六章 第一回、女子高生会議
…… 昼休み ……
『東白百合高等学校 屋上』
そーらーは、青いーな。大きーいなー。
……あれ、海だったっけ?
まあいいや。こうやって寝っ転がって日向ぼっこしていると色んなことがどうでも良くなってくるよね。
例えば宿題とかねー。
宿題とか、課題とか、数学とか、やりかけのままダンジョンに行ったっきり完全に忘れてたとか、そんな余裕なかったんだからしょうがないよとか、私が言い訳を言う暇もないくらい先生にまくしたてられて、結局今週中に出さなきゃいけなくなってもうむきーとかそーんな事、ぜーんぶ忘れてこのまま寝ちゃいたいよねー……。
「葉月、宿題はやらなきゃ駄目」
「忘れさせてよ……」
私の空しい現実逃避は、時雨の一言によってあっさりと終わりを迎えたのでした。ちゃんちゃん♪
「葉月の気持ちも分かる。問題が難しいなら私が教えるから、だから一緒に頑張ろう?」
「ううう……しぐれえ……」
にっこりと微笑むマイエンジェル時雨。
どこぞの女神様とは大違いだね。
時雨の成績は、期末テストでも毎回、五本の指にしれっと入る位には優秀。
正に、文武両道。天は二物を与えたり。
私の情けないおつむとは根本から出来が違うのだ。……なぜだろう? 涙が止まらないよ。
「シグレは頭もいいんだねーハヅキとは大違いだ」
お前に言われるとマジでムカつくぞ、妖精。
「第一回、『女子高生会議』!! どんどんぱふぱふー!」
「……はあ?」
突然大声で騒ぎだす妖精。
遂に頭がおかしくなったか。いや、元々か。
「まあ聞いてよ、ハヅキ! 前回、ダンジョンでシグレがギルドライバーになった事で、ボク達は勇者様の力を一つ取り戻した事になるよね?」
「えっと……」
まあ、その通り……なのかな?
確か、前の説明だと、勇者の力はバラバラに散らばって……私の持つユウシャ・パスを除くと六つに分かれてしまったって話だったよね。
そのうちの一つが、シグレが手に入れた、“アサシン”のジョブ・パスって事か。
「そうそう。ハヅキにしては物分かりいいじゃないか」
いちいち人の事を貶さないと話を進められないのかね? 女神って奴は。
そろそろ本気で怒っていいかな?
「これで、残りは後、五つ。魔王の力に対抗する為には、全ての力を手にしなきゃ」
「魔王……かあ」
正直、その部分に関しては未だに現実味がないんだよなあ。
だって実際、私達が戦ってるのはモンスターな訳でさ。
魔王がいて倒せっていうなら分かるけど、ただ力があるだけで、それに対抗しろって言われてもねえ……。
なーんかイメージ出来ないっていうか……。
「葉月」
「ん?」
渋い顔をしている私を時雨が呼ぶ。
「ごめん……話についていけない。詳しく説明してほしい」
「ああ……そりゃそうか」
時雨は話を聞いてなかったもんね。
私は、今までの経緯とこれまで聞いた話を可能な限り詳しく説明する。
成程、『女子高生会議』ってこういう事か。皆で情報を共有しよう! ってか。
妖精め……味な真似をしやがりおるわい。
一通り説明が終わると、時雨は何か考え込み、そして頷いた。
「妖精さん。一つ聞きたいのだけれど」
「はーい! 何かなーシグレ?」
「“勇者の力を取り戻す”というのは、“残り五人のギルドライバーを仲間にする”という事でいいの?」
「うん! その通りだよ! 流石だねーハヅキとは……おっと」
『おっと』ってなんだおい。なんでこっちを見て止めたんだおい。その続きはなんだ、答えろ、返答次第では東京湾に世にも不思議な妖精入りの瓶が浮くぞてめー。
睨みつける私を軽く流し、妖精は話を続ける。
