二章 この世界は
ショッキングピンクと安っぽいライム色で染め上げられた空を見上げて、これが夢である事を確信する。
辺りはジャムの様に、パレットに詰め込んだ絵の具の様に、赤や黄色にドロドロに溶けていて、私の目の前では、一人の女性が笑いながらソフトクリームを食べていた。
その女性が椅子に座って夢の中の私と、そしてあいつと楽しそうにお喋りしていて、それを少し遠くからこうして灰色の私が眺めている。
私は知っている。あの人はもうすぐ殺される。
自分でも驚く程落ち着いていた。それもしょうがないかもしれない。『またか』と言いたくなるほど、繰り返し見てきたあの日の夢だから。
でも最近は見ていなかったから、そういう意味では少し驚いている。
何故だろうと考える前にその理由を自分でも知っていた。
だけど、考えるふりをして、答えが分からないふりをして、何も知らない無垢な子供を演じている自分がいる。その事も分かってはいるのだけれど、それでも今その答えを直視したくなくて、思考をただひたすらに空回りさせていた。
『この世界は、狂ってる』
ずきり、と鈍い痛みが頭の中心からじわりと広がっていく。
映写機に絡まったフィルムが焼け切れる様に、夢の景色が少しづつ変わっていく。
心臓の鼓動が、早まるのを感じている。
胸の奥から切迫されるこの感情は、きっと──────。
『恐怖』
死。
おばさんが、私をかばって刺されて死んだ。その死に顔は苦悶の表情に溢れていた。
夢の世界の私が、おばさんを必死になってゆすっている。返事は無い。
いつもと変わらない。いつも通りの夢。
なのに、なんで。
今日は、こんなに、「怖い」、と感じているのだろう。
『お前のせいだ』
夢の私がはっきりとこちらを睨みつけている。
気付けば、私は灰色では無くなっていた。
私は青い服を着ている。柄も無く、丈が長く、まるで病人の様だ、と思った。
夢の世界の私が、ゆっくりとこっちに向かって歩いて来る。
私の心臓の鼓動はどんどん早さを増して、最早その動きについていけず、まともに息をする事さえ難しい。
「来ないで」
それは言葉にならず、私の全身は金縛りにあっていて逃げる事さえ出来ずその場に留まるしかない。
夢の私は、もう目の前にいた。
手を伸ばし、私の頬を撫でる。その手は異常なまでに冷たく、しかしまだ生温いおばさんの血に濡れていた。
『この世界は──』
夢の私の身体がぐずぐずに溶けていく。
『──狂ってる』
その身体は、溶けて、あの私を飲み込んだモンスター……“スライム”に変わっていた。
「いや……!」
逃れようとするけど、無駄な抵抗だった。
金縛りで身じろぎさえ取れないのだ。
無抵抗の私は奴に逆らえるはずもなく、飲み込まれた。
スライムの中は生温い酸に満たされている。
全身が少しずつ焼かれていく。
酸には、私の他に犠牲者の骨が幾つも浮いている。
その内の一つ、まだ粘ついた肉が纏わりついた頭蓋骨が、苦しむ私の姿を見て、嗤った気がした。
その顔は……おばさんに、似ていた。




