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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第四話 そんな冗談言わないで
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五章 素晴らしいとは、思います

『ショッピングモール“SeeON”白百合島店』




「見てください菫さん! これなんて、結構可愛くないですか?」

「……え? あ、ごめん。もう一回言ってくれる?」


 私の要求に、ゆみみは呆れた様な顔をして。


「もう……またですか? だから、これはどうかなって」


 そう言って、手に持った白いワンピースを指さします。


「ああうん! 可愛いね! でも、ゆみみにはこっちの黄色のが似合うんじゃないかなー?」

「成程、黄色……って私の服はいいんですよ! 貴方が服が見たいっていうからここに来て……」

「あははは。そうだったね」


 はあ……と額に手をついて大きく息を吐くゆみみ。


「もういいです。私、外で待ってますね」

「あ……うん」


 しまった……怒らせちゃったんでしょうか?

 いけませんね。今日は楽しもうって決めたのに。


 気が付けばつい、左腕にはめた腕時計を見てしまっています。


 四葉のクローバーのデザインが施された、ポップな雰囲気のデジタル時計。


 さっきまで耳障りなアラートを飛ばしていたのに。

 いつの間にか鳴りやんで、見ても意味なんてない普通の時計で。


 ……でも、目が離せない。


(これが鳴った時……よく分からないけど、地図みたいな表示が出た。多分、そこで戦ってるんだろうな……葉月先輩達)

 

 私は、行かない。行けないよ。


(先輩達は凄いよ? でも……それ以上に──)


 ──怖い。

 考えがまるっきり理解できない。


 だって、あんな化け物と戦うなんて、普通出来る事じゃあないじゃないですか。


 特別な力があるっていったって映画の中のスーパーヒーローの様に、圧倒的な力があるわけじゃない。

 私は目の前で見たのだから。

 葉月先輩が、動けなくなって、それで……死にかける所を。


(なのにどうして……あんなに戦えるんだろう?)


 大切な人達の為、って言うなら分かります。


 私だって家族やゆみみが襲われてて、自分に力があるのなら……助けに向かうかもしれない。


 でも先輩達はそうじゃない。


 赤の他人。全然知らない人の為に、世界とかそういう途方もないものの為に戦ってる。

 

 …………素晴らしいとは、思います。


 そういう考え方。

 世界の為に戦える情熱。


 困ってる人に手を差し伸べられる優しさ。

 誰かの為なら命も惜しくないって自己犠牲の精神。


 でもそれは──!


『ウウウウウウ!!!! ウウウウウウ!!!!』

「え……!?」


 さっき止んだ筈の警報が、また大きく鳴り始める。


(嘘でしょ……まさか、また敵が──!?)


 私が考えるより早く。


 ブウン──! と、いじってもいないのに勝手に腕時計から空中に青い画面の様なものが表示されます。


 映っているのは、先程と同じ、恐らく敵の位置を示しているであろう簡易的な地図。

 私はそれを見て、凍り付いた。


 だって、そこは。その位置は──。


「ここ……?」


「きゃああああああああ!!!」

「うわああああああああ!!!」


 直後、モール中に響き渡る多くの人の悲鳴。


 慌てた様に、ゆみみが店内に駆け込んできた。


「菫さん! 大変です! 怪物が……怪物が!」

「ゆみみ、怪物って!?」


「下のフロアで、男の人が突然苦しみだして……そして倒れたと思ったら、いきなり現れて! と、とにかく来てください!」


 手を引かれるままに外に出る。

 店の外では人がごったがえしていた。

 皆、フロアの中心にある吹き抜けから下の階の様子を見ているみたい。

 

 お客さんだけでなく、制服を着た店員さんらしき人も多くいた。

 ある人は興奮しながらスマホで撮影を。

 ある人は悲鳴を上げて逃げようと。

 

 友人や家族を探す人もいて。

 

 そんな人達の間をかき分ける様に進み、手すりまで辿り着いた。


「あれです!」


 ゆみみが手すりから身を乗り出して、下を指さす。


 それは、一階にいた。


 逃げまどう人々の中心。


 青く光るゲル状の生物が、鎮座している。


 かなり大きい。

 二階に頭が届きそうです。

 私達が今いるのは四階だから、まだ余裕はあるけれど、それでも威圧感を感じます。


 私がそれを視認すると、また勝手に腕時計が動き出す。

 読んでみるとどうやら敵の情報みたい。


『種族:“スライム” 液状の身体は強い酸性を持つ。人を食べてドロドロに溶かし魔力を回収する』


「“スライム”……」


 名前は可愛らしいものです。

 スライムなんて、これがゲームなら序盤の雑魚ですしね。


 でも現実は違う。


 情報の後半にある記述……人を食べてドロドロに溶かし魔力を回収する。


 人を、食べる。

 背筋をうすら寒い何かがそっと撫でた。


 スライムは何を考えてるのか表情が全く読めませんが、ぶるぶると身体を震わせて少しずつ少しずつ前に移動している。


 少しずつ……とは言ってもあの巨体。

 人間が軽く走るのと大して速度は変わらない。


 足の速い人なら逃げれるかもしれませんが、子供やお年寄りなんかの足じゃあ逃げ切れないのではないでしょうか。


「あいつ、やばいぞ!」


 誰かが叫んだ。

 スライムの前方を走っていた女性が転んでしまった。

 腰が抜けてしまったようで、上手く立ち上がれてない。

 

「いや、いやああああああああ!!!」


 断末魔の叫びが、耳に残響した。


 そこに何もないかの様に。

 感慨もなく前方に進んだスライムに、女性はあっさりと飲み込まれた。


 青く透き通ったスライムの身体は、中に入った女性を綺麗に映し出す。


 苦しむ女性が、大きな気泡を一つ二つ吐いて……三十秒もしない内に、肉が溶けて骨に変わる所まで、ばっちり見えた。


 その凄惨な光景に周りにいた野次馬も恐怖して逃げ始めた。

 客も店員も関係ない。

 みんな命が一番ですからね。


「菫さん! 私達も逃げましょう!」

「う……うん」


 ゆみみと一緒に走りだす。


 視界の端で見える一階で、初老の男性が懸命に走っているのが見えた。

 でも速度が足りていない。

 このままいけば多分、あの人も……。


「私は……!」


 私は、その場から逃げた。


 遠くで聞こえる悲鳴に、必死に耳を塞いで。


 情熱も優しさも自己犠牲も、素晴らしいとは思います。

 でもそれは、自分には決して出来ないから。


 だからこそ素晴らしいと思ってるだけであって。


 それを私に押し付けないで下さい!


(戦う方がおかしいんだ。だから私は悪くないんだ)

 

 心の中でまじないの様に何度も唱えながら、ただ走った。


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