八章 魂の共鳴<デュアルスキャン> VSシャドウ その2
「「轟け、イカヅチよっ!!」」
私と『私』が同時に叫んだ。
互いの腕から発せられた魔の雷が空中で激しくぶつかり合う。
火花が散り、稲光が飛び交う。
余波により生じた電撃が地面を、壁を、削っていく。
「魔力の塊である『私』に魔法で勝てると思ってるのー?」
「……っく!」
右腕に走る痺れ。
魔力量の差によるシンプルな力負けの結果、右腕を雷が掠めた。
掠っただけでこの威力は、流石勇者様の魔法だよ……!
悔しいけど、コイツの言う通り魔法じゃ勝ち目は薄い。
なら、接近戦しかない!
「はあああああ!!」
剣を携え、突撃する。
襲い来る稲妻を最小の動きで躱しながら、接近していく。
上段の大振りはさっき見切られた事から通用しない事は分かっている。
なら、横薙ぎも厳しいか。
可能性があるとすれば『突き』!
それしかないっ!
「……とか、考えてるんでしょ?」
「な!?」
全身の力を込めた渾身の突きは、空しくも空を切る。
「突きがどんなに早くても来るのが分かってたらねえ? さあどうするの? 腕が伸び切って無防備だよー?」
「マズ──」
灰色の照明が、鈍く刃を輝かせる。
襲い掛かる剣に、されど私に防ぐ手段もなく。
剣が、お腹に食い込む。肉が、斬れる痛み。
「死ねっ! 死んじゃえ!」
「う……あああ!?」
咄嗟に、お腹に魔力を込める。
魔法によって形成された防壁が、刃の進行を食い止める。
キイイ────ィン……!
反発しあう力が織りなす耳鳴りがしそうな程に、甲高い不協和音。
やがて腕の振りと共に、私の身体は中空に投げ出され、地面を転がる。
「しぶとい奴……そんなに生きたいの?」
「はあ……はあ……!」
「そんなにしてまで生きて、何するの? アンタ、生きてる価値ある?」
「私……私だって……本当は……!」
「本当は死にたいんでしょ? 『私』には分かるよ葉月。だって『私』は私なんだから」
「違うッ! 私だって……本当は! 戦いなんてしたくない! 今すぐにここから逃げ出したい! 傷つくのはイヤ! 痛いのなんて大っ嫌い! 『何で私がこんな目に合わなきゃいけないの?』ってずっと思ってた。本当は、おばさんが死んじゃった時だって、悲しくて泣きたくて毎日が辛くて苦しくて……それでも! 私が戦ってきたのは……!」
「いいんだよ葉月」
「え……?」
その時、確かに聞こえた。
頭の中がぐちゃぐちゃで、もう訳が分からなかったけど。
でも、確かに聞こえたんだ。
「泣いてもいいんだよ、葉月。私は……傍にいるから」
「いいの……? 本当に……?」
「葉月、これを……!」
不意に目の前が光り輝く。
眩しすぎるその光に、でも私は目をつぶらない。
その光は、痛い程、優しくて、温かくて、でもその痛みが心地よかった。
光の中には、一枚のカードがあった。
自然に手に取る。それは、時雨の持つ、アサシンのジョブ・パスポート。
『ふざけるな! 私は泣いてはいけない! それじゃ日常が帰ってこない!』
「そうだ葉月ッ! 『私』には分かるぞッ! お前は狂ってる! だからやめろおおおッ!」
半狂乱で叫ぶ『私』。
吐きそうで、泣きそうで、辛くて、痛くて、苦しい。
でも、私はもう逃げない。
全部真正面から、受け止めてやる!
「そう……私は狂ってる。ううん。もうどっちだっていい。私が狂ってようが、世界が狂ってようが、そんなの関係ない。私はただ、アイツと過ごす“今”が楽しい」
毎日馬鹿みたいな冗談を言い合って。
ふざけて笑い合ってさ。
最近は菫さんや、妖精、仲間達が少しづつ増えてきた。
そんな毎日が最高に幸せ。
今はそれでいい。それが私の戦う理由。
「だからっ……邪魔をするなああああああ!!!」
握った時雨のアサシンパスが、強く光を放ち始める。
私の胸から下げた、ユウシャパスも同様に輝く。
まるで、共鳴しているかのように。
私は、ごく自然と理解した。
次に、自分が何をすべきか。
「こ、この光は何だ!? 一体何が起こっている!?」
「…………いくよ、時雨! “アサルト・フォーム”!!」
『デュアルスキャン! “アサシン”! フォーム・チェンジ! “アサルト”!』
周囲に溢れた光が集約して、ワークベンダーを通して私の身体に集まっていく。
光は、少しづつ一つのカタチを成していく。
それと同時に私の着ていた青い衣装は、消え去った。
代わりに、新しい服が私を包んでいる。
軽くて頑丈な金属で出来た、胸部装甲。
手足の一部、スピードの邪魔にならないように配慮された最低限度の身を包み込む黒と青のアーマー。
「なに……その衣装は!?」
驚く『私』に対して、私は実に冷静に教えてやる。
「“アサルト・フォーム”にフォーム・チェンジしたんだよ」
「アサルト・フォーム……? そんなの、お前の心の中には無い……!?」
「心に無くても、魂にある。魂が力を理解してる。だから、言える。お前にはもう勝ち目が無い」
うん。我ながら完璧な理論だね! 将来は論理学の道に進むのもいいかもしれない。
「ふざけるなっ! 『私』がお前みたいな奴に負けるか! 死ねえ!」
感情のままに、剣を振り回しながら突っ込んでくる『私』。
アサルト・フォームは防御を犠牲にした代わりに、スピードをとことん追求したフォーム。
だから剣が当たれば、致命傷になってしまうかもしれないけど……。
そのスピードは、今の私には余りにも遅すぎる。
「そんな大振りで当たる訳ないじゃんー?」
「こ、コイツ……!」
まあどんな攻撃だろうと、もう当たらないだろうけどね!
