四章 女子大生、くつろぐ
「美玲さん、これ……何ですか?」
美玲さんの家にお呼ばれしたウチは、ある部屋に備え付けられた鉄の檻を指さして尋ねた。
鉄格子越しに中を覗けば、何人もの気絶した女性が中で倒れているのが見える。
ああ……と、特に感慨も無さそうに美玲さんが質問に答える。
「『巣』よ」
「『巣』?」
「そ。『人工モンスター』の巣」
「人工って……そんな事、出来るんですか?」
「モンスターって、要するに心の迷いが生み出すものでしょ? だったら私の『能力』で心をいじってやれば……」
「モンスターが作れる……と?」
「正解! やっぱり賢いわねえ、大学生は」
成程。最近、妙に人間を連れ込んでくると思ったら、そんな事をしていたのか。
まあ大方、雪の入れ知恵だろう。
ここ暫くはずっと地下の研究室に篭ってモンスターの研究をしているようだったし。
「使えるんですか? その人工モンスター」
「強さって意味なら全く使えないわねえ、普通のモンスターと同じだし雑魚もいいとこ。ただ、自然に生まれるのを待つよりも数は用意出来るし、心をコントロールすれば簡単な命令を聞かせる事も出来る」
「便利ではありそうですね」
「まあ、あくまで理論上はってだけね。実戦で試してみない事にはなんとも」
「なんだ、残念」
「ただ丁度今日、転校した『あの子』から出撃の要請があったわ。テストも兼ねて派手にやるつもり」
あの子……か。
少し珍しいと感じる。あまり、そういう大規模な被害が予想される事はやりたがらない子だと思っていた。
そんなに杠葉月の動向が気になるのだろうか。
「う……あ……」
檻の中の女性の一人が呻き声を発する。
嫌な夢でも見ているのだろうか。額には、脂汗が滲み、顔は苦悶の表情に溢れている。
「あれもそろそろ限界かもねえ」
「殺しちゃ駄目なんですか? モンスターはもう外にいるんでしょ?」
「本体が死ねば、連動してモンスターも死ぬのよ。雪ちゃんのお薬で持たせてはいるけど、限界はあるわね」
「米が無ければ兵は動かない……って所ですか」
時代が変わろうと、世界や手段が変わろうと、結局それは変わらないか。
「それを解消しようと雪ちゃんが『凄いもの』を作ってるみたい」
「『凄いもの』……ですか」
「そう……完全人工にして、強さはダンジョン並み。量産がきいて、複雑な命令もこなす」
「夢みたいな話ですけど……そんなの本当に出来るんですか?」
「雪ちゃん曰く、『理論上は』出来る。あの子は天才だからねえ。きっと作ってくれるでしょ」
そんなもんかな、と思った。
まあ雪が天才なのは間違いない。
あの子が出来ると言ったのならば、きっと出来るのだろう。
それがいつになるかは、分からないけれど。
「気長に待ちましょ」
そう言って美玲さんがテーブルにある淹れたてのカプチーノを一口飲む。
ウチも、自分の分のカップを傾けて飲んだ。
豆はキリマンジャロ。流石にお金持ちなだけあって、良い豆を買う。
苦みの中に透き通る様な酸味がスッと軽やかに舌を抜けていく。
そのバランスは絶妙で、とても美味しい。
「良ければおかわりもどうぞ」
美玲さんが優しく微笑んだ。




