに変換し、振り向く。そこには、再び圧し掛からんとするスライム。
「ショット!」
電撃が、液体の身体を駆け巡る。
流れる電流の圧力にコアが耐え切れず爆発四散。
「次っ! インプ!」
「ケケケケッ!」
飛び回る小悪魔にプラズマ・パルサーを乱射する。
だが、中々どうして逃げ回るのが上手い……!
的が小さく、動きも素早い為か、狙いが定まらない。
「ちょこまかと……!」
「ケケッ! ケケケ!」
(撃てば撃つほどエネルギーを……! 待てよ、アレを使ってみるか)
「武装変換……ワイド・ウィップ!」
『Change weapons. "Wide-Whip"』
「ケケ……?」
ワイド・ウィップはその名の通り、鞭型の武器。
だが、ただの鞭ではない。
魔力によって自動で『しなり』を生み出し、蛇の様に敵を襲う!
「はあっ!」
「ケケエエエエ!?」
一度目のしなりが腹を捉え、二度目のしなりが翼をもぎ取り、三度目のしなりが首に巻き付く。
そのまま鞭を振り、地面に叩き落す。衝撃で、絶命したらしい。汚らしい声を上げて、塵になってしまった。
「最後は……マシーナか!」
崩れた体勢を整えたマシーナが、駆動音を唸らせこちらを見据える。
弾ける薬莢の爆音と漂う火薬の匂い。
マシーナの左手にあるマシンガンが火を噴き、弾丸の雨を叩きつける。
横転しながらスマホを操作する。残存エネルギーも20%を切った。
最後の一撃で決着を付ける!
『Change weapons. "Final-Freezer"』
「ファイナル・フリーザーッ!」
魔力を1%だけ残して全て冷気に変え、敵に射出する技……ファイナル・フリーザー。
伸びる冷気の光線に、マシーナが触れた、一瞬。
一瞬で、奴の身体は氷に包まれ、氷像と化す。
そしてこの技はここで終わりじゃない。
残った最後の1%のエネルギーを拳に込める。
「とどめだああああ!」
全力で、氷像を殴りつける。
機械仕掛けの鉄塊が、氷と共に粉々に砕け散っていく。
「終わった……──」
『Energy empty. Terminate "Transform"』
「──ッ!? かはっ……! う……オェ……げほ……」
変身の強制解除。
それに伴う全身を貫く様な痛み。吐き気。眩暈。疲労感。
オメガ・オーバードライブは使用者の魔力を強制的にエネルギーに還元し使用する諸刃の刃。
効果の凄さも使用後の注意事項もマニュアル通り……か。
「だが……やれました。私にも……!」
むせながら、空を見上げる。
鬱陶しい程の快晴が、私を見守っていた。
第七話 おしまい。




