九章 女子高生、女子高生を押し倒す VSワーム その2
「さ、さっきの……葉月先輩……?」
「な、な、なんで……菫さんが、ここに……?」
私の身体に突如抱き着いて、胸をまさぐってきた不審者。
さっき、私が説得しようとした橘菫さんで間違いない。
「私は……女神さんに連れてきて貰ったんです」
そう言って、菫さんが妖精を指さす。
「はーい! 女神さんでーす!」
一瞬、女神……? って思ったけど、そういえばそんな事言ってたねこいつ。
いい機会だから腹黒妖精に改名しようよ。おぼえやすいし。
「……ってそんな事はどうでもいい! ここは危険だよ菫さん! 早く逃げて! 妖精も何で連れてきて──」
「キシャアアアアアアアアア!」
「!」
ワームが喉を軋ませて醜悪な叫び声を上げる。
顔の前面……多分口の部分を大きく開けたと思うと、身体を震わせる。
あの体勢……マズイ!
「っく!」
私は、咄嗟に、菫さんを地面に押し倒し、右手を前にかざす。
ワームの腹がぼこっ! と膨れ上がった、次の瞬間。
口から、緑色の体液を伴った霧がこちら目掛けて勢いよく射出される。
ワークベンダーの情報によれば、こいつの体液は強力な毒を含んでいる。
ギルドライバーの私はともかく、生身の菫さんはマズイ。吸えば即死だろう。
「吹き荒れろ……シップウよ!」
霧が目前にまで迫る中、私は右手に力を集中。
呪文を唱えて魔法の風を起こし、霧を吹き飛ばす。
「あぶなかった……大丈夫、菫さん?」
「あ、は、は、はい。だ、大丈夫、です!」
? 何で、そんなに顔を赤らめて……?
あ。
今、私の体勢。
菫さんの上に乗っかっていて、傍から見てるとまるで、私が襲い掛かってる様な、かなりヤバイ状態。
「ご、ごめ! い、今すぐどくから!」
「あ……」
やばいやばいやばい。あー恥ずかしい。
いや、自分のした事が間違ってるって言いたいんじゃないんだ。
もう一度同じ場面が来たら、迷わず押し倒すし、誰がなんと言おうと彼女をかばおうとした私は間違ってない筈。
でも、でもね?
恥ずかしいものは恥ずかしい!
前に弓さんの身体に触れた時は、気絶してたからまあまだ何とかなったけど、今回の菫さんは普通に意識がある。ばっちり目が合っちゃったからねー。
あー顔から火がでそう。心臓ばくばくだよお。くそう。
「ハヅキ! ふざけてる場合じゃないよ。追撃が来る前に、とっとと倒しちゃってよ!」
「う、うるさい! 分かってるよ!」
くームカつく妖精! こっちの気も知らないでさ!
まあいいや。気持ちの切り替えは確かに大事だし!
てことで、私は剣を構える。
距離は十分。一足飛びに攻撃を仕掛けられる。
「やっちゃえハヅキ! ワーム斬りだあああ!」
「はああああ!」
ワームが吐いてくる毒弾を躱し、懐に飛び込む。
気合いを込めて、剣を奴に叩きつけた。
ぶにゅ……と鈍い感触。
刃が、ワームの表皮を切り裂き、傷をつくる。
傷口から、緑の液体がどろりと地面を汚していく。
……それだけ。
剣は、あくまで表面だけを傷つけるにとどまった。
奴の肉を断ち切りきれない。
「やっぱり、駄目だ……!」
「キシャアアアア!!!」
傷を付けられて怒ったワームが、身体を揺らす。
今までの鈍い動きが嘘の様に、俊敏に身体をくねらせる。
ワームが一回転するのと同時に、叩きつける様に尻尾の一撃が私を襲う。
「うっ……く……!」
剣を盾にするも、当然、尻尾にも、刃が通らない。
(まずい……! 潰れる……!)
「うああああああ!」
私は力を振り絞って、ワームを一瞬跳ね上げると、転がるようにして、何とか攻撃から逃げ切り、距離をとる。
「はあはあはあ……! ぎりぎりセーフ……!」
「もー! なに遊んでるのさハヅキ! なんであそこで斬らないの?」
「いや、さっきの見たでしょ!? こいつ剣が効かないんだって! 妖精、さっさと弱点を教えて!」
「……え? 剣が効かない?」
「? そうだよ! だから弱点を──」
「…………ハヅキ」
「なに!?」
「“ワーム”の弱点は、『斬撃』だよ」
「……え?」
うそだ。いつもの冗談でしょ? そんな、だってもう、何回も試したのに、なんで……。
「ハヅキ。前に、現実世界のモンスターなんて出涸らしみたいなものだって言ったよね? それに、こいつはユニークモンスターですらない。今のハヅキなら、問題なく倒せる筈だよ。なのに、斬れない。それなら、答えは一つ」
妖精は、透き通るような青い瞳で、まっすぐにこちらを見据えて、言った。
「ハヅキ。キミはもう限界なんだよ」




