一章 女子高生は雨が嫌い VSウニマミレ
期間が大分あいてしまいました。
申し訳ありません。
これから不定期の更新になりますが、また完成に向けて一歩一歩進んでいきます。
宜しくお願い致します。
…… 一か月後 六月 ……
『白百合島 海岸付近』
雨。
雨、あめあめあめあめ。
あーめー! 雨っ!
あー、もう鬱陶しい位に、雨ッ!!
「そんなに言わなくても聞こえてるよハヅキ」
「ええい黙れい! お前には分かるまい!? 久しぶりの外出……それも夏の海なのにいいいい! 何で雨に打たれなきゃいけないのおおお!? あああああああめえええええええええ!!!!!!!」
ざぱああん! 私の叫びと共に、海がうねり、一際大きな波しぶきが上がる。
やれやれ……とでも言いたげに、妖精が首を振った。
「今朝のテレビでも雨だって言ってたじゃないか。何で今になって騒ぐのか分からないよ」
「でも、私も葉月先輩の気持ち分かるなあ。折角海の傍なんだし、泳がないにしたって晴れてほしかったですよね」
「そ、そーだよね! さっすが、菫さん! よく分かってる!」
「あ、あはは……」
「そもそも天気予報ってヤツは何でいっつも晴れの日は外す癖に雨の日は当てるんだろーね!? こんな時ばっかり当てなくていいのにさ! 大体これだけ科学が発展してるのにいい加減雨ぐらい制御出来ないのかね!? AIとか何とかでさ! 天気予報士の人は何をしてるんだろー全く!」
「葉月先輩……それを言うなら天気予報士ではなく科学者の人じゃ──」
「ハヅキ、スミレ。そろそろ時間だよ。お喋りはそこまでに」
妖精の言葉に私達は口を閉ざす。
私は、ワークベンダーをちらりと見る。
時刻は十一時五十二分。予定時刻まで残り三分という所かな。
そう。今回、私達がこんな雨の中、わざわざ待機しているのには訳がある。
それは他でもない、モンスターの討伐。
一か月前、私はモンスターとの戦いの結果それはもう酷い怪我を負って、病院への入院を余儀なくされた。当然、戦線から離脱。戦闘に復帰する所か、日常生活さえまともにおくれないんじゃ……と思っていたのだけれど。
時雨が説得してくれたおかげか否か、菫さんが仲間に加わってくれたんだ。
菫さんは“ソウリョ”のギルドライバー。その能力は『癒し』。
凄かったなあ。私に手を当てて呪文を唱えたと思ったら、次の瞬間にはもう元通り!
…………とは、いかず。
傷を一つ治すだけでも、結構疲れるみたいだねー。結局一日目は火傷を治すだけで終わり。
完治するのに一か月かかりましたとさ。
てことで、今日が戦線復帰の初めての日。
外出自体が久しぶりで、結構楽しみにしてたのに、生憎の雨。
何で雨なんてこの世に存在してるんだろ?
わざわざ外に出る日に降らなくてもいいじゃんね。
家にいる時はどれだけ降ってもいいのにさ。
ちなみに、今日は時雨はお休み。
私が復帰したし、妖精は本格的にローテーションを組んで行動させたいみたいだね。
まあ、疲れると大変な目に合うってのはよく分かったし、お休み自体は大賛成だけど、この雨の中じゃ、正直羨ましい……を通り越して恨めしいまであるよ……。
「あのー女神さん? 今回って、ダンジョンの反応ですよね?」
「うんそうだよ」
菫さんの質問に妖精が頷く。
今回、ダンジョンの反応を検知した妖精は私の体調を鑑みて外に出てきた時に倒す事を提案。
時雨が真っ先にその意見に賛成し、菫さんも大事をとった方がいいとそれに乗る。
出現場所が海の傍という、人が余りいない場所だった事もあって、私も甘えさせて貰ったんだよね。
「ダンジョンって、人が生み出すものなんですよね? でも、私達以外誰もいませんけど……」
その言葉に私は辺りを見渡してみる。
確かに、誰もいない。
まあ夏の海岸とは言っても、ここは海水浴場からは外れているし、この雨の中泳ぐ馬鹿もいないだろうしね。
でも気になる所ではある。
以前ダンジョンに“冒険<ギルドライブ>”した時は美春さんの身体から中に行ったんだ。
誰もいないのにダンジョンがあるっていうのは明らかにおかしい。
そんな私達の疑問に妖精はこう答える。
「実はダンジョンの位置とそこからこっちにやってくるモンスターの出現位置って結構違うんだよ。モンスターがダンジョン……即ち精神世界から現実世界の壁を破って出て来る際、その衝撃で位置がずれちゃうみたいだね」
「成程……じゃあ、今回この場所にダンジョンがあるわけじゃないんだ」
菫さんが納得した様に頷く。
「そうだねー。ワークベンダーも科学界に慣れて大分精度が上がってきたからね。ダンジョンの位置さえ分かればモンスターの出現場所の予測も出来る」
それで、今回海に来てるって訳か。
『ウウウウウウ!!!! ウウウウウウ!!!!』
突如鳴り響く警報。
思わずびくっと身体が反応する。
「来たよハヅキ、スミレ! “変身”するんだ!」
「う、うん! “変身”!」
「はいっ! “変身”!」
『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “ユウシャ”!』
『スキャン完了! 変身<ジョブチェンジ>! “ソウリョ”!』
私と菫さんのワークベンダーが同時に歌い出す。
私の身体を光が包み、お気に入りのピンクのパーカーをコスプレ衣装に変えていく。
うーん、久しぶりに変身したからかな? なんかすっごい変な感じ。
何というか体が軽いね!
