二章 女子高生の金で食うアップルパイはうまい
『杠家 リビング』
「もぐもぐもぐもぐ……」
「あのー妖精さん?」
「もぐもぐもぐもぐ……」
「そろそろー機嫌治して貰えませんかねえ……?」
「もぐもぐ──ぎろり」
「……う!」
コンビニのアップルパイ(198円税込)に全身でしがみつき貪りながら、鋭い目でこちらを睨む妖精。
前回、“ワーム”との戦闘でこれまでの連戦がたたり、体力の限界を迎えた私。
その場で妖精からドクターストップを受けた……にも関わらずに戦いを続け、危うく死ぬ所。
時雨が来てくれなかったら、今頃はお星さまになってたね。
結局、三人目のギルドライバーになれる菫さんはそんな風に命をかける私の姿を怖がって、説得失敗。
妖精は朝からご覧の通りの、ご機嫌斜め。
時雨に懇願されて学校を休んだのはいいけれど……ご機嫌取りの為に、コンビニでアップルパイを大量に買わされて買わされて。
アルバイトなんてしていない私のお財布はもう空っぽ。
もし落とし物として届けられても、お礼の一割は十円玉になるだろう。
「ハヅキ、おかわり」
「うう……はい」
妖精が低い声で命令する。
悲しいけれど、逆らえない。
これでアップルパイの封を切るのも本日六回目。
一体あの小さな体のどこにアップルパイが六つも入るのか?
それは永遠の謎である。
世界七不思議を決める会議があれば是非推薦したい。
「妖精様、どうぞ……」
皿に乗せて、テーブルの上に。
「うむ。苦しゅうない」
偉そうにのたまって、またかじりつく。
相当、アップルパイが気に入ったらしい。
「今度は、ハヅキが作ってよ」
なんて生意気な事を言ってくる。
「悪いけど、流石に無理だよ。時雨と違って普段料理なんてしないもん。アップルパイなんて高度な物は、私には作れないよ」
「えっ!?」
「な、なに? そのかつてない位オーバーなリアクションは……」
「あ、アップルパイが作れない女子高生がこの世にいるなんて……!?」
「いっぱいいるよ!? むしろ作れる方が珍しいと思うよ!? 作れる人は誇ってもいいんじゃないかな!?」
今時、アップルパイが作れるなんて女子高生は料理が得意ってレベルじゃない。
天使を名乗っても文句は言われないだろう。
「そんな馬鹿な……! じゃあこのアップルパイは一体どんな女子高生が作ったって言うんだ!?」
「工場の機械だよ」
「荒城之木 界さん……!?」
「頑張ったなおい。随分頑張って人の名前っぽくまとめたな、おい」
ピーンポーン。
下らないやり取りをしていると、玄関のチャイムが鳴った。
「は、はい! い、今行きまーす!」
聞こえてるか分からないのに思わず声を上げてしまうのは、私だけじゃないと思う。
「あ、あ、あの! ど、どちら……さま……?」
「くすっ……こんにちわ葉月」
「あ……なんだ、時雨か……って部活はどーしたのさ?」
「休んじゃった。お見舞いに来たよ。はいこれ」
時雨は大きなビニール袋を持っている。
お見舞いの品にしては量がある。
中を確認すると、リンゴに人参、ジャガイモ、お肉……なんか色々入ってるな?
「途中で買ってきた。おやつのあんみつと……後、料理の材料」
「料理?」
「夕飯つくるよ。後、妖精さんが好きだっていうから……挑戦してみるね、アップルパイ」
時雨は、にっこりと微笑んだ。
いた。
いたよ、妖精。
天使はいたんだよ。ここに。
私は確かに、時雨に後光が指しているのが見えた。
☆☆☆ ☆☆☆
「うん! やっぱあんみつは最高だね!」
「ふふ……そうだね」
なんだか久しぶりにあんみつ食べた気がするな。
最近はコンビニのあんみつもどんどん進化して、みつナデのあんみつにも負けないくらい美味しくなってる。
「買ってきてくれてありがとね時雨……で、妖精。アップルパイの味はどう──」
「ふおおおおおお!!! もぐもぐもぐもぐ!」
「そんなに!?」
「女神やあ! シグレは科学界の女神様やあ!」
「キャラ変わってるよ!?」
大興奮の妖精。
今日八個目(待ってる間にもう一個食べた)なのに、食べるペースは下がるどころか、手作り効果で上がっている。
まあ、とりあえず機嫌が直ったみたいでよかったよ。
「もぐもぐ──……よくないよハヅキ」
「え?」
「いいかい? もぐもぐ……このアップルパイがどれほど美味しくてももぐもぐ……もぐもぐ、状況は何一つ好転していないもぐ。ボクはハヅキみたいにもぐもぐもぐ甘くはもぐもぐも──」
「とりあえず食うのやめたら?」
☆☆☆ ☆☆☆
「とにかく! ハヅキは暫く……そうだな。一週間は戦闘禁止!」
「えー?」
おやつの時間が終わって開口一番そんな事を言い出す妖精。
頑張って威厳をだそうとしてるけど、口の端にパンくずが付いてる。拭け。
「モンスターは全部時雨に任せて! ダンジョンはとにかく無視して、外に来たモンスターだけなら一週間くらい、時雨一人でもなんとかなる」
「でも……」
「葉月。妖精さんの言う通り、ここは休もう? 私なら大丈夫だから」
「むー……」
まあ、私だって別に戦いたいって訳じゃない。
時雨一人だと心配ではあるけれど……昨日、時雨がワームを一撃で倒していた事を考えると、妖精の言う通り、ダンジョンにさえ行かなければただのモンスター相手に後れを取る事はないだろうな……。
「分かったよ……しばらくは休む」
「よし。そうと決まればハヅキ! 早速寝室に行こう!」
「え?」
「体力回復には食べて寝るのが一番だよ。さあ、すぐに寝るんだ!」
「寝るって……そんなすぐには寝れないよ」
「いいよ葉月。家の事は私に任せて。ご飯が出来たら呼ぶから」
「ほらシグレもこう言ってる! さあ!」
「痛い! 分かった、分かったから髪引っ張らないで!」
身勝手な妖精に引きずられる様に、二階に上がる。
全く、乙女の髪をなんだと思ってるのかね?
そもそもそんなに休ませたい癖に、朝っぱらからコンビニにアップルパイを買いに行かせたのは何処のどいつだよって話。
部屋に入るなり、ベッドに押し込まれる。
ちょっとお腹が膨れたからかな?
布団をかけるとちょっとだけ眠くなってきた。
「いいのかなあ……学校サボって、家の事も全部親友に任せて寝ても」
思う所がないでもないけれど。
まあこれもギルドライバーとしての仕事のうちだよね。
そう言い訳して、私は目をつぶった。