「バラバラになった勇者の力は、対応するジョブ・パスポートになった。ジョブ・パスは適応者でないと扱う事は出来ない……でも、これまでの二人を見ていてボクは一つの仮定に辿り着いた」
「仮定……?」
「それは……勇者の力は、ごく自然と、適応者に導かれ、その手に収まるって事。二人がパスを手に入れたのは偶然じゃない。必然だったんじゃないかな。言い方を変えれば……“選ばれた”ってとこかな」
「「選ばれた……?」」
私と時雨は思わず顔を見合わせる。
時雨は、きょとんとした顔をしている。
「……っぷ!」
「……ふふ!」
同じタイミングで、吹き出してしまった。
「あっははは! 時雨、なにその顔! 私言われてる事全然わかりませーんみたいなの!」
「ふふふ……葉月こそ、そんな顔して……! ふふ、おかしい」
「あーひどーい! 私そんなに変な顔してないしー!」
「ふふ……そうだね。葉月は変な顔じゃない。可愛い顔だよ? でも、さっきの顔は……!」
「笑うなー! 時雨の顔だって、かなり変だったんだからね! それはもう酷かったんだからね!」
「はいはい。ふふふふ……」
「あーごほんごほん。二人とも─。そろそろ話を戻そう」
わざとらしい咳払いで、止められてしまった。うううー……。
「いいかい? キミ達の様に、残りの五人も選ばれると仮定する。だとすると、勇者の力をみつける手っ取り早い方法は五人の“適応者”を探す事だ。そして、ここからが本題。実は昨日、一人見つけたんだよ、“適応者”を」
「え!? ……だ、誰!?」
「名前は……“タチバナスミレ”。この学校の一年生だよ」
「一年生……知ってる時雨?」
時雨は、苦い顔で首を捻っている。
知らないけれど、どこかで聞いたことがある。でも、思い出せない。そう言いたげだ。
「後輩の……誰かが、話していたような……少なくとも、弓道部の中にはいない」
「そっか……」
「葉月は……知らないよね」
私は黙って頷く。
時雨が知らないなら当然、私も知るはずがない。
部活もやってないし、一年生と関わりなんてないもんね。
同学年だってよく分からないくらいなのに。
「いいかい? これから二人だけで戦い続けていくには限界がある。前回だって何とかなったとはいえ、ハヅキは相当体力を消耗してるし……単純に戦力を増やす意味以上に仲間は必要だよ。だから、何としてでも“タチバナスミレ”を説得するんだよハヅキ! 場所ならボクが案内するから」
「せ、説得……かあ」
そう言われてもなあ……何を言えばいいんだろ?
『このままでは世界は魔王に滅ぼされる! でも安心して? キミは勇者に選ばれたのさ! さあこの手を取って! 私達と一緒に世界を救おう、友よ!』
……通報されるオチが見えたよ。退院したばっかなのに病院に逆戻りだね。
もっと優しく……情に訴える感じとか?
『お願い。力を貸して? あなたの力が必要なの。……もし、力を貸してくれるなら……その時は私の──(自主規制)──をあなたにア・ゲ・ル♡』
──いや真昼間からなんだこれ! なんでそっち系に行った私!?
私の脳内は真っピンクか!?
うー……全然浮かばない!
「葉月……大丈夫? 難しいなら私が……」
「……ううん、私がやる」
授業中は難しいし、説得に行くのは放課後になる。
そうなると、時雨には部活があるからね。
ここは私がやらないといけないよね。
「……本当に、大丈夫? 葉月は──」
「だーいじょうぶだって! 心配しすぎ! ちょっとお話するだけだもん。へーきへーき!」
時雨は、不安そうな顔でこっちを見ている。
何をそんなに心配する事があるのかね。
そりゃあ説得は、ちょっと難しいかもしれないけど……大丈夫。
……だ、だよね?
なんか、凄いドキドキするんですけど。




