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ギルドライバー“ハヅキ”  作者: 今井亜美
第四話 そんな冗談言わないで
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一章 まだまだ女子高生でいけます


…… 葉月達がワームを撃破した、その翌日 ……

<東京 SAIJYO-TV 第二スタジオ 控室>




 三回。

 それ以上でも、以下でもない。それ以外のノックをすると、あの人は怒る。


 私は控室の前にしてある貼り紙を念入りに確認する。


『海野美玲<ウミノミレイ> 様 控室』


 よし、今日は間違いない。

 というのも、以前に一つ部屋を間違えてしまった時があった。

 

 その部屋にいたのが、業界では知らない人はいない程の大御所の方で、それはもう肝が冷えた。

 幸い、お優しい方だったので笑って許して下さったが、それ以来、必ず確認してからノックするようにしている。

 

 コンコンコン。

 いつも通り、三度のノックの後、声をかける。


「美玲さーん。私です。京子ですー。そろそろ、収録の時間ですけど……入ってもいいですかー?」

「………で……が……」

「? 美玲さーん……?」


 なんだろう? 話し声が聞こえる。

 中には美玲さんしかいない筈だけれど……。

 

 耳を澄ませると、会話が少し聞こえる。

 どうも、誰かと電話しているみたいだ。


『そう。それで……飛び出してきちゃったの? 貴方も中々気が早いわねえ』

『────』


『え? 私? そりゃあ気持ちは分かるけど……ねえ?』

『────』


『それで、どうしたの? その人。……殺しちゃったの?』


 え?

 ……私の聞き間違いだろうか?

 確かに、今、随分と物騒な単語が聞こえた。


 殺す……とか、なんとか。

 どう考えても穏やかじゃない。

 私は更に扉に張り付いて、聞き耳を立てる。


『へー意外。刺さなかったの、トドメ。貴方にそんな良心があったなんてねえ……』

『────』


 と、トドメを刺す……?


『私なら、そもそも正面から会わないわね。やるならコッソリと。貴方みたいに義理堅いタイプじゃないの』


 や、殺るならコッソリ……?

 い、一体美玲さんはどんな話を……。


「あのーすいませーん」

「…………」


「すいません、美玲さんのマネージャーの方ですよね?」

「!? は、はい!?」


 急いで扉から離れて振り向くと、スタッフさんがこちらに声を掛けていた。


「ど、どうかしましたか?」


 至って平静を装いながら返事をする。


「いや、美玲さんもう時間なんで、スタンバイお願いします」

「あ! わ、分かりました! すぐに向かわせます!」


 仕方ない。

 私はもう一度三回ノックをすると、今度は返事を聞かずに中に入る。


 わざと音が鳴る様に、少し強めにドアを開ける。

 美玲さんは流石にこちらに気付いた様で、少し驚きながらもすぐに微笑みかえし、


「ごめんなさい。マネージャーが来ちゃったわ……じゃあまたね? ──ユキちゃん」


 と言って電話を切った。


「あの、美玲さん。さっきの電話……」

「ん? ああ、親戚の子よ。私になついちゃって、たまに連絡取ってるの」

「……殺す、とかなんとか聞こえましたけど」


 聞きづらいけれど、マネージャーとしては聞かない訳にはいかない。

 万が一、犯罪者と関わりがあるなんて事になれば、大変だ。 


 なんて返ってくるのだろうと、内心緊張している私の感情とは裏腹に、美玲さんは事も無げに、


「ああ。ゲームよ」


 と答える。


「ゲーム?」

「ええそう。ユキちゃんはまだ十二歳だからねえ。夢中なのよそーいうの」

「なんだ……ゲームの話ですか」


 ホッと息を吐く。

 そんな私を見て、美玲さんは鈴の様に喉を鳴らして笑った。


「あはは。殺人の話だと、思った?」


 この人、ノックの音に気付いてたな。

 それで、わざと大袈裟な言葉を使ってたんだ。


「からかわないで下さいよ……! 結構、ドキドキしたんですからね」

「ごめんなさい。貴方、可愛いから。いじめたく、なっちゃうのよね」


「はあ……それより、もう時間ですよ。スタジオに向かってください。映画の宣伝、しっかりお願いしますね!」

「分かってる。すぐに向かうわ」


 美玲さんが立ち上がって、机に手を伸ばす。

 少し、違和感があった。


 左手に嵌めている腕時計。

 あんなの、持っていたかな……?


 美玲さんは机の上から、一枚のカードを手に取ると立ち上がった。


 見たことないカードだった。

 ラインが走っていて、中央に何か文字が書いてある様だが、小さくて読めない。


「なんです、そのカード? 収録で使うんですか? 私、聞いてませんけど……」

「ああ、これ? これはね、“パスポート”よ」


「……パスポート?」

「あははは! おかしいでしょう? カードのパスポートなんて!」

「そりゃあそうですよ」


 免許証ならまだ分かるが、あんなパスポート聞いたこともない。

 何せ、証明写真すらついてないのだ。

 これじゃあ身分証明にすらならないではないか。


「でもね、これは紛れもなく、“パスポート”なの」

「はあ」


 そこで、美玲さんは言葉を切った。

 

 そして妖しく笑うと、ウインクしながら、冗談めかしてこう言うのだ。


「────地獄への、ね!」


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