たっぷりお休みを貰ったからかな? 前までの時と比べてかなり力が発揮できそう……な気がする。
「……よし、いけそう」
「先輩、あそこ!」
菫さんが岸辺の一点を指し示す。
そこは、ぐにゃりとめくれ上がるように空間が歪んでいる。
その歪んだ空間から、蛹から蝶が孵化する様に、もぞりもぞりと“そいつ”が這い出てくる。
地面に降り立った瞬間、ワークベンダーが、情報をもたらした。
『種族:“ウニマミレ” マミレ海に生息する巨大ウニ。二メートル近い体長と、鋭い針で敵を寄せ付けない。目立った天敵はいないが、身が美味しく巨大な為、乱獲され絶滅寸前である』
「……な、なんか可哀想な奴だね」
「た、確かにあんまり強くなさそーですね……」
私達の言葉に妖精が頷く。
「まあウニマミレはハッキリ言って強くないよ。今のハヅキ達なら楽勝だね!」
「そ、そっか……」
慎重派の妖精にここまで言われるって事は相当弱いんだろーな……ウニマミレ。
「先輩、私が魔法で動きを止めます。魔力を溜めるのに少し時間がかかるので──」
「──その間、相手すればいいって事? 了解!」
「お願いしますっ!」
まあ、油断は大敵って言うしね!
とりあえず、あの全身の針は危険だな。ウニマミレがいる場所は砂浜。砂は足が取られるから、接近するのも一苦労だし、ここは……。
「轟け、イカヅチよっ!」
魔法で遠距離攻撃をするのが正解でしょ!
私は右手に魔力を集中させて、奴に向かって雷光を放つ。
矢の様に、雷が空を走って、ウニマミレに直撃する……んだけど。
「効いてる……のかなあ?」
当たり前だけど、ウニは喋らない。
反応が全く無いのでどうにも分かりづらい。
うーん、どうしよ。このまま魔法で攻める?
でも、もし効いてなかったとしたら無駄に体力を減らすだけだし……。
「ハヅキ、危ない!」
「へ? うわ!」
私は咄嗟にその場にしゃがみ込んだ。
頭の上を、何かが掠めて、乙女の大事な髪の毛が二、三本ぱらり……と宙を舞って地面に落ちる。
「い、一体何が……!?」
振り返って、何が飛んできたのか確認してみると、大きな針が後方に突き刺さっているのが見える。
あれ、ウニマミレの針だよね。
成程、針を弾丸みたいに飛ばして攻撃してくるのか。
「大きさだけなら弾丸って言うより砲弾だけどねー」
確かに、針の直径は私の頭位あるし、大きさは、伸ばした腕の二倍くらいある。
「食らったら風穴開いちゃうかもねー?」
相変わらず、何でも無さそうにとんでもない事を言うよ。この性悪妖精は。
「全部避けてぶった斬れば良いんでしょ!」
私は剣を抜き放って、砂浜を駆ける。
案の定、足が取られて若干動きが鈍る……けど!
「ギルドライバーのスピードならっ!」
接近する私に、ウニマミレは身体を震わせて、マシンガンの様に沢山の針を飛ばしてくる。
「遅いっ!」
所詮は海洋生物。陸上での動きが人間様に勝てるはずもなし!
私は飛来する針全てを華麗に躱し、奴の懐に入り込む。
よし殻の中の本体に剣をぶっ刺してくれる!
「これで終わ──!」
『──本当にいいの?』
…………え?
『もし、止めを刺した時にコイツが爆発したら? 全身棘だらけだね』
そんなの剣を盾にすれば致命傷にはならない筈……。
『針に毒とか塗られてたら? きっととっても苦しいよ』
よ、妖精は、毒なんて一言も言ってなかったし、ワークベンダーにもそんな情報は無かった……!
『今度はどこを怪我するの? 足? 腹? 胸? また目が見えなくなるかもね』
す……菫さん! 菫さんが、治療してくれる──。
『ねえ聞いた? ソウリョの力は、相手が“生きて”いないと使えないんだって。あの針の大きさ見たでしょ? まともに当たったら…………』
あ……。
『今度は、死んじゃうかもね?』
「ハヅキ! 何やってんの!?」
「っは!?」
私は咄嗟に剣を引き上げて、盾にする。
至近距離で放たれた針が、激しい音を立てて刃にぶつかった。
火花を上げて、はじけ飛ぶ針。重たい衝撃を身体に受けて、私は三メートル位吹っ飛んで尻餅をつく。
「いっつ……!」
やばい。早く、起き上がらないと。ウニマミレの針が雨に濡れてきらりと光っている。
すぐに第二射が来る。避けないと……本当に。
『今度は、死んじゃうかもね?』
背筋を、冷たい何かが駆け巡った。
手足が震えて、上手く動かせない。
動かなければいけないと頭では理解しているのに、身体が言う事を聞いてくれない。
おかしいな、疲れてる訳でもないのに、なんで──。
「神よ、悪しき存在を縛り付け給え! 先輩、今です!」
「…………こ、こんのおおおおおおお!!」
私は声を上げて、無我夢中で身体を動かした。
頭の中、心の奥から聞こえる声をかき消す様に。
☆☆☆ ☆☆☆
「先輩……大丈夫ですか?」
「う、うん! へーきへーき! ほら、怪我も無いし!」
「ならいいんですけど……」
「よくないよー! ハヅキ、なんで敵の前でボーっとしてたのさ!?」
「あはは……ごめんごめん、ちょっと、えーと……ほら、目にゴミが入っちゃってさ」
「目のゴミくらい、我慢してよ……スミレが助けてくれなかったら、結構危ない所だったよー全く」
呆れたように妖精が首を振る。
とりあえず、嘘はバレてないっぽい。
戦闘が終わっても、私の手は少し震えていた。
私はその事が二人にバレない様に、会話をするのが精一杯だった。




