三章 女子高生の憂鬱
…… 一方その頃 ……
『ショッピングモール“SeeON”白百合島店』
皆さんこんにちわ。
橘菫です。
今友人のゆみみと約束通り、あんみつを食べに来ています。
ここ“SeeON”(シーオン)は日本全国に存在しない街はないと言われるほどの超有名ショッピングモール。
白百合島は中心に大きな山があって、そこを境に、東と西……それぞれに町が分かれています。
私達はこのうち東側で暮らしていまして、基本的には東から出ることなく生活しています。
でも、この“SeeON”は別。
ここは区分自体は西側なんですが、中心にほど近い位置にありまして。
無料の送迎バスもあって、東の人も西の人も無理なく来れるのですよ!
映画館やゲームセンターの様なアミューズメント施設も充実しているので、白百合で遊ぶってなればまずここでしょうね!
というわけで、現在。
三階のみつナデ外にある、お洒落なテラス席に座って、フロア中心の吹き抜けから下の階にいる雑多な人込みを見ながら、あんみつを食べています。
「みてみてゆみみ! 人がゴミの様だよ!」
「随分危うい発言ですね」
「あははは! やっぱり、ここで人を見下ろしながら食べるあんみつは最高だね!」
「台詞は最低ですけどね」
皆さん! 私がなんのあんみつを頼んだか気になりますか?
え、そんなに? 気になっちゃう?
しょうがないなあ……じゃあ教えてあげますね。
正解は……
『抹茶キャラメルあんみつ』でした!
いやあやっぱりこれが一番ですよ!
結局色々悩んでもこれに落ち着いちゃうんだなあ。
スプーンでお豆を掬って一口……うーん、おいしい!
「で、そっちの味はどうなの!? ゆみみ!」
ゆみみが頼んだのは『チョコバナナプリンあんみつ』という贅沢極まりない一品。
いつもと違う注文って事で私の興味も津々ですよ!
「とっても美味しいですよ。バナナとあんみつって意外に合うんですね。プリンもバナナ味になっていて全体から浮いていませんし、ビター風味のチョコソースがそれらの味を一つに纏めている」
「おおー! 聞いてるだけで涎が出てくるよ……!」
「一口食べますか?」
「いいの!?」
「ええ勿論」
「それじゃあ遠慮なく……!」
私は味が移らないように、ゆみみのスプーンを拝借して、輪切りになったバナナとみつ豆を器用に掬い取り、ぱくりと頂く。
「こ、これは……! お、美味しーい!」
「それはよかったです。……私も、そっちの一口頂いてもいいです?」
「うんうん! オッケーだよ!」
「どうも……うん。やっぱり抹茶も美味しいですね」
にっこりと微笑むゆみみ。
やっぱりここに来てよかった。
昨日の落ち込み具合から結構心配していたんだけど、元気になったみたいでよかったです。
そう昨日──。
『普通、他の人の為に、そんな風に簡単に命をかけられませんよ!』
ずくん。
と、心を抉る、昨日の光景。
女の人の叫び声。葉月先輩の雄叫び。巨大芋虫の臭い。
蔓延する毒霧。浴びる先輩。私の目の前で、動けなくなって……そして……。
「菫さん? どうしたんですか?」
「……え?」
気付けば、ゆみみが心配そうにこちらを見ていました。
「さっきから、ボーっとして……どうかしましたか? 抹茶、食べないほうがよかったです?」
「あ、ううん! そうじゃないよ! ……はあ」
「………………十八回」
「え?」
「今日、ため息をついた回数。今ので十八回目です。通常はゼロ~二回程度である事を考えると非常に多いと言えますね」
「いつもそんなの数えてたの!?」
友人のストーカーじみた行為に驚愕する私。
そんな私の様子にゆみみはクスクスっと悪戯に笑って、
「いえ、流石に冗談です」
と言った。
「なんだ」
「でも、ため息が多いのは本当。……何か、あったんですか?」
「べつにぃ」
「……まあ、言いたくないならいいですけどね。私に言えない事や言いたくない事も沢山あるとは思いますしね」
「ごめんごめん、すねないでよ。……うーん実は、前に話してた王子様の事でね」
「あー。あの例のドラゴンの」
「うん。その王子様がね、こないだ女の人と一緒にいる所を見ちゃって……」
「成程。それで恋に敗れて落ち込んでたと」
「まー実はそういう事……あーあ残念」
半分は本当。
葉月先輩が女の人と親しそうに話してたのは事実。
半分は嘘。
その事が残念なんて、全く思ってない。
私がため息をついていたのは、一人で逃げたから。
戦う力を持っていたのに、戦わずに、逃げたから。
「まあそういうことなら納得です。恋愛の相談は私にされてもよく分かりませんしねえ……」
「そーなの? 誰かいないの? 気になる先輩とかさ!」
「弓道部は女子しかいなかったですからね。部活以外では先輩なんて会う機会ないでしょう」
「前にいつも話してた、時雨って人は?」
「……時雨先輩は女性です。それに、その人こそ有り得ません。私は、あの人がキライなんです」
「そうだったの?」
「ええ。大キライです」
「そっかあ。私はあんまりいつも話すからてっきり──」
「てっきりなんですか全く……やめて下さい」
「あはは……ごめんごめん」
「さて……そろそろ行きますか? 服、見ていくんでしたよね?」
「あーうん! そうだね、行こう行こう!」
考える事はたくさんあるけれど、折角遊びに来てるんですし。
楽しまなきゃ損ですよね!
そう思って、心を切り替えて。
立ち上がった私は、ピタ。
っと動きを止める。
『ウウウウウウ!!!! ウウウウウウ!!!!』
「え……!?」
昨日の出来事を思い出させるかのように。
女神さんに貰った腕時計が、けたたましく鳴り始めた。