「さあ、終わらせるよ!」
「き、消えた────!?」
アサルト・フォームの恐ろしい点は、ただ速いだけじゃない。
なんと、加速がほぼ必要なくいきなりトップスピードに到達する事が出来るんだよね!
最高スピードで『私』の間を通り抜ける。
どうやら、全く目で追えなかったみたいだね。
かわいそうな事に、キョロキョロと辺りを見渡してる。
「おーい、こっちだよこっち」
「上!? な、何故天井に張り付いていられる!?」
「魔力を使えばこれくらい朝飯前だよねー。まさか、出来ないの?」
「ば、馬鹿にするな! 今撃ち落として……!」
「残念だけど……もう、『終わってる』から」
「え……?」
一陣の風が、『私』の横を通り過ぎる。
風は『私』の身体を優しく撫でて、そして……『私』の四肢はバラバラに斬り裂かれた。
「な……にが……?」
「今までありがとう……さよなら、『私』」
頭の中に疑問符を浮かべたまま、『私』の身体は灰になって空気に溶け、消えていく。
私はそれを天井からぶら下がったまま見つめていた。
☆☆☆ ☆☆☆
「それでは、葉月ちゃんの勝利を祝しましてーカンパーイ!」
「乾杯っ!」
私の音頭に合わせて、菫さんと湯呑を合わせる。
中に入っているのは勿論お酒……ではなく備え付けられた、ただのお茶。
味はまあ普通の緑茶だからね、推して知るべしってやつだ。
私は緑茶より紅茶の方が好きなんだけど、紅茶は無かったからしょうがないね。
なーんて考えていると、時雨が苦々しい顔でこちらを見ている。(緑茶だけに)
「二人とも、お願いだからもう少し声を落として。もう遅い時間だし、他のお客さんに迷惑」
「あはは、ごめんごめん。まあ時雨も飲んでよ! それとも、私の煎れたお茶が飲めないって言うのかなあ?」
「そんな事はない。もう頂いてる」
「ほう。で、お味は?」
「…………結構なお手前で」
おい。今の『…………』はなんじゃ?
何故間を置く必要があった?
まさか貴様、このワシが精魂込めて煎れた茶が不味くて飲めないと申すか!?
「そ、そんな事は……」
「ええい黙れい! このワシを謀ろうとしたって無駄じゃあ! 皆の者、出会えい出会えい! 謀反人がここにおるぞー! すみれ、すみれはおらんのか!?」
「菫なら、さっきお茶を一口飲んですぐにトイレの方に……」
「すみれええええ!? だ、大丈夫か、すみれ!? 返事をしてくれ! すみれえええ!」
「おえっ……まっず」
「すみれええええええええ!?」
☆☆☆ ☆☆☆
『ピヨピヨピヨ! ピヨピヨピヨ!』
「あ~……」
むくり……と呻き声を上げながら身体を起こして、ひよこの頭をぶん殴る。
ぐえっと断末魔の叫び声を残して沈黙するひよこくん。
朝から一つの命を殺めてしまった事実に胸を痛めながら私はそっと布団の中に潜って静かに寝息をたてるのであった。
「『であった。』じゃないよハヅキ! 起きてシグレの家に行かなきゃ! 昨日出来なかった会議をやるんだよ!」
「う~んむにゃむにゃ……後、三時間だけ……」
「お昼になっちゃうよ! あーもう! こうなったら必殺カーテン開け!」
「うー……眩しい! 妖精のバカー……!」
眩しい光が目の中に飛び込んでくる。
闇の世界の住人であるゾンビー・葉月にはこの光が実に恨めしい。
これでは寝る事は不可能である。
仕方なく、起き上がる。
カーテンからは青空が広がってる。
そこにはもう雲一つとしてない。
「ほらハヅキ! いい天気だよ! こんな日はお出かけしたくなるでしょ?」
「私インドア派だからなあ……それに、こんなにお日様出てると絶対暑いじゃんか……」
「ぶつくさ言ってないで、早く支度して行くよ、ハヅキ!」
「はいはい。分かったってば」
全く、口うるさい妖精だよ。
会議って言ったってそんなに時間かかんないだろうし、お昼になってもいいじゃんね。
まあいいか。今日はなんだか気分がいいし、許してやろうかな。
「ハヅキのグズ! ノロマ! きびきび動け!」
よし、支度としてまずはガムテープを探そう。
全身をグルグル巻きにして、白百合の海に流してやる。
第六話 おしまい。
第一部 “UMA事件編” 完




